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『心研印 心電図判読ドリル』より

連載 有田卓人,山下武志

2022.09.30

心電図の読解には,独学で達成できるレベル,人に習って初めて達成できるレベルの2段階があります。前者に関しては,優れた入門書・教科書がさまざまに出版されていますが,後者に関しては,その達成の成否は誰に教わるかに依存します。このたび,好評書『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル』の姉妹版として刊行された『心研印 心電図判読ドリル』は,読者がさまざまな心電図を読解し,それを指導者に見てもらうというスタイルをとることで,読者の読解レベルを2段階目に引き上げることをめざした書籍です。

「医学界新聞プラス」では,本書から4つのCaseをピックアップして紹介します。先輩の手解きを受けたかのような読後感を体験してみてください。

 

*過去に医学界新聞プラスにて連載された姉妹版の書籍『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル』はこちらからご覧ください。

Case 35[症例1]
60歳代後半,男性.
健診で異常を指摘されて来院.明らかな自覚症状は認めない.心電図を図1に示す.

第4回_図1.png
図1 [症例1]12誘導心電図 [画像はクリックで拡大]

難易度 ★★☆

  •  ① 3拍に2拍の伝導比でP波にQRS波が追従している.
  •  ② 2度房室ブロックである.
  •  ③ モビッツII型の房室ブロックである.
  •  ④ 定期的な経過観察が必要である.
  •  ⑤ ペースメーカ植込みが必要である.

Case 35[症例2]
70歳代後半,女性.
1週間前から労作時の息切れと倦怠感を自覚するようになった.血圧計で計測している心拍数が少なくなっているため外来を受診した.来院時の心電図を図2に示す.

第4回_図2.png
図2 [症例2]12誘導心電図 [画像はクリックで拡大]

難易度 ★☆☆

  •  ① 補充調律は比較的wideである.
  •  ② 1週間前に胸痛がなかったか確認する.
  •  ③ 一般的にペースメーカ植込みの適応である.
  •  ④ 内服中の薬剤を確認する.
  •  ⑤ 過去の心電図を取り寄せ,新たなQRS波の変化がないか確認する.

    答えと解説

    •  ① 3拍に2拍の伝導比でP波にQRS波が追従している.
    •  ② 2度房室ブロックである.
    •  ③ モビッツII型の房室ブロックである.
    •  ④ 定期的な経過観察が必要である.
    •  ⑤ ペースメーカ植込みが必要である.

    •  ① 補充調律は比較的wideである.
    •  ② 1週間前に胸痛がなかったか確認する.
    •  ③ 一般的にペースメーカ植込みの適応である.
    •  ④ 内服中の薬剤を確認する.
    •  ⑤ 過去の心電図を取り寄せ,新たなQRS波の変化がないか確認する.



    房室ブロックは,心房から心室への興奮伝導の遅延あるいは途絶した状態と定義されます.歴史的には1827年にAdamsによる徐脈患者における失神が報告され,1899年にWenckebachによりウェンケバッハ型房室ブロック,1924年にMobitzによりモビッツ型房室ブロックが報告されました.1969年にはヒス束電位が記録されるようになり,徐脈性不整脈の診断が飛躍的に進みました.以下,順に房室ブロックの分類を示します.

    ●1度房室ブロック
    心房から心室への興奮伝導が遅延した状態を指します.PQ時間が200 msec以上に延長している状態を指します.1度房室ブロックは機能的な障害として,迷走神経の過緊張による房室結節内の伝導遅延が多くみられます.若年者やスポーツ選手では安静時に迷走神経活動が亢進していることが多く,洞徐脈とともに1度房室ブロックを認めやすいとされています.この場合,運動負荷などの交感神経活動を亢進させた状態で心電図を記録するとPQ時間が正常になるという特徴があります.

    ●2度房室ブロック
    心房から心室への興奮伝導が1拍途絶する状態を指します.P波に引き続いて出現するQRS波が脱落するまでの特徴によって,ウェンケバッハ型とモビッツII型に分類することができます.

    1)ウェンケバッハ型房室ブロック
    PQ(PR)時間が徐々に延長し,QRS波が脱落するものを指します.QRS波の脱落は基本的に1拍のみです.[症例1]はこれに該当し,3拍のP波に2拍のQRS波が追従し,1拍のQRS波が脱落しています.よってQ1「①3拍に2拍の伝導比でP波にQRS波が追従している」は正解です

    2)モビッツ II型房室ブロック
    先行するPQ時間の変動なしに突然QRS波が脱落するものを指します.

    これらの鑑別のポイントとして,QRS波が脱落する前後のPQ時間に注目することが重要です.QRS波脱落直前のPQ時間が脱落直後よりも長い場合にはウェンケバッハ型,PQ時間が脱落前後で全く変化なければモビッツII型と判断することができます.

    症例1]は,QRS波脱落前後のPQ時間に注目するとQRS波脱落直前のPQ時間が脱落直後よりも長く,ウェンケバッハ型房室ブロックと判断できます(図A).よってQ1「②2度房室ブロックである」は正解で,「③モビッツII型の房室ブロックである」は誤りです.より高度な房室ブロックへの進行は少なく予後は良好と考えられペースメーカ植込みは不要ですが,定期的な経過観察は必要です.よってQ1「④定期的な経過観察が必要である」は正解で,「⑤ペースメーカ植込みが必要である」は誤りです

    [症例1]V1誘導
    図A [症例1]V1誘導 [画像はクリックで拡大]


    P波に続くQRS波が1つおきに脱落する状態を2:1房室ブロック図B)といい,この状態はウェンケバッハ型房室ブロックとモビッツII型房室ブロックのいずれの場合も起こりうるため,その他の心電図所見などと合わせて判断する必要があります.


    図B さまざまなタイプの房室ブロック
    図B さまざまなタイプの房室ブロック [画像はクリックで拡大]


    ●3度房室ブロック(完全房室ブロック)
    心房からの刺激が全く心室に伝導されない場合を,3度房室ブロック(完全房室ブロック)といいます.この伝導の途絶は房室結節,ヒス束,脚-プルキンエ系のいずれの場所でも生じえます.一般的に,P波とQRS波は1:1に対応せず,心房(P波)は洞調律のリズムで,心室(QRS波)はそれよりも遅い別のリズムの補充調律で出現します.伝導途絶の部位によりQRS波はnarrowであったりwideであったりしますが,より上流である房室結節内やヒス束での途絶ならQRS波はnarrowであり,下流である脚-プルキンエ系での途絶ならwideとなります.

    症例2]は補充調律がnarrowであり,心拍数も40拍/分以上と確保されています.心電図のポイントとしてはRR間隔がPP間隔よりも明らかに長くなることが特徴です(図C).よってQ2「①補充調律は比較的wideである」は誤りです.ちなみに図CではPP間隔が1拍ごとに少し変化しています.これを室因性洞性不整脈(ventriculophasic sinus arrhythmia)と呼び,完全房室ブロックでしばしばみられる所見です.


    [症例2]V1誘導
    図C [症例2]V1誘導


    通常は下壁梗塞などの虚血性の要因(胸痛の訴えや新たなQRS波の変化など)や徐脈を増悪させる薬剤を内服しているなどの可逆性の要因がない限り,ペースメーカ治療が推奨されます.よってQ2「②1週間前に胸痛がなかったか確認する」「③一般的にペースメーカ植込みの適応である」「④内服中の薬剤を確認する」「⑤過去の心電図を取り寄せ,新たなQRS波の変化がないか確認する」は正解です.

    •    P波が確認しやすい誘導(IIやV1誘導)でP波とQRS波の関係に注目する!
    •    2度房室ブロックではQRS波が脱落する前後のPQ時間に注目する!
    •    房室ブロックをきたすような可逆性の要素がないか常に意識する!
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心電図問題集の決定版!
ベストセラー『心エコー読影ドリル」待望の姉妹版!

<内容紹介>ベストセラー『国循・天理よろづ印 心エコー読影ドリル』の心電図版がついに登場! 心臓血管研究所・不整脈チームの精鋭が執筆し,編集は心電図分野のレジェンド・山下武志先生。単純に診断名を当てさせるのではなく,心電図の細かい所見や,本質に迫る問題,その先の診療方針を問う問題など,この一冊で心電図を通して循環器診療を深く学べます。不整脈や虚血性心疾患だけでなく,弁膜症や先天性心疾患など,幅広い疾患を収載。

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