ワーク・ライフ・バランス(1)(ゴードン・ノエル,大滝純司,松村真司)
連載
2011.04.04
ノエル先生と考える日本の医学教育
【第13回】 ワーク・ライフ・バランス(1)
ゴードン・ノエル(オレゴン健康科学大学 内科教授)
大滝純司(東京医科大学 医学教育学講座教授) 松村真司(松村医院院長) |
(2878号よりつづく)
わが国の医学教育は大きな転換期を迎えています。医療安全への関心が高まり,プライマリ・ケアを主体とした教育に注目が集まる一方で,よりよい医療に向けて試行錯誤が続いている状況です。
本連載では,各国の医学教育に造詣が深く,また日本の医学教育のさまざまな問題について関心を持たれているゴードン・ノエル先生と,マクロの問題からミクロの問題まで,医学教育にまつわるさまざまな課題を取り上げていきます。
本連載ではこれまで,日本で特に議論になることが多いテーマを中心に意見交換をしてきました。
「米国における医師数と配置の統制」(第2回・第3回)では,専門医数の偏在や医師不足といった問題と医学教育のかかわりを取り上げました。また「専門職者としての自己統制に基づく欧米の医学教育」(第4-7回)では,各分野における臨床能力をどのように担保していくか,また研修プログラムは誰が管理すべきか,といった点に着目して論じ合いました。そして日本でも注目が集まり始めた「女性医師の問題」(第9-12回)については,米国の例を踏まえて女性医師のキャリアを考えてきました。
これらは,日本の医療界だけが直面している問題ではありません。世界各国の取り組みを見比べると,うまくいっている例もあれば,そうでもないものもあります。なかなか正解と呼べる活動が見いだせない難しい問題ですので,よく考えていかなければなりません。
今回からのシリーズ「ワーク・ライフ・バランス」では,医師自身の生活の質向上のために,世界でいま起こり始めていることについて話し合っていきたいと思います。
* * *
ノエル 私たちはこれまで,医師の振り分け(地域,診療科など)という課題に対する日本の解決法と他の国のシステムとを比較し,また国と医師らによって卒前教育修了時の学生の基準がどのように設定されているかについて議論してきました。日本が他国で行われている方法を取り入れたとしたら,医学教育や医療の質はどのように改善がみられるか,という点についても探ってきました。
現在,カナダやオーストラリアを含め欧米諸国では,医学部卒業生に占める女性の割合は約半数になっています。そこでは,医師の生活の質の向上がいっそう求められるようになり,「ワーク・ライフ・バランス」が重要な課題となってきています。これは,今後日本でも避けて通ることができない問題ですが,まず日本の医師の労働環境に焦点を当てて議論を始めたいと思います。
医師の労働環境を振り返る
松村 これまで日本では,医師の労働環境はほとんど議論されていませんでした。現在,ようやく話題になり始めたところです。「家庭を犠牲にして医師という仕事に人生のすべてを捧げる」という考えの医師も多いのが事実ですが,それが健康を守る仕事である医師にとって本当に望ましい姿なのか,前回の女性医師の問題を議論するうちに,私自身考えさせられるようになってきました。
医師は総じて働きすぎているように思います。ただ,それは日本の社会全体にも当てはまります。かつて「エコノミック・アニマル」と称されたように...
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