医学界新聞

対談・座談会 尾形 裕也,甲賀 啓介

2025.11.11 医学界新聞:第3579号より

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 2014年の「地域包括ケア病棟入院料」以来,10年ぶりに新たな入院料である「地域包括医療病棟入院料」が新設された(MEMO)。高齢者救急を主なターゲットとしており,入院基本料は1日3050点と高く,疾患別リハビリテーションや看護補助体制の加算などにより,収益面での貢献も期待されている。画期的な入院料とされるが,算定要件の厳しさもあり,実際にはまだまだ参入する医療機関が少ない状況だ。しかしながら,そうした厳しい条件下であっても今後の生き残りをかけて病床を転換する中小病院が現れ始めている。急性期一般入院料1として届け出ていた249床を全て地域包括医療病棟に転換した甲賀病院の経験を通じて,地域包括医療病棟の真価を考えたい。

高齢者救急の主な受け皿として,急性期治療とリハビリテーション・栄養管理を包括的に提供する目的で,2024年度診療報酬改定で10年ぶりに新設された入院料体系。看護配置10対1を基本として,ADL等の維持・向上を目的に,常勤の理学療法士,作業療法士,言語聴覚士が2人以上,専任かつ常勤の管理栄養士が1人以上配置されること,平均在院日数が21日以内であることなどが特徴とされる。入院料は1日3050点であり,各種加算を含めると急性期一般入院料に近い収益も期待される。略称は地メディ病棟。

尾形 初めまして。今回の企画は,甲賀先生が対談相手として私を指名されたと伺いました。甲賀病院の取り組みは以前から伺っておりますし,急性期一般入院料1の病床を全て地域包括医療病棟へ転換した背景なども詳しくお聞きしたいと思っていました。本日はよろしくお願いします。

甲賀 後ほど詳しくお伝えしますが,実は地域包括医療病棟を進んで選択したわけではなく,選ばざるを得なかったというのが実際のところです。尾形先生には聞きたいことが山ほどあります。本日はたくさん話を聞かせてください。

甲賀 尾形先生は中央社会保険医療協議会(中医協)の入院・外来医療等の調査・評価分科会(以下,分科会)において,分科会長の立場から地域包括医療病棟が誕生するまでの経過を見てこられたと思います。地域医療包括病棟がどのような議論の流れで決まったのかを簡単に教えていただけますか。

尾形 新設された背景には,高齢者に対する医療提供の課題がありました。本来重症患者を主に対応すべき三次救急医療機関において,軽症・中等症の高齢患者で病床が埋まってしまうことが問題視されており,その対策として高齢者救急に焦点を当てた議論が始まりました。私の印象ではありますが,当初は地域包括ケア病棟が高齢者救急の担い手として対応できないかという問題意識で議論が進められていたように感じています。そうした文脈の中で,新しいコンセプトである地域包括医療病棟が提案されました。10年ぶりの新病棟ですから,厚労省にも相当な覚悟があったのだろうと想像しています。

甲賀 同感です。一方で,地域包括ケア病棟と何が異なるのかという混乱の声も少なくありません。

尾形 大きな特徴は,高齢者等の急性期患者について,治療と入院早期からのリハビリテーションを提供し,早期の在宅復帰をめざした治し支える医療の提供を目的とすることです。急性期と回復期双方の機能を有していることは地域包括ケア病棟との違いと言えると思います(1)

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表 急性期病棟,地域包括医療病棟および地域包括ケア病棟の機能の比較(厚労省資料より)

甲賀 本日の議論の前提が共有されたので,静岡県の志太榛原医療圏(人口対約46万人)に位置する当院を取り巻く環境について共有をさせてください。350万人ほどが住む静岡県は,面積が大きいために県内8つの医療圏に分かれ,それぞれに地域特性が表れます。当医療圏の救急事情はひっ迫していないものの,急性期機能を持つほとんどの施設の病床稼働率は低い状況です。その中で,ここ数年当院は急性期機能に軸足を置く増収増益路線を選択。自前の救急車を有していたことから救急車の受け入れ台数が伸び,売上高は5年間で2倍以上の伸長を果たしました。収益構造としては,2024年5月に急性期一般入院料4から急性期一般入院料1に転換,7対1の看護配置に変更しました。

尾形 つまり,単価アップをめざす路線に舵を切ったということですか。

甲賀 その通りです。ただ,2024年の診療報酬改定の煽りを受け,7対1の体制を維持しづらくなったことから,リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算などの各種加算の取得をめざす,さらなる増収路線を図り,結果的に年間で9億円の増収を得ました。しかし赤字幅は広がり,増収増益路線の限界を悟ったのです。そこで減収増益路線へと切り替え,同年の9月に6病棟有していた急性期一般入院料1のうちの2棟を地域医療包括病棟へ転換,そこから半年を待たずに全ての病棟を地域医療包括病棟へと転換しました(図1,2)。

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図1 甲賀病院における病棟の変遷
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図2 甲賀病院における病床機能報告の変遷

尾形 約1年間でめまぐるしく体制が変わりましたね。段階的に転換されるに当たって,困ったことはなかったのでしょうか。

甲賀 ベッドコントロールの問題です。どのような基準で患者さんを振り分けるべきなのか迷いました。急性期一般入院料1だけを優先してしまうと地域包括医療病棟の基準をクリアできず,その逆も然りです。地域医療包括病棟に全て転換したのには,そうした課題を払拭する意味もありました。

甲賀 一方で,周りの病院経営者からは「急性期病棟をよく手放しましたね」と口々に言われます。けれども,さまざまなシミュレーション結果を踏まえて全病棟を転換したほうが増収効果を得られそうであったこと,また先ほど話したような7対1の看護配置を維持しづらくなった背景があることから,地域包括医療病棟を選択するしかなかったのです。

 転換の決断をした時には院内からもさまざまな声が上がりました。特に看護師です。「急性期の病院ではなくなるのですか?」と。現場の医師からも,現在診療中の患者さんはどこで診るのかと不安がる声を聞きました。誤解を抱かせないよう,職員への説明は丁寧に行いましたね。

尾形 私の知る施設でも,7対1から地域包括医療病棟への転換をする際に看護部の説得に骨が折れたと聞きました。その施設は1年近くかけて移行を果たしたと聞きましたが,「7対1体制=急性期機能」という考えは根強いものと感じます。

甲賀 と言いますと?

尾形 2018年の診療報酬改定において,当時批判の声が上がっていた実態の伴わない急性期病棟,いわゆる「なんちゃって急性期」の存在にメスが入りました。この時は10対1体制への引き下げの実現に向けて2段階段を設ける改定が行われたものの,9割以上の施設が7対1の体制を手放しませんでした。経営的な目線から見れば,変更という選択肢は十分あり得たにもかかわらずです。この理由を当時の分科会でも検討したのですが,ある先生が「7対1がブランド化しているのではないか」とおっしゃいました。要するに,「7対1をやめる=急性期機能を手放す」とのひもづけが医療者の中でなされているのではないかとの指摘でした。この推論が正しいのかはわかりませんが,あながち間違いではないように感じています。

 しかし,今回新たに設けられた地域包括医療病棟は,多くの施設が関心を持ち,転換を決断する施設も現れています。分科会に示された資料によれば,地域包括医療病棟入院料を届け出る前の入院料については,急性期一般入院料1からの転換が4割を占めていました2)。それだけ経営層の目に魅力的なものとして映ったのだろうと思います。ただし,算定要件の厳しさもあり,二の足を踏む施設も出ている状況です。

甲賀 急性期対応に慣れていない施設は地域医療包括病棟への転換が難しいだろうと個人的に思っています。もちろん地域包括ケア病棟から転換するという選択肢はあるものの,院内の文化を考慮すると,急性期機能を持つ施設が転換したほうがスムーズでしょう。

尾形 検討会の中では,患者層が内科系疾患に偏った施設は地域包括医療病棟に転換しにくいとの意見も上がっていました。

甲賀 その点に関しては地域性の問題も大きく,傾向を知るためのサンプル施設数も足りていないと感じています。外科系の患者さんを受け入れなければ成立しないとの主張があることも知っていますが,当院の場合は内科系の患者さんだけで十分に体制が維持できています。今後は地域包括医療病棟を運用する多施設で情報共有し,議論していく必要があるのでしょう。また,想定される患者像を考慮すると,将来的には急性期一般入院料2~6,地域包括医療病棟,地域包括ケア病棟は統合されていく可能性もあるのではと考えているところです。

尾形 検討会においてもそうした統合論の話題が挙がっていましたが,議論ができるほどのデータはまだそろっていないために今後の予測は立てづらいですね。特に地域包括医療病棟については,甲賀先生のお考えと同様に,もう少し経過を観察していく必要があると考えています。新設されたからこそまずは大事に経過を追って,育てていくべきです。

甲賀 こうした病棟再編の動きの背景には,多くの医療機関が経営難に追い込まれている問題があります。とりわけ急性期機能を有した医療機関や公的病院ほど赤字幅が膨れ上がっているのが現状です。しかしながら現在の医療提供体制は,そうした地域に必要とされる施設ですら生き残れないような建付けになっており,医療機関が皆等しく冷や水を浴びせられています。この問題の出口はどこにあるのでしょう。

尾形 難しい問いですね。1つは,医療機関の現状に対する国民の認識とのずれだと思います。この間の参議院選挙における公約を見ると,医療費の4兆円削減,社会保険料の減額を掲げる政党がありました。政党が公約として打ち出すということは,国民の意識としてもそうした改善を求めている声がある表れでもあります。けれども,こうした削減案は本当に正しい選択なのかと,私は疑問を持たざるを得ません。

甲賀 詳しく理由を聞かせていただけますか。

尾形 介護の経費も含めた保健医療支出のGDPに対する割合を見ると,世界で最も高齢化が進んでいるにもかかわらずG7の中で日本は6位です3)。医療費や介護費用が何となく高くなっているように感じる人は多いと想像しますが,世界的に見れば決して高くはない現実があります。そうした事実を国民は正確に理解しているのでしょうか。私はまだまだ認識不足であるととらえています。ですから医療機関が経営危機に陥っていても切迫感が伝わらず,診療報酬を引き上げるといった議論にはつながりにくい。結果的に財源確保が将来的に厳しくなるのは確実です。この国民の認識と現実とのギャップを埋め,理解を求めていくことに医療界はまず取り組むべきでしょう。皆保険制度を守っていくには,財源の確保が第一ですから。

甲賀 ただ一方で,もし仮に財源を確保できたとして,捻出された補助金を全国の医療機関に均一に支払うべきなのかは議論の余地があると考えています。地域の実態に合わせた検討が必須でしょう。

尾形 同感です。医療提供体制の効率化の議論も同時に進めなければなりません。日本の医療提供体制はさまざまな規制が入っているとはいえ,基本的にレッセフェール,自由放任主義です。医療計画における病床規制についても,病床過剰地域は開設・増床ができないだけで減らす権限は設定されていません。個人的には国や県に権限を与えて強制的に病床削減をしなければならないと考えていましたが,さまざまな検討の上で,現在の地域医療構想の形となっています。

 新たな地域医療構想の骨格案は2024年12月にとりまとめられました4)。基本的には現行の地域医療構想を踏襲し,手直しをしている印象です。現行の地域医療構想が本質的な部分で見直すべきだったのであれば私が掲げていたような強硬論が出てきてもおかしくないものの,その選択がなされていないということは,若干の軌道修正は行うものの,基本は維持するということです。一方で,地域差の問題は見過ごせません。そうした点では,構想区域ごとに議論を一層深めていかなければならない時期に差し掛かっているのだろうと思っています。新設された地域包括医療病棟の在り方も含め,今後の日本の医療提供体制を注視していきたいです。

(了)


1)厚労省.令和6年度診療報酬改定の概要【入院I(地域包括医療病棟)】.2024.
2)厚労省.(令和7年度第3回)入院・外来医療等の調査・評価分科会.2025.
3)厚労省.令和6年版厚生労働白書 資料編.2024.
4)厚労省.新たな地域医療構想に関するとりまとめ.2024.

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九州大学 名誉教授

東大工学部,経済学部を卒業後,1978年厚生省入省。健康政策局(現・医政局),国立社会保障・人口問題研究所などを経て,2001年九大大学院医学研究院教授。13年より現職。13~17年東大政策ビジョン研究センター特任教授。現在は中医協の入院・外来医療等の調査・評価分科会分科会長を務める。

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コミュニティーホスピタル甲賀病院 院長

2000年阪大卒。同大病院,大阪警察病院での勤務を経て,09年阪大大学院修了。博士(医学)。同年より,1989年に両親が開設した,地域の急性期医療を担うコミュニティーホスピタル甲賀病院に勤務する。同院副院長を経て,19年から現職。全日本病院協会常任理事。

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