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[第17回]論文の要約やスライド作成にChatGPT(生成AI)を使いたいのですが,患者さんのデータを入れても大丈夫ですか? また,生成された画像は著作権フリーですか?
研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A
連載 小林只
2026.03.30
Q.論文の要約やスライド作成にChatGPT(生成AI)を使いたいのですが,患者さんのデータを入れても大丈夫ですか? また,生成された画像は著作権フリーですか?
A.患者データの入力の可否は,利用環境と施設のルールによります。例えば無料版のChatGPTなどにそのまま入力すると学習データとして再利用される恐れがあり,個人情報保護法違反や守秘義務違反になるリスクが高いです。まずは所属施設の情報管理指針に従ってください。また,生成された画像も著作権フリーとは限りません。特定の作家の画風を模倣した場合などは著作権侵害になるリスクがあります。
生成AIは強力な武器ですが,入力(情報漏洩)と出力(権利侵害・嘘)の両面でリスク管理が必要です。本連載で学んだ権利への敬意と情報の価値の知識を総動員し,AIを強力なパートナーとして使いこなしましょう。
註釈:本稿は2026年3月28日時点の執筆記事です。
研究者・医療者のための知的財産と法務について約1年半にわたって解説してきた本連載にお付き合いいただきありがとうございます。今回は,講演会・セミナーでも質問が相次ぐ生成AIをテーマに取り上げます。
ChatGPTなどの生成AIは,業務効率を劇的に向上させる可能性を秘めています。しかし,その裏には著作権侵害,個人情報漏洩,ハルシネーション(もっともらしい嘘)といった重大なリスクが潜んでいます。禁止か,解禁かという二元論ではなく,リスクをコントロールしながらどう活用するか。知財戦略の王者,ディズニーの動きを見ながら解説をしていきましょう。
ディズニーとOpenAIの提携が示す「攻めと守り」の知財戦略
ディズニーといえば,著作権保護に世界で最も厳しい企業の一つです(連載第3回でも事例紹介済み)。そんなディズニーが2025年,生成AIのトップランナーであるOpenAIに対し,10億ドル規模の出資と戦略的提携を行う方針が公開され話題となりました1)。しかしながら,2026年3月,OpenAI社は経営戦略として,動画生成AI「Sora」のサービス終了,ディズニーからの出資と業務提携を白紙撤回する見込みとの報道がなされました2)。生成AI業界の極めて変化の激しい実態を示す出来事ですが,ディズニーがこの提携でめざした「データを隠すのではなく,戦略的に提供してコントロールする」という高度な知財戦略の考え方自体は,今後の組織的なAI活用において依然として重要なモデルケースとなります。彼らが何を狙っていたのか,そのポイントを振り返ってみましょう。
●ディズニーがめざした戦略的AI活用
1)ディズニー専用モデルの開発
ディズニーは,ミッキーマウスやスター・ウォーズ,マーベル作品など約200作品に及ぶ膨大なアーカイブを学習データとしてOpenAIに提供する予定でした。しかし,無償で差し出すわけではありません。汎用的なモデルではなく,ディズニーのコンテンツ制作に最適化されたカスタムモデルを共同開発し,自社の映画制作やDisney+でのファン向けサービスに独占的に活用する権利を得ることを条件にしていました。
2)訴訟リスクを資本関係で解決する
ハリウッドにおいて生成AIは「著作権侵害の敵」であり,ストライキの争点にもなりました。しかしディズニーはOpenAIの大株主となり,公式にデータをライセンス提供することで,勝手に学習されるリスクを排除しました。訴訟を起こしてコストをかけるより,相手を陣営に取り込み,自社IP(知的財産)を正当な対価で運用させる道を選んだのです。
3)内部作業の効率化と実験場の確保
この提携により,従業員向けのChatGPT環境や,制作現場でのシミュレーションの生成など,セキュアな環境での業務効率化も推進される見込みでした。外部のトッププレイヤーにディズニー専用の実験場(サンドボックス)を作らせ,リスクを限定しながら最新技術を取り込む戦略です。
●医療・研究現場への示唆
プロジェクト自体は頓挫する見込みですが,この戦略の根幹は私たち医療・研究機関にとっても重要です。私たちの手元にある患者データや研究成果は,ディズニーにとってのミッキーマウスと同じく,極めて価値の高い知的資産です。これらを無料版のAIに安易に入力して無償で学習させるのは,資産の流出です。組織として専用環境(APIやEnterprise版)を構築し,自分たちのデータが外部に漏れない(学習されない)形でAIを活用する。あるいは,データを提供するなら正当な契約を結ぶ。すなわち「資産を守りつつ活用する」意識が求められます。
その生成物,本当に使って大丈夫?
では,生成AIの利用には具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか。まずは著作権の観点から整理します。文化庁の見解3)や,AI法務の専門家である柿沼太一弁護士の解説4,5)もご参照ください。
●日本は「機械学習パラダイス」だが……(開発・学習段階)
日本の著作権法(第30条の4)では,AIの開発・学習段階において,著作物を原則として許諾なく利用できるとされています(ただし,著作権者の利益を不当に害する場合を除く)。これは世界的に見ても先進的で,「機械学習パラダイス」とも呼ばれます。しかし,これはあくまで「AIを作るとき」の話です。私たちが「AIを使うとき(生成・利用)」には,全く別のリスクが発生します。
●依拠性と類似性の罠(生成・利用段階)
AIで生成した画像や文章を利用する際,既存の著作権を侵害してしまうリスクがあります。過去の記事(連載第5回)でも解説しましたが,侵害の判断には次の2点が重要です。
類似性:生成物が既存の著作物と似ていること
依拠性:既存の著作物を元にして作られたこと
例えば,「ジブリ風のイラストを描いて」とプロンプトを入力して生成された画像が,特定のジブリ作品のシーンと酷似していた場合,それは依拠性も類似...
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小林 只(こばやし・ただし)氏 株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士
2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。
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