• HOME
  • 医学界新聞
  • 記事一覧
  • 2026年
  • 新春随想2026(國土 典宏,秋山 智弥,林 玲子,酒井 郁子,石井 伊都子,石川 ベンジャミン光一,大塚 篤司,藤澤 宏幸,松本 尚,池西 静江,前田 香,井上 浩輔,田中 ひかる)

医学界新聞

  • 医学
  • 看護
  • リハ

寄稿 國土 典宏,秋山 智弥,林 玲子,酒井 郁子,石井 伊都子,石川 ベンジャミン光一,大塚 篤司,藤澤 宏幸,松本 尚,池西 静江,前田 香,井上 浩輔,田中 ひかる

2026.01.13 医学界新聞:第3581号より

3581_0715.png

▼ 目次

JIHS設立2年目を迎えて 1+1が2より大きくなるために  國土 典宏(国立健康危機管理研究機構 理事長)
ウェルビーイングの実現をめざして  秋山 智弥(日本看護協会 会長)
人口政策をめぐる議論  林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所 所長)
誰のための高度実践看護か 学術的基盤から制度の未来を考える  酒井 郁子(千葉大学大学院看護学研究院高度実践看護学講座 教授 / 公益社団法人日本看護科学学会 理事長)
創薬推進の基盤形成強化 人材育成の観点から  石井 伊都子(日本薬学会 会頭 / 千葉大学医学部附属病院薬剤部 教授・部長)
2040年に向けた医療機関の生存戦略  石川 ベンジャミン光一(国際医療福祉大学赤坂心理・医療福祉マネジメント学部医療マネジメント学科 教授)
AIが加速する未来に,医療者はどう向き合うか  大塚 篤司(近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授)
“入り口”から先のデジタル化へ 医療DXの展望  松本 尚(デジタル大臣 / 日本医科大学 特任教授)
地域医療を守るために,看護教育に求められる変化  池西 静江(Office Kyo-Shien 代表 / 鹿児島医療技術専門学校 学科顧問)
2040年を見据えた保健師活動のあり方  前田 香(全国保健師長会 会長)
個別化医療を問い直す  井上 浩輔(京都大学大学院医学研究科健康増進・行動学分野 教授)
朝ドラ『風,薫る』よ,看護師さんたちへのエールとなれ  田中 ひかる(歴史社会学者・作家)
3581_0702.png

国立健康危機管理研究機構 理事長

 2025年4月1日,国立感染症研究所と国立国際医療研究センターが統合し,「国立健康危機管理研究機構(JIHS)」が設立されました。この組織統合は,新型コロナウイルス感染症への対応から得た多くの教訓と反省を踏まえ,わが国の健康危機管理体制をより強固で実効性のあるものに再構築するための大きな一歩となるものです。さらに感染症という枠にとどまらず,あらゆる健康危機への対応力を高めるべく設立されたJIHSは,DMAT事務局も加わり社会の期待と責任の重さを深く受け止めながら活動を始めました。JIHSの機能は,次に示すように大きく4つあります。

①情報収集・分析・リスク評価機能
 サーベイランスや情報収集・分析の実施,国内外の関係機関との協働・連携により,感染症インテリジェンスにおけるハブとしての役割を担います。科学的知見を政府に迅速に提供するとともに,国民にわかりやすく情報提供します。

②研究・開発機能
 平時より世界トップレベルの研究体制を確保し,基礎研究,シーズ開発から臨床試験まで戦略的に進められる組織をめざします。感染症危機の際には国内外の機関等と連携し,臨床試験を含め研究開発のネットワークハブとして迅速に対応します。

③臨床機能
 感染症危機にJIHSの持つ機能を十分に発揮するには高度な臨床能力が不可欠です。そのため国立国際医療研究センターが担ってきた総合病院機能を引き続き備え,さらに高めていくことをめざします。

④人材育成・国際協力機能
 産官学連携や国際的な人事交流などを通して,医療従事者・研究者・公衆衛生実務者など多様な専門家の育成・確保に努めます。また,グローバルヘルスに貢献する国際協力をさらに進めます。

 母体となった国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの本部は,東京都新宿区戸山において30年以上にわたり隣接しており,新型コロナウイルスや薬剤耐性菌など,さまざまな研究や事業でこれまでも連携をしてきました。統合を機に,基礎,臨床,創薬,そして公衆衛生対応を含めた「感染症総合サイエンスセンター」をめざすことになります。国立感染症研究所にはほぼ全ての病原体をカバーする基礎研究所と,全国84か所の地方衛生研究所,460を超える保健所との情報ネットワークがあり,国立国際医療研究センターには総合病院機能と新型コロナ対応を通じて培ってきた全国の病院とのネットワークがあります。設立2年目の今年は,これをさらに強化して組織融合を進め,シナジー効果を発揮し,次に来るかもしれないパンデミックや災害に備えたいと思います。

3581_0703.png

日本看護協会 会長

 2026年の年頭にあたり,謹んで新年のごあいさつを申し上げます。

 昨年6月に日本看護協会会長に就任して以来,慌ただしくも充実した半年を過ごしてまいりました。目まぐるしい日々ですが,社会から看護に寄せられる期待の大きさ,そして人々の健康と療養をさまざまな場で支える看護職の実践に触れるたび,看護職の一人であることを改めて誇りに感じています。それぞれの現場で看護職が力を十分に発揮できるよう,この一年も一層気を引き締めて職責を果たしていきたいと存じます。

 日本看護協会では昨年,「看護の将来ビジョン2040~いのち・暮らし・尊厳をまもり支える看護~」を公表しました。急速な高齢化と現役世代・担い手の減少が同時に進み,またAI・デジタル技術が加速度的に発展するなど,社会が大きな転換期を迎える2040年。その時に向けて本ビジョンでは,人々の生涯にわたり,どのような健康状態にあってもその人らしく生きることを支えるという看護の本質的な使命を再確認しています。

 医療提供体制の基盤は「人」であり,より良い医療・看護が確実に提供されるには,現場で働く一人ひとりが健康でやりがいを持って長く働き続けられることが何よりも大切です。このたびのビジョンでも看護職一人ひとりの「ウェルビーイングの重要性」を打ち出していますが,これはあらゆる職種にも言えることです。日本看護協会は,皆がウェルビーイングな状態で働ける職場環境の実現をめざすとともに,看護という職業に魅力を感じ,将来の担い手となる若い世代が一人でも増えていくよう看護の価値を高める取り組みを一層進めてまいります。

 長引く物価上昇に伴う医療機関の経営悪化や,他産業との賃金格差拡大など,昨年はさまざまな課題が一気に深刻化し,医療界が危機的な状況に直面した一年でもありました。本会をはじめ関係団体が一丸となって現場の窮状を強く訴え,昨年11月には政府の総合経済対策が示されるなど医療機関の経営改善や処遇改善に向けた一歩を進めることができましたが,まだまだ道半ばです。引き続き抜本的な改善に向けてともに取り組んでまいりましょう。

 本年が皆さまにとりまして健やかで実り多く,希望に満ちた一年となることを心より祈念申し上げ,新年のごあいさつとさせていただきます。

3581_0704.png

国立社会保障・人口問題研究所 所長

 1941年3月,政府は「人口政策確立要綱」を閣議決定した。2026年から遡ること85年である。この人口政策は,設立直後の人口問題研究所(国立社会保障・人口問題研究所の前身)が1940年に第一次案を作成したものであるが,その後大きく内容が変わり,翌年の閣議決定に至っている。その間に付け加えられた内容は,①「個人を基礎とする世界観を排して家と民族とを基礎とする世界観の確立」といった理念,②結婚年齢を3年早め,一夫婦の出生数を平均5児とするという数値目標,③20歳以上女子の就業を抑制することなどである。いわゆる「産めよ増やせよ」という文言は政策文書には入っていないものの,まさにそのような出生増強政策であった。

 戦後はベビーブームを経て優生保護法の施行と相次ぐ改正により人工妊娠中絶が経済的理由による実施まで許容されたため,出生率は大きく低下した。その後は民間団体を通じて家族計画も広がりを見せ,1956年には早くも当時の置き換え水準2.24を下回る合計特殊出生率となった。その時点で,少なくとも人口研究者の中では日本の出生率の低さへの認識がすでにあったものの,出生率を上げるための政策は戦前の「人口政策」を想起させるために忌避感が強く,実施には至らなかった。例えば1972年に創設された児童手当の立案議論時にも「児童手当は人口政策ではない」と重ねて強調されていたのである。その頃より出生率は継続的に下がり続けていたが,それに対する施策は1990年の「1.57ショック」を待たねばならなかった。戦時中の全体主義的な「人口政策」が,その後の政策対応を遅らせたわけである。

 戦後80年が経過した昨年,「人口政策確立要綱」を彷彿とさせる発言が公に行われるようになった。過去の記憶は薄れ,戦争を知らない世代が人口の8割近くとなったことが一つの理由だが,忘れてはいけないことは多くある。個人の自由な生き方を制限するような「人口政策確立要綱」を超えて,人々の能力を高め社会の活力をもたらすような新たな人口政策を模索しなければならないだろう。

3581_0705.png

千葉大学大学院看護学研究院高度実践看護学講座 教授
公益社団法人日本看護科学学会 理事長

 日本では高度実践看護(Advanced Practice Nursing:APN)がいまだ制度として確立していない現状を踏まえた上で,その意義について改めて考えたいと思います。特定行為研修制度がAPNの一部役割を担っている側面はありますが,国際的に定義されているAPNの包括的実践能力を体系的に保証する枠組みには至っていません。したがって日本の議論は,「既存制度の改善」ではなく,制度そのものの設計段階にあると言えます。

 制度設計の議論が加速すると,APNのアイデンティティーの確立と職種間調整に焦点が当たりがちですが,原点は「APN制度は誰のために,何をめざすのか」との問いにあります。APN制度は看護職のためではなく,国民の健康を守り生活の質を高めるために存在すると考えます。

 日本ではすでに特定行為研修修了者が1万人以上活躍しています。特定行為研修制度は,標準化された手順を確かな病態理解や臨床推論に基づいて安全に実施できる看護師を育成する仕組みであり,急性期医療や在宅医療で大きな役割を果たしています。一方APNは,個別の医行為遂行を超えて,高度な臨床判断,複雑事例のケア統合,患者の価値観を踏まえた意思決定支援,さらに医療システムの改善に向けたリーダーシップなど,より包括的な実践能力を前提とします。両者は優劣ではなく補完関係にあり,特定行為が「手順の確実な実施」を軸とするのに対し,APNは「状況に応じた統合的判断と組織的変革」が中心となります。

 この違いを踏まえると,看護職のキャリアパスを多層的に構築する必要があります。特に,特定行為研修修了者として実践力を高め,大学院教育で高度実践能力を養い,APNとして臨床・研究・教育・制度形成に関与するというルートは,看護職自身の成長やキャリア形成を促すことにとどまらず,国民に必要なケアを適切なレベルで届けるための社会的基盤となります。

 もっとも,日本型APNの確立には効果指標や雇用モデルの不足など課題も多く,看護単独で解決できるものではありません。医療全体の将来像にかかわる問題であり,多職種・他団体,さらには患者や当事者を含めた議論が不可欠です。

 このとき,日本看護科学学会(JANS)が果たすべき役割は,制度設計自体への貢献ではなく,①APNの実践効果と安全性に関する科学的根拠の創出,②国際的知見に基づく概念整理,③専門職が議論できる学術的プラットフォームの形成という“学術的基盤”を提供することにあると考えます。このように制度設計の基盤となる知を整えることが,学術団体としての責務でしょう。

 さらに,APN制度の議論は一団体では担えません。看護系学会群が知のイニシアチブをとりつつ,日本看護系大学協議会,日本看護系学会協議会,日本看護協会,そしてJANSが,それぞれの役割を担いつつ緊密に協働すること,加えて医学系学会や関連領域とも建設的に連携し,多様な職種が新たな働き方をともに創り上げることで,初めて国民にとって意味ある制度となります。

 制度のための制度ではなく,国民の生活と尊厳を支える制度へ。その原点に立ち返りながら,できることを丁寧に積み重ねていきたいと思います。2026年が,関係団体とともに未来を整えていく一歩となれば幸いです。

3581_0707.png

日本薬学会 会頭
千葉大学医学部附属病院薬剤部 教授・部長

 人が今日の繁栄を築くことができた理由の一つに薬の存在がある。その証拠に,有史以降多くの国の史料には必ず薬のことが記されている。グローバル化が進み人の往来がこれだけ進んだ今日に,こともあろうか,先進国に位置付けられる本邦において未承認の医薬品が多数存在する。また,仮に承認されていても,供給不足により患者に最も適した薬を供給できないなど,これまで考えもしなかった事態が常態化している。

 このような問題を抱えたまま,団塊の世代の全員が後期高齢者となり超高齢社会に移行する節目であった2025年が閉じた。今後は高齢者人口が最大の約4000万人に達するとされる2040年問題への対応が求められている。政府が「経済財政運営と改革の基本方針 2025(骨太の方針)」において創薬を重点項目としたことはうれしい話ではあるが,創薬推進の基盤形成に向け,薬学を専門とするわれわれには何ができるだろうか。

 日本薬学会は,「くすり」に関係する研究者や技術者が,学術上の情報交換を行い,学術文化の発展を目的とする学術団体である。その守備範囲は広く,創薬に位置付けられる原薬探索から非臨床試験,臨床試験,さらに育薬と称される承認後の多様な患者への使用による評価や実臨床における新しいエビデンスの創出までを担う。専門性に多少分布の偏りがあるものの,アカデミア,製薬,行政が一体となって「くすり」の誕生と成長のために議論の場を提供している。

 教育に目を向けると,薬学部の学生や大学院生は研究を行いながら,発疑力や論理的思考を身につけている。科学的知識だけでなく医療や薬事に関する法律も学ぶため,各々が専門とする分野で創薬に貢献できると考える。しかし現在の若者たちに目を向けてみると,失われた20年と指摘された頃から彼らは将来に夢や希望を見だしていないように感じる。贅沢は望まず手の届く範囲のもので済ますといった習慣がつき,ないものはないということを受け入れ,その中で自分の幸せを最大限見つけようとしている。

 薬学部教育に対しては,20年前に6年制が導入されたことで教育内容が臨床に偏り,創薬にかかわる人材が減少していることも指摘されてきた。臨床の実態を学習し,患者の薬物治療を助けることをやりがいとして臨床現場に職を求めるのはとても重要である。しかし,そこで立ち止まってはいけない。その先をもう一歩踏みだせる人材,すなわち臨床を経験したからこそ患者のニーズが理解でき,創薬へと踏み出せるマインドを誰もが持ってほしい。その一歩を踏み出すエネルギーは利他的思考や責任感であり,それらが次の夢や希望を生み出す。

 無いものを産み出すことが研究である。知らないことが明らかになるのが研究である。日本薬学会として,若者の背中を押し,次の一日が踏み出せるよう,議論の場を提供し続けたい。

3581_0706.png

国際医療福祉大学赤坂心理・医療福祉マネジメント学部医療マネジメント学科 教授

 長らく増加し続けてきた日本の人口が2005年に初めて減少に転じてから約20年が過ぎた。これまでに減った人口は約380万人(約3%),2040年に向けてはさらに10...

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。