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外科研修のトリセツ

連載 畑中勇治

2025.03.24

外科研修開始からしばらく経過し,外科の働き方や雰囲気に慣れてきたハル先生。夕方に担当患者さんの経過を確認していたところ,指導医のタキ先生から声をかけられました。

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調子はどう? そういえば予定外に入った明日のラパコレ,先生にカメラ持ちをお願いしたいけど大丈夫かな?
大丈夫です! 実はまだラパコレを見たことがなくて少し心配ですが……。できるだけ頑張ります! 画像4.png
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それなら一緒に手術ビデオを見ながらラパコレの基本を確認しておく?

腹腔鏡下胆嚢摘出術の基礎知識

腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下,ラパコレ)は,主に急性胆嚢炎,慢性胆嚢炎,胆嚢結石症,胆嚢ポリープ等の疾患に行われる術式で,日本では年間に12万件以上も行われています。ただしラパコレは,がん診療を中心に行われている大学病院より,一般外科診療も含めて行われる市中病院に比較的多い術式です。そのため大学時代の病院実習ではラパコレを経験できなかった研修医の先生も大勢いるのではないでしょうか。

またラパコレは,胆嚢結石症や慢性胆嚢炎に対する予定手術として行われるだけでなく,急性胆嚢炎に対する緊急手術としても行われることがあります。ラパコレのメンバーの一員として,自信を持っていつでも参加できるよう,胆嚢周囲の解剖や手術の手順を今のうちに確認しておきましょう。

外科医の視点
急性胆嚢炎や急性胆管炎は,診断基準(表1,21)や重症度判定(表31)が診療ガイドラインで定められており,ガイドラインに基づいた診療フローチャート(図11)が存在します。特に外科研修中にかかわることの多い急性胆嚢炎については,ラパコレをいつ行うべきか治療戦略を求められることがあります。ガイドラインを一読しておくとよいでしょう。


表1 急性胆囊炎の診断基準
〔高田忠敬 編集:急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2018.医学図書出版,2018 より〕


表2 急性胆管炎の診断基準
〔高田忠敬 編集:急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2018.医学図書出版,2018 より〕


表3 急性胆囊炎・急性胆管炎の重症度判定
〔高田忠敬 編集:急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2018.医学図書出版,2018 より〕



図1 急性胆囊炎・急性胆管炎の診療フローチャート
a :急性胆囊炎の診療フローチャート。Lap-C:腹腔鏡下胆囊摘出術,PS:performance status。
b :急性胆管炎の診療フローチャート。
〔高田忠敬 編集:急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2018.医学図書出版,2018 より〕

手順① 胆嚢周囲の解剖構造の確認

腹部に合計4か所のポートを挿入し気腹をします。胆嚢周囲に操作するスペースができるように頭高位とすることが一般的です。いきなり胆嚢を切り始めるのではなく,まずは落ち着いて胆嚢周囲の解剖構造を丁寧に確認していきます。胆道損傷や動脈出血等の合併症のリスクを下げるため,Calot(カロー)三角,S4のベースライン,Rouviere(ルビエール)溝などのラパコレのランドマークとなる解剖構造(図2)を確認してから操作を始めましょう(手技動画参照)。

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図2 胆嚢解剖の基本

    手技動画:➀胆嚢周囲の解剖構造の確認~②胆嚢頸部から底部に向けた漿膜切開

外科医の視点
Calot三角:肝下縁,胆嚢管,総肝管で囲まれた三角状の領域のこと。この三角内を胆嚢動脈,右肝動脈,副肝管などが走行することが多く,注意すべき部位です。

Rouviere溝:肝門の右延長線上に前方ないし側方に向かう2~5cmの溝で,同部に後区域グリソン鞘が走行します。ラパコレでは剥離しない場所であり,常にRouviere溝より腹側での剥離を心がけましょう。

S4のベースライン:肝S4は左葉の内側区域を指し,肝円索裂と胆嚢の間の肝実質として認識されています。ラパコレではU字の底部と右側のRouviere溝を結ぶ線をランドマークとし,これよりも腹側での剥離を行うことで総胆管や右肝動脈の損傷のリスクを下げることができます。

手順② 胆嚢頸部から底部に向けた漿膜切開

十分に胆嚢周囲の解剖を確認できたら,次は胆嚢周囲の漿膜を切開します。胆嚢の右側と左側の漿膜をU字型に切開することで胆嚢部の可動性が上がり,胆嚢頸部背側,胆嚢管と胆嚢動脈周囲の剥離をより安全に進めることができます。胆嚢頸部の背側の剥離では,胆嚢と肝床の間に比較的安全に剥離が可能な“SS-inner”と呼ばれる層構造があります。このSS-innerに沿った胆嚢頸部背側の剥離を進めておくと,後の操作が非常にスムースとなります。

外科医の視点
漿膜切開:胆嚢頸部から胆嚢管移行部の胆嚢寄りから漿膜切開を開始し ,頸部背側または腹側方向へ胆嚢体部まで進めていきます。後述するSS-innerを同定しやすい背側から行

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