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『心研印 心電図判読ドリル』より

連載 廣田尚美,山下武志

2022.09.09

心電図の読解には,独学で達成できるレベル,人に習って初めて達成できるレベルの2段階があります。前者に関しては,優れた入門書・教科書がさまざまに出版されていますが,後者に関しては,その達成の成否は誰に教わるかに依存します。このたび,好評書『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル』の姉妹版として刊行された『心研印 心電図判読ドリル』は,読者がさまざまな心電図を読解し,それを指導者に見てもらうというスタイルをとることで,読者の読解レベルを2段階目に引き上げることをめざした書籍です。

「医学界新聞プラス」では,本書から4つのCaseをピックアップして紹介します。先輩の手解きを受けたかのような読後感を体験してみてください。

 

*姉妹版の『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル』も医学界新聞プラスにて3つCaseをピックアップして紹介しています。こちらも併せてご覧ください。

Case 5
60歳代前半,男性.
健診にて心電図異常を指摘され,精査のため来院した.これまでに動悸,息切れ,胸痛症状の既往なし. 受診時の心電図を示す(
図1).

第1回_図1.png
図1 12誘導心電図[画像はクリックで拡大]

  •  ① 左室肥大が疑われる.
  •  ② 右室肥大が疑われる.
  •  ③ 左室圧負荷が疑われる.
  •  ④ 左室容量負荷が疑われる.
  •  ⑤ 右室圧負荷が疑われる.
  •  ⑥ 右室容量負荷が疑われる.

    答えと解説

    •  ① 左室肥大が疑われる.
    •  ② 右室肥大が疑われる.
    •  ③ 左室圧負荷が疑われる.
    •  ④ 左室容量負荷が疑われる.
    •  ⑤ 右室圧負荷が疑われる.
    •  ⑥ 右室容量負荷が疑われる.

    本症例では,左室領域であるV5誘導のR波高が38mm(3.8 mV)と高く,さらに右室領域であるV1誘導のR波高も20mm(2.0 mV)と高く,左室肥大と右室肥大でみた診断基準を満たし,両室肥大と考えられ(図1),①「左室肥大が疑われる」,②「右室肥大が疑われる」は正解です.両室肥大では,左室肥大と右室肥大の所見がキャンセルしあって一見正常のように見える場合もあります.両室肥大の心電図所見は,左室肥大と右室肥大をきたす状態が合併する病態や,心不全が進行して両心室に負荷がかかるようになった病態でみられます.具体的には,肥大型心筋症,僧帽弁狭窄兼閉鎖不全症,連合弁膜症,アイゼンメンジャー症候群,総動脈幹遺残症,バルサルバ洞動脈瘤破裂などが該当します.症例によって病態の進行度が異なるために心電図所見もさまざまであり,典型的な心電図所見を例示することは難しいでしょう.両室肥大を疑う際には図Aの所見を参考として判断します.


    図A 両室肥大の診断に参考となる所見
    図A 両室肥大の診断に参考となる所見 [画像はクリックで拡大]


    心電図の「心室肥大」は,心室拡張による「容量負荷」と壁肥厚による「圧負荷」に分けられます.本症例の出題は,この「容量負荷」と「圧負荷」の区別をつけるための所見を,左心室と右心室のそれぞれにおいて確認しようというもので,少し難易度の高い出題だったと言えるかもしれません.

    まず左室ですが,冒頭に述べたとおり高電位の基準は満たしています.V5,V6誘導のストレイン型ST-T変化(非対称性陰性T波)は左室圧負荷を示唆する所見ですが,本症例では認められないため,③「左室圧負荷が疑われる」は誤りです.一方で,左室容量負荷を疑う心電図所見はV5もしくはV6誘導におけるT波の増高・先鋭化,V6誘導におけるR波高がV5誘導より大きいことなどがありますが,本症例では前者を認め,④「左室容量負荷が疑われる」は正解です

    次に右室ですが,右室圧負荷ではV1~V3誘導でのストレイン型ST-T変化が特徴的で,Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導におけるP波の先鋭化(肺性P波)を認めることもあり,本症例でも認め⑤「右室圧負荷が疑われる」は正解です.右室容量負荷では,右室の興奮時間延長によりV1誘導にR’が出現し,V5およびV6誘導で深いS波を認めるという右脚ブロック様の心電図を呈することが特徴です.本症例でも右脚ブロック型のQRS波を認めており,右室容量負荷が疑われます.よって⑥「右室容量負荷が疑われる」は正解です.本症例は心エコー検査で重症僧帽弁閉鎖不全症に伴う左室・右室拡大を認めました.


    •    心電図の「心室肥大」は,心室拡張による「容量負荷」と壁肥厚による「圧負荷」に区別される!
    •    両室肥大は左室肥大,右室肥大を合併した病態である!
    •    左室,右室の関与の度合いによりさまざまな所見を呈する!
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心電図問題集の決定版!
ベストセラー『心エコー読影ドリル」待望の姉妹版!

<内容紹介>ベストセラー『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル』の心電図版がついに登場! 心臓血管研究所・不整脈チームの精鋭が執筆し,編集は心電図分野のレジェンド・山下武志先生。単純に診断名を当てさせるのではなく,心電図の細かい所見や,本質に迫る問題,その先の診療方針を問う問題など,この一冊で心電図を通して循環器診療を深く学べます。不整脈や虚血性心疾患だけでなく,弁膜症や先天性心疾患など,幅広い疾患を収載。

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