医学界新聞

教えるを学ぶエッセンス

連載 杉森 公一

2022.05.30 週刊医学界新聞(看護号):第3471号より

 近年,看護教育ではアクティブラーニング(Active Learning : AL)の手法を用いることが増えている。ALと聞くと,グループワークのような授業を連想する読者も多いかもしれない。筆者は「『教師が何を伝えたか?』から『学生が何を身につけたか?』への学習の価値転換を図る運動」がALであるととらえている1)

 高等教育機関への進学率上昇による学生の学力や学習意欲などの多様化を背景に,「教える」から「学ぶ」への転回(パラダイム転換)が日本の教育現場に求められている。そのため,学ぶ/学習(者)を中心とするパラダイムを志向して,ALなどさまざまな教育改善の取り組みが実践されてきた。文科省の中央教育審議会による答申2)で用いられた用語集では,「アクティブ・ラーニング」(施策用語には「・」が入る)を以下のように定義している。

教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり,学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって,認知的,倫理的,社会的能力,教養,知識,経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習等が含まれるが,教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である。

 教育学者・青年心理学者の溝上慎一氏は,ALを「一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での,あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には,書く・話す・発表するなどの活動への関与と,そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」と定義する3))。また溝上氏は,能動的な学修を取り入れALを効果的に促す学修活動(予習・復習を含む)が適切に設計された授業を「AL型授業」としている3)。同氏の言う「AL型授業」は技法の転換を定めており,ただ単位が取れれば良いような「浅い学習」の対語に当たる「深い学習」へ向かうための技法として示されている。つまり,表面的な方略や技法のみの採用は本質的ではない。教育者側が学習目標を明確にし,学習成果を獲得するために十分に意図された授業設計が重要になる。

 教える/教授(者)を中心としたパラダイムでは,知識は学生の向こう側(外側)にあるもので,教師がその固まりを分割してわかりやすく伝達するものであった。学習者を中心にした教育への移行4)は ,古くは臨床心理学者カール・ロジャーズ氏の「患者中心のアプローチ」5)の中で提唱された“student-centered education”や,学習者自ら知識をつくる構成主義的な学習観と一致している。学習(者)中心のパラダイムでは,教師の役割を学習活動に合わせて変化させていく。つまり,教師はデザイナーでありファシリテーターでもある(4)

3471_04_01.jpg
 教師に求められる学習(者)中心へのパラダイム転換(文献4より作成)

 では,本邦の医学教育や看護教育で,ALはどのように論じられているのか。医学教育においてALは,大人数講義と対照を成す教育アプローチとして用いられる。個人やペアで学習を振り返らせたり,質問を与えて取り組ませたりする,ごく小規模の学習活動の導入から始められ,学習目標レベルによってはメタ認知の修得までを可能とするものとして紹介されている6)。看護教育では,ALを授業にどのように組み込んだらよいかの設計の視点,学生を学習活動にどう積極的に参加させられるかの関与(エンゲージメント)の視点の両方が必要と論じられている7)

 米国の大学教育の歴史をひもとくと,1990年代初頭の「教室アセスメント技法」8)以来,多様なALの技法が提案されてきた。例えば,授業の最後に振り返りコメントを書かせる「ミニッツペーパー」,学生に課題を提示し個人で考える時間を取った後に隣同士(ペア)で考えを共有しクラス全体へ発表する「シンク・ペア・シェア」,グループの中で自分のみがその文献・課題を担当しているために,他者と協働して初めて学習内容の十分な理解が得られる構造とする「ジグソー法」などだ(図1)。個人・ペア・グループを授業や研修にどう組み込めばよいのか,問われるのは教育者側の意図と工夫だ。単にグループワークを行えばAL,というものでは決してないのである。

3471_04_02.jpg
図1 シンク・ペア・シェア,ジグソー法のイメージ
シンク・ペア・シェアでは個人で考えペアで意見交換した後,全体で共有し検討する。ジグソー法では,各文献・課題の担当者が1人ずつ集まったグループで他者と協働し,学びを深める。

 教室を意義ある学習の場にするためには,ファシリテーターとしての教師が媒介者・触媒となっていくことが求められる,と言えるかもしれません(図21)。それは,ただ知識を暗記し,再生することのみをめざすのではなく,学習者とともに知識を創造していこうとする「専門職」としての教師像を問い直すことになるのです。

3471_04_03.jpg
図2  アクティブラーニングのめざす構図(文献1より作成)
教師が媒介者・触媒となり,学習者(個人)を生涯学び続ける自律した学習主体(アクティブラーナー)として,社会につなげていく。その後,個の学びを始点として,他者との対話・協同を介在させた「教室の社会への外化」(社会化)を経て,「主体的に社会に参画する個への内化」(主体化)にループバックする。

 生涯学び続ける者,社会を自ら形成する主体としての「アクティブラーナー」を導く,私たち教師自身の学びがより一層大切になっていくだろう。「学生が確実に学習してはじめて,教師は教えたといえるのだ」9)との認識から,教えることの専門性を振り返っていただきたい。次回は授業設計について解説する。


: 認知プロセスとは,知覚・記憶・言語・思考(論理的/批判的/創造的思考,推論,判断,意思決定,問題解決など)といった心的表象としての情報処理プロセスを指す10)

1)杉森公一.大学教師と学生を繋ぎ,結ぶアクティブ・ラーニング――大学での実践事例から.化と教.2016;64(7):328-31.
2)文科省.新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)用語集.2012.
3)溝上慎一.アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換.東信堂;2014.
4)Barr RB, et al. From teaching to learning<2014>A new paradigm for undergraduate education. Change. 1995;27(6):12-26.
5)Burnard, P. Carl Rogers and postmodernism: Challenges in nursing and health sciences. Nurs Health Sci. 1999;1(4):241-7
6)髙田和生.アクティブラーニング:主体的で効果的な学習を可能にする授業とは.日内会誌.2015;104(12):2498-508.
7)小林忠資,他(編).看護教育実践シリーズ4――アクティブラーニングの活用.医学書院;2018.
8)Angelo TA, et al. Classroom Assessment Techniques : A Handbook for College Teachers. Jossey-Bass ; 1993.
9)沼野一男,他(編).看護教育の技法.医学書院;1970.
10)日本認知心理学会(監),楠見孝(編).現代の認知心理学3 思考と言語.北大路書房;2010.

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook