医学界新聞

対談・座談会 松本 珠実,岡部 陽子,岩﨑 理佳

2025.11.11 医学界新聞:第3579号より

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 高齢化が進行し社会保障制度の持続性が危ぶまれる今,地域全体での健康・療養支援体制の強化がますます急務となっている。その実現には地域を俯瞰する自治体保健師と現場に密着する看護師のそれぞれの強みを生かした協働こそが鍵となる。しかし多くの自治体では,両者の連携や情報共有の仕組みが十分に機能しておらず,特に治療中断者や社会的リスクを抱える人々への介入に課題があるとされる。本座談会では,佐賀県,富山県における好事例を手がかりに,保健師と看護師の連携を全国に広げていく可能性について議論した。

松本 2040年以降,高齢者人口がピークアウトするといわれており,労働力不足や社会保障費の急増,インフラの老朽化,そして自治体の機能低下が懸念されています。保健・医療・介護・福祉を巡っては,単身高齢者の増加など人口・世帯構成の変化による医療資源の不足という課題もあります。社会保障制度の持続性を担保しつつ,健康増進,疾病予防,重症化予防を実現するために,厚生労働省が主導する健康日本21(第三次)1)では,誰一人取り残さない健康づくりの展開において,保健・医療・介護・福祉の連携した取り組みを期待しています。

 このような状況を踏まえ,日本看護協会は2024年11月に「自治体保健師と地域の看護職の連携・協働による地域全体の健康・療養支援と仕組みづくり」を公開しました2)。同冊子では,2040年を見据えて地域全体で健康支援を進めていくために看護活動をどう強化するべきかを示しています。支援を必要とする人が制度やサービスの狭間に取り残されてしまうことがないよう,医療から介護,福祉,地域支援へと切れ目なくつながる仕組みづくりは不可欠です。地域の人々に対する連続性のある支援をめざす中で,同冊子が幅広い分野で活躍する看護職それぞれの強みを生かして連携し,生涯にわたって地域の人々の健康を支援する仕組みづくりの実現に向けた一助となればと考えています。

 本日は自治体保健師と地域の看護師の連携・協働に積極的に取り組まれている佐賀県,富山県での事例をご紹介していただき,連携・協働を全国で広めていくために何が必要かを話し合えればと思います。

岩﨑 もともと佐賀県は新規人工透析患者の増加率が全国で最も高いという不名誉な状況にありました。人工透析は患者一人当たりの医療費も高く,住民の健康推進に加えて財政的観点からも,原因となる糖尿病への対策が急務でした。そこで2012年から「佐賀県ストップ糖尿病対策事業」が開始され,当時県内には糖尿病専門医が少なかったことから,事業の一環としてかかりつけ病院と基幹病院,自治体保健師らの橋渡し役を担う糖尿病コーディネート看護師()の育成が始まりました。

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図 糖尿病コーディネート看護師の役割
基幹病院とかかりつけ医療機関の間での患者の紹介を担っており,紹介先へ治療内容や療養支援の状況などの情報提供も行う。かかりつけ医療機関に向けて,糖尿病コーディネート看護師がフットケア,インスリン調整をテーマとしたスタッフ向け学習会や症例検討会を開き,技術支援・情報提供を行っている。

 現在は県内7つの基幹病院を拠点に糖尿病コーディネート看護師が活動しています。事業開始当初は基幹病院の看護師や医師,かかりつけ医療機関の医師との間での症例検討や情報共有が主でしたが,活動が広域になるにつれて市町村の保健師とも連携をとるようになりました。特に糖尿病患者は特定健診でスクリーニングできることから,医療機関または特定健診受診の有無でグループ分けを行い,糖尿病重症化予防に向けた対応について保健師,医師等で役割分担して地域住民のフォローアップを行っています()。

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表 糖尿病重症化予防に向けた介入のための役割分担

岡部 自治体保健師とうまく連携しながら地域に根付いた活動をされていることがよく理解できました。一方でこのような新しい仕組みを導入する際,地域の医療機関からの理解を得るのは難しかったのではないでしょうか。

岩﨑 活動開始当初は糖尿病コーディネート看護師の具体的な役割が十分に周知されていなかったため,地域の医療機関から「何をしに来たんだ」と門前払いされることもありました。そのため取り組みを先導していた安西慶三教授(前・佐賀大学糖尿病内科)が基幹病院のトップマネジャーや院長に活動の趣旨を伝達したり,定期訪問をしたりして,糖尿病コーディネート看護師の意義を浸透させていきました。取り組みを始めてから約10年がたち,かなり定着してきたように感じます。

松本 この糖尿病コーディネート看護師の育成・支援事業は2024年の国際看護師協会で顕著な健康成果が得られた事例として取り上げられていました。具体的な事業の成果を教えていただきたいです。

岩﨑 コーディネート看護師の育成を含めストップ糖尿病対策事業に約10年取り組んだ結果,糖尿病の重症化による新規人工透析導入患者は150人(2012年)から95人(2021年)に減少しました3)。特定健診の受診率も全国平均と比べて高いことから県民の健康維持への意識の高まりを感じます4)

松本 大きな成果ですね。一方で糖尿病コーディネート看護師育成事業は県から委託を受けた活動と聞きました。10年以上続けてこられたのは活動費の支援があったことが要因として大きいのでしょうか。

岩﨑 そうですね。開始当初は県からの委託金で賄われていました。現在も県からいくらかの費用を支援していただいていますが,病院の持ち出しになる部分もあるのが現状です。

松本 財源に関しては連携構築・維持におけるボトルネックになるのは否めませんね。病院のバックアップと,地域に貢献するという看護職の強い意志があってこそ実現できている事例だと感じました。

岩﨑 当院自体が地域への貢献を指針の一つとして掲げていますので,地域全体の健康意識の底上げに尽力していかなくてはと考えています。10年かけて多少なりとも結果が出ており,今後はより長いスパンで取り組みの成果を出していきたいです。

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岡部 富山県新川圏域における地域包括ケアシステムに関連する取り組み,特に在宅医療・介護連携に係る保健所の支援についてお話しします。県型保健所である新川厚生センターは2市2町を管轄し,人口は約10万8000人,高齢化率は36.8%と高い地域です。私の所属する企画調整班は在宅医療・介護連携,がんの在宅療養支援,介護関係者支援に関する事業を担当しています。県庁の担当課,厚生センター,市町村の間で,情報共有・連携の上,圏域全体の在宅医療の推進支援に取り組んでいます。中でも病院・ケアマネジャー協議会・行政間での課題共有,連携に向けた意見交換を目的として,2017年から年に1回「管内看護管理者等連絡会」(以下,連絡会)を開催しています(写真)。さらに,年度初めに3か所の公的病院看護部長のもとへ当センター統括保健師と共に訪問し,事業の説明や病院の看護職と地域の保健活動の連携方策を相談しています。これは,連絡会開催後の意見や感想などを伺ったり,在宅患者を支援する地域の課題や看護職間の連携の必要性について再確認したりできる貴重な機会となっています。

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写真 管内看護管理者等連絡会の様子
管内全ての病院の看護部長や,地域連携室の看護師長,ケアマネジャー協議会代表,地域包括支援センターの保健師などが集まり,入退院支援に関する現状や課題のほか,さまざまなデータを共有する。相互の役割の理解や,各施設の創意工夫でできる対応策などを考える機会となる。

松本 単に会議だけで済ませず,実際に病院に出向いて看護部長と話をして,理解度や課題点を丁寧に確認し,調整に入ることが重要なポイントのように感じます。取り組みの成果は現れてきていますか。

岡部 県のリハビリテーション支援センターが毎年行う調査によると,ケアマネジャーから病院への入院時情報提供率は,2014年の44.9%から2024年には74.4%まで上昇し,退院時情報提供率は65%(2014年)から92.7%(2024年)へと高まりました。この数字から見るに,高齢者の病院から住み慣れた暮らしの場への円滑な移行につながっていると考えられます。また,以前より顔の見える関係となったことで地域と病院の連携が強化されている印象も受けています。

松本 連絡会の場が,現状把握と相互の役割理解を深める機会になっているということですね。

岡部 はい。今までの取り組みを通して私の考える自治体保健師と病院の看護管理者の連携ポイントは主に2つです。1つ目は,地域の課題の明確化と保健活動の目的の共有です。まず保健師が関係機関や市町村の活動状況や困り事について情報収集します。そこで見つかった課題の解決に向けて,連絡会のような協議の場でめざすべき方向性をすり合わせ,具体的な連携協働の方策を相談していきます。

 2つ目は,仕組みの構築に向けた具体的な事業の実行です。連絡会を開催して,各事業の課題・成果を看護部長にフィードバックし,関係機関と連携・協働を意識した施策につなげていくことを心がけています。これらの過程を継続していくには,病院であれば看護部長や施設長のような管理者と共通認識を図ることが大切であり,保健所長と協働した保健師の地域への働きかけが重要だと思っています。

松本 富山県の事例を伺い,おのおのの課題を共有するプロセスの重要性を改めて感じました。自治体保健師が地域の実情を把握し,関係機関と協働しながらマネジメントの役割を果たしている点が大きな特徴ですね。

岩﨑 佐賀県でも施設の代表者会議は佐賀県看護協会主催で行われていましたが,病院間の仲を深める間もなく終わっている状態でした。2016年の熊本地震をきっかけに唐津管内の主要病院と独自の連絡網を構築し,コロナ禍ではそのつながりを生かして相談を受けたり,地域の病院や高齢者施設のサポートのために保健所と協働したりして,当院の感染管理認定看護師を派遣することができました。この経験からも保健所が中心になって,管理者同士がつながる場があるのは,理想的だと感じます。

松本 どちらも素晴らしい取り組みでしたが,なかなかここまで連携が進む地域は少ないと思います。私は今回の2つの事例から,成果が可視化されている点が活動を定着させるためのキーポイントに感じました。現場のモチベーションの向上につながりますし,活動の重要性を地域の医療機関に訴えていくに当たってのエビデンスにもなると思います。連携の波を全国にも広げていく上で,課題はどこにあると二人はお考えですか。

岩﨑 地域の医療職や保健師で連携の話を進めても,診療報酬に基づく活動ではなく,各病院の施設長や院長の協力承諾が得られない中で活動している部分もあることから,その場だけのつながりになりがちで,継続的な連携を実現するハードルが高いままです。糖尿病コーディネート看護師に関しても,10年がたった今やっと成果が見えてきており,継続することの重要性を感じています。行政が地域としての方針や連携の意義を明確に発信し,医療機関同士をつなぐ役割を担っていただけると,スムーズに連携が進むのではと思います。実際に佐賀県ではケアマネジャーからは垣根が高いと言われていた各病院との連携ですが,行政の働きかけにより現在は「顔の見える関係」ができています。

岡部 地域包括ケアシステムの構築に取り組む中で感じるのは,やはり地域ごとに実情や課題が異なり,画一的なモデルを当てはめるのは難しいということです。各地域にはすでにさまざまな既存事業や強みがありますので,それらを生かしながら,地域に合った形で連携を進めることが大切だと思います。特に自治体の保健師は,病気になる前の段階での健康増進・予防,疾病の早期発見の役割を担っており,関係機関や住民をつなぎ地域における健康療養支援システムを構築することが求められています。地域の健康課題に関する公表データに加えて住民の声など質的な情報も組み合わせながら地域の課題を見いだし,対応策を考えていくことも必要です。その上で保健活動の目的を看護職を含めた多職種と共有しつつ連携を進めていくことが,全国的な広がりにつながる第一歩になると感じています。

岩﨑 保健師が中心となり地域での連携を構築することに加え,病院の管理者の一人である看護管理者という立場で大きく地域を見る目線を持つことも大事だと常日頃感じています。他地域の取り組みを知る機会はなかなかないので,今回富山県の話を聞かせていただいて,自分の地域でもできることがもっとあるのではと考え直すきっかけになりました。複数の医療機関がひとつとなって,地域の多くの患者さんを診ていく体制をめざしていければと考えています。

松本 上の立場の人も含め,おのおのが地域で連続性をもって一人の患者さんを診るために,どこの連携を強化すれば地域全体の仕組みが完成するのかを,一歩進めて考えていかないといけません。それが今の看護職に求められています。患者さん一人ひとりを全人的に診るという視点は職種問わず共通ですので,その基軸を持ったまま,地域の中の看護職が多職種連携を通じてつながることによって,初めて地域の人を支えられるのではないでしょうか。日本看護協会としても,地域における保健師・看護師連携を支援していきたいと思っています。

(了)


1)厚生労働省.健康日本21(第三次).2024.
2)日本看護協会.自治体保健師と地域の看護職の連携・協働による地域全体の健康・療養支援と仕組みづくり.2024.
3)永渕美樹,他.佐賀県糖尿病コーディネート看護師の育成と活動の実際.日糖尿教看会誌.2024;28(2):85-91.
4)国民健康保険中央会.市町村国保特定健診・保健指導実施状況(令和5年度速報値).2025.

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日本看護協会 常任理事

1987年大阪市淀川保健所に入職。93年大阪市立厚生女学院(当時)専任教員,2015年国立保健医療科学院生涯健康研究部上席主任研究官を経て,23年より大阪市健康局保健指導担当部長。24年より現職。日本看護協会保健師職能委員会委員長として,保健師職能の発展と行政保健活動の推進に努める。

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富山県新川厚生センター 企画管理課企画調整班長

1995年富山県に入職。県型保健所や本庁の特定健診・国民健康保険の所管課に勤務し,2023年より現職。医療連携や医療・介護連携,市町村保健師活動支援に関する業務を担当する。20年には富山県看護協会上市支部長を務めた。

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済生会唐津病院 看護部長

1986年看護専門学校を卒業後,豪QLD州立グリフィス大にて看護学士取得。外科病棟看護課長,医療安全管理者などを経て2011年に認定看護管理者,13年4月より現職。基幹病院の唐津赤十字病院や市町村の保健師などとカンファレンスを実施し,唐津地区の糖尿病治療の底上げに取り組むなど地域連携の推進に尽力している。2025年6月まで佐賀県看護協会にて職能理事。

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