医学界新聞

対談・座談会 竹林 崇,杉本 菜摘,鍋岡 奏汰

2026.02.10 医学界新聞:第3582号より

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 療法士にとって,担当する対象者の疾患や障害の予後をできるだけ正確に予測し,自らの臨床に生かす能力は強力な武器になります。しかし,予後予測の重要性をわかっていても,正しい学習の仕方がわからない若手の方も多いのではないでしょうか。今回は,『PT・OT・STのための臨床5年目までに知っておきたい予後予測の考えかた』『予後予測って結局どう勉強するのが正解なんですか?』(いずれも医学書院)の編者である竹林崇氏を迎え,臨床1年目の新人療法士2人と共に予後予測の意義や日々の学習法,そして療法士としてキャリアを歩む上で大切な価値観まで,ざっくばらんに話してもらいました。

竹林 今日は療法士として働き始めて間もなく1年を迎えるお二人にお集まりいただきました。新人療法士の立場で感じる臨床の疑問から自己研鑽における悩みまで,幅広くお話しできればと思います。 よろしくお願いします。

竹林 もう20年ほど前になりますが,私自身の1年目は正直に言って,「もう辞めたい」と毎日思うほど多忙でした。当時と今では環境がだいぶ違うとは思いますが,お二人は実際に臨床現場で働き始めてみてどうですか。疲れていますか(笑)。

鍋岡 そうですね……。はじめは右も左もわからず,目の前の業務をこなすだけで精一杯でした。精神的な余裕もほとんどなく,モチベーションを維持するのも難しかったです。学生時代は自分から学会に行くなど活動的だったのですが,環境の変化と忙しさで,気づけば一日が終わっているような感覚が半年ほどは続きました。私は病院勤務と並行して大学院にも通っているのですが,入職してすぐの頃は疲れすぎて講義に参加できないことも何度かありました。

杉本 私は新しい環境や人に慣れるのに時間がかかるタイプなので,最初は仕事の大変さを感じる以前に,気疲れのほうが大きかったです。職員の方や他の療法士の方,そして対象者との関係性が少しずつできて,自分からコミュニケーションを取れるようになるまでに時間がかかりました。ただ,上司が診療中にさりげなく助け舟を出してくれたり,アドバイスをくれたりする環境には非常に救われています。最近はようやく業務にも慣れ,自分の勉強時間を少しずつ確保できるようになってきました。

竹林 担当対象者を持ち始める時期になると,今度は臨床特有の難しさに直面するかと思います。お二人が担当を持ち始めたのはいつ頃ですか?

杉本 私は入職して2,3か月が経過したタイミングです。一人の対象者を集中的に担当する形でスタートしました。

鍋岡 私も同じくらいの時期から,同様に一人の対象者を受け持つようになりました。担当を持ってみて痛感したのは,目標設定と情報共有の難しさです。大学では「麻痺があるからこうアプローチする」といった機能的なことは習いますが,実際に対象者とどうやって一緒に目標を設定して,どういう言葉がけをすればいいのか。何をどこまで,どのように伝えるのがベストなのか。そういった部分でなかなか答えが出ずに苦しみました。

杉本 わかります。いざ対象者と相対すると,専門的な知識や技術があるだけでは不十分で,「それをどう生活に落とし込むのか」という思考力が試されていると感じました。

竹林 重要なポイントですね。私たちは医学的な知識を持って対象者にかかわりますが,同時に療法士は「自分が全く知らない生活をしている他者」と深くかかわる仕事とも言えます。医師や看護師も対象者の情報を持っていますが,24時間の生活の細部や,1か月,1年というスパンでの過ごし方まで深く入り込むのは,リハビリテーションならではの特徴です。だからこそ,「健康のために」「予後のために」といった正論的な考え方にとらわれず,対象者の価値観や生活環境,バックグラウンドを知り,その人に届く言葉を探す必要があります。これは経験が必要なスキルですが,将来どのようなフィールドに進むとしても,多様な他者を深く理解した経験は必ず役立ちます。今は試行錯誤の連続だと思いますが,まだまだ悩み続けて良い時期だと思います。

竹林 療法士にとって重要な臨床スキルの1つに,「予後予測」があります。若手の方々にぜひその意義を理解し活用してほしいとの思いから,疾患・障害に対するアウトカムや予後予測の方法をまとめたのが2023年発行の拙著『臨床5年目までに知っておきたい予後予測の考えかた』です。しかし専門書としては少し難解だという声もいただき,若手の皆さんに届くよう初学者向けのエッセンスをより詰め込んだのが,このたび上梓した『予後予測って結局どう勉強するのが正解なんですか?』です。そもそもですが予後予測に対して,お二人はどんなイメージを持っていますか。

杉本 とにかくハイレベルな臨床スキルというイメージです。学生時代は臨床実習のレポート作成時に多少勉強した程度でほとんど触れる機会がなく,臨床に出てからようやくその重要性に気づき,学びたいと思うようになりました。今は画像の読み取りや目の前の対象者の状態を評価するだけでも精一杯なので,予後予測にチャレンジはしてみるものの,自分の見立てに自信が持てないのが正直なところです。

鍋岡 予後予測を知ったのは学生時代,それこそ竹林先生の書籍がきっかけでした。そのときは臨床の経験が全くなかったこともあり,非常に難解に感じたことを覚えています。最近は臨床業務にようやく慣れてきて少しずつ意識する機会が増えましたが,まだまだ経験も勉強も足りないと感じます。

竹林 お二人だけでなく,恐らく多くの新人療法士が同じ印象を持っているのでしょう。予後予測は「将来的にどれくらいの確度で,どこまで回復するか」を見立てる作業と表現できます。10年,20年と経験を積んだ熟練の療法士が経験則で導く予後予測の精度は非常に高く,経験の少ない若手は,自分にはまだできないと思ってしまう部分もあるでしょう。しかしベテラン療法士の予後予測における思考を冷静に分析してみると,彼らは何千人という対象者を見てきた経験をもとに,予後に影響するさまざまな変数を特定する,今でいう機械学習や決定木分析に近い考え方をしているのです。確かにその域に達するには時間がかかりますが,予後予測の研究やツールは,その経験年数の差を埋めるためにあるとも考えられます。ですから若手の皆さんには経験の少なさに臆することなく,自信を持って予後予測を行えるよう研鑽を積んでほしいとの思いがあります。

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鍋岡 予後予測に関連した悩みとして,臨床では対象者やご家族からたびたび「良くなりますか?」「元通り歩けるようになりますか?」と質問を受けるのですが,いつも答えに窮してしまいます。たとえ自分なりに予後予測をしたとしても,基本的には「主治医に聞いてみてください」と返しています。ですがご家族からは本当に心配な思いも伝わってくる分,あいまいな返答をすることに罪悪感もあります。

竹林 非常に難しい問題ですね。まず大前提として,私たち療法士には診断権がないので,断定的な予後宣告は医師法に抵触する可能性があることに注意しなくてはなりません。ですから主治医への確認を促すのが最も無難ではあるでしょう。一方で鍋岡さんが抱くような葛藤もよく理解できます。過去のデータや同様の症例を示しつつ,「一緒に最善の方法を探しましょう」のようにプロセスに焦点を当てた伝え方をするのも1つの手です。0か100かの答えは時に毒にも薬にもなるので,曖昧にしておくことも一つの優しさと言えます。大切なのは予後の見立てを伝えることではなく,改善に向けて具体的に自分がどのように介入していくかを理解してもらうことです。

杉本 私も鍋岡さんと同じ悩みを感じていたので,曖昧にしておくことが優しさであるとの視点にハッとしました。

竹林 予後予測はあくまで研究データに基づいた確率論に過ぎず,対象者に未来を宣告するためのものでもありません。ではその意義はなんなのかというと,「自分自身の臨床の最低ラインを知るための基準」というのが私なりの答えです。統計的にこれくらい改善する確率が高いというラインがわかれば,最低限の到達目標になります。もしそこに届かなければ「何かがおかしいのではないか」「アプローチが間違っているのではないか」と疑い,先輩に相談したり調べたりするきっかけになります。逆に,「8割の確率で予後が改善しないから,この機能訓練はやめてADL練習に切り替える」といった使い方は,私は怖くてできません。自分が介入しなかったことで,その対象者が「良くなる可能性があった2割」に入るチャンスを潰してしまうかもしれないからです。あくまで自分への戒めや,パフォーマンスの最低ラインを担保するためのツールとして使ってもらいたいです。

杉本 お話を伺っていて,予後予測のスキルも考え方も,自分自身の臨床に生きる部分が多いと感じています。私たちのように経験の浅い療法士が自力で予後予測を習得する場合,どのような方法が効果的なのでしょう。

竹林 まずは書籍や論文などを参考に,自分の専門領域において信頼できる予測法を3つほど持っておくことをお勧めします。急性期の3日間で使える予測法や回復期に入ってからフィットする予測法をいくつかピックアップしてルーティン的に活用していくだけでも,アプローチの質は安定します。最初の段階では,統計学の細部まで理解する必要はありません。「この条件なら何割の確率でこうなる」というライトな理解で十分です。もちろん,ルーティン的に用いる予測法についても最新の知見は自分でアップデートしていく必要があります。普段はどうやって文献を調べていますか?

杉本 PubMedを主に使っています。英語論文を読むのに時間はかかりますが,先輩に聞いたりAIなどのツールを活用したりしながらなんとか理解しています。

竹林 素晴らしいですね。今はテクノロジーの進化のおかげで海外の文献を読むハードルが限りなく低くなったので,英語だからと敬遠せずに,世界中の知見にどんどんアクセスしてほしいです。今後は仕事での責任が増したり自身のライフステージが変化したりと,さまざま事情で思うように自分の時間を確保できなくなることもあるでしょう。だからこそ比較的自由が利く今のうちに,自分の核となる学習習慣やコミュニティを作っておくことが重要です。今はやるもやらぬも自分次第の時代になりました。自律的に学ぶには,同じような志を持つ仲間がいるコミュニティに身を置くことが一番の近道です。

鍋岡 なかなかそういうコミュニティが見つからない場合もあると思います。そのときはどうすればいいでしょうか。

竹林 まずは都道府県作業(理学)療法士会や協会の活動に参加し地域の熱心な人とつながってみましょう。また,SNSを活用して興味のある分野の先生にコンタクトを取ってみるのも一つの手です。院内の勉強会でも学会でも,SNSでもいいので,自分が「頑張ろう」と思える環境を自ら選び取ってください。

竹林 少しずつ業務に慣れてきたことで,療法士としての目標やキャリアについて考える時間も出てくることかと思います。例えば臨床5年目までに,お二人はどのような療法士になっていたいと考えていますか。

鍋岡 技術的な向上はもちろんですが,対象者一人ひとりの生活に対する解像度を上げ,経験や知識を自身の臨床に反映できるようになりたいです。また,自分が普段感じている悩みや苦しさは自分だけのものだと思っていましたが,今日のお話を聞いて,誰もが通る道なのだと安心した部分もあります。後輩ができた時は,その悩みに寄り添える先輩でありたいですし,対象者の生活だけでなく,同僚にもプラスの働きかけができるような療法士になりたいと思います。

杉本 先輩方が普段から自分にそうしてくれているように,後輩に対して自分の言葉で知識や経験を伝えることができるようになりたいです。今は目の前のことに精一杯ですが,経験を積む中では悪い意味での慣れも出てきてしまうと思います。自身の成長のためにも,恵まれた環境に感謝しつつ新しいことにチャレンジする気持ちも大切にしていたいです。

竹林 ぜひ,その「なりたい自分像」を言葉にし続けてください。解像度は粗くても構いません。「こういうことがしたい」「こうなりたい」と口に出していると,不思議と情報や機会が集まってきます。

 これからの時代,病院の中だけで完結するキャリアは減っていくかもしれません。行政や企業,まちづくりなど,医療の枠にとらわれない形で療法士の視点を生かす人材がますます求められていくはずです。臨床で培った「生活を見る目」を持って,社会のさまざまな場所に飛び出していってください。

(了)


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大阪公立大学医学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 教授

2003年川崎医療福祉大医療技術学部卒。同年より兵庫医大病院リハビリテーション部に勤務。18年兵庫医大大学院修了。博士(医学)。22年より現職。『作業で紡ぐ上肢機能アプローチ』『PT・OT・STのための臨床5年目までに知っておきたい予後予測の考えかた』『予後予測って結局どう勉強するのが正解なんですか?』(いずれも医学書院)など編著書多数。脳卒中後の上肢麻痺の回復に対するロボット療法などのリハビリテーションアプローチに関するエビデンス構築を目的とした研究を行う。
X ID:@takshi_77

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伊丹恒生脳神経外科病院 リハビリテーション部 / 作業療法士

2025年大阪府立大地域保健学域卒。在学時の専門は作業療法学。同年4月より伊丹恒生脳神経外科病院にて勤務開始・大阪公立大大学院入学。現在は主に急性期・回復期のリハビリテーションに携わる。

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奈良東病院リハビリテーション科 / 理学療法士

2025年畿央大健康科学部卒。在学時の専門はニューロリハビリテーション。同年4月より奈良東病院にて勤務開始。現在は回復期のリハビリテーションに携わる。

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