診断戦略DATESを用いて診療時の違和感を言語化し創造性を促す
寄稿 礒田 翔
2025.11.11 医学界新聞:第3579号より
「想起した診断仮説がしっくりこない」「何となく違う気がする」。診療中にそんな違和感1, 2)を覚えたことはありませんか。この違和感の言語化により,新しく有用な仮説が生成される場合があること3)を経験的に知っている方は多いと想像します。新しく有用なアイデアが生まれた時は「創造性が発揮された」4),そして,もし「ああ!そうか!」という感動(Aha体験)を伴った場合は「洞察が発揮された」と認知心理学の文脈では表現されます5)。こうした気づきによって診断プロセスの途中で発想の転換が可能となり,思いもよらなかった診断結果にたどり着くことも少なくありません。
本稿では,こうした診療時の違和感を言語化し,創造性を発揮して診断精度を向上させる戦略,DATES(註)についてご紹介をします。
違和感を言語化する鍵
メタ認知
違和感を言語化するにはメタ認知が有用です6)。メタ認知とは「認知について認知すること」で,自分の思考を客観的にモニタリングするだけではなく,モニタリングの後にどのような思考や行動をするかを具体的に考えることも含まれます7)。違和感の言語化にはこのメタ認知が有用であり,目前の患者情報と想起した疾患の典型的な病像を比較し,両者のずれを突き止めることが重要です6)。またメタ認知は,新しい観点からの見直しを促すため,創造性の促進にも有用とされます8)。さらに言えば,診断推論において種々の診断戦略を試すこともメタ認知的な思考に該当し3, 4),さまざまな角度からの認知によって診断精度を向上させることにつながります。発想の転換は,睡眠やポジティブな感情・環境の影響といった無意識の状態で生じることもありますが4),意識的にメタ認知を活用し診療することは,違和感に気づくための一つのきっかけになると考えます。
診断戦略DATESを用いてメタ認知を言語化する
では,メタ認知によって得られた違和感を言語化するにはどうすればいいのでしょうか。私が考える観点は下記の5つです6)。頭文字を並べるとDATESとなります。
①Degree:程度(痛み,数字,大きさ)が大きすぎるor小さすぎる情報があるか
②Abandoned:異常な所見ととらえるべきだが,見逃している所見はないか
③Time course:臨床経過に異なる点があるか
④Excess:余計な情報があるか
⑤Shortage:足りない情報があるか
それぞれの項目において創造性が促された症例を見てみましょう。
①Degree
交通事故に遭った30代女性。事故後に回旋時のみの右頸部痛が出現したため受診,その際に発熱を認めました。発熱は何らかのウイルス感染症によるもの,頸部痛は外傷性頸部症候群によるものと担当医は考えた一方で,その仮説に違和感を覚えていました。DATESに基づき違和感の原因を検討すると,外傷性頸部症候群にしては頸部痛が強すぎる点(Degree)に気がつきました。頸部痛は外傷ではなく炎症病態と関係があると考え直すことにより膿瘍を想起し,造影CTを施行したところ頸部膿瘍の診断に至りました。
②Abandoned
下肢に痂皮を認めた40代男性が発熱と咽頭痛で受診しました。軽度の血小板減少・肝酵素上昇もあり,何らかのウイルス感染症を想起したものの,担当医は違和感を覚えました。DATESの観点で検討すると,炎症病態とは無関係ととらえていた痂皮の存在(Abandoned)に気づき,ダニによる刺し口である可能性を考え,追加検査でツツガムシ病の診断に至りました。
③Time course
右下腹部痛で受診した20代男性。虫垂炎と診断し抗菌薬投与で軽快するも,1か月後に右下腹部痛が再発しました。虫垂炎の再発を想起した一方,その仮説に違和感を覚え本人に確認すると,以前から数か月おきに発熱と腹痛を繰り返していたことが明らかになりました(Time course)。周期的に繰り返す発熱と腹痛から,家族性地中海熱を想起し遺伝子検査を行い診断に至りました。
④Excess
基礎疾患のない70代女性が数日前からの発熱・湿性咳嗽で受診しました。やや違和感を覚えるも定型肺炎の可能性を考えてセフトリアキソンの投与を開始しましたが,効果はありませんでした。DATESの観点から違和感の原因を検討すると,受診時から低ナトリウム血症と意識障害を認めていた点(Excess)に気がつき,レジオネラ肺炎の可能性を想起できました。家族に確認すると,発症数日前に温泉施設に行っていたことが判明。レジオネラ抗原検査を施行,レジオネラ肺炎の診断となりました。
⑤Shortage
大腸癌手術歴のある60代女性が,突然発症の腹痛で救急搬送されてきました。エコー検査で腹水を認めたこと,加えて突然発症という病歴から腸管穿孔を想起しましたが,違和感を覚えました。違和感はfree airを認めない点(Shortage)だと言語化し診察し直すと,両下肢に冷感を認めたため腹部大動脈瘤を想起。CT検査を施行すると,腹部動脈瘤破裂の診断となりました。
導入のメリットと注意点
DATESの活用で違和感の言語化までの時間が短縮され,診断がより迅速に・正確に・効率的に・低侵襲になり得ます。上級者は違和感の言語化にも長けておりDATESは不要かもしれませんが,経験の乏しい初学者は違和感を覚えることさえ難しいために,このフレームワークを用いて目前の症例と想起した鑑別疾患を比較検討することで疾患の病像が補強され,違和感を認識しやすくなると考えられます。つまり,若手医師の教育にも有用と言えるでしょう。また自身の思考過程をメタ認知する習慣がつくこともメリットの一つと言えます。さらに,患者ケアにおいて看護師を含む多職種が違和感を覚えた時に,DATESを用いた違和感の言語化によって医師に正確に状況を伝えることも可能にします。そうすることで急変の早期認知につながる可能性はあるでしょう。加えて状況の伝達の正確性が増すとコミュニケーションの質が上がり,医療の質も向上するとの報告9)もあります。診断の卓越性(Diagnostic Excellence)の文脈における6つの医療の質の目的(安全性,有効性,患者中心性,適時性,効率性,公正性)の観点10)に鑑みると,安全性,適時性,効率性の点で,DATESによる違和感の言語化が貢献することは間違いありません。
しかしDATESには課題もいくつかあります。DATESは違和感の言語化を促しますが,具体的な診断仮説のリストを提示するものではありません。違和感を言語化した上で,診断仮説をゼロベースで再検討することが必要です11)。また,違和感の言語化には一定の臨床経験と認知的余裕が必要であり,時間的制約の大きい場面では実現可能性が限られる可能性があります。今後は,実際の臨床環境でどのくらいの効果をもたらすかを具体的に評価したいと考えています。
註:第26回日本病院総合診療医学会学術総会で開催されたセッション「プレゼン大会――わたしのオリジナル診断戦略」において優勝を収めた発表内容に基づき,執筆をしています。
参考文献
1)BMC Fam Pract. 2009[PMID:19226455]
2)J Gen Intern Med. 2011[PMID:20967509]
3)Diagnosis(Berl). 2024[PMID:38386688]
4)Diagnosis(Berl). 2025[PMID:40321020]
5)Ohlsson S. Information-processing explanations of insight and related phenomena. In:Keane M, et al(eds). Advances in the Psychology of Thinking. Birmingham:Harvester-Wheatsheaf;1992.
6)J Eval Clin Pract. 2025[PMID:40916928]
7)Cloude EB, et al. The role of metacognition and self-regulation on clinical reasoning:leveraging multimodal learning analytics to transform medical education. In:Giannakos M, et al(eds). The Multimodal Learning Analytics Handbook. Cham:Springer International Publishing;2022:105-29.
8)Yoshida Y, et al. Effects of metacognitive processing in creative problem solving. Cogn Sci. 2002;9:89-102.
9)J Nurs Adm. 2005[PMID:15891488]
10)BMJ. 2022[PMID:35351777]
11)Am J Med. 2020[PMID:32299604]

礒田 翔(いそだ・しょう)氏 大阪医科薬科大学総合診療医学教室 特命助教
2017年滋賀医大卒。日赤愛知医療センター名古屋第二病院で研修し,21年より大阪医薬大病院総合診療科に所属する。24年立命館大総合心理学部人間科学研究科で社会人大学院生として認知心理学を学び,認知心理学的観点から診断における思考過程の言語化・戦略化に取り組む。25年からは日本病院総合診療医学会の良質な診断ワーキンググループの共同代表。
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