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[第4回]蜂窩織炎の要点と誤診パターン
『知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療』より
連載 伊東 完
2026.04.23
知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療
処方で迷わないための考え方が身につく!『知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療』は、「バイキン屋。」として活躍する著者が,「病原体」「感染臓器」「宿主因子」の3つの視点から抗菌薬と感染症をわかりやすく解説した一冊です。
知識を網羅するにとどまらず,その背景から理解することで,感染症診療の基礎知識はもちろん,応用可能な考え方が自然と身につくよう工夫されています。臨床でのリアルな疑問に答えるQ&Aや,細かな情報が詰まった400もの注釈を読み進めるうちに「そういうことだったのか!」という深い納得感が得られるはずです。
「ジェネラリストNAVI」で連載された「抗菌薬ものがたり──エピソードで学ぶ感染症診療の歩きかた」から生まれた本書で,抗菌薬選択の“なんとなく処方”から卒業しませんか。
「医学界新聞プラス」では,本書より<1章 抗菌薬と病原体><2章 感染臓器>から一部をピックアップし,4週にわたりご紹介します。
蜂窩織炎の要点
2章では,臓器別感染症として皮膚軟部組織感染症,尿路感染症,呼吸器感染症,腹腔内感染症などを俯瞰していきます。まずは,皮膚軟部組織感染症の代表である蜂窩織炎です。
皮膚は,表面から表皮,真皮,皮下組織の順に階層構造となっていますが,このうち真皮深層から皮下組織にかけて炎症を生じた状態を蜂窩織炎と呼びます★1。逆に真皮浅層に炎症がとどまり,皮下組織にまで及んでいない場合は丹毒と呼びます(図1)。丹毒のほうが蜂窩織炎よりも境界明瞭になりやすいという特徴はあるものの,マネジメントは大差ないため★2,臨床的には識別する意義はあまりないのかもしれません。しいていえば,耳介には皮下組織がないため,炎症所見が耳介にある場合は蜂窩織炎でなく丹毒です(Milian’s ear sign)。
蜂窩織炎の2大起因菌は,黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とA群β溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)です(図2)。略してS&S,セファゾリンのスペクトラムの一部ですね(セファゾリンのスペクトラムはS&S+PEKでした)。したがって,セファゾリンを使用すれば,蜂窩織炎をおおむね治療できるわけです。もちろん前項で触れたとおり,宿主因子として特殊な患者背景がある場合などには他の病原体の関与も考えなければならないのですが,それは後ほど紹介します。
◉––––セファゾリンを使えない場合
セファゾリンを使えない場合はどの抗菌薬を選べばよいのでしょうか。これについては結局のところ,S&Sを両方カバーできる抗菌薬を選択すればよいということになります。例えば,ペニシリンGやアンピシリンではA群β溶血性レンサ球菌をカバーできますが,黄色ブドウ球菌まではカバーできません。しかし,アンピシリン・スルバクタムを用いれば,βラクタマーゼを産生する黄色ブドウ球菌までカバー範囲を広げることができます(もちろん,MRSAは除きます)。また,βラクタム系以外では,アンピシリン・スルバクタムに比べて黄色ブドウ球菌のカバーが若干劣りますが,クリンダマイシンという選択肢もあります。クリンダマイシンは「嫌気性菌キラー」と紹介しましたが,実はS&Sもある程度カバーしてくれるのです★3。
IDSAのガイドラインでは,5日間の抗菌薬投与が推奨されています。ただし,臨床経過によっては延長する必要がある旨も併記されており,その場合の治療日数が明記されていないところに煮え切らなさを感じます★4。一方で,『The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy』(Antimicrobial Therapy Inc.)では2022年度までは「急性炎症が消失してから3日間」(2023年度以降は「5〜7日」)と記載されており,これは実臨床で皮膚局所の炎症所見がなかなか消退しない症例があるからかもしれません。筆者は,特殊な患者背景がなければ,臨床経過や菌血症の有無を確認しながら5~14日間抗菌薬を投与し,その後は抗菌薬を中止した状態で再燃や増悪がないか慎重に経過観察することが多いです。
ここまでが蜂窩織炎の基本事項になります。これらの知識だけでも実臨床で遭遇する蜂窩織炎の半数以上は対応可能と思いますが,蜂窩織炎の実臨床にはさまざまな落とし穴があり,次項以降で蜂窩織炎の周辺知識をまとめます。
蜂窩織炎の誤診パターン
蜂窩織炎は日常診療でよく遭遇する疾患で,皮膚の発赤・腫脹・熱感といった臨床所見が診断の主な根拠になります。しかし,同様の臨床所見を呈する疾患は他にも多く存在するため,蜂窩織炎の診断にはどうしても誤診がつきまといます★5。本項では,蜂窩織炎の典型的な誤診パターンを紹介します。誤診パターンは,大きく「深さ」と「分布」に分けることができます。
「深さ」の誤診に関しては,前項で蜂窩織炎と丹毒の違いを説明しました。ただ,蜂窩織炎を丹毒のような比較的表層の炎症と誤診することは臨床上,大きな問題にはなりません。その一方で,より深層の炎症を蜂窩織炎と誤診してしまうと,ドレナージや外科手術のタイミングを逃し,時に生命予後や機能予後の悪化につながるので注意が必要です。具体的には,化膿性関節炎,化膿性腱鞘炎,壊死性筋膜炎などが該当します。化膿性関節炎や化膿性腱鞘炎を蜂窩織炎と誤診しないためには,蜂窩織炎の病変の直下にある解剖を意識することが重要です。可動域制限が生じていないか,関節の自動痛・他動痛がないかなどを確認しますが,鑑別が難しい場合は整形外科医に相談するのがよいでしょう。
「分布」の誤診に関しては,病変が両側性の場合に特に注意するとよいでしょう。蜂窩織炎は,典型的には片側性の病変であり,両側性の病変になることは稀です。例えば,両下腿蜂窩織炎をみたときには「蜂窩織炎ではないかもしれない」と疑う姿勢が大切です。とりわけ問題になりやすいのが,うっ滞性皮膚炎です。うっ滞性皮膚炎は,そもそも感染症でないので抗菌薬も不要です★6。患肢を挙上することで,発赤・腫脹・熱感が改善しますので,疑ったらぜひ確認してみてください。また,両側性の病変では血流を介して播種性感染症を生じている可能性も考えます。感染性心内膜炎のプレゼンテーションの一部として,皮膚軟部組織感染症を生じていることもあるわけです。
他にも,外傷性変化,湿疹,アレルギー反応,深部静脈血栓症など,誤診パターンは枚挙に暇がありません。文献的に報告されているものをまとめますので(表1),頭の片隅に入れておきましょう。
★1 超音波検査で,蜂窩織炎の患部真皮~皮下組織が浮腫状になっているのを確認できます(健側と比較するとわかりやすいです)。深部静脈血栓症の除外診断を行う際に皮膚も調べてみてはいかがでしょうか。
★2 丹毒の多くはA群β溶血性レンサ球菌によって引き起こされるため,軽症で診断が確実な場合は黄色ブドウ球菌のカバーは必須ではありません。このような場合,アモキシシリンを使うのもありでしょう。ただし,蜂窩織炎と鑑別困難なケースも少なくないため,実際は蜂窩織炎とほぼ同じような対応になると思います。
★3 クリンダマイシンは黄色ブドウ球菌をカバーし,しばしばMRSAもカバーできる点で重宝します。ただし,クリンダマイシン感受性株でもマクロライド系耐性の場合には,細菌検査室に依頼してD-zone testを行う必要があります。これは黄色ブドウ球菌がエリスロマイシンに曝露された際にクリンダマイシンへの交差耐性が誘導されるかどうかを確認する検査で,陽性の場合にはクリンダマイシンがたとえin vitroで感受性でも臨床的には使えません。
Woods CR:Macrolide-inducible resistance to clindamycin and the D-test. Pediatr Infect Dis J 28(12):1115-1118, 2009 PMID 19935273
★4 IDSAのガイドラインなど,比較的長い文章から抗菌薬投与期間を拾い読みする際には,“days”や“duration”などのキーワードで簡易検索をかけるとスピーディーです。なお,重症蜂窩織炎に対して,6日間治療では12日間治療より再発が多くなる可能性も指摘されている点に注意したいです。一筋縄ではいかないものですね。
Stevens DL, et al:Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft tissue infections;2014 update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis 59(2):147-159, 2014 PMID 24947530
Cranendonk DR, et al:Antibiotic treatment for 6 days versus 12 days in patients with severe cellulitis;A multicentre randomized, double-blind, placebo-controlled, non-inferiority trial. Clin Microbiol Infect 26(5):606-612, 2020 PMID 31618678
★5 単施設研究で,下肢蜂窩織炎の30%に誤診がみられたとする報告があります。誤診症例の多くで不必要な入院治療が行われ,それによる医療経済的損失が問題視されました。 Weng QY, et al:Costs and Consequences Associated With Misdiagnosed Lower Extremity Cellulitis. JAMA Dermatol 153(2):141-146, 2017 PMID 27806170
★6 IDSAが2015年にchoosing wiselyの1項目として「うっ滞性皮膚炎に抗菌薬を使わないこと」と明言しています。不必要な抗菌薬の使用のみならず,不必要な入院や医療コストを避ける意味でも蜂窩織炎とうっ滞性皮膚炎との鑑別は重要です。 Choosing Wisely:https://www.cdph.ca.gov/Programs/CHCQ/HAI/CDPH%20Document%20Library/ImperialCounty_IDSA-Choosing-Wisely-List.2015_ADA.pdf(最終アクセス2026年2月)
知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療
抗菌薬で迷わないための「考え方」を身につけよう。“なんとなく処方”からの卒業!
抗菌薬選択における“なんとなく処方”からの卒業! 「バイキン屋。」としても活躍する著者が「病原体」「感染臓器」「宿主因子」の三方向から、抗菌薬と感染症をわかりやすく解説します。1冊を通して読むことで、感染症診療の基礎知識だけでなく、応用可能な考え方も身につきます。臨床での疑問を取り上げたQ&A、細かな情報が詰まった400もの注釈も必見です。
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