医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2023.04.10 週刊医学界新聞(レジデント号):第3513号より

 新年度の第1弾は,みんなのニガテが詰まった「めまい」診療です! 筆者も非常にニガテに感じていた領域で,悩んだ末にたどり着いた診療フローチャート()と共に2回に分けてお送りします(後編はこちら)。本稿のポイントは,「Timing and Trigger」です!

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 めまい診療のフローチャート(文献5をもとに作成)
ACS:急性冠症候群,PE:肺塞栓症,VVR:血管迷走神経反射,CO:一酸化炭素,IIP:特発性頭蓋内圧亢進症,WE:ウェルニッケ脳症,SAH:くも膜下出血,BPPV:良性発作性頭位めまい症,CPPV:中枢性発作性頭位めまい症,TIA:一過性脳虚血発作,HIT:head impulse test。

 めまい診療では歴史的に,4つのタイプに分類して鑑別診断を進めていく手法(symptom quality approach)が行われていました1)。つまり,「ぐるぐる回る」「気が遠くなるような」「ふらふらする」「それら以外」といった性状を聴取し,それぞれvertigo:前庭系,lightheadedness:心血管系,disequilibrium:神経系,これら以外を精神系の問題として鑑別する方法です。もしかしたら今もそのアプローチが採られているかもしれません。

 Symptom quality approachが成立するためには,①4分類のうち1つに正確に当てはまること,②それぞれの分類と疾患が1対1の関係にあることが要求されます。しかし,現実にはそんな状況はありません。ER受診者にめまいの性状を1度尋ね,数分後に再度質問すると約半数がめまいの分類を変更し,4分類のうちの1つを選択できない患者が6割もいました2)。また,めまいのタイプと疾患の関係性もイマイチで,心血管系疾患に起因するめまいに対してvertigoを訴えた患者は6割,高齢者ではBPPV(良性発作性頭位めまい症)だとしてもlightheadednessを訴えたと報告されています3,4)

 悩ましいことにsymptom quality approachは成立しないことがわかりました。めまいの性状を熱心に聞いても診療の質は上がらなさそうです。さて,どうすればいいのでしょうか?

 めまい診療と言えば中枢神経系疾患の診断/除外が重要であることに議論の余地はありませんが,入り口を間違えると診療が明後日の方向に向かいます。ここでは魔法の言葉“ATTEST”を紹介します。

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 随伴症状として,フローチャートに示した頭痛等の症状がないか病歴聴取します。該当項目があれば,そちらの疾患を診断または除外することに注力します。随伴症状がある場合には,「めまい」を主要な徴候ととらえて鑑別してしまうと誤診につながるため,くれぐれも入り口を間違えないよう。

 めまい診療の入り口に立てたら,「Timing and Trigger」の呪文を唱えましょう! この呪文により4群に分類して,それぞれのカテゴリーの中で鑑別を行います5)

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 Triggerについて,通常は頭位変換や重力に逆らった体位(座位や立位など)が該当します。ただし,t-AVSはAVSの原因として明らかな外傷や薬物中毒などが存在する場合を指し,やや特殊です。本稿ではAVSについて見ていきましょう。

 s-AVSのカテゴリーでは前庭神経炎か脳梗塞なのか,この2軸で端的に考えましょう。5ステップ()で鑑別を行いますが,必ずこの順番で評価を進めてください

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 s-AVSにおける5ステップでの鑑別

STEP 1 眼振は苦痛なく簡易に取れる身体所見であり,ここから始めます。フレンツェル眼鏡で固視の影響を除去した上での自発眼振や注視眼振の観察が好ましいですが,なければ白紙を患者の目の前に提示して眼振を横から観察してもOKです。眼振が中枢性パターン(方向交代性/垂直性)を示せば脳梗塞が強く疑われるため,それ以上の診察は不要です。眼振がない場合には前庭神経炎はほぼ却下,脳梗塞の疑いが強まります6)

STEP 2 Skew deviation testを行い,眼位が垂直方向に偏位した場合には陽性と判断し,脳梗塞を疑わせる所見と考えます。

STEP 3 HIT(head impulse test)により頭部運動と共に眼球が回転方向にずれ鼻を注視するまでにタイムラグがあることが証明されれば陽性と判断。前庭神経炎の可能性が上がります。ただし,脳梗塞でも10%ほどで偽陽性を示してしまうことが注意点です7)

STEP 4 ここまでで脳梗塞を示唆する所見が得られない場合には,神経学的所見を取ります。小脳/脳幹梗塞を検出するために「6D」は必ず検索しましょう。つまり,diplopia:複視dysarthria:構音障害dysphagia:嚥下障害dysphonia:発声障害dysmetria:測定障害dysdiadochokinesis:変換運動障害の6つです。さらにWallenberg症候群を意識して,瞳孔不同/眼瞼下垂などの眼の所見,片側顔面の温痛覚障害などの有無を検索しましょう。急性発症の聴力障害がある場合にはAICA(前下小脳動脈)領域の脳梗塞を強く疑います。これらの所見がないからといって脳梗塞は除外,とはなりません8)

STEP 5 最後に歩行障害(立位や座位保持/歩行不能)がないかを必ず確かめます。歩行不安定性が強いほどに,AVSが脳梗塞に起因する可能性が上がるとされています。特にSCA(上小脳動脈)やPICA(後下小脳動脈)領域の脳梗塞では90%以上が歩行障害を呈します9)。よって,歩行できない場合には絶対に帰宅させてはいけません

 上記5つのステップを経て,前庭神経炎か脳梗塞かを判断しましょう。最終的にうまく診断/除外に至れない場合もありますが,血管リスク因子を考慮することも重要です。高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙歴,家族歴,年齢(65歳以上)のことを指し,これらがある場合には脳梗塞かもしれませんし,随伴症状によっては心筋梗塞や大動脈解離などの検索に移らなくてはいけません。また,血管リスクはなくとも最近の外傷歴や頸部痛があれば椎骨脳底動脈解離,卵円孔開存が指摘されていれば奇異性脳梗塞など,若年者でも油断なりません

 めまいと言えばHINTS(head impulse,nystagmus,test of skew)と言っても過言ではないほどに有名になりました。しかし,臨床現場では誤った使い方が散見され,97%(!)で誤った使い方をされていたという驚くべき報告があります10)HINTSを使ってよいのはAVSの特徴を満たす場合だけです。AVSであっても眼振がない場合やBPPVが含まれるt-EVSに対して使ってはいけません。救急医によるHINTSの診断精度は感度83%/特異度44%でかなりイマイチというメタ解析があったり11),そもそも適用をしっかり絞っていない(例えば眼振があることを組み込み基準に入れていないなど)研究があったりと12),どう解釈していいか迷いやすいところなので,HINTSの過信は避け,筆者は積極的には使っていません。

 AVSの中で最も見逃したくない脳梗塞の有病率は25%とされます13)。AVSとわかった時点で画像検査へ急げばいいのでしょうか。CTでは発症から12時間以上経過していても感度はたったの16%,ほとんど役に立ちません14)MRIでも発症から24~48時間時点では10~20%ほど見逃しが生じます(おおよそ5人に1人は見逃します)14, 15)。ERを受診しためまい患者において,脳梗塞除外の唯一の手段として画像検査を用いることは推奨されません。

 高齢者,自力歩行できない/転倒リスクがある,リスク因子があるなどの場合には脳梗塞疑いとして入院経過観察を行い,数日後に再検査を行う慎重さが必要になります

 これでめまい診療の半分は終わりです! 次回はEVSについて学びましょう。耳石置換法を実践できれば,めまい診療が楽しくなること間違いなし!



 


1)Neurology. 1972[PMID:4401538]
2)Mayo Clin Proc. 2007[PMID:17976352]
3)J Gen Intern Med. 2008[PMID:18843523]
4)QJM. 2005[PMID:15820968]
5)Emerg Med Clin North Am. 2016[PMID:27741985]
6)J Neurol. 2020[PMID:32462345]
7)Neurology. 2008[PMID:18541870]
8)Stroke. 2012[PMID:22678088]
9)J Neurol Sci. 2011[PMID:21035147]
10)Acad Emerg Med. 2021[PMID:33171003]
11)Acad Emerg Med. 2020[PMID:32167642]
12)Acad Emerg Med. 2021[PMID:34245635]
13)CMAJ. 2011[PMID:21576300]
14)Lancet. 2007[PMID:17258669]
15)Acad Emerg Med. 2022[PMID:35876220]

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