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『百症例式 胃の拡大内視鏡×病理対比アトラス』より

連載 拡大内視鏡×病理対比診断研究会 アトラス作成委員会

2021.11.05

 

近年,拡大内視鏡の登場・普及に伴い,これまで見えなかった所見が可視化され,臨床医であっても病理組織学的な所見をより一層意識した読影力が求められるようになってきました。この力を身に付けるため,好評書『百症例式 早期胃癌・早期食道癌 内視鏡拾い上げ徹底トレーニング』の第2弾として編まれたのが『百症例式 胃の拡大内視鏡×病理対比アトラス』です。医学界新聞プラスでは本書の中から3回にわたって内容を抜粋。連載第3回目には,「『百症例式』トレーニング」と題した読影力を鍛えるコーナーもあります。ぜひ最後までご覧ください。

<問題1>

Q1:通常内視鏡像について,部位,疾患の特徴(特に背景粘膜,色調,形状,境界など)を読影してください.

Q2:拡大像について,表面構造,血管構造に異常がないか読影してください。また,最終診断を行ってください.

ここに注目!
強い発赤を呈し,多数のwhite globe appearance(WGA)も認める病変.

<Answer>

難易度★★★
表面構造と拡張血管の所見の組み合わせが非典型的な症例

最終病理学的診断
tubular adenocarcinoma well differentiated,U, Ant, Type 0-Ⅱc, 17×11 mm, tub1>>tub2, pT1b1(SM1), pUL0, Ly0, V0, pHM0, pVM0

    詳細な解説はこちら(Web限定記事)

    Q1:通常内視鏡像について,部位,疾患の特徴(特に背景粘膜,色調,形状,境界など)を読影してください.



    部位,背景粘膜,色調,形状
    背景粘膜は萎縮粘膜を認める。噴門部小彎前壁よりに存在する,15mmの表面陥凹性病変を認める。褪色調の萎縮粘膜を認め,びまん性発赤はなく。除菌歴はないが,既感染と考える。病変は,強い発赤調の陥凹性病変で,中心部では著明に拡張した樹枝状の拡張血管・黒色変化を認める。境界は明瞭で,送気による明らかなひきつれは認めない。しかし,陥凹部はなだらかに隆起し,発赤が強いことからSM浸潤の可能性を考える。

    Q2:拡大像について,表面構造、血管構造に異常がないか読影してください.また,最終診断を行ってください.



    表面構造,血管構造
    拡大観察では病変境界明瞭で,黄色破線部にDemarcation lineが引ける。陥凹部では開口したpit様構造が多数見られる。辺縁部ではpit様構造が不明瞭となり,WGAを多数認める。陥凹部では非常に太い樹枝状血管を認め,その上に細い血管が多数,不整に走行しており,粘膜中層〜深層に腫瘍の存在を考える所見であるが,表層の構造からは浸潤形式が想像しにくい。表層の粘膜構造とWGAから最終的に高分化型腺癌, cT1b(SM),cUL0と診断した。

    内視鏡像とピオクタニン染色標本の対比

    青・緑(WGA)で示した構造がそれぞれ一致する.白点線が実際にプレパラートに割面として出ている線を示している。

    HE染色を示す。青の矢印は上の内視鏡写真の構造と一致する。粘膜表層の開口する腺管は少なく,腫瘍の辺縁だけでなく全体的に壊死物質を伴う拡張腫瘍腺管が粘膜固有層に多発しているのが目立つ。拡張腺管により圧排され,血管が拡張していると考えられた。

    最終病理学的診断
    Tubular adenocarcinoma well differentiated, U, Ant, Type0-Ⅱc, 17x11mm, tub1>>tub2, pT1b1 (SM1), pUL0, Ly0, V0, pHM0, pVM0

    症例のポイント
    表面構造と拡張血管の所見の組み合わせが非典型的であった。腫瘍のメインは粘膜固有層に存在し,腫瘍で囲まれた粘液貯留が多発し,圧排され拡張した血管が内視鏡の拡大所見で樹枝状の拡張血管として観察された。少ないながらも開口する腺管が,内視鏡の拡大所見でpit様構造として観察された。 非典型的な組織像であるが,拡大所見から組織像が想像可能であり非常に興味深い。

<問題2>

Q1:H. pylori除菌後で,除菌成功を抗体・尿素呼気で確認した症例である.通常内視鏡像から部位,疾患の特徴(特に背景粘膜,色調,形状,境界など)を読影してください.

Q2:拡大像について,境界の有無,表面構造・血管構造に異常がないか読影してください.また,総合的に診断してください.

ここに注目!
境界線の形態,血管・構造の異型程度から腫瘍か非腫瘍かを考えよう.

<Answer>

難易度★★★★★
demarcation lineのような境界線はあるが,非腫瘍であった1例

最終病理学的診断
非腫瘍

    詳細な解説はこちら(Web限定記事)

    Q1:H. pylori除菌後で,除菌成功を抗体・尿素呼気で確認した症例である.通常内視鏡像から部位,疾患の特徴(特に背景粘膜,色調,形状,境界など)を読影してください.



    部位,背景粘膜,色調,形状
    背景は,赤色と白色粘膜が混在しており,血管透見と襞消失を認め,拡大観察では胃底腺領域なのに絨毛様に伸びた表面構造であることから萎縮ありと考える。白色光非拡大観察では,体中部小弯側に境界不明瞭な発赤部を認める。病変の形状は不整に乏しく,中央でなだらかな隆起を伴う陥凹性病変である。萎縮を背景にした,単発の発赤病変であり,高分化型腺癌が否定できないと考える。

    Q2:拡大像について,境界の有無,表面構造・血管構造に異常がないか読影してください.また,総合的に診断してください.







    表面構造,血管構造


    表面構造:背景と比較するとやや密度が高く,様々な模様が見えることから不整ありと考え,その構造の違いから境界明瞭である。しかし,赤破線内・緑破線内のように,各々の領域内では同じ構造を認めており不整が乏しい。また境界線も癌にしては直線的である。
    血管:背景粘膜内と比較して,血管径の拡張なく,増生なく,異型は乏しいと考える。

    萎縮領域の拡大観察で境界明瞭な病変であり,鑑別診断の第一は分化型胃癌である。この病変は,拡大観察での境界が直線的であること,血管異型が乏しい,構造異型も弱いことから,強く癌が疑えない。当症例では,診断の一つとして生検をして,生検結果で癌否定的であれば,非癌と診断する病変である。

    対比
    青矢印・青線・黄緑線・白線が各々対応する。これらを指標にするとaの切除標本上で示された黄色破線の割線は,b・cの内視鏡画像では図示の黄色破線となる。

    aの切除標本上の凹凸と病理組織像の凹凸を合わせることから青線が実際に病理組織像になっている部位である。内視鏡画像b・cにもこの青線を対応した。

    白矢印と赤矢印が各々対応している。これらの矢印の間で病変を疑った青実線部では核異型も構造異型も伴っていない。背景と比較すると腺管が拡張しているのみである。 以上から非腫瘍である。

    最終病理学的診断
    非腫瘍

    症例のポイント
    構造異型も血管異型も乏しい場合は,境界線があっても非癌の可能性を考えておく。当症例では,術前の生検でも非腫瘍の診断であった。内視鏡で癌と確定できず術前生検でも非腫瘍の場合は,切除術など治療する前にもう一度診断を考える必要がある。

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