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[第19回]「あなたのスライドで私の著作権が侵害されています。直ちに〇〇万円支払ってください」という警告メールが届きました。身に覚えがないのですが,どう対応すべきでしょうか。
研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A
連載 小林只
2026.05.22
Q.「あなたのスライドで私の著作権が侵害されています。直ちに〇〇万円支払ってください」という警告メールが届きました。身に覚えがないのですが,どう対応すべきでしょうか。
A.絶対に即答・即入金してはいけません! その警告は,権利がないのに権利を主張する偽著作権(エセ著作権)や,示談金目的の著作権トロールによる詐欺まがいの行為の可能性があります。アイデアやありふれた表現に著作権を主張したり,適法な引用にいちゃもんをつけたりするケースが急増しています。警告メールを受け取った時は,「相手は本当に権利者か?」「そもそも著作物か?」「法的な侵害の要件(依拠性・類似性)を満たしているか?」を冷静に検証することが大切です。
今回で「著作権編」は最終回となります。これまでは,他者の権利を尊重し,適法に利用するためのマナーとルールについて解説をしてきました。しかし,世の中にはこのルールを悪用,あるいは誤解し,「権利侵害だ!」と過剰に主張して相手を萎縮させ,不当な利益を得ようとする人々が存在します。今回は,研究者や医療者が巻き込まれやすい著作権トロールや偽著作権(エセ著作権)の実態と,その撃退法について解説します。
知財を武器に暴れる「トロール」とは?
トロール(Troll)とは,元々は北欧神話の怪物のことです。ネットスラングでは「荒らし」,知財の世界では「権利を行使して,巨額の賠償金やライセンス料をせしめることを生業とする者」を指します。知的財産権に関連したトロールには大きく2種類が存在し,自らは製品を作らず特許権だけを買い集め,メーカーに対して訴訟を仕掛ける特許トロール(パテント・トロール),流行語や地名などを先回りして商標登録し使用料を請求する商標トロールに分けられます。彼らは,知的財産(新しい価値)を生み出すことではなく,権利を振りかざして他者を攻撃・搾取することを目的にしており,近年は中国企業による日本の地名やブランド名の無断商標登録(冒認出願)が国際的な問題となっています(商標権の詳細は,今後の連載で詳しく扱います)。
偽著作権(エセ著作権)の正体
そして,新たなトロールが著作権の世界でも起きています。特許や商標は登録が必要ですが,著作権は「作った瞬間」に発生するため,誰でも権利者を名乗れてしまいます。そのため,実際には権利がないのに「侵害だ」と主張するトラブルが多発している状況です。よくある事例を挙げながら実態を紹介していきます。
アイデアや作風への権利主張
事例 「この研究の着想は俺が先に考えた! パクリだ」と,アイデアに対して権利を主張される。
解説 第3回で解説した通り,著作権法は具体的な「表現」を保護するものであり,「アイデア」は保護しません。
ありふれた表現への権利主張
事例 時候の挨拶といった定型文や単純なデータの羅列に対して侵害を主張される。
解説 裁判例でも,ありふれた表現や創作性のない表現は著作物ではないとして,著作権の成立を否定する判断が多く出されています。例えば,時候の挨拶といった定型文や単なる事実の伝達(ニュースの事実部分),ごく一般的な図表のスタイルなどは,誰が書いても似たようになるため,著作権法では独占させない(保護しない)の...
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小林 只(こばやし・ただし)氏 株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士
2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。2024年度 知的財産アナリスト 奨励賞,2025年度 知的財産管理技能士会表彰 奨励賞 受賞。
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