医学界新聞

あせらないためのER呼吸管理トレーニング

連載 藤澤 美智子

2026.02.10 医学界新聞:第3582号より

・酸素化,換気,呼吸仕事量+忍容性ではどちらが有利?
・重症心原性肺水腫とCOPD急性増悪にはまずは○○!

 HFNCとNPPVは,低流量酸素療法(3580号,ミッション3参照)と人工呼吸管理の間に位置する非侵襲的な呼吸補助法です。2022年には在宅HFNCが診療報酬の対象となり,その使用場面は拡大しています。今回の目標は,両者の強み弱みを理解し,個々の病態やエビデンスを踏まえた上で使い分けられるようになることです。

 前回お伝えした通り,呼吸を見るときには,酸素化,換気(=CO2排出)に加えて呼吸仕事量を評価します。血液ガス測定でPaO2とPaCO2が保たれていても,その維持に多大な呼吸仕事量を必要とする場合は破綻を考慮に入れなければならないからです。それぞれの問題に対して取り得る支持的手段を見てみましょう。

酸素化の問題への介入方法

1)吸入酸素濃度(FiO2)を上げる

2)呼気終末陽圧(PEEP)を付与し,肺胞を閉じないようにする(=ガス交換できる肺胞を増やす):肺胞が水や炎症物質で満たされ含気が減る病態に特に有効です。

換気=CO2排出の問題への介入方法

1)分時換気量を増加させる:分時換気量=一回換気量(TV)×呼吸回数なので,TVか呼吸回数を増やします。

2)死腔を減らす:死腔=呼気を再呼吸するスペースのため,死腔を減らすことでCO2を排出しやすくなります。介入できる死腔の種類として,解剖学的死腔と機械的死腔があります(詳細はミッション3参照)。

呼吸仕事量の問題への介入方法

 呼吸仕事量が増大する背景には,典型的なパターンがいくつかあります。以下に例を挙げますが,いずれの状況でも陽圧補助を念頭に置きましょう。

  • ●肺や胸郭が固い,腹部臓器が肺を圧迫するなど,肺を膨らませるのに強い吸気努力や陽圧が必要な場合。
  • ●換気効率が悪く,CO2排出に普段の2~3倍の分時換気量が必要な場合。
  • ●気道狭窄や喘息発作などの気道抵抗が高く,呼吸にエネルギーが必要な場合。
  • ●慢性閉塞性肺疾患(COPD)で肺胞内の空気が呼出しきれずに残り,内因性PEEPがある場合(後述)。

 酸素化,換気,呼吸仕事量の問題に対する手段として,HFNCとNPPVが有効かどうかをにまとめました。

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表 HFNCとNPPVの比較

 HFNCは,病態改善にPEEPが重要でない低酸素や,軽度のCO2貯留・呼吸仕事量増加に対して有効です。例えば間質性肺疾患で,低酸素の程度は強いけれど,CO2や呼吸仕事量の問題は少ない患者さんなどに適しています。

 NPPVは換気補助やPEEPが重要な病態では第一選択となります。特にPEEPが重要な病態として,心原性肺水腫とCOPD急性増悪が挙げられます。

 心原性肺水腫では,①高い静水圧への拮抗,②胸腔内圧上昇によって静脈還流が減り,前負荷が軽減する,③心臓を収縮させる方向に圧をかけ,左室壁内外圧格差を下げることによって後負荷を軽減するという3つの機序によって肺水腫を改善します。

 COPD急性増悪では,息を吐き切れないことで呼気終末に肺胞の中に圧が残ります(内因性PEEP)。肺に流れる空気の量は,単純に大気と肺胞の圧勾配によって決まりますから,のように内因性PEEPが10 cmH2Oであった場合,吸気筋が働いて胸郭が広がっても大気圧の0 cmH2Oより肺胞内圧が下がるまでは肺に空気が流入しません。すなわち10→0 cmH2Oにするための仕事量が余分にかかるわけです。ここにPEEP 8 cmH2Oをかけると,肺胞内圧が8 cmH2Oを下回れば肺に空気が流入するため,吸気にかかる仕事量を軽減できます。このような働きをするPEEPを「カウンターPEEP」と呼びます。呼気終末に細気管支が早期に閉じるのを防ぐため,肺胞の中に空気が残りにくくする働きもPEEPにはあります。

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図 カウンターPEEP
PEEPにより,COPD急性増悪時の吸気努力を緩和することができる。
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 HFNCやNPPVに関する研究は,通常の酸素療法を対象群とするものが多く,HFNCとNPPVを直接比較したRCTは特定の集団に限られるものでした。2025年にJAMAに掲載されたRENOVATE trial1)は,HFNCが「無作為化から7日以内の気管挿管または死亡の複合アウトカム」についてNPPVに非劣性かどうかを検証した大規模多施設共同無作為化研究です。対象は心原性肺水腫,非免疫不全,免疫不全,COVID-19のⅠ型呼吸不全,COPD増悪による急性Ⅱ型呼吸不全の患者で,HFNCは免疫不全を除く4つのグループでNPPVに比較して非劣性であり,患者の快適性にも優れていると示されました。

 一見すると重症の心原性肺水腫でもCOPD急性増悪でもHFNCから試すべきと考えてしまいますが,いくつか気を付けなければならない点が別の論文では指摘されています2)。NPPVは二相性気道陽圧が用いられておりCPAPは使用されていない点,無作為化前にNPPVを必要とした患者は除外されている点,COPD急性増悪のサンプル数が少ない点,COPD急性増悪のHFNC群では23%がレスキューとしてNPPVの治療を受けている点,統計解析モデルの影響などの点から,重度の急性心原性肺水腫やCOPD急性増悪については,HFNCがNPPVと同等であると結論付けるには慎重さが求められています。

 重症の心原性肺水腫やCOPD急性増悪に関しては,従来通りNPPVを第一選択とし,忍容性などの問題で継続が難しい際には次善の策としてHFNCを選択することが現時点では良いと考えます。その他の病態に関しては,患者ごとに酸素化,換気,呼吸仕事量と忍容性を踏まえて判断しますが,RENOVATE trialの結果からは,著明な努力呼吸や高度の高二酸化炭素血症がない場合には,まずHFNCを試してみる選択も考えられます。NPPVでもHFNCでも,効果が得られなければ遅滞なく人工呼吸管理に移行することが重要です。

 本稿の内容を踏まえ,最後にHFNC,NPPVのERにおける初期設定の例を示します。

HFNCの初期設定例

FiO2:目標SpO2/PaO2に合わせて調整

流量:30 L~60 L/分(高いFiO2や呼吸仕事量増加時,例えば早くて大きな呼吸や呼吸補助筋の使用が見られる場合は流量を上げ,反応を評価します)

忍容性:加温加湿器は10分以上前に作動。「鼻から強い風が送られますのでびっくりしないでくださいね」と事前に説明し,顔で風の強さを感じてもらってから装着しましょう。20 L/分など低流量から開始し,段階的に増量します。

NPPVの初期設定例

FiO2:目標SpO2/PaO2に合わせて調整

換気モード:CO2貯留や仕事量増加がなければCPAP(5~10 cmH2O),あれば換気補助モード(S/Tなど,EPAP 4~10,IPAP 8~15 cmH2O)

忍容性:「顔にマスクを密着させて空気を送り呼吸を助けます。びっくりしないでくださいね」と事前に説明し,顔で風の強さを感じてもらい,顔に押し当て,落ち着いたところでバンドを締めます。低圧から徐々に上げ,疼痛や褥瘡予防のため,30 L/分程度のリーク(機器差あり)を許容した緩やかなフィッティングを行います。

・選択は酸素化,換気,呼吸仕事量のどこをサポートしたいか+忍容性
・重症心原性肺水腫とCOPD急性増悪はNPPVから!


1)JAMA. 2025[PMID:39657981]
2)J Thorac Dis. 2025[PMID:40950885]

横浜市立みなと赤十字病院周術期集中治療部 部長

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