• HOME
  • 書籍
  • 看護を教える人が発問と応答のスキルを磨く本 

13の実践レシピで解説!
看護を教える人が発問と応答のスキルを磨く本

もっと見る

学習者との関係づくりに悩まれている方へ。「発問」と「応答」のスキル満載の実践レシピが、あなたのお悩みに即対応します! 学習者は、問うて伸ばす! そして、応えて伸ばす! 明日の授業で、すぐに使える、フレーズ&テクニック集付き。

内藤 知佐子 / 高橋 聖子 / 高橋 平徳
発行 2023年02月判型:A5頁:144
ISBN 978-4-260-05112-5
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

はじめに──本書で伝えたいことを序章にかえて

発問と応答
 私たちは先に『看護教育実践シリーズ5 体験学習の展開』(医学書院)という本を書きました。そこでは、体験学習の理論的背景、計画と準備、そしてシミュレーションや実習といったさまざまな学習活動における重要な視点と方法を示しましたが、今回はより具体的な学生との関わり方に焦点を当てています。
 この本では、「発問」と「応答」という言葉で、学生との関わり方の多くを捉えています。発問というのは、教員からの投げかけ、問いかけです。学生たちにより深く考えてもらうために、教員から意識的にアプローチをすることです。一方、応答というのは、教員の受け答えです。学生の発言や意見、考えを、まずは受け止め、それに対して反応を返すことです。
 私たちは、学生への直接的な教育に、また、学生が自分自身で学ぶために、この発問と応答という教員の関わり方がとても大切だと考えています。それは、実習や演習といった体験学習の場面ではもちろんのこと、講義や授業外での何気ない会話においても同様です。

これまでの展開
 「発問」は、看護教育(看護職養成教育)のなかでも近年重要視されてきました。また、看護教育以外の分野でも、コーチングや1 on 1ミーティングの文脈で問いかけが注目され、多くの本が出版されています。このように、発問については教育学、とくに初等中等教育において研究・実践が積み重ねられています。
 一方、「応答」は、この本を書くにあたり、私たちの考えをうまく表現する言葉はないかと案出した言葉ですが、保育の分野では、以前から使われている用語のようです。「応答的環境」とか「応答的保育」といった言葉があり、それらは「子どもからの働きかけに対して、その想いを受け止めた返事(応答)をすることでつくられていく環境やその環境での保育」といった意味で使われています(宮原,2004;横井,吉弘,2008)。その基本的な考え方は私たちと一致しているため、大いに参考にさせていただきました。
 本書は、主に看護師育成に携わる方に向けて書かれていますが、広く人材育成のために、この応答という考え、つまり、受け止め、答える(応える)ことの重要性を強く訴えたいという思いから、応答という言葉を発問と並べ、本のタイトルに入れてあります。

応答への思い
 なぜ私たちが、この応答というものを重要視するかについてもう少し説明をさせてください。
 そもそもこの本の企画は、発問に関する考察を深め、発問のスキルを高めてもらうためのものとして始まりました。ですが、企画当初よりのコロナ禍で対面の授業ができず、遠隔での授業ばかりになったことで、大いに気づかされたことがありました。
 それは、相手の反応がなければとても不安になるということです。こちらが一生懸命喋っていても、遠隔でカメラがオフになっていれば、学生にどう思われているか分からない。そもそも聞いてくれているのか。また、研修や会議の場でも、発言に対する相手の反応がないと、こんなにも不安なものかと。
 これを学生の側に立って考えると、教員から問われ一生懸命考えて返答しても、それに対して教員からの反応がない。これではあっているかどうか分からず、また、自分の発言がどう受け止められているかも分からず、大変不安だろうということです。
 自分が話し手になり、反応がないという状況に押し込まれ、無反応の悪についてはっきり気づいたのです。
 そして、発問という行為と同等に、学生が検討してきたことや、発言したことに対して、教員が受け止めて、反応を返すということがとても重要ではないかと思い至りました。
 応答という言葉は、教育・看護教育の世界では少々耳慣れない言葉かもしれませんが、すでに理論化されていることを学びながら、私たちが普段感じていること、行っていることについて、意味づけを行い、原稿を書き上げていきました。

発問と応答で何を目指すか
 私たちは、発問と応答の両輪で、教員と学生、また、学生間の関係性をつくり、そこからより深い学びが生まれてくるのではないかと考えています。
 問いかけることによって、まず深く幅広く考えてもらうことを促し、考えを受け止めることで学生の自己肯定感を高め、反応を返すことで学生自身が現状を確認し、学びが促されることを期待しています。
 また、発問と応答によるコミュニケーションのサイクルは、学びの促進のみならず、教員と学生との間、そしてクラス全体に、心理的安全性をもたらすのではないかと考えます。心理的安全性が確立されれば、学習はますます深まっていくはずです。

すぐに使える13の実践レシピ
 本書は前半部分の「解説編」と後半部分の「実践編」の2部構成になっています。
 「解説編」では、これまでの教育理論を引き合いに出しながら、私たちが考える発問と応答の意義と有効性を述べています。また、「実践編」では、看護教育の現場で実際に教鞭をとっている著者が、自らの体験に照らして、看護教員の皆さんが困っているであろうことの解決策を「すぐに使える13の実践レシピ」として、場面別にまとめています。
 レシピのなかには、学生の心を揺さぶる具体的なフレーズや、行動のテクニックが随所に記されており、それらは明日からの授業に、また、今机の上にあるレポートの採点に、すぐに使っていただける内容になっています。
 以上、本書が多くの学び続ける看護師誕生の一助になれば幸いに思います。

 2023年1月 高橋平徳


文献
宮原和子・宮原英種(2004).知的好奇心を育てる応答的保育.ナカニシヤ出版.
横井一之・吉弘淳一編(2008).子どもと保護者への効果的な「声かけ・応答」.金芳堂.

開く

はじめに──本書で伝えたいことを序章にかえて

解説編 なぜ、発問と応答について学ぶ必要があるのか
 第1章 発問について
  1 発問とは
   人は問われれば考える──発問の必要性
   学び続ける専門職
   看護師として考えてもらうための発問
   発問の答えについて① 教員が知っていることを問う
   発問の答えについて② 答えが明確でないことを問う
  2 どんな場面で発問するのか──目的と方法
   授業における発問について
   演習における発問について
   実習における発問について
  3 発問の種類
   発問に関する先行研究と書籍
   本書における発問の6つの分類
   導入の発問
   発散させる発問と収束の発問① サイクルを回す
   発散させる発問と収束の発問② 学びの成果を意味づける
   深化させる発問① ゆさぶりにより思考を深化させる
   深化させる発問② 別の立場から考えさせる
   まとめの発問
   運営のための発問

 第2章 応答について
  1 応答とは
   発問と応答による学習の循環
   問いっぱなしでは不十分
   反応があれば、人は嬉しい
  2 応答と心理的安全性
   応答で心理的安全性をつくる
   心理的に「非」安全であるとは
   教育現場における心理的安全性
   心理的安全性のつくり方
   応答の前提となる姿勢──承認
  3 応答の4つの要素
   待つ
   聴く
   確かめる
   返す
   ・Column 教育とカウンセリング──ロジャーズの3原則から眺めてみる

実践編 実践レシピで発問と応答のスキルを磨く
 Recipe 1 授業開きのコツ──自分を開き、相手のこぶしを開く
   授業開きは自分開きから
   熱量をコントロールする
   「わたし紹介」でウォーミングアップ
   アンチ学生を味方につける
 Recipe 2 レポートの返し方──花丸とショートメッセージを効果的に使う
   レポートを読むときは、この3つを探せ
   花丸とショートメッセージでデコレーションする
   レポートに対し授業で応答を行う
   「看護」を強調するレスポンス
   考えてほしい部分は、もう一度取り上げる
   ・Column レポートがうまい学生──早い、うまい! でいいの?
 Recipe 3 シーンとしたクラスの盛り上げ方──相手が主役の明石家風レシピ
   まずは「場」のアセスメントから
   ゲストをもてなし、相手を主役にする天才芸人に学ぶ
   看護師だって「聞き上手」「話し上手」
   盛り上げるのではなく、盛り上げてもらう
   「ありがとう」と「よろしくね」は魔法の言葉
   ・Column 対話について──会話と対話は何が違う?
 Recipe 4 熱気ある授業のつくり方──テンポと波を意識する
   アイスブレイクでは盛り上がったのに
   答えやすい問いでリズムをつくる
   学生の波を感じ取り、こちらも波に乗る
 Recipe 5 グループワークが始まらない──マゴマゴ、モジモジを解消するテクニック
   さまざまなタイプの存在を知る
   イメージさせ、そして待つ
   確認の発問で作業内容を押さえる
   いったん席を外す
   指示内容を客観的に見直してみる
   ワンランク上の発問
 Recipe 6 ロールプレイで看護を問う──羞恥心への配慮と心配り
   ロールプレイで気づく心を育てる
   ロールプレイのよいところ
   ロールプレイをとおして看護を問う
   「ハッとする」を経験させる
   「考え始める」を待つ
 Recipe 7 グランドルールとアサーション──ハブ(hub)になれる看護師を目指して
   心理的安全性を崩さないために
   グランドルールを共有する
   グランドルールのあれこれ
   いつでもグランドルールに立ち戻る
   アサーションスキルは学生時代から磨いておく
   アサーションの実践方法
   アサーションスキルを持つスーパー看護師を育成する
 Recipe 8 ピア・ラーニングを通して学び合う──いつもとは違った関係をつくってみる
   いつもの関係性を崩してみる
   ピア・ラーニングの重要性
   ピア・ラーニングの例──指導者への不満を共有してみる
   教員と学生の立場を入れ替えてみる
   余興的スペシャルday
 Recipe 9 実習中のレポートとの向き合わせ方──自分のために書けるように
   要領のよい学生と悪い学生
   寝不足のままベッドサイドに立たせない
   レポートの枚数を指定することのデメリット
   なぜ教員の熱意は伝わらないのか?
   答えを聞かれても、すぐに答えてはだめ
   実習目標立案へのフォロー
   行動計画の作成、振り返りが充実する
   最初に苦労した時間はあとで必ず戻ってくる
 Recipe 10 ミスの振り返りで気をつけること──心理的安全性とアンガーマネジメント
   振り返りを行うときは環境に十分配慮する
   安全基地と心理的安全性
   自分の怒りをコントロールする──アンガーマネジメント
   相手に評価を意識させない問い方をする──Youメッセージをなくす
   よかったことも振り返る
   ・Column ネガティブ・ケイパビリティについて
 Recipe 11 視野が狭い学生への対応──学生と一緒に悩んでみる
   気づきの分だけ看護がある
   学生から見えていない世界を引き出す
   相談スタイルの問いで一緒に悩む
 Recipe 12 カンファレンスのテーマが決められない──大丈夫、それってぜんぜんヤバくない
   カンファレンスの必要性
   カンファレンスのテーマは、どのように決めていますか?
   教員がテーマを決める場合
   答えを欲しがる学生には
   学生が自分でテーマを決める場合
   あっ、どうしよう、誰もテーマを用意していない……
   カンファレンスのテーマは、指導者とも共有をしておく
   初発問を大切にして、段階的に掘り下げていく
 Recipe 13 実習で輝かせるための支援──放置しないこと、支援を怠らないこと
   IQとEQに振り回されない
   実習でつまずく学生=EQが低いとは限らない
   怯えている学生を放置しない
   実習指導者との連携を怠らない
   セルフ・コンパッションのすすめ
   セルフ・コンパッションの高め方
   帰って来る居場所をつくる

明日の授業で、すぐに使える フレーズ&テクニック集
締め括りのメッセージ
あとがき
著者紹介
さくいん

開く

看護教員にとどまらない問いと応えを学ぶ実践本
書評者:保田江美(国立保健医療科学院 主任研究官)

 考えること自体を実際に体験しないと,考えることは身に付かないものである。「最近の学生は,自分で考えない」と看護教員からよく聞くが,教育の中で「考えること」を促しているだろうか。本書は,考える学生を看護教員として育成できているか,振り返る機会にもなる良書である。
 本書が目指すのは,「問いかけることによって,まず深く幅広く考えてもらうことを促し,考えを受け止めることで学生の自己肯定感を高め,反応を返すことで学生自身が現状を確認し,学びが促されること」(p.5)である。問いかけることを発問,反応を返すことを応答とし,展開していく。

●発問の6つの分類を活用へのヒントに
 発問では,①授業や話し合いの「導入」で用いる「導入の発問」,②学生の思考を広げていくための「発散させる発問」,③広がった思考から特に考えてもらいたいことに焦点化させるための「収束の発問」,④より深く考えてもらうための「深化させる発問」,⑤成果をまとめるための「まとめの発問」,⑥授業や話し合いをマネジメントする「運営のための発問」が紹介され,授業や話し合いの流れとともに整理されている(p.23)。
 このような発問の分類を明確に示している書籍は数少なく,授業や演習を組み立てていく上で非常に参考になる。

●応答の重要性と欠かせない4つの要素
 私が本書で特に感銘を受けたのは,発問だけでなく「応答」もセットで論じられている点である。私は,人材育成において,「聴く技術」が非常に大切であると感じている。その肌感覚を言葉にしてもらえたうれしさを覚えた。これまでの経験の中で,看護教員や実習指導者が学生に関わる際に,質問攻めになったり,詰問になったりしている場面に出くわすことが時にあった。
 本書では発問に対する相手の発言や考えを受け止め,応答することを大切にし,応答には,「待つ」「聴く」「確かめる」「返す」という4つの要素があり,どれか1つが欠けても応答にはならない(p.34-35),と断言している。相手の反応を待たずに質問を重ねる,相手に返事を迫るようなことは「応答」にはならないのである。「発問」のみならず,「応答」の大切さにも目を向けている点に真に共感した。

●臨床現場で人材育成に関わる人も「使える」逸品
 本書の後半部分では,想定される事例もちりばめながら,「実践編」として「すぐに使える13の実践レシピ」がまとめられている。新任看護教員には,明日から使える武器として,ベテラン看護教員には,自己を振り返り,よりよい教育を目指す武器として,非常に「使える」内容になっている。
 基本的には,看護教員を読者対象として想定しているが,その全てが臨床現場でも活用できる内容である。臨床現場のプリセプターや実習指導者,教育担当者にも届いてほしい1冊だ。

(「看護管理」 Vol.33 No.7 掲載)


質問ではなく、発問。対応ではなく、応答。
書評者:小瀬古伸幸(訪問看護ステーションみのり)

書評を見る閉じる

 本書のタイトルを見た時、なぜ「発問」と「応答」という表現が使われているのかと疑問を感じましたが、冒頭を読んですぐにその意味が理解できました。  本書では発問の意味を、「学生たちにより深く考えてもらうため、教員から意識的に投げかけ、問いかけるアプローチ」としています。つまり、学びを促進するための問いです。一方、応答は「学習者からの発言や意見、考えを受け止め、それに対して指導者が適切な反応を示すこと」という意味であり、著者らはそれを重要視し、特に読者に伝えたいという思いがこの本には込められています。  つまり、教員あるいは指導者は、発問を投げっぱなしにするのではなく、応答する力や責任をもつ必要があるということです。

 「人は問われると考えます。逆に、問われなければ立ち止まることなく、話が流れていきがちです」(p16)。  私自身の経験を振り返ってみても問われなければ、わかったつもりで進んでしまうことがありました。臨床場面で、「なぜ患者さんはそのように行動したのか」「その背景には何があったのか」「患者さんはどのような思いがあり、その言葉を発したのか」などの投げかけを指導者がしてくれたおかげで、思考が動き始めたのを覚えています。その問いの意図は、もちろん患者さんの理解を深め、看護に反映することもあるでしょうが、本書では「自分自身で考えるという習慣を身につけてもらうために、教員は発問し続けていく必要がある」(p17)と述べられています。この点が非常に重要です。つまり、問われることで「理解したつもり」から抜け出し、考え抜く力を身につけていくということです。

 先述したように、発問を投げっぱなしにしていてはいけません。教員は学生の反応に適切に応答することが必要です。このとき、学生の間違いを指摘するのではなく、学生の思考の過程や努力を受け止めることが重要であり、対話的なアプローチで学生と向き合っていくことが求められます。そして、このような発問と応答のサイクルを繰り返すことで、学生自身の学びが深まっていくわけです。  最後に本書を一言で表現すると、「学習者が深く考える習慣を身につけるための発問と、学習者の反応を受け止め、リフレクションを促進する姿勢や技術を学べる本」と言えます。ここで「学生」という言葉を使用せず、「学習者」という言葉を用いたのは、臨床の現任教育においても役立つ本だと考えたからです。

(「精神看護」 Vol.26 No.4 掲載)

問いかける力を授けてくれる1冊
書評者:清水奈穂美(佛教大学保健医療技術学部准教授・在宅看護学)

書評を見る閉じる

 「発問」と「応答」のスキルを磨く──このタイトルを見た瞬間に、看護を教える立場にある多くの指導者や教員が経験していると思われる新入職員・学生との対話の壁を、そっと壊してくれるエッセンスがつまっていると感じ、すぐさま手にとりました。
 学生に「訪問に行ってどうだった?」と投げかけると、表情が(何を答えたらいいのだろうと)一瞬固まることがあります。そして、学生は「療養者の疾患は○○で~、家族構成は○○で~」と情報を説明し、状況ばかりを話してしまうことが少なくありません。それに対し、「そうじゃなくて、どう思ったの」と尋ねると、圧力になり、学生が黙ってしまう。これでは対話が進まず、学生に何を考えてもらいたかったのかが伝わらないのです。

 本書の前半は、学習者の学びを促進する意図的な発問の必要性を説き、導入・発散・収束・深化・まとめ・運営からなる6つの「発問」、待つ・聴く・確かめる・返すからなる4つの「応答」と心理的安全性を解説しています。「問いかけ」て、それに対する学生からの反応に「どう応えるか」について、ここまで踏み込んだ本はなかったように思います。
 後半は、発問と応答のスキルを磨くための13の実践レシピが示され、指導や教育に活用してみたいと思うフレーズやテクニックの数々が満載です。
 この本を読み進めていくと、単に〝正しさ〟や〝答え〟を与えるのではなく、考え方(思考プロセスや判断に至るまでの道筋)や看護師として考える力を身につけてもらうことが大切なのだと気付かされます。そして、学びの主役である学生たちが考えたことや、彼らが気付いたことに対して、私たちはまず受け止め、ちゃんと反応を返し、認めながら、さらなる問いかけを行い、看護の意味を考えていく、この対話の循環により発問が成り立つというプロセスが理解できます。

 この本の面白いところは、問いかけがうまくいかない場合に陥りやすいポイントも示されているところで、かなり実践的です。また、そこの理解を促すべく、本書を手にした読者に対し「問いかけている」ところです。問いかけられることは、指導者にも必要なことですね。教える側としての自身の思考と実践を振り返り、きっとこれまでの関わり方を見直すきっかけとなるでしょう。
 読み終えたときには、学生も、指導者も教員も、共に学び合う存在であることに気付き、考えることの面白さを実感できると思います。

 この発問と応答のスキルは、学生指導を中心に書かれていますが、学生だけでなく、思考力や判断力を鍛える現場の看護職の教育・指導にも活用できるものです。多職種チームとのカンファレンスや、話が行き詰まったときにも応用できると思います。対話を通して問いかけ合う仲間ができれば、〝応え合い〟、成長するチームづくりができたら、思考の幅を広げ、モチベーションを高めてくれるでしょう。何より、生涯にわたり学び続ける看護のプロフェッショナルとして、一人ひとりが考えることのできる看護師として育つことにつながることでしょう。
 ぜひ、手に取っていただき、実践に役立ててみてください。

(「訪問看護と介護」 Vol.28 No.4 掲載)

「考えさせすぎ」「教えすぎ」教育からの脱却をガイドする本
書評者:松尾 睦(青山学院大経営学部教授)

書評を見る閉じる

 経験から学ぶために欠かせないのが「経験の振り返り」であり,指導者は何らかの問いかけ(発問)によって学習者の振り返りを促す。しかし,発問だけの指導だと,学習者は自分の振り返り内容が正しかったのかどうか迷ってしまう。そこで必要なのが,適切な「応答」である。「発問」と「応答」をうまく組み合わせることが,優れた指導だといえる。しかし,教育の現場では,発問ばかりで応答が少ない「考えさせすぎ型」や,発問が少なく応答ばかりの「教えすぎ型」の指導者が多いのではないだろうか。そうした教員に対し,有益なアドバイスを与えてくれるのが本書である。以下では,「解説編」と「実践編」という二本立てで構成されている本書のエッセンスを紹介したい。

 「発問」とは,「教育的な意図を持った問いの投げかけ」であり,見るべき視点と考える枠組みを与えることで学習をガイドする働きをしている。ここで注意すべきことは,「導入」→「展開」(発散,収束,深化)→「まとめ」という授業の流れの中で,発問の仕方を変える必要があるという点である。実践編において紹介されている有効なテクニックとして「答えやすい問いでリズムをつくる」「答えやすい問いから始めて,段階的に掘り下げる」「席を外して学生に考えさせる」「学生同士で話し合うピア・ラーニングで考えさせる」「ロールプレイで考えさせて,答えを待つ」「相談スタイルの問いで一緒に悩む」といった発問を挙げることができる。

 一方,「応答」とは,「学習者からの発言や意見,考えを受け止め,それに対して指導者が反応を返すこと」であり,学習者の自己肯定感や学びへのモチベーションを高め,思考を深める役割がある。応答の基本パターンは「待つ」「聴く」「確かめる」「返す」であり,学習者の心理的安全性を高めることを意識しなければならない。実践的テクニックとして参考になったのは,「授業開始時に,教員の自己開示で興味を持たせる」「ポジティブなショートメッセージで課題にフィードバックする」「印象的なレポートを紹介する」「相手の話に興味を持ち,共感しながら聞く」「どんな返答も否定せず,いったんすべて受け止める」「自分が明確な指示を出しているかを確認する」「自分の怒りをコントロールする」といった手法である。

 「考えさせすぎ型」や「教えすぎ型」の指導から脱却したいと考える教師にとって,本書は有益なガイドとなるだろう。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。