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[第9回]出典を明記しても他者の文章・図を使えない場合があるのですか?
研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A
連載 小林只
2025.10.03
Q.出典を明記しても他者の文章・図を使えない場合があるのですか?
A. はい,単に出典を明記するだけでは不十分です。著作権法上の「引用」は,主従関係が明確〔自身のオリジナルの文章が主であり,引用先の情報が従(参考)であること〕,引用部分を改変しない,など5つのルールを全て満たす必要があり,主に文章が対象です。ルールを満たせない利用や,図・イラストの利用は「転載」となり,著作権者の許諾が必須です。「出典記載=引用OK」という誤解はトラブルの元。この二つの違いを正しく理解し,ルールを守ることが重要です。
これまでの連載で著作権の基本ルールやライセンスについて学んできました。今回は,特に学術論文やレポート,ブログ記事などを作成する際に誰もが直面する「引用」と「転載」というテーマを深掘りします。
「出典を明記すれば他人の文章や図を使っても大丈夫」と多くの方が考えているかもしれません。しかし本記事の最も重要な結論を先に述べると,「出典を記載することは著作権法上の『引用』ではない!」ということです。著作権法には,権利者の許諾なしに著作物を利用できる例外規定として引用が認められていますが,非常に厳格なルールが存在します。ルールから外れた利用は,たとえ出典を書いていても無断での転載となり,著作権侵害に当たる可能性があります(第7回を参照)。
今回は,引用と転載の違いを明確にし,トラブルを避けるための正しい知識を身につけましょう。
引用が成立するための大前提
著作権法第32条1項では,「公表された著作物は,引用して利用することができる」と定められています。
【大前提】引用される著作物は「公表済み」であること
未公表の著作物を公表するかどうかは,著作者に決める権利(著作者人格権の1つ)があります。そのため引用の対象は,すでに適法に「公表された」著作物でなければなりません。公表されていない著作物を,第三者が勝手に公表する行為は,研究不正上の盗用(第三者の名前で公表する行為)や,著作者人格権の侵害(罰則詳細は第5回記事)に該当します。
引用が成立するための5つの厳格なルール
より具体的な「引用の方法」については,上記32条1項に続けて「その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」という重要な条件が付けられています。
この法律の条文と過去の判例から,適法な引用と認められるには以下の5つのルールを全て満たす必要があると解釈されています。1つでも欠ければ,それは引用とは認められません。
① 主従関係が明確であること
引用を成立させる上で最も重要なルールです。自分の著作物(文章や論説)が「主」,引用する部分が「従」という関係性が,分量的にも内容的にも明確でなければなりません。
分量的な主従関係:全体の文章量に対して,引用部分がごく一部である必要があります。引用部分の合計が自分で書いたオリジナルの文章よりも多くなる場合は主従関係が逆転していると判断され,引用とは認められません。
内容的な主従関係:自分のオリジナルの文章が議論の中心であり,引用部分はあくまで自説を補強したり,解説したりするための補足的な役割に留まっている必要があります。引用部分がないと文章全体の意味が成り立たないような場合は引用が「主」となってしまっており,適法な引用とは言えません。
② 引用部分が明確に区別されていること(区別性)
「ここからここまでが他者の著作物です」ということを読者に明確に伝えなければなりません。すなわち自分の文章と引用した部分が誰の目にもはっきりと区別できるように表示されている必要があります。そのために,一般的には以下のような方法が用いられます。
●引用部分を「」(かぎ括弧)でくくる
●引用部分のブロック全体を字下げ(インデント)する
●引用部分の前後を一行空ける
●引用部分のフォントを変えたり,斜体にしたりする
③ 出所の明示がされていること
著作権法第48条で定められている義務です。引用した部分の出典(著者名,作品名,書籍名,出版社,URL,発表年など)を,社会的な慣行に従った適切な形式で記載する必要があります。学術論文であれば定められた引用スタイルに従い,Webサイトであればリンクを貼るなどの対応が求められます。重要なのは,記事の最後に参考文献としてまとめて記載するだけでは不十分な場合があるということです。どの部分がどの文献からの引用なのか,読者が容易に照合できるよう示すことが望ましいとされています。
④...
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小林 只(こばやし・ただし)氏 株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士
2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。
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