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あせらないためのER呼吸管理トレーニング

連載 熊城 伶己

2026.03.10 医学界新聞:第3583号より

・気道緊急とはどういう状態か?
・道具が無くてもできることがある!
・エアウェイ使用時の注意点とは

 今回から数回にわたり,気道確保のお話をしていきます。気道=Airwayの異常は,救急診療の基本であるPrimary Surveyの中でも最初に対応すべきであり,1分1秒の判断を求められる緊急事態です。「挿管,人工呼吸!」と進む前に,基本事項を確認していきましょう。

 気道緊急とは,物理的もしくは機能的に気道に異常があり,急いで介入を要する状態を指します。気道は上気道と下気道に分かれますが,気道の異常で頻度が高いのは上気道閉塞です(図1)。気道異常の有無の最も簡単な評価方法は発声の可否です。問題なく発声できれば声帯を含む喉頭から口腔内までが開通していることを意味します。発声に少しでも問題がある場合には,呼気の減少または消失がないか確認するとともに,次の点を意識して身体所見をチェックします1)。重要な点として,気道の閉塞が高度になると,吸気時喘鳴(stridor)が生じるなど呼吸音が聞こえづらくなるので複数の所見を確認することが肝要です。

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図1 上気道の解剖
意識障害時には筋緊張が低下し,舌根,軟口蓋,喉頭蓋などが垂れ下がり咽頭後壁に接触することで気道を閉塞させる。

視覚情報 チアノーゼや口唇・舌の腫大といった所見のほか,口腔内に出血・分泌物・異物が見られないか確認します。奇異呼吸や陥没呼吸,呼吸補助筋の使用,気管牽引といった点にも注意が必要です。

聴覚情報 発声不良はもちろんのこと,嗄声やくぐもった声,いびき音などがないか確認します。呻吟音やstridor,ゴボゴボ・ゴロゴロ音といった,呼吸に伴う雑音も意識しましょう。ただし,雑音を含め呼吸音が何も聞こえない場合には気道の完全閉塞を示唆しますので,変な音がしないからOK, と判断しないように注意しましょう。

 気道に異常を来す原因として,物理的なものでは急性喉頭蓋炎やLudwig's anginaなどのkiller sore throatと呼ばれる感染・炎症疾患や,甲状腺・頸部・口腔内の腫瘍,あるいは出血・分泌物,食餌による窒息が挙げられます。物理的な異常に対しては異常そのものを取り除く(=口腔内吸引など),もしくは閉塞している部位を確実に開通させる(=気管挿管など)ことが必要になります。機能的な異常としては意識障害による舌根沈下などがあります。これらの気道異常に対しては頭位の調整(=用手的気道確保)や簡易的なデバイス(=経鼻・経口エアウェイ)が良い適応です。

 意識レベルが低下した際に,「舌根沈下による気道閉塞」と表現されることがよくありますが,実は舌根沈下は上気道閉塞の原因の一部でしかないとされています2)。意識障害時には筋緊張が低下し,舌根だけではなく軟口蓋や喉頭蓋なども垂れ下がり咽頭後壁に接触することで気道を閉塞させます。また咽頭全体の筋肉の弛緩や頭頸部の前屈によって,咽頭のスペースがさらに狭くなります。こうした状態にはすぐにデバイスで対応したくなってしまいますが,その前に「用手的気道確保」として自分の手だけでもできることがあります。

 代表的な方法として,一方の手を額に置き,もう一方の手で下顎の中央をクイッと持ち上げる「頭部後屈顎先挙上法」があります(図2a)。ただし,頭部後屈で上位頸椎が伸展するため,外傷など頸椎病変が疑われる場合には「下顎挙上法」を選択します(図2b)。少し開口させ,下顎枝(耳の下の窪みの部分)に指をかけ,下顎を患者前方に向かって引き上げ,下顎歯列が上顎歯列よりも前に出る(いわゆる,「アイーン」の顔)ようにします。

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図2 用手的気道確保

 そして用手的気道確保の中で最強の手段は,頭部後屈・下顎挙上・開口の3つを組み合わせた「triple airway maneuver」です(図2c)。下顎枝に第3-5指を添え,頸部を軽く後屈させた後に下顎を挙上します。このとき,第1指で患者尾側に下顎を誘導すると開口が加わります。Triple airway maneuverを実践できるか否かがバッグバルブマスクなどでの用手的換気の成否を決めますので,シミュレータなどを用いてしっかり練習しておきましょう。

 用手的気道確保の一番のメリットは,道具がなくてもいつでもどこでも行える,ということです。気道・呼吸に問題がある患者さんを見た場合には,常に「頭位・体位が適切か?」を意識したいですね。

経鼻エアウェイ(図3) 鼻腔や軟口蓋,舌根によって生じる気道閉塞を解除するためのデバイスです。咽頭後壁への刺激は少なめなので,比較的意識が良好な患者にも使用できます。頭蓋底骨折が否定できない患者では頭蓋内への迷入の可能性があり使用できません。

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図3 経鼻エアウェイ

 経鼻エアウェイのサイズは内径(mm)で規定されており,内径が大きくなるほど全長が長くなります。サイジングして鼻孔から耳たぶまでの長さに合うものを選択します。成人女性であれば内径7.0 mmを根本まで入れても問題ないケースが多いです。成人男性では内径7.0 mmでは短く不十分な場合が多いのですが,かといって8.0 mmを完全に根本まで挿入すると長すぎて喉頭蓋に接触し,閉塞を悪化させてしまう場合があるので,サイジング時の長さを参考にしながら挿入します。

 根本まで入れない場合には付属の安全ピンや可動式固定板,もしくはテープを用いて,それ以上深く入らないようにします。エアウェイは吸引経路としても用いますので,安全ピンを通す場合には吸引カテーテルが通るよう,端のほうに寄せておきます。なお,根本まで挿入せず,かつ鼻カニュラでの酸素投与を行いたい場合は余った部分をカットする必要があります。挿入時は,潤滑剤を十分つけて,エアウェイ先端縁が鼻中隔に接触しない向きで持ち,鼻腔に対して垂直に,頭蓋底に沿うことを意識しながらゆっくりと挿入します(患者頭側に立った場合,右手でエアウェイを持ち右鼻腔に挿入する)。抵抗を感じても無理に挿入してしまうと鼻出血につながります。

経口エアウェイ(図4) 主に舌根沈下による閉塞の解除に用います。咽頭反射を誘発しやすいので,反射の残っている意識レベルの患者さんに対しては禁忌です。経口エアウェイは概ね大・中・小の3サイズが展開されており,切歯から下顎角までの長さを目安にサイズ選択します。挿入の際には十分に開口させた後,舌圧子で舌を押し下げスペースを作りながら挿入し留置,もしくは経口エアウェイの先端を頭側に向けて口腔内に挿入し,途中で180度回転させて舌に添わせ留置します。どちらの方法でも良いのですが,最終的に「経口エアウェイが舌に沿って留置され,舌根を持ち上げている」という状態になることが重要です。なお,経口エアウェイには中空の単一内腔を持つGuedel型と,H字で両側に側溝を持つBerman型がありますが,使い分けはほとんどありません(気管支鏡下挿管ではBerman型のほうがちょっと良いかも,くらいです3)

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図4 経口エアウェイ

 いかがでしたか? 今回は気道の異常を認識し,用手的気道確保とエアウェイに関して取り上げました。大事な点は,用手的気道確保時でもエアウェイ使用時でも,「介入によって閉塞が改善したか?」です。経鼻エアウェイをさっと挿入して満足ではなく,挿入した結果,身体所見の異常が改善しているかを必ず確認しましょう。

・気道緊急は「発声がOKか」でスクリーニング!
・道具要らずの用手的気道確保はtriple airway maneuverを練習しよう
・エアウェイを入れっぱなしで満足しない,必ず再評価


1)集中治療医療安全協議会.FCCSプロバイダーマニュアル 第3版. 2018.
2)Br J Anaesth. 1991[PMID: 1817614]
3)Anaesthesia. 2004[PMID: 14725520]

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