医学研究のための
因果推論レクチャー

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『週刊医学界新聞』の好評連載に大幅加筆をして待望の書籍化! 原因と結果との関係を統計学的に推定するデータサイエンスの手法である因果推論を、医学研究にどう用いればよいのか。本書では、因果推論のアプローチを、研究の「問い」に応じた手法ごとに解説。適切なリサーチクエスチョンを立て、実現可能性の高いデータソースを探し、因果推論を研究に適用するための実践的なプロセスを示す。入門者からステップアップを図りたい方まで幅広く活用できる1冊。

井上 浩輔 / 杉山 雄大 / 後藤 温
発行 2024年03月判型:A5頁:192
ISBN 978-4-260-05375-4
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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書籍刊行を記念にして開催された医学界新聞の座談会も併せてご覧ください。
因果推論を学びたどり着きたい「ふむふむの境地」」(後藤温,杉山雄大,井上浩輔)

  • 正誤表を掲載しました。

    2024.04.09

  • 序文
  • 目次
  • 書評
  • 付録・特典
  • 正誤表

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 本書を執筆する3人は,国立国際医療研究センター病院などの高度急性期病院において,内科・内分泌代謝科でのトレーニングを受けた医師です.私たちは国内での研修を終えたのち,米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の公衆衛生大学院に留学し,因果推論の第一人者であるSander Greenland博士やJudea Pearl博士から直接学ぶ機会を得ました.かつて因果推論は敷居の高い学問だと思い苦手意識を持っていた私たちは,今では尻込みすることなく,かといって因果関係を言い過ぎないように気を付けつつ,研究を楽しく行っています.このように因果推論を身近に感じる研究者が増えることを願い,本書を執筆しました.
 さて皆さんは,どのようなことを考え診療に当たっているでしょうか.目の前の患者さんのケアを最大限に行おうと仕事をしている医療者の方は,次のように考えているのではないでしょうか.
例えば,
「もし,もっと早くリハビリテーションを行えば,職場に復帰できていたのではないか」
「ある治療を行わなかったけれども,あのときにその治療をしていたら,病気が良くなっていたのではないか」
「入院治療で重症化は防げたけれど,あのとき入院していなかったら重症化していたのではないか」
などです.これは実際に起こったことと起こらなかったことを反事実的に考えていると言えます.詳しくは本書の「第4章 そもそも因果推論とは何か?」で説明しますが,このような思考を反事実的思考(counterfactual thinking)と呼び,因果推論の肝となります.
 つまり私たちは,治療や介入について因果推論を行い,患者さんに適用できるかどうかを日々検討しているわけです.
 同じような思考は,実は日常生活でも行われています.
「テーマパークに車で行ったら渋滞でパレードに間に合わなかった.もし電車で行っていたら間に合っていたかもしれない」
「今日は晴れて花粉が多いので外出の前に薬を飲んでおいてよかった.もし飲んでいなかったらくしゃみが止まらず大変なことになったかもしれない」
「昨日食べたチャーハンがあまりおいしくなかったのは,卵が少なかったからだろう,次に作るときは卵を1個多くしよう」
など,これらは反事実的思考の例といえます.

 医学研究における因果推論と聞くと難しく感じるかもしれません.しかし,反事実的思考により興味のある集団が仮に曝露されたとき(または曝露されなかったとき)に,観測されたであろうアウトカムについてデータを用いて推測するアプローチだとわかれば,因果推論をイメージしやすくなるのではないでしょうか.
 ランダム化比較試験は曝露や介入をランダムに割り付けるため,曝露や介入の効果に関する因果推論を行いやすい研究デザインです.しかし,ランダム化比較試験を行わないと因果推論が行えないかというと,必ずしもそうではありません.むしろ観察研究のデータ解析においても,因果推論を適切に応用することでその威力は遺憾なく発揮されます.因果推論はこのように,現状を解釈して今後に活かすために,医学研究において重要な役割を果たしています.

 さて本書は,週刊医学界新聞の連載(全14回)に,書き下ろし原稿や最新の研究動向を新たに加えるなど,内容を大幅にアップデートしてまとめたものです.
 読者は次のような方を想定しています.因果推論の言葉や手法は聞いたことがあるけれど,どのようなものかわからない方,疫学や統計の入門書を読んでみたものの実際の研究はハードルが高いと感じている方,あるいは大学院や研究室などで因果推論の勉強をしていて最新のトピックを知りたい方などです.因果推論の入口に立ったばかりの方から因果推論を用いたワンランク上の研究をめざす方まで,幅広い読者に届くようまとめています.

 本書の執筆に当たっては,多くの方のサポートをいただきました.植田真一郎先生(琉球大学/横浜市立大学)は,週刊医学界新聞での連載の後押しとエールを送ってくださいました.
 また,因果推論や疫学の領域でご活躍する多くの先生方からご助言を賜りました.週刊医学界新聞の連載中は,久保田潔先生(日本医薬品安全性研究ユニット),鈴木越治先生(岡山大学),田栗正隆先生(東京医科大学),篠崎智大先生(東京理科大学),芝孝一郎先生(米ボストン大学),今井健二郎先生(国立国際医療研究センター)から示唆に富むフィードバックをいただきました.
 本書の執筆に際しては,田中司朗先生(京都大学),岩上将夫先生(筑波大学),竹内由則先生(横浜市立大学),中山泉先生(同),川原拓也先生(東京大学)から貴重なアドバイスをいただきました.先生方からの的確なご助言により,原稿をブラッシュアップできました.この場をお借りして心より御礼申し上げます.
 週刊医学界新聞の連載時から書籍の完成まで担当してくださった医学書院の高梨朋哉さん,制作担当の平田里枝子さんに深く感謝いたします.

 最後になりますが,本書を通じて1人でも多くの方と因果推論を学ぶ楽しさを分かち合い,「ふむふむ」とデータを眺めながら因果推論を行い,また因果推論の考え方をもとにエビデンスを吟味する仲間が増えることを祈っています.

 2024年3月
 井上浩輔,杉山雄大,後藤 温

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総論
 第1章 因果推論で医学研究を身近で素敵なものに!
 第2章 因果推論を行うためのステップ
 第3章 介入研究と観察研究から因果効果を考える
 第4章 そもそも因果推論とは何か?
 第5章 因果推論にDAGを活用する

各論1 因果効果を推定するために変数を調整する
 第6章 層別解析により因果効果を推定する
 第7章 多変量回帰モデルを因果推論に用いる
 第8章 傾向スコア分析を用いて交絡を調整する

各論2 メカニズムを解明する
 第9章 時間とともに変化する曝露を扱う
 第10章 集団ごとの効果の違いに目を向ける
 第11章 曝露がアウトカムに及ぼす影響をひもとく

各論3 バイアスを定量化し,対処する
 第12章 想定できるバイアスを定量化する
 第13章 操作変数を用いて因果効果を推定する
 第14章 集団に対する曝露・介入の効果推定

各論4 発展的な因果推論の手法を応用する
 第15章 中間因子を用いて因果効果を推定する
 第16章 機械学習を用いて因果効果を推定する
 第17章 機械学習を用いて効果の異質性を評価する
 第18章 観察研究においてRCTを模倣する

まとめ
 第19章 因果推論の理解を深め,人と社会が健康な未来の実現を

Column
 1 実現可能な研究デザインに落とし込むには
 2 因果推論を考える上で重要な3つの階層
 3 因果のパイモデル
 4 table 2 fallacy
 5 操作できない曝露の因果効果は求まるのか?
 6 Monty Hall problem

索引

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「可能性が示唆された」から脱却し,社会に適用可能な研究をめざすために
書評者:東 尚弘(東大大学院教授・公衆衛生学)

 「相関は因果ではない」とは,観察研究において言い古された戒めである。初学者は研究結果の報告において「〇〇が△△に影響」とは表現しないように言われることも多い。そのため表現は「関連があった」でとどめ,考察でそれとなく影響を論ずるという奇妙なことが起こる。研究の限界で「観察されたのは相関であって,因果を表すとは限らない」とのざんげを入れておくことで,免罪符を得るのもお約束である。さらに謙譲の美徳を追求し,結論は「可能性がある」「示唆された」を重ねて「可能性が示唆された」と独特の文学がまん延する。

 本書はこの前近代的なプラクティスを乗り越え,相関と因果の距離を縮めて,等身大の解釈を可能とするさまざまな手段を読者に提供するものである。一歩進んだ観察研究の考え方を知りたい,という人には最適の入門書と言える。

 著者らは,米国カリフォルニア大ロサンゼルス校に留学し,理論疫学,因果推論の大家であるSander Greenland博士,Judea Pearl博士から学ぶ機会を得て,正規の疫学,ヘルスサービスの課程を修了した新進気鋭の研究者である。もちろん,どこまで行っても相関から因果を確定的に結論することは不可能と認めつつも,本書で紹介されるこれらの手段で相関と因果の距離は確実に縮まると思う。

 本書では,純粋な因果推論以外にも,通常の疫学の授業では習わない一歩進んだ知識がちりばめられているのも面白い。例えば,症例対照研究について,通常の疫学の解説では累積サンプリング(Cumulative sampling)を前提としており,「オッズ比が算出され,これはリスク比と異なる」といった注意にとどまるのに対し,本書では密度サンプリング(Density Sampling)により率比が求まることなどについての言及もある。さらに,因果のパイモデルを紹介することにより,影響因子の強弱といったものが,当該因子に固有のものではなく,他の諸因子も含む状況に影響されることについても解説されている。

 興味深い良書である一方で,読者は本書に期待すべき範囲を認識しておく必要がある。本書は因果推論に関する入門書であって,詳細を習得するための成書ではない。そのため,基本を記した総論と応用を記した各論のバランスは,総論に大きく偏っていると言える。総論が非常に丁寧に論じてある一方で,各論は技法の紹介にとどまり,より詳細は成書あるいは文献で勉強する必要がある。応用事項の理解を深めることを期待して読むと,あっさりと記述されていて,「え? もう終わり?」との感想を持つかもしれない。でも,それはページ数の外観から見ても期待が過大だったためだろう。それでも応用事項への道筋はしっかりとつけてくれている。

 いいことばかりで終えては書評にならないので,あえて少し注文を挙げるとすれば,疫学用語の全てに英語の用語をつけてほしかった。定訳がない用語はもちろんそうなっているが,いくつかの和訳は定訳として日本語のみとなっていて,「ん?」と思う箇所がいくつかあった。例えばmisspecificationの訳と思われる「誤特定」を併記なく使っていたが,specificationの訳は「特定」よりも「設定」のほうがしっくりくる。また,効果の「異質性」とあったが,heterogeneityのことであれば「不均一性」のほうが正確ではないだろうか。まあこれはささいなことで,慣れてしまえば専門用語は多少不自然でも通用するが,初学者のとっつきやすさにも影響するので慎重であって良いかもしれない。

 多少の注文はあるにせよ,本書は間違いなく良書であり,私は本邦の疫学のレベルを上げてくれる書籍と期待する。「可能性が示唆された」にとどまっていては,せっかく優れた研究を残しても,現実社会に応用される道のりは遠い。それを脱却して,因果の知見を等身大に解釈し,残っている不確実性を認識しつつも研究結果が現実に役に立てるための思考を確保する。そのために必要なことを本書は教えてくれる。通り一遍の疫学に飽き足らない人,教科書を読んでその先に何があるのかを知りたい人は,手に取ってみる価値のある一冊である。


因果推論を深く学ぶ座右の書に
書評者:玉腰 暁子(北大大学院教授・公衆衛生学/日本疫学会理事長)

 近年,医学・公衆衛生学において因果推論の重要性が高まっています。因果推論によって,より適切な治療や保健指導法を選択できるようになるのはもちろん,医療資源の配分を検討する一助にもなるからです。本書『医学研究のための因果推論レクチャー』は,日本疫学会や日本公衆衛生学会でも活躍されている新進気鋭の研究者である井上浩輔先生(京大大学院特定准教授),杉山雄大先生(筑波大教授/国立国際医療研究センター研究室長),後藤温先生(横市大主任教授/日本疫学会理事)が,臨床疫学研究や疫学研究に携わる方々に向けて,因果推論の考え方と手法を解説した一冊です。

 医学研究の中でも特に治療や予後を扱う臨床研究や病因を扱う疫学研究の目的は,介入できる要因を見つけ,適切な治療法や予防法を見いだすことです。そのためには,単に統計学的な関連にとどまらず,因果にいかに迫るかが重要なのは,研究に携わる全ての研究者が認識している点でしょう。

 しかし,ランダム化比較試験(RCT)以外の研究デザインによって因果にアプローチするのは限界があると考えてしまいがちです。本書は難解に感じられる因果推論を,具体例を交えながら直観的に理解できる工夫が示されている点が特長です。序文で著者らが述べているように,因果推論を学ぶ楽しさを共有し,「ふむふむ」とデータを眺めながら因果推論を行い,その考え方をもとにエビデンスをさらに吟味する研究者が増えてほしいとの思いが本書にはあふれています。

 全19章で構成された本書は,因果推論の基本的な考え方から,DAG(Directed Acyclic Graph:非巡回有向グラフ)を用いた因果構造の可視化,交絡への対処法,メカニズム解明のための手法,機械学習を用いた因果推論など幅広いトピックを扱っており,観察型の研究でも適切に取り扱えば因果推論の手段となり得ることが示されています。統計解析を実践できるようWeb付録としてRコマンドも用意され,理解度を確認しながら読み進められるのも魅力です。とはいえ,基本的な疫学研究の知識抜きに因果推論を理解するのは困難です。また,エッセンスをぎゅっと詰め込んでいる分,詳細を別の書に譲っている面もあります。本書を座右の書として因果推論の基本を確認しつつ,必要に応じ読者自身で深く学んでいく必要もあるでしょう。

 著者らが「研究が好循環を生むには,研究チーム,さらには研究者コミュニティ全体として取り組むことが必要」と述べている通り,本書の活用によって,適切な因果推論に基づいてエビデンスを創出できる研究者が増えていくことが期待されます。医学・公衆衛生学にかかわる全ての方々に,ぜひ一読をお勧めしたい一冊です。


奥深く,魅力ある因果推論の世界へと誘う
書評者:中山 健夫(京大大学院教授・公衆衛生学・疫学/同大附属病院倫理支援部部長)

 本書の執筆者である井上浩輔先生,杉山雄大先生,後藤温先生の3先生は,人間・人間集団・社会を対象とするパブリックヘルス,ヘルスサービス,疫学の分野において,最も目覚ましい活躍をされている気鋭の医学研究者です。本書は,先生方自身の高いレベルでの研究成果に基づき,近年世界的に関心が高まっている因果推論の最前線の知見を入門から専門レベルまで解説された充実の一冊です。

 医学における因果推論は,古典的には単一病因説に始まり,多要因病因論から,1964年に米国公衆衛生総監(Surgeon General)によって取りまとめられた「喫煙と健康」報告書の5基準(一致性,強固性,特異性,時間性,整合性),1965年に英国の統計学者Bradford Hillsによる9視点(関連の強さ,一貫性,特異性,時間的先行性,生物学的勾配,可能性,合理性,実験験的証拠,類推)が示され,その後,米国の疫学者Kenneth J. Rothmanがパイモデルを提案しました。近年では,利用可能な大規模データベースの充実と,ランダム化比較試験が困難な状況での観察研究の意義が見直される流れの中で,解析手法の高度化とともに,因果推論の方法論が大きく発展しました。

 本書は総論・各論・まとめの全19章と,6つの魅力的なコラムからなります。第1章「因果推論で医学研究を身近で素敵なものに!」では次のように述べられ,読者は奥深く,魅力ある因果推論の世界に誘われます。

 「因果推論を学ぶことで,科学的な良い研究デザインの想起が可能になり,結果的に研究が『身近』になるのです。さらには,行う研究の質が高く,臨床的な示唆に富み,興味深い『素敵』なものになると期待できます」と記され,次のように締めくくられます。「観察研究のエビデンスを適切に咀嚼する穏健な姿勢」を会得し,「科学的で節度のある『ふむふむの境地』をめざして,私たちと一緒に因果推論を学んでいきましょう」。

 総論におけるDAG(非巡回有向グラフ)の活用と反事実的思考による潜在アウトカムを起点とし,各論では層別解析から多変量回帰モデル,傾向スコア分析,逆確率重み付け,G-computation,効果修飾,異質性,因果媒介分析,バイアス分析,操作変数法,メンデルランダム化,差分の差分法,分割時系列分析,回帰不連続デザイン,中間因子にかかわる一般化フロントドア基準,機械学習の応用など,意欲ある研究者が待ち望んでいた内容が網羅されています。

 まとめの第19章「因果推論の理解を深め,人と社会が健康な未来の実現を」では,因果推論がどのように医学研究に貢献し,人々の健康の向上に寄与できるかが語られています。これは,本書が単に理論の紹介だけでなく,どのように社会的課題の解決に役立てていくかを考えて続けたいとする3先生の熱意と真摯さが伝わる内容で,大いに感銘を受けました。

 1990年代の終わりに,先生方と同じ米国カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)に留学中だった評者は,刊行されたばかりのRothmanの“Modern Epidemiology”第2版(DAGはまだ記述がありませんでした)に,同書の共編者で『因果推論レクチャー』にも登場するSander Greenland教授からサインと激励のお言葉をいただいたことを懐かしく,うれしく思い出しました。

 本書は今日の医学研究者の期待に応え,さらなる高みに導く素晴らしい書籍です。多くの方々が手にされることを願い,推薦いたします。

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Web付録:Rコマンドのご案内

本書第7~9、11、12章で用いる「統計分析フリーソフト『R』」のコマンドをダウンロードしてご利用いただけます。

Rデータが文字化けする場合はこちらのPDFをダウンロードしてください。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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