麻酔科研修の歩き方
研修医目線のストーリーで学ぶ頻出ケースとその対応

もっと見る

初期研修医が麻酔科研修で直面する現場のリアルを、指導医らとの対話形式で再現した一冊。「その場で何を考え、どう動くか」を徹底的に具体化し、術前評価から麻酔導入、覚醒までを一連の流れとして捉え、次の一手を予測できる思考を養う。知識や技術の整理のみにとどまらず、紙上シミュレーションを通じ体験型の学びを発動する。患者の安全を軸とした麻酔科の基本を身体に馴染ませ、現場で動ける自信が確実に身に付く一冊。

編集 杉山 大介
発行 2026年05月判型:B5頁:336
ISBN 978-4-260-06215-2
定価 4,620円 (本体4,200円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次

開く

 手術室に入った瞬間の緊張感は誰にとっても特別なものではないでしょうか.そのなかでも麻酔科で初期研修を開始する先生方にとっては,手術室で行われる他の診療科とは雰囲気やスピード感が大きく異なる研修に戸惑う場面が多いのではないかと思います.麻酔科研修の各場面で「次に何をするべきか」「どこに注意を向けるべきか」と問いかけながら立っている自分に気づくことがあるかもしれません.麻酔科での研修を始めたばかりの先生方にとって,その1つひとつの場面は緊張の連続で,同時に大きな不安を伴うものでしょう.
 麻酔科研修の期間は,知識と技術を学ぶ時間であると同時に,「麻酔科独特の時間の流れや考え方」を体得する時間でもあります.術前診察でどこを見るのか.患者さんのどの言葉に耳を傾けるのか.ASA-PSをどのように評価し,それを麻酔計画へどう結びつけるのか.全身麻酔導入の場面では,どの瞬間にどのようなリスクが潜んでいるのか.そして覚醒に向かうとき,何を確認しながら次の一手を考えるのか.麻酔管理は,点ではなく連続した線として理解することが大切ではないでしょうか.
 本書は,麻酔科研修の期間を通して身につけてほしい基本を,できるだけ具体的に,場面が目に浮かぶ形でまとめたものです.単なる知識の整理ではなく,「その場で何を考え,どう動くのか」を意識しながら読み進められる構成としました.症例プレゼンテーションでは,何を優先して伝えるべきかを明確にし,ASA-PSでは分類の意味を臨床判断へとつなげ,全身麻酔導入では安全確保の思考の流れを整理しています.読者の皆さまが実際の手術室の光景を思い浮かべながら,自分自身の行動を重ね合わせていただければ嬉しく思います.
 私は日本で長らく亀田総合病院に勤務をしたのちに,現在は米国アイオワ大学において麻酔科の教育と診療に携わっています.日本とアメリカでは医療制度や文化,役割分担の在り方などに大きな違いがあり,初めて現場に立ったときには驚くことも少なくありませんでした.チーム内での議論の進め方や,教育の方法,責任の明確化の仕方など,日本とは異なる点が多く,そこには新鮮な学びと発見がありました.しかし一方で,強く感じたのは,麻酔という専門領域の「幹」の部分はどの国でも変わらないということでした.患者さんの安全を最優先に考える姿勢,基本を徹底する重要性,常に一歩先を予測する思考,そして自らの判断を言語化して共有する姿勢.これらは日本でもアメリカでも共通して大切にされている価値観です.違いに驚き,面白さを感じながらも,その土台が同じであることに安心しました.本書では,そうした共通する幹を大切にしつつ,私自身が興味深いと感じた日米での違いもコラムで紹介しています.
 また,指導医として研修医の先生方と日々向き合うなかで,学ぶことに真摯に向き合う姿勢に触れられることは,大きな喜びでもあります.緊張しながらも真剣に術前評価を行う姿,何度も振り返りながら導入の手順を整理する姿,疑問をそのままにせず言葉にしてぶつけてくる姿勢.その熱意に触れるたびに,教育に携わることの幸せを実感します.本書がその学びを後押しし,指導する側と学ぶ側の双方にとって共通の指針となればと願っています.
 麻酔は決して1人で完結する医療ではありません.外科医,看護師,臨床工学技士,放射線技師,手術室スタッフなど,多くの専門職が関わり,互いに支え合いながら1つの手術を成立させています.麻酔科医が何を考え,どのタイミングでどのようなリスクを想定しているのかを共有することは,チーム全体の安全性を高めることにつながります.その意味で,本書は麻酔科医だけでなく,手術室で働くすべてのスタッフにもぜひ読んでいただきたい内容です.共通の理解があることで,声かけや連携はより円滑になり,患者さんにとってより安全な環境を整えることができるでしょう.
 本書が麻酔科研修の期間を歩む読者にとって,自分の思考を整理し,迷ったときに立ち返ることのできる一冊となれば幸いです.そして手術室というチーム医療の現場で,立場を越えて共有できる地図のような存在になれば,これ以上の喜びはありません.

 2026年3月
 杉山大介

開く

第1週
 1日目──麻酔科の1日の流れ
  まずは麻酔科研修での時間の流れを理解しよう
 2日目──術前診察のポイント
  麻酔科独特のポイントに注意しながら,限られた時間のなかで効率的に診察できるようになろう
 3日目──症例プレゼンテーション
  術前の症例プレゼンテーションは要点をまとめて簡潔に
 4日目──基本的な全身麻酔の流れ
  全身状態に問題のないASA-PSIの患者の麻酔
 5日目──一般的な全身麻酔導入(マスク換気,気管挿管含む)
  基本的な全身麻酔の導入を理解しよう

第2週
 1日目──困難気道への対応(difficult airway management)
  メタボリックシンドロームで気道管理困難が予測される患者
 2日目──一般的な周術期輸液
  周術期輸液を理解して急性期輸血管理のスキルを向上させよう
 3日目──高齢者の麻酔
  高齢であることが麻酔のリスク!?
 4日目──高血圧患者の麻酔
  高血圧を既往にもつ患者は多いが,何が問題なんだろう?

第3週
 1日目──低心機能患者の麻酔
  専門医でも緊張する低心機能患者の麻酔管理
 2日目──呼吸機能低下患者の麻酔
  COPDを中心に
 3日目──糖尿病患者の麻酔(周術期血糖管理)
  認知症で入所中の2型糖尿病患者の麻酔
 4日目──高度肥満症患者の麻酔
  高度肥満で複数の依存症を抱える患者の麻酔

第4週
 1日目──不整脈をもった患者の麻酔
  頻脈性不整脈の既往をもつ患者の麻酔
 2日目──植込み型ペースメーカのある患者の麻酔
  ペースメーカ挿入患者はPS3!? どう管理するんだろう?
 3日目──腹腔鏡手術の麻酔
  腹腔鏡手術予定の子宮筋腫患者の麻酔
 4日目──脊髄くも膜下麻酔での泌尿器系の麻酔
  膀胱腫瘍患者への脊髄くも膜下麻酔

第5週
 1日目──帝王切開の麻酔
  既往帝王切開後妊娠の女性への麻酔
 2日目──開腹する手術の麻酔
  開腹手術の胃がん患者の麻酔
 3日目──緊急手術の麻酔
  緊急手術の大腿骨頸部骨折患者の麻酔
 4日目──ショックバイタル患者の麻酔
  普段以上に呼吸・循環を管理する立ち位置で麻酔を管理しよう
 5日目──外傷患者の麻酔
  救急搬送された多発外傷患者の麻酔

第6週
 1日目──透析中の患者の麻酔
  透析中の椎間板ヘルニア患者に対する全身麻酔
 2日目──リウマチ合併患者の麻酔
  関節リウマチを合併している患者に対する全身麻酔
 3日目──呼吸器外科手術患者の麻酔
  分離肺換気が必要となる全身麻酔

第7週
 1日目──小児患者の麻酔
  口蓋裂手術が予定される小児患者の麻酔
 2日目──喘息患者の麻酔
  喘息の既往がある緊急腹腔鏡下手術患者の麻酔
 3日目──てんかん患者の麻酔
  てんかんの既往がある鼠径ヘルニア患者の麻酔
 4日目──パーキンソン病患者の麻酔
  S状結腸切除術が予定されたパーキンソン病患者の麻酔

第8週
 1日目──重症筋無力症患者の麻酔
  既往に重症筋無力症のある患者に対する全身麻酔
 2日目──脳外科手術の麻酔
  くも膜下出血で緊急開頭手術の女性患者の全身麻酔
 3日目──術後せん妄
  軽度の認知機能低下を認める76歳男性患者の麻酔
 4日目──麻酔科領域におけるペインクリニックの位置づけ
  ペインクリニックの診療は内科診療にも役立つ場面が多い

索引
付録Web動画の使い方

タグキーワード

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。