- 看護
「看護」とは何をする仕事なのか
中田 明子氏(専修大学人間科学部社会学科 専任講師)に聞く
インタビュー 中田明子
2026.04.14 医学界新聞:第3584号より
思想研究に始まり看護師としての臨床経験を経て,現在はケアを行う看護師の専門性について社会学の視点から研究を行う中田氏。なぜ哲学から看護の道へ進んだのか,そして訪問看護の現場で見いだした看護師の専門性とはどのようなものなのか。認定看護師へのインタビュー調査や,現在取り組んでいる「ケアと男性性」の研究まで,その思考の軌跡を伺った。
看護師として何をめざせばいい?
――まずは中田先生のご経歴から伺いたいです。看護師免許取得までの道筋を教えてください。
中田 若かったこともあり物事を突き詰めて考えたいとの思いから,抽象度の高い思考ができそうな場所として哲学科を選びました。上智大学の哲学科は非常に伝統的で神父の教員も多く,1年生の頃から毎朝必修の語学の授業があるような環境でした。その後卒業論文に取り組む中でハンナ・アーレントの政治思想に惹かれ,恩師の勧めもあってより学際的な大学院に進学しました。ただ,当時は就職氷河期で,将来の具体的な職業像を描けていたわけではありませんでした。
転機となったのは,一人暮らしをしていた祖母に認知症の症状が出始めたことでした。「なぜ同じ野菜ばかり買ってくるのか」といった疑問に対し,家族で話し合いながらケアの工夫をする過程が,私にとって非常に興味深かったのです。
その後の人生をさらに決定付けたのは,訪問看護師の存在でした。私の家族に医療関係者はおらず,母や叔母はよくある風邪でも「肺炎になるのでは」と過剰に心配してしまう状況でした。そんな中,「これは大丈夫」「今はここに注意して」と訪問看護師がアドバイスをくれるだけで,目に見えて安心していく様子を目の当たりにしました。そのとき,「なぜ患者はこういう行動をとるのか」を患者家族と一緒に考え,生活を支える看護師という仕事は面白そうと直感しました。そうした体験もあり,看護学校へ入学した次第です。
――実際に看護師になられてからの道のりはどうでしたか。
中田 病院で数年働いたら訪問看護ステーションへ配属されるコースを設けていた,当時としては珍しい地域の病院に就職しました。4年の病院勤務を経た後に,念願の訪問看護ステーションへ異動することができました。そこで5年ほど働きましたが,その中でさまざまな問いが浮かんできました。注射がうまくなるといった技術的なことは看護師として必要とされるものの,それがうまくなったところで看護師としての職務を全うしているとみなされるわけではないことはよくわかりましたし,単に患者にやさしく接すればそれでいいわけでもないことも理解しました。管理職志望でもなかった私は,「看護師として何をめざせばいいのか」がわからなかったのです。そうした問い,看護の専門性についてきちんと考えたいと思い,働きながら大学院へ通うことを決意しました。障害学や医療社会学の先生が揃っている立命館の大学院が面白そうだと感じ,京都の訪問看護ステーションで働きながら研究生活をスタートさせました。
ケアの質全体を底上げする
中田 「専門職とは何か」という議論は,1930年代にカー・ソンダースとウィルソンが論じたのが出発点です1)。その後,エツィオーニが「半専門職(セミ・プロフェッショナル)」という概念を提唱し,教師や看護師をその例として挙げました2)。これを受けた日本の研究者や看護協会は,「看護師がいかにして『半』ではない,完全な専門職になるか」を模索してきました。特に日本では看護師の自律性の不足が課題とされ,教育の高度化によってそれを獲得しようという流れが生まれました。医師が中心となって教鞭を執っていた時代から始まり,看護学という体系を確立し,専門看護師制度を作っていった流れもこの文脈にあります。
――現在では特定行為研修や認定看護師制度など,医療の高度化に伴い看護師の専門化がさらに加速しています。この流れをどう見ていらっしゃいますか。
中田 現代では抗がん薬治療を外来で行ったり,重度の障害を持つ子どもが在宅で暮らしたりと,生活の場で高度な医療とかかわる患者が増えています。その意味で,医療と生活の両方を理解し,患者と共に考えていける看護師の必要性は確実に高まりました。診療看護師や専門看護師のように,多様な強みを持つ看護師が増えること自体はとても良いことです。
私が懸念しているのは,看護師の専門性を強調するあまり,他のケアの担い手が置き去りにされていないかという点です。患者からすれば,ケアを提供してくれれば職種の区分は関係ありません。在宅の現場では,看護師以外の職種と看護師とで業務が重なる部分も多くあります。専門職化を訴えるならば,看護師の地位向上をめざすのではなく,他の専門職によってなされる部分を含めた「ケアの質」全体を底上げし,社会的に擁護していく必要があると感じています。
医学の限界を知ることで「看護」が浮かび上がる
――先生は認定看護師の方々へのインタビュー調査を行われました3)。現場の看護師たちは自身の専門性をどうとらえていたのでしょうか。
中田 興味深かったのは,特にWOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)の方々の語りです。彼らは高度な知識を持っているものの,「特別なことができる」と誇るのではなく,むしろ「勉強したことによって基本的なケアの重要性がわかった」と口を揃えて言いました。例えば,傷ができてからの処置(デブリードマンなど)の技術も重要ですが,それ以上に普段から保湿をして傷を作らないようにするといった予防的ケアこそが重要だと再認識したと言うのです。
――高度な医学的知識を学んだ結果,日常的なケアの重要性に回帰したというのは逆説的で面白いですね。
中田 そうなんです。彼らは認定看護師をめざす過程で医学を深く学びます。しかし,医学を学べば学ぶほど,医学で治せることの限界も見えてくるのです。限界を知るからこそ,その先で何ができるかを考えたときに日々の生活を支える看護や予防の価値が浮き彫りになる。医学の限界が見えることで,逆説的に看護独自の役割が明確になるというプロセスです。看護という仕事の核心を示しているように感じました。
現場の看護師たちは,資格を取ることで上級看護師になるといったとらえ方をしていませんでした。療養上の世話という,看護のベースにある業務をいとわないどころか,その重要性を再発見していたのです。研究を進める中で,WOCの領域だけでなく,緩和ケアなどその他の分野でも「あらゆる患者さんのケアをするのは当然」という意識を看護師たちは持っており,専門特化することと,ジェネラリストとしての看護師であることは矛盾しないことがわかってきました。
「ケアする男性性」という新たな視座
――最後に,現在取り組まれている研究テーマである「ケアする男性性」について伺えますか。
中田 きっかけは博士論文の審査の際に,「あなたが論じる『媒介する専門性』のような柔軟な在り方は,看護師に女性が多いから成立しているのではないか」との指摘を受けたことでした。実は以前の調査対象だった認定看護師28人の中に,男性が3人いました。思い返してみると,彼らの語りは女性の看護師たちとは少し異質だったのです。
多くの女性看護師が「もっと勉強したいから資格を取った」と純粋な学習意欲を語るのに対し,男性看護師たちは転職市場での価値やキャリアアップを意識した発言をしていました。このモチベーションの違いは何に由来するのか,看護職は男性看護師の目にどう映っているのかという点に興味を持ちました。
――専門職としての評価やキャリアに対する意識が,ジェンダーによって異なる可能性があると。
中田 そうです。日常生活のケアや療養上の世話の質を評価するのは難しいことです。専門職化が進められる背景にも,この見えにくい価値を可視化したいという意図があるのでしょう。その中で,男性看護師たちは評価や成果をよりシビアに意識している傾向があるかもしれません。彼らの存在や視点が,これからの看護業界やケアの評価体系にどのような変化をもたらすのか。あるいは,従来のケアの論理とどう折り合いをつけていくのか。現在はそうした視点から調査を進めています。
(了)
参考文献
1)Carr Saunders AM, Wilson PA. The Professions. Oxford University Press;1933.
2)Etzioni A. Modern organizations. Prentice-Hall;1964.
3)中田明子.訪問看護師の現在地――「療養上の世話」か「診療の補助」か.晃洋書房;2026.

中田 明子(なかた・めいこ)氏 専修大学人間科学部社会学科 専任講師
2001年上智大文学部哲学科卒業後,東大大学院総合文化研究科博士前期課程を修了。東京女子医大看護専門学校で看護師免許を取得した後,立命館大大学院先端総合学術研究科一貫制博士課程修了。25年より現職。博士(学術)。著書に『訪問看護師の現在地――「療養上の世話」か「診療の補助」か』(晃洋書房)。
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