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『知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療』より

連載 伊東 完

2026.04.09

処方で迷わないための考え方が身につく!『知識がつながる抗菌薬――まるわかり感染症診療』は、「バイキン屋。」として活躍する著者が,「病原体」「感染臓器」「宿主因子」の3つの視点から抗菌薬と感染症をわかりやすく解説した一冊です。
知識を網羅するにとどまらず,その背景から理解することで,感染症診療の基礎知識はもちろん,応用可能な考え方が自然と身につくよう工夫されています。臨床でのリアルな疑問に答えるQ&Aや,細かな情報が詰まった400もの注釈を読み進めるうちに「そういうことだったのか!」という深い納得感が得られるはずです。
ジェネラリストNAVI」で連載された「抗菌薬ものがたり──エピソードで学ぶ感染症診療の歩きかた」から生まれた本書で,抗菌薬選択の“なんとなく処方”から卒業しませんか。

「医学界新聞プラス」では,本書より<1章 抗菌薬と病原体><2章 感染臓器>から一部をピックアップし,4週にわたりご紹介します。

ペニシリンGといえば,ブドウ球菌以外のグラム陽性球菌

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 ペニシリン系抗菌薬と聞いて皆さんが真っ先に思い浮かべるのは,アンピシリン・スルバクタムやタゾバクタム・ピペラシリンかもしれません。しかし,これらの抗菌薬を理解するには,その基本形であるペニシリンGを理解することが不可欠です。歴史を振り返ると,ペニシリンGの誕生には理由がありますし,ペニシリンGを改良しなければならなかったのにも理由があります。そういった歴史上の必然性に着目すると,抗菌薬のスペクトラムを見通しよく理解できるでしょう。
 1928年,アレキサンダー・フレミング博士はロンドン大学のセントメアリーズ病院で感染症の研究をしていました。彼は第一次世界大戦に従軍していたのですが,負傷兵がさまざまな感染症に罹患するのを目の当たりにして,それを克服する方法を探していたのです。その一環として黄色ブドウ球菌をペトリ皿で増やしていましたが,ある日ペトリ皿に青カビが生え,青カビのまわりに黄色ブドウ球菌が発育していないことに気がつきました。青カビが黄色ブドウ球菌の発育を抑える物質を産生しているに違いないと確信した彼は,青カビを大量に培養し,それを濾過した液の中から後にペニシリンと名付けられる物質を発見したのです。ペニシリンは1942年に単離された後,第二次世界大戦で広く用いられ,数多くの負傷兵を皮膚軟部組織感染症などから救うことになりました。フレミング博士は後に,その功績によりノーベル賞を受賞するわけです。
 ここで皆さんに注目していただきたいのは,ペニシリンがもともとは黄色ブドウ球菌を標的として開発された抗菌薬だったということです。しかし,この話には続きがあります。第二次世界大戦が終結すると,ペニシリンは軍隊だけでなく民間でも使われるようになりました。ペニシリンが多く使われることで,たちまちペニシリンに耐性をもつ黄色ブドウ球菌が現れ,医療現場で問題になります★1。そういった事情で,現在ペニシリンGを黄色ブドウ球菌感染症に使いにくいことは歴史の皮肉というべきでしょう★2。“Use it and lose it”,忘れないでいただけたらと思います。

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 それでは,なぜペニシリンGが今も臨床現場で使われ続けているのかというと,ブドウ球菌以外のGPC(肺炎球菌,レンサ球菌,腸球菌といったチェーン状のGPC)であればおおむねカバーできるからです★3。もちろん,これらの細菌でも薬剤耐性化が進むことがあるので,長い目でみると油断できないのですが,ペニシリン感受性肺炎球菌性肺炎などはペニシリンGのよい適応です。使う機会があればぜひ試していただきたいと思います。

ペニシリンGはグラム陰性桿菌が苦手

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 前項でペニシリンGのスペクトラムを「ブドウ球菌以外のGPC全般」と表現しましたが,少し補足します。βラクタム系抗菌薬はペニシリン系,セフェム系,カルバペネム系などに大別されますが,細菌のなかには「βラクタム系でもペニシリン系には感受性だが,セフェム系には自然耐性」という変わり者がいます★4。その代表例が腸球菌なのですが,グラム陽性桿菌であるリステリアも同じ特徴をもっています。そういう意味で,ペニシリンGのカバー範囲のなかでも「腸球菌とリステリア」はワンフレーズで覚えるとよいでしょう。例えば,小児や高齢者の髄膜炎に対してはセフトリアキソン(セフェム系)だけでなくアンピシリン(ペニシリン系)を併用することがありますが,それはリステリアを警戒してのことです★5
 さらに,横隔膜から上(口腔・鼻腔内)の嫌気性菌もペニシリンGでカバーできることを覚えておきましょう。いわゆる口腔内常在菌をカバーしているということですね。
 それでは,ペニシリンGがカバーしない細菌は何でしょうか。実は,ペニシリンGはGNRをほとんどカバーしません★6。要は大腸菌をカバーしないということです。また,先ほど横隔膜から上の嫌気性菌をカバーすると書きましたが,裏を返せば横隔膜から下(腸管内)の嫌気性菌をあまりカバーしないともいえます。横隔膜から下の嫌気性菌の代表格としてバクテロイデスが挙げられますが,この細菌はペニシリンGの弱点なのです。

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 ここまでの内容をまとめると,図1になります。図1の右側にはペニシリンGがカバーできない細菌としてブドウ球菌,グラム陰性桿菌(大腸菌など),横隔膜から下の嫌気性菌を書いていますが,これらの細菌をいかにカバーするかがペニシリンG以降のペニシリン改良の主目的になります。したがって,まずはペニシリンGのカバー範囲である5つの細菌群とカバー範囲外である3つの細菌群を確実に頭に入れておくことが重要です。それさえできてしまえば,ペニシリン系の見通しはグッとよくなります。

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図1|ペニシリンGのスペクトラム

★1 細菌の薬剤耐性は大きく分けて,内因性耐性(自然耐性)と外因性耐性に分類できるのですが,ここでいう黄色ブドウ球菌のペニシリン耐性は「後から出てきた耐性」なので外因性耐性になります。こういった外因性耐性を減らすために,抗菌薬を適正に使用しなければならないわけです。

★2 発展的ですが,βラクタマーゼを産生していないごく一部の黄色ブドウ球菌に対してはペニシリンGを使用可能です(内因性耐性ではないので)。黄色ブドウ球菌のペニシリンGに対する最小発育阻止濃度が≦0.12μg/mLで感受性と判定された場合,ペニシリンディスクを用いたゾーンエッジテストでβラクタマーゼを産生するか否かを追加で確認することが推奨されているのですが,このあたりは『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』(医学書院,2020)の黄色ブドウ球菌の項目などに詳しいです。

★3 腸球菌にもさまざまな種類の細菌が含まれており,日本の臨床検体で最もよく検出されるEnterococcus faecalisはペニシリンGをはじめとするペニシリン系抗菌薬に感受性があります。ただし,E. faeciumなどは多くの場合,ペニシリン系抗菌薬に耐性である点に注意する必要があります。本書における腸球菌は,断りがない場合は,E. faecalisを指すものとします。

★4 βラクタム系抗菌薬の標的となる蛋白質にペニシリン結合蛋白があります。腸球菌のもつペニシリン結合蛋白のうち,PBP5がセフェム系抗菌薬への低親和性で知られており,腸球菌のセフェム系抗菌薬に対する自然耐性の機序と考えられています。また,リステリアに関してもペニシリン結合蛋白との関連が示唆されていますが,その詳細はまだ解明されていないようです。
Miller WR, et al:Mechanisms of antibiotic resistance in enterococci. Expert Rev Anti Infect Ther 12(10):1221-1236, 2014   PMID 25199988
Krawczyk-Balska A, et al:The intrinsic cephalosporin resistome of Listeria monocytogenes in the context of stress response, gene regulation, pathogenesis and therapeutics. J Appl Microbiol 120(2):251-265, 2016   PMID 26509460

★5 基本的に腸球菌とリステリアはペニシリンGに感受性があるのですが,アンピシリンのほうがペニシリンGよりわずかばかり抗菌薬活性が高い,使用経験が豊富であるという理由で,実臨床ではアンピシリンが第1選択とされています。

★6 梅毒を起こすトレポネーマ,ワイル病を起こすレプトスピラといったいわゆるスピロヘータは,ペニシリンGのカバー範囲内です。これらは広義のGNRに分類できなくもないのですが,本書ではあえて取り上げません。

 

抗菌薬で迷わないための「考え方」を身につけよう。“なんとなく処方”からの卒業!

抗菌薬選択における“なんとなく処方”からの卒業! 「バイキン屋。」としても活躍する著者が「病原体」「感染臓器」「宿主因子」の三方向から、抗菌薬と感染症をわかりやすく解説します。1冊を通して読むことで、感染症診療の基礎知識だけでなく、応用可能な考え方も身につきます。臨床での疑問を取り上げたQ&A、細かな情報が詰まった400もの注釈も必見です。

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