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医学界新聞プラス
[第3回]感染症診療の3大要素
『知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療』より
連載 伊東 完
2026.04.16
知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療
処方で迷わないための考え方が身につく!『知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療』は、「バイキン屋。」として活躍する著者が,「病原体」「感染臓器」「宿主因子」の3つの視点から抗菌薬と感染症をわかりやすく解説した一冊です。
知識を網羅するにとどまらず,その背景から理解することで,感染症診療の基礎知識はもちろん,応用可能な考え方が自然と身につくよう工夫されています。臨床でのリアルな疑問に答えるQ&Aや,細かな情報が詰まった400もの注釈を読み進めるうちに「そういうことだったのか!」という深い納得感が得られるはずです。
「ジェネラリストNAVI」で連載された「抗菌薬ものがたり──エピソードで学ぶ感染症診療の歩きかた」から生まれた本書で,抗菌薬選択の“なんとなく処方”から卒業しませんか。
「医学界新聞プラス」では,本書より<1章 抗菌薬と病原体><2章 感染臓器>から一部をピックアップし,4週にわたりご紹介します。
感染症診療の3大要素
1章ではさまざまな抗菌薬のスペクトラムを解説してきました。今や読者の皆さんは,それぞれの抗菌薬がどんな細菌をカバーできるのか,それぞれの細菌にどんな抗菌薬が適しているのかをある程度説明できるのではないでしょうか。これで臨床現場でも自由自在に抗菌薬を使えると思われるかもしれませんが,感染症診療はそこまで単純でもないのです。
抗菌薬選択に影響する3大要素として,①病原体,②宿主因子,③感染臓器,が挙げられますが,これだけいわれてもピンとこないかもしれません。具体的にイメージしてみましょう。
70代の男性が発熱を主訴に来院しました。血液培養検査を行ったところ,アンピシリンなども含めて感受性の高い大腸菌が検出されました。大腸菌菌血症です。こんなときに,どんな抗菌薬を選択しますか?
選択肢を出しますね。
Ⓐアンピシリン
Ⓑセファゾリン
Ⓒセフトリアキソン
Ⓓタゾバクタム・ピペラシリン
Ⓔメロペネム
Ⓕレボフロキサシン
……「おいおい,全身状態がよいのか,悪いのかが全くわからないじゃないか!」と言いたくなったかもしれません。気になって当然ですよね。これが,いわゆる「宿主因子」の情報にあたります。実際のところ,全身状態がよかろうが悪かろうが,起因菌に効く抗菌薬を選べばよいだけなので,この症例が仮に重症だった場合にはⒶアンピシリンを使う状況が全くないわけでもないのですが,不確定要素が多いなかで重症の場合にはⒹタゾバクタム・ピペラシリンやⒺメロペネムなどの広域抗菌薬を使わざるを得ません。「宿主因子」で他に有名なものとして,発熱性好中球減少症が挙げられます。好中球が減っているなかで原因不明の発熱が持続している場合には,一見大腸菌しか感染していないように見えていても,緑膿菌までカバーしておく必要があります★1。このように,同じ起因菌による感染症でも,「宿主因子」によって使用する抗菌薬が異なることがあります。
「尿培養検査や画像検査の情報はないの?」という声も聞こえてきそうですね。そうなのです。「感染臓器」がどこだかわからないと,感染症診療はうまくいきません。その理由はさまざまですが,わかりやすい例として抗菌薬の臓器移行性の問題があります。例えば,前立腺や中枢神経系は抗菌薬が移行しにくいことがよく知られています。前立腺炎に対しては,ST合剤やキノロン系が臓器移行性の観点から好まれます★2。また,中枢神経系に対しては,ペニシリン系や第3世代以降のセフェム系,カルバペネム系などが同様の観点から好まれます★3。提示症例の大腸菌菌血症が前立腺由来だったとしたら,アンピシリンを使うのはあまりいい選択ではないのかもしれません。あえて選択肢から選ぶとしたら,Ⓕレボフロキサシンが無難です。このように,同じ起因菌による感染症でも,「感染臓器」によって使用する抗菌薬が異なることもあるのです(図1)。
このように,「病原体」の情報だけで感染症診療を行うのは難しく,「宿主因子」や「感染臓器」も含めた情報を上手に統合して抗菌薬を選択する必要があります。言い方を変えると,これらの情報がうまく合わされば,使うべき抗菌薬を絞り込むことができます。次項以降は臓器別に感染症をみていくことで,ここまで学んできた抗菌薬のスペクトラムの話を頭の中で再構成していただきます。縦糸に横糸を編み込むことで,感染症に対する知識をより強固にすることができるのです。引き続き,一緒に学んでいきましょう!
★1 発熱性好中球減少症では,GPCもGNRも起因菌になるのですが,より注意すべきはGNR感染症です。致死的経過をたどりうるため,起因菌が判明する前から抗緑膿菌作用のある抗菌薬で治療を開始します。なお,解熱または好中球数が回復した場合には,培養検査などで検出された細菌に合わせて抗菌薬を変更することも可能です。
Freifeld AG, et al:Clinical practice guideline for the use of antimicrobial agents in neutropenic patients with cancer;2010 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 52(4):e56-e93, 2011 PMID 21258094
★2 前立腺への移行性がよい抗菌薬といえば,ST合剤とキノロン系です。ただし,激しい炎症がある場合にはβラクタム系もある程度は移行するため,問題ないという専門家もいます。
Lipsky BA, et al:Treatment of bacterial prostatitis. Clin Infect Dis 50(12):1641-1652, 2010PMID 20459324
★3 中枢神経系(脳脊髄液)への移行性がよいのは,βラクタマーゼ阻害薬を除くペニシリン系,第3世代以降のセフェム系,カルバペネム系,キノロン系,リネゾリドなどです。前立腺と同様,炎症の有無によって移行性が変わることも知られています。
van de Beek D, et al:Advances in treatment of bacterial meningitis. Lancet 380(9854):1693-1702, 2012PMID 23141618
知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療
抗菌薬で迷わないための「考え方」を身につけよう。“なんとなく処方”からの卒業!
抗菌薬選択における“なんとなく処方”からの卒業! 「バイキン屋。」としても活躍する著者が「病原体」「感染臓器」「宿主因子」の三方向から、抗菌薬と感染症をわかりやすく解説します。1冊を通して読むことで、感染症診療の基礎知識だけでなく、応用可能な考え方も身につきます。臨床での疑問を取り上げたQ&A、細かな情報が詰まった400もの注釈も必見です。
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