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不整脈心電図の読解トレーニング
難解な症例をいかに読み解くか

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不整脈領域での診断技術の進歩は目覚ましいが、心電図はいまなお不整脈診断の基礎である。本書は国際的に有名な医師 George J. Kleinが選りすぐった90以上の症例から問題を作成し、普遍的な診断能力のレベルアップを図る構成となっている。問題を解きながら心電図不整脈診断の体系的なアプローチ、重要なイベントの同定と測定、そして電気生理学的な解釈の仕方をどんどん学べるエキサイティングな良書!
原著 George J. Klein
監訳 鈴木 文男
発行 2020年11月判型:A4頁:304
ISBN 978-4-260-04158-4
定価 9,020円 (本体8,200円+税)

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原書の序監訳の序(鈴木文男)


原書の序

 心臓病学において,心電図記録機器がどれほど進歩し,不整脈機序の解明がいかに進もうとも,不整脈診断の最初の1歩は不整脈心電図を記録することである.不整脈の診断に際してこれまでの教科書は,波形パターンの認識に基づいて不整脈の一覧表のなかから最も該当する診断名を選び出すという方法を示してきた.しかるに本書は,不整脈の診断に際し,不整脈の発生機転を電気生理学的に明らかにすることを主な目的としている.体表心電図に基づく不整脈診断と心内心電図記録に基づく不整脈診断の間には根本的な相違はなく,両者は相補的な関係にある.本書においては稀な症例報告も含まれているが,その目的は基本的な原理原則を説明するために提示しているのであって,症例の特異性とともにその出現機序などが解説されている.
 「多肢選択式の設問」において提示されるいくつかの不整脈心電図は,解答者を迷わせるためのものではなく,正解に到達するために参考となる興味深い所見を含んでいるであろう.
 本書は,読者が一般循環器医か,不整脈専門医か,熟達の内科専門医であるか否かにかかわらず,すべての熱心な不整脈研究者の心電図読解力が向上することを目的として執筆した.


監訳の序

 カナダ,オンタリオ州Western大学医学部のGeorge Klein教授のグループが2018年に刊行した『Strategies for ECG Arrhythmia Diagnosis』を翻訳し,本書を刊行することとなりました.刊行にあたって,監訳者の立場から,序文を記させていただきます.
 筆者は1975年に東京医科歯科大学を卒業した後,同大学医学部第一内科の循環器グループに25年ほど在籍いたしました.在籍中は“不整脈専門医”を目指して,主に臨床不整脈の診断・治療(臨床心臓電気生理検査およびカテーテルアブレーション治療)に従事しました.入院患者の心臓電気生理検査においては,外来などで記録した心電図(頻拍時心電図)をあらかじめ検討し,可能性のある頻拍機序をある程度絞ったうえでカテーテル検査を行いました.カテーテル検査によって最終的な確定診断が得られるわけですが,外来心電図より頻拍機序が絞られている場合には,診断のためのカテーテル検査および診断結果に基づくアブレーション治療は,よりスムーズに進行することになります.
 このような方法により臨床不整脈の診断・治療を行って参りましたが,Klein教授らが刊行した原書から,彼らの研究室の診断・治療の進め方を知ることとなりました.
 原書のなかで,Klein教授らは,これまで筆者が行ってきたのと“ほぼ同様の方法”により,不整脈患者の診療を行ってきたであろうことが推察されました.すなわち,彼らは書籍内で個々の症例を提示する際,最初に頻拍時の12誘導心電図を設問の形で提示したのち,選択肢のなかから正解診断名を読者に選択させるという“多肢選択法”により,症例提示を行っております.つまり,まず外来の頻拍心電図より頻拍機序を絞ったうえで心臓電気生理検査を行っていると考えられます.そして,設問に対する解答セクションにおいて,電気生理学的にどのような不整脈機序が最も考えられるかを徹底的に解説しています.当然のことながら,これらの患者の不整脈は,心臓電気生理検査によって診断が確定されているものと考えられます.
 Klein教授は,当初は米国Duke大学のGallagher博士のもとで臨床心臓電気生理学の基礎的方法論を学んだ後,1980年頃よりカナダ,オンタリオ州において臨床心臓電気生理検査を開始しておられ,これまでにきわめて豊富な症例を経験されている研究者です.本書の各症例の診断に関しては,担当医師とKlein 教授との間で見解が一致しない場合も稀にはあったのではないかと推察されます.解答セクションでの英語原文の表現において,時に,“予期しないほど強い否定(または肯定)表現”が使われている場合がありましたが,そのような症例は,両者の見解が一致しなかった例であったのかもしれません.
 本書の日本語訳にあたっては,浅川哲也先生,金古善明先生,小林義典先生,中里祐二先生,野上昭彦先生,藤木明先生(50音順)の6名に,多大なるご協力をいただきました.これらの先生方は,本邦の「臨床心臓電気生理研究会」という不整脈専門の研究会において,過去20〜30年の間,不整脈機序などに関する議論を大いに戦わせてきた研究仲間とも呼ぶべき先生方であり,筆者がその力を十分に信頼して日本語訳をお願いしました.
 おわりに,日本語訳の労をとっていただいた6名の先生方に深い敬意を表し,また本書の出版に際し,支援・協力をいただいた医学書院の諸氏に深謝いたします.

 2020年8月
 鈴木文男

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略語集
不整脈鑑別診断の一覧・注意点

第1章 心電図診断への電気生理学的アプローチ

第2章 不整脈心電図の電気生理学的診断

第3章 narrow QRS頻拍

第4章 wide QRS頻拍

第5章 モニター心電図の解析(12誘導記録がない例での解析)

第6章 不規則な頻拍

第7章 難解な不整脈心電図の解析:追加症例の検討

索引

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不整脈専門医をめざす人には必読の書
書評者: 村川 裕二 (村川内科クリニック院長)

 米国で出版されたクイズ形式の心電図テキストである。房室結節の関与する不整脈の研究で知られた鈴木文男氏の監訳による。

 「一般循環器科医か,熟達の内科専門医であるか否かにかかわらず,すべての熱心な不整脈研究者」を念頭におよそ90の頻脈性不整脈の診断を問うている。

 「一般内科医に必要な診断力」を大幅に上回るレベルでの議論が盛り込まれている。

 「臨床電気生理学とカテーテルアブレーションの経験を積んでいる専門医や,それを目指すひと」の研鑽に有用である。十二誘導心電図で頻拍の機序を分析するのみでなく,「次にどのような情報が必要か」も語られている。「QRSのかたち」「p波とQRSの位置」「周期の乱れ」などから心内興奮の動きを思い浮かべる洗練された理屈が面白い。

 原著者は“診断が正解かどうかよりロジックの明晰さを優先する”という意味のことを述べている。「十二誘導心電図の診断」が「電気生理検査やカテーテルアブレーションの観察」により修正されることは日常茶飯事である。それゆえ,不整脈専門家にとって原著者のフィロソフィーはもとより了解済みだが,これまで表立って「事実より理屈」と言えなかった経緯もあり「然り」とうなずくところである。

 本書は不整脈専門医試験をめざす人には必読である。専門医試験で出題される心電図は一義的に診断し得る波形であろうから,「どっちともいいにくい心電図」も並んでいる本書のほうが難解である。

 数十年前からあまたの「心電図の問題集」が世に出ている。本書は難しさでは頂点にある。電気生理学の知見をベースに置いた分析であり,「時代としての有利さ」がある。とはいいながら,心電図波形を拡大して眺めるところなど「いにしえの道」に沿うものでもある。

 ところで翻訳者として,国内外に屹立する業績を持つ臨床電気生理学者の名前があるが,精細な解析をたどるほどに「よほどの手練れ」でなくては頼めなかった事情を察した。

 本の体裁は魅力的である。字も大きく,心電図も見やすい。「心電図好き」はつい手を伸ばしてしまいそうだ。しかし,“気楽に楽しめる心電図クイズ”のつもりで手にすれば,30ページあたりで挫折する可能性が高い。勧められない。虚血性心疾患や心不全が専門の循環器科医にとってもなじみにくく,得るものが少ない議論が多い。そういうことを暗に示すためか8200円の値段がついている。

 3時間で読み終えたが,半分も正解できなかった。
読者の臨床医学的常識からの洞察力を問う価値ある一冊
書評者: 新 博次 (日医大名誉教授/医療法人社団葵会南八王子病院院長)

 最近のことであるが,JAMA Intern Med(Published online Sep. 28, 2020)に“医師の心電図診断精度”と題した78件の文献報告をメタ解析した米国Mayo Clinicからの報告が掲載されていた。それによると循環器標榜医の正診率は74.9%であった。ましてや実地医家,研修医ではさらに低い数値が示されている。トレーニングを経ての評価では平均で正診率が13%改善したと記されていた。

 今日では,心電図は臨床検査として当たり前のルーチンワークとして実施されているが,意外と利用者である医師にとって十分に活用されていない状況があるのではないか。現在の心電計の多くは自動診断が可能であり,他力本願で甘んじている医師が多いことも一因となっている可能性もある。しかし,低侵襲,廉価でかつ繰り返し記録することにより,多くの情報を提供してくれる心電図を活用しない手はないと考える次第である。

 ここに紹介させていただくGeorge J. Kleinの著作は,これまでの心電図読解テキストとは異なり,不整脈の電気生理学的背景を考慮して“臨床不整脈の心電図解読能力を向上させる”ことを目的として編纂されたテキストである。原書の序にも「不整脈の発生機転を電気生理学的に明らかにすることを主な目的としている」と記されている。内容的には心電図が提示され,多肢選択形式で正解を選ぶ方式となっているが,それぞれの所見・不整脈診断から,臨床背景・自覚症状などを参考として読者に正解を導かせることを意図している。読者の電気生理学的知識を駆使して,的確な心電図所見を見抜く能力を養うことを可能とするものと考えられる。提示される心電図は不整脈にかかわるものであるが,変化に富んだ設問があり,通読するにも退屈はしない。例えば,第2章の始めには,なんと心室起源の期外収縮が1心拍のみ記録されている12誘導心電図を示し,この症例が頻拍発作を発症した場合,最も可能性が高い頻拍はどれかという設問をしている。この設問は,提示した心電図所見を正しく診断させるのみのものではなく,従来の心電図学に関するテキストには見られないタイプのものである。読者の臨床医学的常識からの洞察力による判断を求めているものと思われる。

 このような価値ある著作に目を付け,日本語版を出版することを考えたことに敬意を表したい。監訳者は,大学の研究室に所属されていた時代から一貫して,今日まで長年にわたり,電気生理学的背景より不整脈解析を手掛け,臨床不整脈の第一線で活躍している強者である。各セクションを担当した訳者も,それぞれわが国を代表する指導的立場の不整脈研究者であり,用いられている和訳の用語にも統一性が担保されている。

 本書は,心電図学,特に不整脈に興味をもたれ専門医をめざす若手医師,あるいは,既に専門医として不整脈診療にかかわっている医師,そして,広く心電図に興味のある実地医家の皆さまにも心電図(特に不整脈)解析指南書として活用できるテキストであり,楽しみながら不整脈へのさらなる興味を募らせる一冊になると言える。

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