ケースで学ぶマルチモビディティ
[第17回] ポリファーマシーのパターン
処方カスケードを意識する
連載 大浦 誠
2021.08.09 週刊医学界新聞(レジデント号):第3432号より
CASE
72歳女性。45歳の長男夫婦と16歳の孫との4人暮らし。40歳より高血圧症,アルコール性脂肪肝,脂質異常症,慢性腎臓病,骨粗鬆症,不眠症で一般内科に通院していた。45歳時にH.pylori感染胃炎で除菌治療。55歳から腰痛症,変形性膝関節症で整形外科に通院していた。62歳でNSAIDs起因性胃潰瘍になったことを機に,処方を一般内科で一元化していた。喫煙歴なく,62歳までは飲酒もしていたが現在は禁酒中。ADL・IADLは自立。2か月前にラクナ梗塞を発症し近所の総合病院で入院し,リハビリを経て退院してきた。ADLやIADLは以前通りで,紹介状には「持参薬が当院になかったので処方を変更してあります。心不全の出現のため下肢浮腫を認め,利尿剤を追加しました」と書かれていた。両足背にslow pitting edemaがあり靴が履けずに困っていた。労作時呼吸苦はなかった。明らかな下肢静脈血栓はなく,心エコーでも明らかな壁運動の低下はなかった。
【処方薬】エナラプリル,アムロジピン,フロセミド,スピロノラクトン,アスピリン,ロスバスタチン,カルシトリオール,ロキソプロフェン,ランソプラゾール(中止薬はベニジピン,変更薬は下線)
*本連載第8回のCASEの10年後の症例です。
ポリファーマシーについては以前の連載(第11回)でも取り上げました。Deprescribingへの6段階アプローチに則り,PIMs(Potentially Inappropriate Medications),すなわち潜在的に不適切な処方を検討します。ここで強調したいのは,PIMsだから投薬を中止するのではなく,その薬はこの患者さんにとって本当に必要なのかという視点を持つことです。PIMsを減らすプロトコルで薬の数を減らしても,入院回数やQOLに差はなく,予後改善の効果も不明という報告があります1)。実際,多くの薬を飲んでいても元気な患者さんは存在します。薬の数を減らすこと自体が目的なのではありません。患者さんが薬に対してどのような想いがあるのか(薬に関するナラティブ)は確認するよう,心掛けたいものです。
処方カスケードに陥らないための「3つの質問」と「カスケードパターン」
PIMsを減らせばよいというものではないとしても,処方カスケード(連載第6回)にはできることなら陥りたくありませんね。以下3つを処方前に質問することで,事前に処方カスケードを食い止めることができるでしょう。
1)以前処方された薬剤による有害事象に対して新たに薬剤を処方していないか
2)薬剤の有害事象であれば,その薬剤は本当に必要なのか
3)その薬剤が必要であったとしても,安全な代替薬はないのか,減量はできないのか
既にポリファーマシーになった状況では,どのように処方カスケードを発見すればよいでしょうか。対策案としては,処方カスケードのパターンを知っているとよいかもしれません。有名な処方カスケードを表にまとめてみました2)。...
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