- 医学
若手時代に効くビジネス書
寄稿 中島啓,藤川葵,近澤研郎,松尾貴公,長尾大志,尾林誉史
2026.04.14 医学界新聞:第3584号より
患者さんの対応に日々追われる若手医師には,医学的な判断だけでなく,多職種とのコミュニケーション,膨大な業務の優先順位付け,そして自身のメンタルコントロールといった社会人基礎力とも呼べる非認知能力が高度に要求されます。しかし,これらのスキルを体系的に学ぶ機会は卒前教育の中に少なく,OJTや個々人の試行錯誤に委ねられているのが現状です。
本特集では,臨床の第一線で活躍する先輩医師たちから,“実践的な処方箋”として,若手時代に直面した「壁」を乗り越えるために役立ったビジネス書をご紹介いただきました。ピンと来る書籍があればぜひ読んでみてはいかがでしょうか。今後のキャリアを支える座右の書が見つかるかもしれません。
▼ 目次
中島 啓(亀田総合病院呼吸器内科 主任部長)
藤川 葵(藤川病院 副院長 / 久留米大学 特任講師)
近澤 研郎(自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科 准教授)
松尾 貴公(MD Anderson Cancer Center感染症科 Assistant Professor)
長尾 大志(島根大学医学部地域医療教育学講座 教授)
尾林 誉史(VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 院長)
こんなことを聞いてみました
❶お薦めの書籍
❷この本を特に読んでほしい人
❸心に刺さったフレーズ
❹推薦の理由
❺先輩からの応援メッセージ
❷医師として社会への第一歩を踏み出した研修医の先生方,日々の激務の中で仕事の意義を見失いそうになっている若手医師へ
❸「働くことが人間性を深め,人格を高くする。働くことは人間を磨くこと,魂を磨くことだ」「あえて艱難辛苦の道を行く」「艱難辛苦が人間としての成長を促す」「仕事とは公のためにするものである」
❹私が研修医・若手医師の時に出合い,折に触れて読み返してきた「座右の書」です。若手時代の私は,臨床現場の厳しい現実と重圧に苦しんでいました。目の前の業務をこなすだけで精一杯で,「自分は本当に良き医師になれるのか?」「この忙しく大変な仕事を自分はできるようになるのか?」と深く思い悩む壁に直面していたのです。
そんな時に本書と出合いました。「働くことは人間を磨くことだ」「艱難辛苦が人間としての成長を促す」。これらの言葉は,厳しい臨床現場にいた私に,「仕事から逃げるのではなく,その仕事を通してこそ自らの人間性を磨き,人格を高めることができるのだ」という強烈な覚悟をもたらしてくれました。特に「あえて艱難辛苦の道を行く」という言葉は,私の医師人生の決定的な転機となりました。
著者である北尾氏は,野村證券の海外投資部門に在籍していた時代に,最も収益が上がる花形のロンドン支社を選ばず,あえて業績不振に陥っていたニューヨーク支社へ赴くことを選びました。成果が出なければ自身のキャリアが終わるリスクを背負っての挑戦でしたが,結果として1日の商いで800億円という歴史的記録を打ち立てたのです。この著者の覚悟ある行動に背中を押され,私は住み慣れた居心地の良い福岡を離れる決意をしました。そして,全国から志の高い医師が集まる日本有数の臨床現場,亀田総合病院へ飛び込む覚悟を固めたのです。見知らぬ地で自分を磨くためにチャレンジすること。それが当時の私にとっての「あえて選んだ艱難辛苦(=挑戦)の道」でした。決して安きに流れないその決断があったからこそ,多くの素晴らしい先輩や生涯の仲間たちと出会い,今の自分があると確信しています。
「仕事とは公のためにするものである」。この教えを胸に,日本の医療に貢献したい一心で日々の診療や教育に取り組むうち,その姿勢に共感してくれる仲間に恵まれるようになりました。結果として現在では,全国規模の臨床呼吸器教育研究会(CREATE)の立ち上げや,多くの熱意ある医師が集う活気ある診療科の運営など,チームとして日本の呼吸器診療の発展に貢献できるようになりました。私がこれまで勇気を持って挑戦を続け,今でも社会のため,日本の医療のために頑張れるのは,間違いなくこの本のおかげです。
❺目の前の仕事に圧倒され,その意義が見いだせなくなった時こそ,ぜひ本書を手に取ってみてください。困難から逃げず,あえて自らを高く鍛え上げる環境に身を置くことが,医師として,そして人間としての器をいかに大きくしてくれるか。その真意に触れられれば,明日からの臨床に向かう皆さんの「顔つき」がきっと変わるはずです。
❷働き方改革のリーダーや若手チーフを任されたプレイングマネージャーへ
❸「人は説得しようとすると抵抗する。しかし,納得すると自ら動く」
❹私が本書に出合ったのは,卒後6年目で消化器外科のチーフレジデントを務めていた頃です。当時,診療科内の働き方改革を急に任され,当直やオンコール体制など,これまで当然とされてきた仕組みを見直す必要に迫られました。しかし,日々の診療,手術,回診,カンファレンスに追われる中で,現場を止めずに物事をどう進めればよいのか全くわかりませんでした。そんなとき,書店で偶然手に取ったのが本書です。
本書の魅力は,職場で起こる問題を「よくある困りごと」として整理し,具体的な進め方に落とし込んでいる点にあります。特に印象に残ったのは,「人は説得しようとすると抵抗する。しかし,納得すると自ら動く」という筆者の業務改善の信条として記された一文です。医療現場のみならず,社会では正しいことを言うだけでは人は動きません。なぜ変えるのか,変わることでどんな世界に変化するのかを共有しなければ,仕組みは前に進まないのです。この視点は,働き方改革を進める際に大いに役立ちました。
実際に取り組んだのは,回診後の短い時間やカンファレンス前後のわずかな隙間を使って対話を重ねることです。関係者の不安や不満を聞き取りながら少しずつ合意形成を進めました。その結果,1年以内に外科専攻医の労働時間を大きく短縮でき,自分自身も働き方改革を前向きな仕事としてとらえられるようになりました。上級医も早く帰りやすい雰囲気が生まれたことは大きな変化でした。
さらに本書は,働き方改革のような大きなテーマだけでなく,若手医師が日常的に直面する「仕事の段取り」にも役立ちます。たとえば,後輩のカンファレンス発表や学会発表を指導する場面です。若手同士で組むと双方とも忙しく,十分な打ち合わせ時間を確保できないまま締切直前に文章やスライドを慌ただしく修正するというケースが少なくありません。そうしたときにも,何を先に決めるべきか,どこで認識をそろえるべきか,限られた時間でどう進めるかという本書の視点は有効です。本書は,単なる業務改善のための本ではなく,忙しい医療現場で人と協力しながら仕事を前に進めるための実践書と言えるでしょう。
❺若手医師にとって,臨床や研究の指導者はいても,仕事の進め方や交渉の仕方まで教えてくれる先輩は意外に少ないものです。働き方改革のような大きな課題だけでなく,カンファレンス準備や後輩指導のような日常の仕事にも,医療の外で培われた知恵は十分応用できます。外の世界の考え方を少しだけでも知ることで,目の前の仕事の進め方は変わるはずです。忙しい時期ほど一人で抱え込まず,仕事の進め方そのものを学んでもらいたいです。
❷努力をしても行き詰まりなかなか結果が出ない医師,期待したデータを得られなかった大学院生,目標を見失った方へ
❸❹「精神の意志の力で成功しないような場合には,好機の到来を待つほかない」
本書で最も好きな言葉です。誰よりもドライの縫合練習を行い,何百回も手術を見ても,イマイチ壁を破れずに師匠に怒られていた時,研究で何度もデータを出しても良い結果が出なかった時,ただ同じことを繰り返すのではなく,内省・改善を重ね,「いつかはうまくなれる」「いつかは研究の結果が出るはずだ」と,練習は一日数時間,手術ビデオも毎日視聴し,研究にも年単位で取り組み続けました。そうして必死にもがいていた若手時代,ちょうど朝ドラで「ゲゲゲの女房」(2010年)が放送されており,40代までなかなか結果の出なかった水木しげるがブレイクしていく姿を見て,共感しつつ励まされていました。強い心で自分の我を貫き,自分のやりたいこと(私の場合は手術がうまくなること)を追求する力をくれたのです。
ただ,芽が出るかは運がつきまといます。手術ビデオで見た内容と自身の手技が脳内でつながるブレイクスルーがいつ来るか,いつ研究のデータが出るかはわからないし,未来は見えません。真っ暗でも進むしかなく,信念と血のにじむ努力が必要なのです。理想の自分に近づくために手技を向上させる。知的好奇心に突き動かされた研究をし続ける。だから続けられるし,好機の到来を待てる。かなり努力をしなければ運は引き寄せ...
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