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『麻酔科研修の歩き方――研修医目線のストーリーで学ぶ頻出ケースとその対応』より

連載 杉山 大介

2026.07.09

初期研修医が麻酔科研修で直面する現場のリアルを、指導医らとの対話形式で再現した待望の新刊!

麻酔科研修の歩き方――研修医目線のストーリーで学ぶ頻出ケースとその対応』は、「その場で何を考え、どう動くか」を徹底的に具体化し、術前評価から麻酔導入、覚醒までを一連の流れとして捉え、次の一手を予測できる思考を養います。患者の安全を軸とした麻酔科の基本を身体に馴染ませ、現場で動ける自信が確実に身に付く一冊です。

「医学界新聞プラス」では、本書から「麻酔科の1日の流れ」「基本的な全身麻酔の流れ」の項目を抜粋し、4週にわたり公開をしていきます。

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基本的な全身麻酔の流れについて学ぼう
 当院の初期研修医の基本的な1 日の流れを時系列で並べていくと,表1 のようになる.
 麻酔科研修中は基本的にこの流れを毎日繰り返していくことになる.特に第1 週目は電子カルテとは別の手術室部門システムの操作,患者の全身状態の情報収集,物品や薬剤の準備などに慣れないため時間をとられ,朝からずっと続く緊張状態や短い昼休憩,何かとせっかちに感じる麻酔科医に面食らうことと思う.当院の初期研修医たちを見ていると,この一番最初の混乱状態からはおおむね3 日程度で脱して麻酔科医の生活リズムに適応し始めるように思える.また,第4 週目ぐらいからは覚醒状態に入り,「麻酔科研修楽しいです!」と言ってくれる研修医が認められるようになってくる.

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【表1】初期研修医の1 日の流れ
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[1] ASA のPS
 米国麻酔科学会(American Society of Anesthesiologists;ASA)による術前の身体状態(physical status;PS)の評価分類.術前に患者の健康状態を評価するためのシステムである(表2 3)

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【表2】ASA-PS 分類
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COPD(chronic obstructive pulmonary disease):慢性閉塞性肺疾患
BMI(body mass index):肥満指数
EF(ejection fraction):駆出率
TIA(transient ischemic attack):一過性脳虚血発作
DIC(disseminated intravascular coagulation):播種性血管内凝固

[2] 全身麻酔の3要素
 一般的に手術の全身麻酔には鎮静・鎮痛・筋弛緩という3 要素が必要で,麻酔科医は麻酔薬や麻酔の方法(硬膜外麻酔などの局所麻酔)などを組み合わせることにより達成する.さまざまな方法を組み合わせて3要素を達成する麻酔は「バランス麻酔」と呼ばれることもある.全身麻酔の導入・維持のフェーズでどのように3 要素を構成し,そして覚醒のフェーズでそれぞれの要素をどう解除するのかと考えると,麻酔科研修初期には全身麻酔を理解しやすくなるかもしれない.

[3] 麻酔科の症例カンファレンスでは詳細な現病歴より,詳細な術前の全身状態にフォーカスを当てよう
 麻酔科で担当してもらう患者のほとんどは,診断がついたうえで治療のための手術を受ける.そのため内科診断学で重要となる詳細な現病歴は,麻酔科の術前プレゼンテーションではそこまで重要ではない.相対的に患者の術前の全身状態のほうが重要度が高いため,限られた時間のなかで情報を伝えるカンファレンスでの発表は,必要最低限の病歴を簡潔に,そして麻酔を実施にあたり問題となる点を含む術前状態にフォーカスした発表をしてほしいと研修医にはお願いしている.

[4] 手術時の点滴はどこからとる?
 全身麻酔に際しての末梢静脈ライン確保は手背を第1 選択とし(図1),手背が難しければ前腕に確保を試みる.肘の正中静脈と橈側皮静脈は神経が近くを走行しており,神経損傷の可能性があるため極力穿刺しないようにする.点滴漏れなどがあっても麻酔中は患者自ら訴えることができないため,手背に確保した末梢静脈ラインは手術中も定期的に刺入部を観察できる利点もある.

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【図1】手背による末梢静脈ラインの確保

[5] 痛いのは1 回だけ?
 筆者は一緒に麻酔を行う当院の研修医には,末梢静脈ライン確保の前に30 G 針にて1%リドカインを用いて皮内浸潤麻酔を行うようにお願いしている.局所麻酔の注射自体痛みを伴うから意味がないという意見も耳にするが,穿刺が1 回で済まない可能性もあること(特に研修初期が行うときは),手術に際しての静脈ライン確保にはほとんどが20 G もしくは18 G の太い穿刺針を用いること,リドカインは血管拡張作用があるため静脈穿刺をしやすくなること,また,麻酔科医は患者から痛みをとる医者であって,痛みを与える行為は極力最小限にしたいという考えからである.

[6] マスク換気は気管挿管よりも大事!?
 「麻酔科研修では気管挿管などの手技をたくさんやらせてもらいたいです!」と研修開始時に公言する初期研修医は多い.ただ,ちょっと待ってほしい.「気管挿管よりマスク換気のほうがはるかに重要である」……このことに反論する麻酔科指導医はほとんどいないと思う.気管挿管ができなくてもマスク換気が上手にできれば患者の命が危険に陥ることは少ないけれども,気管挿管ができてもマスク換気ができなかったら患者は容易に気道の危険にさらされる.心肺機能停止(cardiopulmonary arrest;CPA)患者の蘇生の場面でも気管挿管が必須の手技でないのは承知済みのことだろう.麻酔科研修ではぜひ「マスク換気」にこだわってみてほしい.

[7] 術前診察での確認事項:翌日の患者情報をまとめ指導医に的確に相談する
 当院麻酔科では,患者の術前診察は手術決定後から手術日までの間に,オンライン診察も併用しながら専門医が行っている.その時点で重大な合併症の有無や,術前に中止が必要な薬の確認,麻酔実施に際して必要な追加検査などは完了している.
 研修医には,それらの情報に齟齬がないか,術前診察の時点から変化した点はないかの確認,実際に自分が麻酔を担当するに際し,気道確保のために必要な情報の確認,そして指導医と打ち合わせた最終的な麻酔方法の伝達を行ってもらっている(専門医が網羅的に一度確認は行っている).研修医も指導医も忙しいなかなので,要点をまとめて,簡潔で的確な相談を行えるようにしておいてもらいたい.
 病院によってシステムは異なるだろうが,当院の麻酔科では担当症例を手術日の3 日前までには割り当てるようにしている.珍しい合併症をもっている患者や特別な管理が必要な場合には,文献も含めて事前に調べられるような配慮を行っている.さらに,過去に報告がないような珍しい症例や,特別な介入を行った症例は,その後の国内外の学会で発表したうえで,ケースレポートとしてまとめることを勧めている.

[8] 指導医はタイミングを見計らって休憩時間を与えている
 指導医は複数の研修医を指導していることもあり,それぞれの部屋で麻酔の導入と覚醒のときに身動きがとれなくならないように,常に術中の経過に注意していることが多い.各部屋の患者の状態が落ち着いており,覚醒までも時間があるときを見計らって休憩を与えていることが多いことは頭のどこかで知っておいてもらいたい.ほかの部屋にも休憩を随時与えており,その順番やタイミングも見計らっていることを理解しておこう.

 

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まずは麻酔科研修の1日の時間の流れをつかもう.

研修中にわからないことを確認しないまま麻酔を行うと患者の命に直結する出来事が起こりやすい.わからないことは必ず指導医に確認しよう.最初の1週間はわからないことを質問できることが何より重要な仕事といえる.

最初は指導医の意図することがわからなくても,そこには意味や意図が隠されていることが多々あるのでまずは素直に従ってみよう.

カンファレンスにおいても,主眼を置く部分が他科とは異なる部分もあるので注意しよう.

麻酔科のカンファレンスでは,手術を受ける患者の全身状態の問題を把握し,ASA-PSで評価し発表する.

麻酔科研修中は,マスク換気の手技にとことんこだわってほしい.

 

参考文献

3) Statement on ASA Physical Status Classification System
https://www.asahq.org/standards-and-practice-parameters/statement-on-asa-physical-statusclassification- system?utm_source=chatgpt.com

 

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アイオワ大学麻酔科 准教授 / 亀田総合病院麻酔科

2004年群馬大医学部卒。初期臨床研修修了後,06年から信州大病院麻酔科蘇生科で専門研修を行いつつ同大にて博士課程修了。博士(医学)。14年米アイオワ大麻酔科への研究留学を経て,19年より亀田総合病院麻酔科部長を務める。25年より現職。著書に『麻酔科研修の歩き方――研修医目線のストーリーで学ぶ頻出ケースとその対応』(医学書院)。

X ID:@sugiyama5525

 

症例ベースで麻酔科研修を追体験。特有の「思考」と「時間軸」を攻略しよう。

初期研修医が麻酔科研修で直面する現場のリアルを、指導医らとの対話形式で再現した待望の新刊!
「その場で何を考え、どう動くか」を徹底的に具体化し、術前評価から麻酔導入、覚醒までを一連の流れとして捉え、次の一手を予測できる思考を養います。患者の安全を軸とした麻酔科の基本を身体に馴染ませ、現場で動ける自信が確実に身に付く一冊です。
 

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