教えるを学ぶエッセンス
[第9回] グループワークをワーク(機能)させるには
連載 杉森公一
2022.12.12 週刊医学界新聞(看護号):第3497号より
今回のポイント
✓ グループワークを成功させるには,問いの質や学習プロセスの評価と省察が重要となる。
✓ グループワークにおける教師の役割は,局面によって変化することに留意する。
人が集まって,ある目的に向かって何かを生み出そうとする時,しばしばその場が「意味ある場」に感じられないことがある。グループワークがワーク(機能)しない時,三田地は,その場は目標(ゴール)を見失った「放牧型」になっているのではないかと言う1)。一方で,一糸乱れずに同じ道を歩む「線路型」では,参加者がやらされていると感じるだろう。
活動性を高め,かつその場の目的・目標も明確にする場づくりのために,グループワークにおいて教師がどのような役割を担えばよいのだろうか。参加者の相互作用を大きく高めていくにはどうすればよいのだろうか。
学びにおける責任の主体を学生に移行する
グループワークを通して学生の学びを促すためには,知識獲得の3つのスタイル(後述の①~③)を把握しておくことが重要だ。知識獲得を促す問いを教師が提示し,教師が転移した知識を記憶させるような直接指導の方法は,個人が獲得する知識の量を優先する①「勉強モデル」に分類される2)。このモデルと対比される協同的・協調的な学習には,学生が教師から提示された問題や課題(problem)に取り組む学習形態として,調査に基づいた学習(IBL)や問題に基づいた学習(PBL)などが用いられる。他にも知識獲得のスタイルとして,グループのメンバーと協力しながら正解にたどり着く中で協同性や葛藤によって知識の獲得や思考の幅を広げる②「学習モデル」,課題そのものを学習者一人ひとりが設定し,メンバーと共に問いを掘り下げ,協調のための相互理解を深めていく③「学問モデル」が挙げられる。一般に,グループワークは小グループに分かれることが多いため「グループ学習」と呼ばれ3),問いの質や学習プロセスの評価と省察が成功の鍵となる。
教育学のフィッシャーらは,グループで行う活動を「協働学習」と位置づけた上で,学びにおける責任の主体が教師から学生へ移行していく「学びの責任移行モデル」を提案している(図1)4)。一斉授業に当たる「焦点を絞った指導」「教師がガイドする指導」では,教師の責任の比重が高い(教師が行う)。「協働学習」では探究プロセスに重きを置き,課題の発見や解決に取り組むことで多くの失敗も経験し,成果物だけではなく学習プロセスそのものからも学ぶ(学生が共に行う)。本連載第2回(3471号)で触れたアクティブラーニング型授業における教師の役割としてファシリテーターが求められるのは,この領域だろう。協働学習を経ることにより,異なる状況で知識を応用したり,新しい問いを生み出したり,自分の学びを自己評価・省察して次のステップを計画できたりする「個別学習」(学生が一人で行う)への移行が可能となる。結果として学生の深い学びにつながること,学習の主体としての責任感と自律が生まれることが,このモデルが推奨される理由だ。
この一連の一貫性のために,教師の授業設計・学習設計に対する質を測るルーブリックも提案されている。授業や活動の目標設定と教師のサポートがかみ合わなければ,グループワークは作業と作業の確認に終始する「意味のない」場になってしまうだろう。
グループワークにおける教師の役割とは
教育学の安永は,「教師はそのときどきに演じている役割とそれにもとづく具体的な行為を自省的にモニターし,授業の流れに応じて柔軟に修正する必要」があるとする(図2)5)。指導内容や学習過程に応じて,教師にはリーダーやコーチとしての役割が求められる。実技や演習科目で細かく構造化されたグループワークを設計した場合,手取り足取りに近いフィードバック(という名の採点)にとどまり,教員も学生も余裕がない状況になりがちである。一方で,全ての場面で徹底して教えないことも行き過ぎである。グループワークにおいて教師は,必要なことは教える協同学習のファシリーテーターとしての役割や,教師と学生が共に学び合う共同研究者のような関係の構築が望まれる。学習形態の組み合わせることとともに,教師の役割が局面ごとに変わっていくことに気をつけたい。
教師の役割は,グループワークの評価をどう行うかにも影響する。グループ学習自体への評価が必要であれば,教師は採点者としてグループ内での貢献度を観察評価したり,プロセスについての自己評価や学生同士のピア評価を加えたりすることもある。そして,成果物を評価するときには,本連載第8回(3495号)で触れたルーブリックの活用によって,到達状況や方向性を確認し,フィードバックを与える。
「場」をホールドする教師の柔軟な役割は,場を「意味ある場」として支える「ガードレール」である。ただし,そのガードレールの幅を狭めたり広げたりする加減,学生の力を信頼して手を離していく勇気,学生の自律を認める文化,個々の授業の入口と出口を垂直に接続するカリキュラム設計などによって,ガードレールを伴ったグループワークが初めて機能するのである。
*
ユネスコは学習の4本柱に,「知ることを学ぶ(Learning to know)」「為すことを学ぶ(Learning to do)」と共に「(他者と)共に生きることを学ぶ(Learning to live together, Learning to live with others)」「人間として生きることを学ぶ(Learning to be)」を掲げています6)。多様性の価値を認め,他者を理解することの先に,個人の人格と責任の確立が達成されるでしょう。そのためには,教師の側に慎重な計画と配慮が求められ,学習の過程では常に適切な指導が与えられるべきでしょう。そうでなければグループワークはかえって有害な教授形態になってしまうのです7)。
次回は,学習の共同体を支援するための学習環境について解説する。
参考文献
1)中野民夫(監),三田地真実(著). ファシリテーター行動指南書. ナカニシヤ出版;2013.
2)三浦真琴,他(著).グループワーク その達人への道. 医学書院;2018.
3)小林忠資,他(編).看護教育実践シリーズ4――アクティブラーニングの活用.医学書院;2018.
4)D.フィッシャー,他(著),吉田新一郎(訳).「学びの責任」は誰にあるのか.新評論;2017.
5)安永悟(著).活動性を高める授業づくり.医学書院;2012.
6)ユネスコ21世紀教育国際委員会(編),天城勲(訳).学習:秘められた宝. ぎょうせい;1997.
7)沼野一男,他(編).看護教育の技法.医学書院;1970.
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