臨床研究のアウトカムにPROを利用する(前田一石)
連載
2019.09.02
臨床研究の実践知
臨床現場で得た洞察や直感をどう検証すればよいか。臨床研究の実践知を,生物統計家と共に実例ベースで紹介します。JORTCの活動概要や臨床研究検討会議の開催予定などは,JORTCのウェブサイト,Facebookを参照してください。
[第6回]臨床研究のアウトカムにPROを利用する
前田 一石(JORTC外来研究員/ガラシア病院ホスピス)
(前回よりつづく)
前回(第5回・3333号)に続き,がんの神経障害性疼痛に対する鎮痛補助薬の研究1)を実例として,臨床研究におけるアウトカムの設定方法について説明したいと思います。
本研究は,がんによる神経障害性疼痛を有する患者さんを,デュロキセチン投与群,またはプラセボ群に割り付けて,鎮痛効果を比較したランダム化比較試験です。主要アウトカム指標は,Brief Pain Inventory (BPI)2)の中から,item 5(評価前24時間の平均の痛み average pain)が用いられ,「 0:痛みなし~10:想像できる最も激しい痛み」の11段階の痛みのうち「4」以上を示す患者が対象とされました。
治療効果は治療開始後10日目に評価されました(図)。群間差は-0.84(90%信頼区間:-1.71 to 0.02)とデュロキセチン投与群で鎮痛効果が大きかったのですが,主解析である2標本t検定(片側検定)を実施した結果,P値は0.053とわずかに有意水準に届かず,ネガティブ・スタディとなりました。なお,臨床的に意味のある鎮痛効果(痛みが30%以上減少)が得られた人の割合は,デュロキセチン投与群44%に対しプラセボ群は18%と有意な差が検出されました(P=0.02)。
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図 痛みのスコアの変化 |
評価尺度の選択には妥当性と信頼性が重要に
さて,臨床研究のアウトカムはどのように定めれば良いのでしょうか。オンコロジーの分野では全生存期間(overall survival;OS)や無増悪生存期間(progression free survival;PFS)などの客観的かつ確立したアウトカムが多く用いられます。一方,緩和ケアの分野では治療の対象としているのが痛みなどの症状やQOLであり,時間の経過とともに変化するアウトカムを,いつ,どのように評価するかは難しい問題です。
緩和ケアが対象とする症状やQOLは代表的なPRO(Patient-reported outcomes;患者報告アウトカム)です。PROとは,患者から直接報告される患者自身の健康状態に関する情報で,臨床医や他の者による解釈を介在しないものとされます。PROの利用については米食品医薬品局(FDA)がガイダンスを出していますし3),緩和ケア領域でもEUが中心となってPRISMAというワーキンググループが作られ,ガイダンスを発表しています4)。これらの内容をもとに,PROを用いる際の注意事項について見ていきましょう。
臨床研究でPROを用いる場合,一般的な健康状態を評価するSF-36やEQ-5Dなどの包括的尺度が用いられることは少なく,疾患・症状特異的な尺度が用いられることが多くあります。
例えば,EORTC QLQ C15-PALは欧州がん研究機関(EORTC)のQOL尺度を緩和ケア患者向けにアレンジしたもの,エドモントン症状評価システム(ESAS)は症状に特化した評価尺度で,それぞれ複数の症状・ドメインが含まれています。
本研究で用いられたBPIは痛みに着目した15項目からなる尺度で,その項目の一つとして今回主要ア...
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