医学界新聞

波形から次の一手を導き出す

対談・座談会 松永 圭司,山形 泰士

2026.02.10 医学界新聞:第3582号より

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 心電図は,異常の早期発見や病態把握のために欠かせない重要な判断材料の一つです。医療者にとって身近な検査でありながら,若手の医師や看護師の間では「波形を読むのが苦手」「臨床にどう生かせばよいのかわからない」といった声も少なくありません。このたび上梓された『マイスター直伝!「心電図」が「臨床」とつながる本』(医学書院)はその悩みに応える一冊です。

 著者である医師の松永圭司氏と,循環器専門病院での勤務経験を生かし若手の心電図教育に尽力する看護師の山形泰士氏を迎え,初学者が陥りやすい挫折のポイントや心電図を臨床判断に生かすための視点について語り合っていただきました。

松永 私が心電図に興味を持ったきっかけは,実は理屈抜きの単純な「憧れ」でした。今風に言えば「推し活」ですね。心電図の勉強会で講師を担当する際はそう表現しています。一般的に心電図の魅力として,低侵襲かつどの病院でも行える身近な検査であることがよく語られます。加えて私は「誰にでも記録できるものなのに,詳しい人が見れば膨大な情報を得られる奥深さ」に純粋に惹かれました。山形さんはなぜ心電図に興味を持ったのですか。

山形 のめり込むことになった原点は,新人時代に入職した循環器専門病院の心臓血管外科での経験にあります。そこは12誘導心電図を記録・評価することが重視されている環境で,術前と術直後,さらにはその6時間後の波形を比較して所見をまとめて報告する必要がありました。ある時,時間をかけて記載した所見を心電図に詳しい先輩に確認してもらったところ,「こんなんじゃ全然読めたことにならないよ」と突き返されました。本当に悔しくて家で泣きましたね。一方で,臨床判断に直結する患者さんの病態や心機能を波形から見抜く先輩の姿に衝撃を受け,「なぜそんなところまでわかるのか知りたい」との知的好奇心が心電図を学ぶ際の原動力になりました。

松永 波形を理解できるようになってくると,心電図を読むのがどんどん楽しくなりますよね。不整脈専門医まで取得した今では,心電図を学ぶ楽しさを多くの人に伝えたくて,勉強会の講師を務めるなど心電図の教育に力を注いでいます。

山形 チームとして継続的に質の高いケアを実践するという面でも教育が不可欠ですよね。

松永 同感です。私が教育に力を入れるもう一つの理由に,臨床現場における属人的な部分を解消したいとの思いがあります。特定の誰かがいなければ異常に気がつけない状態は,患者さんにとって決して良いことではありません。自分がいなくても,皆が心電図の波形を理解し,適切な対応ができるようになることこそが,本来あるべき姿だと考えています。

山形 私も心電図初学者の教育に講師としてかかわる機会があるのですが,真面目な看護師ほど解剖生理やNa・Caチャネルなどの基礎的な内容から学ぼうとして,その難解さ故に行き詰まってしまいます。結果,「この患者さん,危ないから心電図をつけておいて」という医師の指示を受けた際に,どんな波形に注意を払うべきかわからないままモニターを装着することになりがちです。

松永 心電図の勉強をどの内容からスタートするかは重要な観点だと思います。解剖生理といった基礎的な内容から順番に学ぶメリットは体系的に学べる点ですが,それは最後まで学習しきれることを前提とした勉強法です。山形さんがおっしゃるように多くの方はそこまでたどり着けずに挫折し,苦手意識が残ったままになります。心電図関連の書籍がいまだにたくさん出版される理由の一つにはこうした背景があるのではないでしょうか。

 一方で,「心電図が嫌い」と言っている人の中にも,できないのが嫌なだけで,実は「読めるようになりたい」との憧れを抱く方は少なくないように感じます。だからこそ,書籍『マイスター直伝! 「心電図」が「臨床」とつながる本』では完全房室ブロック(cAVB)のような臨床的にインパクトが強いものや,遭遇頻度の高いものから解説を始め,勉強した内容が臨床で生かしやすい構成にしました()。

山形 私が勉強会の講師を担当する際は網羅的・体系的に教えることが多かったので,cAVBから解説する構成は目から鱗でした。たしかに不整脈の中でも徐脈はパターンが少ないので勉強しやすいですし,臨床現場で波形を見て「これはまずい」と気づき,直観的な解釈につなげることができれば,自分の成長を認識しやすいと思います。

松永 まずは「自分でも読める」という成功体験が重要ですからね。それと,心電図の学習でつまずくもう一つのポイントとしては,教科書的な波形と現場で遭遇する波形とのギャップも挙げられます。

山形 そこは大きな壁ですね。教科書に載っている波形は典型的で読みやすいものの,実際の臨床ではノイズを含む複雑な波形が観察されるため,そのギャップに混乱する初学者は多いです。

松永 教科書用に典型的な波形を探すのが大変なほど,実際の現場は非典型の連続です。そんな時は波形を見て悩みすぎず,時間を空けて心電図をとってみて過去の波形と比べてみることが大事です。2回続けて同じ波形ならそれは実際に起こっている変化ですし,数時間後に消えていれば再現性がないことがわかります。そもそも適切に記録された波形なのか,という点は見落とされがちですが重要な観点です。悩むくらいならもう一度とればいいでしょう。

山形 同感です。その上で大切なのは非典型的な波形を一例一例振り返ること。病態も心電図の波形も患者さんによって特徴がありますから,それを経験として蓄積していく。特に症例の多い循環器専門病院だと,毎日のように胸痛患者が来て,振り返る暇もなくルーチン業務のように過ぎ去っていってしまいがちなので意識したいところですね。その場合,「この症例はどのようなことが学べるのか」という先輩からの省察を促す一言があるだけで学びの質は変わってくると思います。

松永 特に看護師は患者さんに最も近く,継続的に観察できる立場にあります。患者さんの波形や病状が1週間後にどう変わったかなど,その経過を追いかけることが心電図を読み解くプロセスや思考過程を体得することにつながります。それこそが臨床の学びです。一例一例に真剣に向き合った経験は,数年後の別の患者さんをケアする際の大きな助けになりますから。

山形 経験を蓄積することで,心電図の各波形から弁膜症の可能性を疑えたり,異常Q波を見て「以前に心筋梗塞をしたことがあるんだろうな」と気づいたりと,心電図から病歴や疾患まで見通せる面白さをぜひ知ってほしいです。

松永 ただ学習の最終的なゴールは,クイズのように波形を当てることではなく,「12誘導心電図をとりたい」と現場で自ら行動できるようになることにあります。モニター心電図は波形を観察するハードル自体は低いですが,1波形だけで判断するのはかえって難しい。1波形ではP波が見えにくいから,病状のアセスメントへとつなげるために12誘導心電図から情報がほしい――。そうした切実な必要性を自分自身で実感できるようになってもらいたいです。

山形 臨床現場で12誘導心電図をとるという行動には,高いハードルがありますよね。集中治療室では,患者さんがたくさんの医療機器に囲まれており,波形をとるには体位を調整して,ベッドをフラットにする手間もかかります。「今とらないと情報が得られないかもしれないから」と瞬時に判断できるかどうか。これだけで大きな差が生まれます。例えば12誘導心電図で2度房室ブロックなどをキャッチできれば,明日の治療方針は変わってきます。大変な手間であっても,その判断が後の治療方針を決める上での鍵となるのです。

松永 ここしかチャンスがないという瞬間に12誘導心電図をとって,病態の理解を50点から70点に引き上げられたら大きな変化です。これほどのことが現場でできるんだということを,看護師の皆さんにも実感してほしい。1波形のモニター心電図で悩むくらいなら12誘導心電図をとってみようよという空気感を院内で作っていくことが重要ですね。

山形 VT(心室頻拍)の波形も,脈があって意識があるならば,12誘導心電図をとっておこうと若手の看護師たちに常々伝えています。12誘導心電図の情報は,VTの発生場所が右室か左室かを評価する材料となり,それは治療方針を考える上で重要な判断基準となります。「今12誘導心電図をとらないと脈なしVTやVF(心室細動)になる可能性が高い」という場面で予測をしながら行動できることが,看護師のゴールの一つだと私も思います。

 また,緊急性の高い心電図であれば,最初から12個全ての誘導で評価するのではなく,四肢誘導を素早くつけて評価するような工夫も生まれますよね。心電図の異常に気づき,緊急性や重症度を解釈し,12誘導心電図を測定し,その情報を再び解釈して医師に報告する……という臨床判断の一連のプロセスを考えたときに,患者さんの病態や心電図の波形にひもづけられた緊急性の判断が1分1秒を争う現場では重要だと思います。

松永 きれいにとれたVTの波形は,その後の薬剤選択,アブレーションや植込み型除細動器の適応を考える上で有力な判断材料となり,チーム全体の医療の質を底上げします。「wide QRSを見つけたから除細動を準備しよう」とマニュアル通りに動くだけでなく,一歩先に踏み込んで波形をつかみに行ってほしいですね。

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山形 看護師による臨床判断のゴールの一つに,医師への適切な報告があると思います。松永先生は具体的にどのような内容やタイミングでの報告を期待されていますか。

松永 医師への報告に当たって第一に必要な情報が「循環動態の解釈と緊急性」であることは揺るぎません。しかし,そこで満足せずにやはりもう一歩踏み込んでほしい。看護師は,医師の前では気を張ってしまう患者さんのしんどそうな本音を聞ける立場にあります。また「波形は大したことがないように見えるけれど,なんだかいつもと表情が違ってしんどそうだ」という数値化できない直感は,患者さんの日常を観察している看護師だからこそ得られる重要なサインです。言語化しにくい重篤感を,波形と一緒に届けてもらえると,報告を受ける医師は助かります。

山形 報告の際,つい診断名を付けたくなりますが,それは看護師の本分ではありません。心拍数,QRS幅,RR間隔のどこがどう変化したのかという事実を正確に伝え,「今日は尿量が増えているから電解質の影響ではないか」といった自分なりの解釈を添えることが大切ですね。そして医師の到着を待つ間にバイタルサインや自覚症状を評価し,モニター画面に波形を並べ,血液ガスなどの採血データを準備しておく。ベッドサイドで波形の議論に熱を上げるのではなく,患者さんを置き去りにせず,医師の次のアクションを予測して迅速に動けるようになること。それこそが看護における心電図の生かし方です。

松永 波形が読めると危機感が共有できるようになり,医師と看護師が同じスピード感を持って患者さんに向き合えるのが最大のメリットですよね。

山形 心電図は多職種で患者さんの治療方針を検討する際の強力なコミュニケーションツールだととらえています。心房粗動の患者さんで,根治にはアブレーションが必要であるものの,全身状態が悪く治療に耐えられないケースに以前遭遇しました。ベストな治療が選べない中で,いかにチームで最善の治療を行うか。薬剤師も含めて心電図を確認しながら薬物調整を議論しました。また,運動負荷時の心電図を見ているリハビリ職の方々が運動時の変化に着目したことで,他の職種が気づいていなかった不整脈を発見できた事例もありました。皆が違う視点からの意見を持ち寄ることで最適な治療選択につながります。心電図という共通言語がチーム全体での質の高いケアの実現を可能にしたのだと感じています。

松永 それぞれの専門視点をつなぐのが心電図だと私も考えています。集中治療の真髄は,他臓器の状態も含め全体として「赤点を出さない」ことです。もし教科書通りの治療で事足りるのであれば,ガイドライン等をそのまま当てはめるだけでよいでしょう。しかし,私たちが現場で向き合っているのは,マニュアル通りの対応だけでは救えない複雑な患者さんたちです。正解が見えない困難な状況で議論する際,心電図という共通言語があるからこそ,職種の壁を越えて意見を出し合い,チームで方針を一つにつなげることができるのです。

山形 そのためにまず,さまざまな職種の方に心電図への興味を持ってもらいたいですね。

松永 年々受検者数が増す心電図検定など,興味を持つきっかけは何でも構いません。検定は臨床での経験の偏りを補い,広範な知識を得る絶好の機会になります。逆に臨床での疑問を検定の勉強を通じて体系化する。このWin-Winな関係のもと,幅広い職種において心電図の学習が加速すれば,多職種で連携し合う臨床の面白みがさらに増すのではと思い描いています。

松永 心電図は治療の次の一手を劇的に早めるためのツールです。読める人がチームに増えることで,急性期医療のあらゆるステップが加速し,多くの命を救うことに直結します。そんな心電図の本当の価値を,明日からの実践で皆さんにぜひ体感していただきたいです。

(了)


:『医学界新聞プラス』にて書籍の内容を一部公開中です。完全房室ブロック(cAVB)の解説は,こちらよりご覧いただけます。

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東京科学大学病院看護部 副看護師長

2005年に国際医療福祉大保健学部(当時)を卒業後,榊原記念病院に入職。ICU・CCUでの勤務を経験する。12年に集中ケア認定看護師,18年NST専門療法士を取得。その後,聖路加国際大大学院博士前期課程看護教育学専攻CNE(Clinical Nurse Educator)コースを修了し,22年より東京医歯大病院(当時)ICU/HCUへ。25年3月から同院救命救急センターに異動し臨床実践を行うほか,教育・キャリア支援室を兼任し,CNEとして看護部の教育活動に従事している。院外でも看護学生等を対象に心電図・循環器看護の講師活動を行っている。

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香川大学医学部附属病院 抗加齢血管内科 助教

京大薬学部製薬化学科(当時)を1999年に卒業し薬剤師免許を取得後,2002年に香川大医学部医学科へ入学する。08年に卒業後,同大病院にて初期研修に励み,循環器内科医の道へ。香川県立白鳥病院循環器内科等を経て,20年より現職。香川大医学部の学生を対象とした循環器疾患啓発サークルである「Kagawa Cardiac Community」の設立に携わる。日本不整脈心電学会が実施する心電図検定で1級合格者の中でも上位十数人に授与される心電図マイスターを取得。著書に『マイスター直伝! 「心電図」が「臨床」とつながる本』(医学書院)。

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