教育と学習の原理
人が学ぶとは、その学びを支える教育とは──その根本を知る1冊
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シリーズ | 看護教育実践シリーズ 1 |
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シリーズ編集 | 中井 俊樹 |
編集 | 中井 俊樹 / 森 千鶴 |
発行 | 2020年09月判型:A5頁:216 |
ISBN | 978-4-260-04262-8 |
定価 | 2,640円 (本体2,400円+税) |
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序文
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「看護教育実践シリーズ」刊行にあたって
看護教員を対象とした研修を担当すると,参加者の教育に対する情熱に圧倒されることがあります。学生が就職してからも困らないように,教室の内外においてさまざまな試行錯誤をしていることがわかります。教育に対する思いや情熱は最も重要なのかもしれません。しかし,思いや情熱だけでは効果的に教育することはできません。
「看護教育実践シリーズ」は,看護教育に求められる知識と技能を教育学を専門とする教員が中心となって体系的に提示することで,よりよい授業をしたいと考える看護教員を総合的に支援しようとするものです。つまり,教育学という観点から,看護教員の情熱をどのように学生に注げばよいのかを具体的にまとめたものです。
読者として想定しているのは,第一に看護学生を指導する教員です。加えて,看護教員を目指す方,看護教員の研修を担当する方,病院で看護学生を指導する方にも役立つと考えています。看護分野の授業文脈で内容はまとめられていますが,他分野の医療職教育などにかかわる方にとっても役立つ内容が含まれています。
看護教育のシリーズ本はこれまでにも刊行されてきました。医学書院で刊行された「わかる授業をつくる看護教育技法」や「看護教育講座」のように看護教育の方法を体系的にまとめたシリーズ本です。これらは,看護教員の教育実践の質を高めることに大きく寄与しました。本シリーズは,これらの貴重な成果を踏まえ,近年の教育学や看護教育学の理論と実践の進展に対応することで,新たな形にまとめたものです。
本シリーズは全5巻で構成されています。『1 学習と教育の原理』『2 授業設計と教育評価』『3 授業方法の基礎』『4 アクティブラーニングの活用』『5 体験学習の展開』です。それぞれが,1冊の書籍としても読めるようになっていますが,全5巻を通して読むことによって看護教育の重要な内容を総合的に理解できます。
本シリーズを作成するにあたって,各巻の全執筆者との間で執筆の指針として共有したことが3点あります。第一に,内容が実践に役立つことです。読んだ後に授業で試してみたいと思うような具体的な内容を多数盛り込むようにしました。第二に,内容が体系的であることです。シリーズ全体において,看護教育にかかわる重要な内容を整理してまとめました。第三に,内容が読みやすいことです。幅広い読者層を念頭に,できるだけわかりやすく書くことを心がけました。つまり,役立つという点では良質な実用書であり,網羅するという点では良質な事典であり,読みやすいという点では良質な物語であるようなシリーズを提供したいと考えて作成しました。
本シリーズが多くの読者に読まれ,読者のもつさまざまな課題を解決し,看護教育の質を向上させる取り組みが広がっていくことを願っています。
「看護教育実践シリーズ」編集 中井俊樹
はじめに
「看護教育実践シリーズ」は実践での活用を重視したシリーズですが,その第1巻である本書は教育と学習の原理を扱っています。その理由は,教育と学習にかかわる理論や枠組みといった原理を知っておくと,教育を実践する際に応用が利くようになるからです。
多くの教員はどのように授業を行ったらよいのかという実践に興味や関心をもつでしょう。一方で,抽象的な原理については難しく感じたり,役に立たない印象をもっていたりするかもしれません。
「どうやってするのか」という実践に直結する問いをもつこと自体は重要です。しかし,「どうやってするのか」だけでは,教員としての成長は限られるでしょう。なぜなら,教員のおかれている状況は個別具体的だからです。教育のおかれている状況にあった望ましい実践のあり方は,その状況の数だけ存在するといえます。個別具体の状況に沿った実践の方法をすべて身につけることは不可能で,実践の方法の基礎となる理論や枠組みをおさえておくほうが現実的です。教員としての経験とともに,理論や枠組みを状況にあわせて応用することができます。
また,「どうやってするのか」だけでは,手段が目的化するおそれもあります。たとえば,「ジグソー法をどうやって取り入れるのか」については,本シリーズの4巻も含めてさまざまな書籍などから知ることができるでしょう。ただし,「ジグソー法をどうやって取り入れるのか」という教員の問いの前提には,「なぜジグソー法を取り入れるのか」という問いがあるはずです。そして,その問いに対しては,「学生の主体的な学習を促して成長を支援したい」という目的があるのではないでしょうか。「どうやってするのか」だけでは,そもそもの目的を軽視してしまうおそれがあります。
原理というものは,現場の実践と距離があるようにみえます。また,原理が教員のおかれたさまざまな教育の状況に対して直接的な即効薬の役割を果たすこともないようにみえます。しかし,直面する現象の意味を考えたり,その背後にどのようなメカニズムがあるのかを考えたり,さまざまな現象を整理したり,自分自身の教育に対する信念を考えたりすることに役立つでしょう。原理は教員が効果的に学ぶためには欠かせないものといえます。
本書は,教育活動をよりよくしたいと考える教員に向けて,教育を実践するために重要となる理論や枠組みなどの原理を提供するものです。教育とはどのような活動なのか,学習とはどのような活動なのか,教員とはどのような職業なのか,組織的な教育とはどのようなものなのかを理解することを目的としています。
本書では,できるだけ実践と結びつきやすく,そしてわかりやすく執筆するように心がけました。ぜひ読者の皆さまも,自分の実践での課題と結びつけて読んでいただければと思います。本書を読んだ後に,教育と学習の原理の意義を理解していただける教員が増えることを期待しています。
なお,法令によって在籍している者を,大学と短期大学では学生,専修学校と各種学校では生徒と呼びますが,本書では学生という用語で統一して使用します。また,職員という用語は,法令によって教員を含めて用いられる場合もありますが,本書では教員を含まない用語として使用します。教員を含む場合には,教職員という用語を使用します。さらに,一般的に保健師,助産師,看護師を含めて看護職者と呼びますが,本書ではそれらを看護師という用語で包括的に使用します。
本書の内容の大部分は書き下ろしたものです。しかし,7章の「教育における倫理」のみは,中井俊樹(2019)「大学教員の教育活動における倫理とは」(『教育学術新聞』令和元年5月22日号)を看護教育の文脈にあわせて加筆修正しています。
本書の刊行にあたり,多くの方々からご協力をいただきました。阿形奈津子氏(京都中央看護保健大学校),上月翔太氏(愛媛大学),小林忠資氏(岡山理科大学),近藤麻理氏(関西医科大学),高橋平徳氏(愛媛大学),富田英司氏(愛媛大学),豊田久美子氏(京都看護大学),中島英博氏(名古屋大学),服部律子氏(奈良学園大学),福田栄江氏(松山看護専門学校),松原定雄氏(前都立北多摩看護専門学校),水方智子氏(パナソニック健康保険組合立松下看護専門学校),森真喜子氏(国立看護大学校),横山千津子氏(松山看護専門学校)には,本書の草稿段階において貴重なアドバイスや各種資料を提供していただきました。また,佐藤小菜氏(愛媛大学),片山由紀子氏(愛媛大学)には,資料の作成や書式の統一などにご協力いただきました。そして,医学書院の藤居尚子氏,木下和治氏,大野学氏には,本書の企画のきっかけをいただき,長期にわたって本シリーズに対して多岐にわたる有益なアドバイスを伺うことができました。この場をお借りして,ご協力くださった皆さまに御礼申し上げます。
2020年5月
編者 中井俊樹・森千鶴
目次
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はじめに
本書の構成と使い方
第1部 教育と学習の基礎
1章 教育の本質と意義
1 教育の世界にようこそ
1 大きな意義のある活動である
2 教育の重要性は社会に共有されている
3 多くの人が教えるという経験をもつ
4 教員として教育する
2 教育とは何か
1 教育は人間に固有の活動である
2 教育者と学習者の相互作用である
3 学習は学習者の主体的な活動である
4 教育には学習の動機づけが含まれる
5 教育は次世代に文化を継承する
3 教育の目的とは何か
1 何のために学ぶのか
2 人間形成を目指す
3 職業生活を準備する
4 学問の方法を身につける
2章 学習の原理
1 学習とは何か
1 学習の特徴を理解する
2 さまざまな立場から学習をとらえる
2 知識習得のメカニズムを理解する
1 知識の種類を理解する
2 記憶のメカニズムを理解する
3 学習にはリハーサルが必要
4 学習は既有知識に影響される
3 熟達化のプロセスを理解する
1 熟達化とは何か
2 熟達者の特徴を理解する
3 熟達化の段階を理解する
4 熟達者のモデルを理解する
5 熟達化に向けて学習する
6 自分自身で学習を進める
3章 学習意欲の原理
1 学生の学習意欲を理解する
1 意欲は学習を推進する
2 学習意欲は伝染する
3 教員の期待は学習意欲や学習成果に影響を与える
2 外発的動機づけと内発的動機づけを理解する
1 報酬と罰は意欲を高める
2 興味関心や向上心は意欲を高める
3 活動自体に没頭する状況がある
4 外発的動機づけに注意する
5 外発的動機づけを内発的動機づけに変える
3 学習者の期待と自己効力感を理解する
1 結果期待と効力期待
2 自己効力感と学習性無力感
3 学習者の自己効力感を高める
4 適切な目標は学習意欲を高める
4章 学生の発達の理論
1 発達の一般的な特徴を理解する
1 発達の視点から学生を理解する
2 さまざまな領域で発達する
3 発達の時期や速度には個人差がある
4 さまざまな時期に発達のピークを迎える
5 発達には段階と課題がある
2 学生の発達段階と発達課題を理解する
1 成人への移行期にある
2 学生は多くの発達課題に直面する
3 自分とは何者かを知る
4 他者との関係を見直す
5 物事をとらえる視点が変わる
3 将来を見通す力を発達させる
1 キャリアには多様な意味がある
2 人生におけるさまざまな役割が影響する
3 キャリアは周囲との関係で構成される
第2部 教員の特徴と姿勢
5章 教員の職業上の特徴
1 職業としての教員の特徴を理解する
1 教育活動が基本的な役割となる
2 教育活動にも多様な役割が期待される
3 業務範囲や責任は広がりうる
2 専門職としての特徴を理解する
1 教員の資格要件を理解する
2 教員には4つの学識が求められる
3 所属組織以外にも帰属意識をもつ
4 活動に対する大きな裁量をもつ
5 省察的実践家として振る舞う
3 教員の組織と文化を理解する
1 学問の自由が重視される
2 互いの平等を基本としている
3 教員の身分保障を理解する
4 教員としてのキャリアを形成する
1 専門性を高める機会を活用する
2 自分のキャリアを振り返る
3 組織の目標と自己実現を見据える
6章 教育観の形成と類型
1 教育観とその特徴を理解する
1 教育観は教育活動に反映される
2 教育観と看護観に共通する人間観
3 社会や組織にも教育観がある
2 さまざまな側面から教育観を理解する
1 対立する伝統的な教育観
2 学生はどのような存在か
3 教員はどのような存在か
4 教育方法はどうあるべきか
5 学生集団をどのように導くか
3 自分の教育観を洗練させる
1 ロールモデルの教員から考える
2 ほかの教員と教育について議論する
3 教育観を文章化する
4 教育観と実践の整合性を考える
7章 教育における倫理
1 教育における倫理とは
1 教員には高い倫理観が求められる
2 法律や指針に沿って行動する
3 教員自身の倫理観を高める
2 教員に倫理観が必要な理由を理解する
1 学生に対して大きな力をもつ
2 倫理に反する行為は隠蔽されやすい
3 倫理的な教育の論点を理解する
1 学生の学習に対する責任を果たす
2 学生の人格を尊重する
3 必要のない苦痛は与えない
4 多様な学生の存在を理解する
5 公平な成績評価を行う
6 学生の個人情報を保護する
7 実習の協力者に配慮する
8 倫理的な行為の重要性を学生に伝える
第3部 組織的な教育の体制
8章 教育の制度
1 教育は制度に基づいている
1 教育が制度化された背景
2 看護師養成の制度化
3 制度が教育活動の枠組みをつくる
2 教育制度にかかわる法令を理解する
1 教育行政は法令に基づいて行われる
2 法令には体系と原則がある
3 教育にかかわる主要な法令
4 看護教育にかかわる主要な法令
5 法令の制定に影響を与える審議会
3 学校制度を理解する
1 学校体系を理解する
2 看護教育機関の種類を理解する
4 教育機関の運営にかかわる制度を理解する
1 設置認可制度
2 教育を支える財務の制度
3 教育の質を保証する制度
9章 カリキュラム
1 カリキュラムとは何かを理解する
1 すべての教員が理解すべきカリキュラム
2 カリキュラムの定義と範囲を理解する
2 意図したカリキュラムを確認する
1 看護師を取り巻く社会的環境を理解する
2 看護師に求められる能力を理解する
3 カリキュラム編成の基準を確認する
3 カリキュラムを編成する
1 育成する人材像を明確にする
2 カリキュラムの類型を確認する
3 看護教育の授業形態を理解する
4 スコープとシーケンスを設定する
5 カリキュラムをみえる化する
4 カリキュラムを評価し改善する
1 学習者が何を学んだかを評価する
2 隠れたカリキュラムを意識する
3 カリキュラムの改善につなげる
10章 学生支援の方法
1 学生支援を理解する
1 学生支援は教育の一環である
2 組織的に連携して学生支援を行う
2 学生の学習を支援する
1 学習支援を理解する
2 学習支援の場をつくる
3 さまざまな立場の人と支援する
4 授業と学習支援を連携する
3 さまざまなリスクから学生を守る
1 学生にはトラブルやリスクが多い
2 学生の様子に関心をもつ
3 学生生活に必要な知識を伝える
4 ハラスメントから学生を守る
4 学生のキャリアを支援する
1 組織的なキャリア支援
2 自己や職務を知るための枠組みを伝える
3 学生のキャリアに対する視野を広げる
11章 教育改善の方法
1 教育改善の特徴を理解する
1 教育の質を保証する
2 授業改善と組織的な教育改善
3 着実に改善を進める
2 個々の授業改善を支援する
1 教育機関が授業改善の機会を提供する
2 授業改善に対する支援方法
3 授業改善の機会を制度化する
3 組織的な教育改善を推進する
1 組織的な教育には目標と指針が必要である
2 教育目標を定期的に見直す
3 教育活動の評価の仕組みをつくる
4 評価を組織的な教育改善につなげる
4 教育の質を高める体制を構築する
1 教育の質を高める制度を整える
2 個々の教員の教育活動を評価する
3 学外との連携と協働を進める
4 教育改善に前向きな組織文化を構築する
付録 教育に役立つ資料
1 日本の学校系統図
2 指定規則が定める教育内容の変遷
3 教育機関の年間スケジュールの例
4 用語集
文献
執筆者プロフィール
索引
書評
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書評者: 中山 富子 (帝京平成大教授・看護学/看護学科学科長)
本書は,看護教員をはじめとする看護教育に携わる人々に向けた看護教育実践シリーズ全5巻の1巻です。本シリーズは2017年に第3巻「授業方法の基礎」,2018年に第2巻「授業設計と教育評価」,第4巻「アクティブラーニングの活用」,2019年に第5巻「体験学習の展開」が既刊されており,待望の第1巻刊行です。
本書は,教育や学習にかかわる理論や枠組みなどの原理について書かれており,3部と付録から構成されています。第1部「教育と学習の基礎」では,教育とはどのような活動なのか,教育の目的は何か,学習とは何か,どのようなときに学習は促され,何によって学習意欲は高まるのか,学生はどのように発達するのかについて書かれています。第2部「教員の特徴と姿勢」では,教員はどのような特性を持った職業なのか,教員の教育活動を支える教育観とは何か,教育における倫理とは何かが書かれています。第3部「組織的な教育の体制」では,教育にかかわる制度の仕組み,カリキュラムとは何か,カリキュラムをどのように編成し評価するか,学生支援をどのように実践するか,組織的な教育改善をどのように進めるかについて書かれています。そして付録は「教育に役立つ資料」として,指定規則における教育内容の変遷,専門学校と大学の年間スケジュール例が示されており,本文中で取り上げた用語の解説も成されています。
評者が本書をお薦めする理由を2点紹介します。
1つ目は,教育や学習の原理という一見堅苦しくて,1ページ読み終わらないうちに夢の世界へ迷い込んでしまいそうな理論や枠組みが,まるでエッセイや小説でも読んでいるかのようにスイスイと読み進め,しかもわかりやすいという点です。なぜ,そう感じたかというと,文章が平易に書かれている上に,随所に読者の理解を助ける効果的なイラストや執筆者の教育体験談のコラムがちりばめられているからと思われます。看護教員のみならず,臨床現場の看護管理者や教育担当者の中で教育学の基礎的な本を1冊読んでみたいと思っている方々にも,ぜひ手に取っていただきたい書です。
もう1つは,編集の中井俊樹先生が看護教育にかかわる重要な内容の「実用書であり」「事典でもある」と述べられていますが,そのとおりと感じられる点です。評者の長年の教育実践で経験的に行ってきたことが,教育学としてどのような意味を持っていたかがわかり,読者の実践と理論とを結び付けてくれるのです。例えば,授業や実習指導において,評者がいつも心がけていた既習知識と関連付けて教えるというのは「精緻化リハーサル」というのだそうです。
執筆者の多くは看護職ではなく,教育を専門とする方々なのですが,看護学,看護教育についてご理解をいただいた上で書かれており,看護教育に携わる看護職への応援団からの贈り物と感じる1冊です。
教員の使命をあらためて深く自覚する
評者:山田 かおる(勤医会東葛看護専門学校 副校長)
「どうしたら学生が主体的に学ぶのか」「学生が意欲的に学べる授業がしたい」そんな悩み・願いをもちながら、教育実践をしている看護教員が多いのではないかと思う。本書は、そんな教員の教育実践を応援する書籍だ。
本書は3部構成であり、第1部「教育と学習の基礎」では、教育とは何かという教育の本質が述べられている。看護教員の役割を知り、そして学習者がどのように学び、熟達していくのかを理解することができる。第2部「教員の特徴と姿勢」の内容は、看護教員の特徴、教員に求められる学識や倫理などである。教員は自身の教育観を発展させ、高い倫理観が求められることに気づかされる。第3部「組織的な教育の体制」では、教育制度の基礎知識、カリキュラム編成と評価、さらに教育改善について述べている。
本書の第1部に、学習者にとって学ぶとは何か、そして学生はどのように意欲を高めていくのかが書かれている。これは教員にとっては最も関心がある内容だと思う。私は1人の看護学生(Aさん)のことを思いながら、本書を読み進めた。
Aさんが出会った患者(Bさん)は、重症感染症による心不全の悪化で呼吸苦が続いていた。受け持ち2日目にBさんは「安楽死させてほしい」とつぶやいた。実習後、Aさんは「私にはBさんの言葉が“助けて”という叫びに聞こえました。それまでは患者さんの内面にまで入り込んで看護することが苦手で、客観的にしか患者さんをみることができずにいました。しかしBさんを受け持ち、死の恐怖を感じながらも“生きたい”と願うその思いに心動かされました。はじめて、患者さんの苦しみが自分の痛みになり、患者さんの回復が自分の喜びになっていきました」と振り返った。
学生の変わり目(成長の瞬間)に出会えたとき、私たち教員は何ものにも代えられない喜びややりがいを感じる。Aさんの成長のカギは何だったのか。本書のなかに答えはあった。看護学生にとって患者さんとの出会いは学びへの内発的動機になっていたのだ。荒い呼吸のなか、背中をさするAさんに感謝を述べるBさんの言葉で、いままで自分の看護に自信がもてなかった学生が、この患者さんのために力を尽くしたいと突き動かされ、自己効力感の高まりが、夢中になって学ぶように行動変容させていく。私は、本書に書かれた「看護教育を通して人格を完成させる使命がある」ことをあらためて深く自覚させられた。
ベテラン教員は教育実践を振り返って学ぶために、若手教員は教育と学習の原理を理解するために、そしてカリキュラム責任者は自校のカリキュラムを評価し改定に活用するために。ぜひ、多くの看護教員に読んでほしい1冊である。
(『看護教育』2020年12月号掲載)