医学界新聞

ケースで学ぶマルチモビディティ

パーキンソン病を軸にしたアプローチの例

連載 大浦 誠

2020.09.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3387号より

70歳女性。長男夫婦と孫2人の5人暮らし。50歳から2型糖尿病,高血圧症,慢性腎臓病,慢性心不全,便秘症で一般内科に通院中であった。65歳で歩行時のふらつきが目立つようになり,神経内科でパーキンソン病,アルツハイマー型認知症,不眠症の診断をされ併診していた。67歳で第4腰椎圧迫骨折のため入院。入院中に抑うつが目立ち心療内科を受診したところ双極性障害と診断された。変形性膝関節症と腰椎圧迫骨折と骨粗鬆症で整形外科に,神経因性膀胱で泌尿器科に通院していた。ADLは杖歩行であるが,食事更衣排泄は自立している。要介護2で介護サービスはデイサービスを週2回利用している。今回,転倒後の腰痛のため総合病院の救急外来を受診し,第3腰椎圧迫骨折の診断で入院となった。

【処方薬】メトホルミン,エナラプリル,ビソプロロール,アゾセミド,マクロゴール。神経内科でレボドパ,アマンタジン,ラメルテオン,抑肝散。心療内科でセルトラリン。整形外科でアレンドロン酸,アルファカルシドール,セレコキシブ。泌尿器科でウラピジル,ベタネコール。

 まずマルモのプロブレムリストをまとめると,神経/精神科パターンが中心となっていることがわかります()。ポリファーマシーのチェックでも老年症候群と排便・消化器にかかわる薬剤が集中しています。5人暮らしとはいえ長男夫婦は共働きで,孫2人も大学生と社会人で日中は1人のことが多く,自宅の様子を知っている人は誰もいないようです。近所付き合いもあまりされていないようです。

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 マルモのプロブレムリスト

 マルモの中でもキーとなる疾患が1つでもあると,介入がシンプルになります。ちなみにパーキンソン病はの概念で考えるとわかりやすいです1)。処方カスケードやポリファーマシーによる薬剤負荷,サルコペニア,認知機能障害を中心に問題が発生し,マルモとフレイルが加齢により付帯してくると,日常生活が破綻し入院してしまうという概念図です。特に抗精神病薬による遅発性ジスキネジアやドパミン関連薬剤によるジスキネジアとなり,症状緩和のためアマンタジンを投与した結果,副作用で下肢浮腫が出現し,浮腫を改善するため利尿薬のフロセミドを使用すると尿意切迫となり,神経因性膀胱の診断で抗コリン薬の投与を行った結果,転倒・骨折するという悪循環に陥ります。また,環境要因や心理社会的な要因も転倒のきっかけになるため注意が必要です。

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 パーキンソン病のmultimorbidityとフレイルとの関連(文献1を筆者改変)

 本症例の処方カスケードも抗コリン薬や利尿薬,アマンタジンなどはジスキネジアの影響もあるかもしれません。この図以外にも,抗パーキンソン病薬に関する薬物相互作用のレビュー2)によると,レボドパ自体に降圧効果があるため降圧薬併用中の場合は注意が必要で,利尿薬で腎機能が低下した場合,アマンタジンの血中濃度が上昇する可能性もあります。

 また,パーキンソン病のマルモ併存疾患では脳卒中,認知症,うつ病,統合失調症,双極性障害などの精神神経疾患が多いことは知られていましたが3),それだけでなく便秘(OR 3.92,95%CI 3.57-4.31)とてんかん(CR 1.79,95%CI 1.34-2.40)が有意に多く,心血管疾患の有病率も高く(25.1%),ポリファーマシーの傾向がある(常用薬の平均6.2 vs. 3.3,p<0.001)という結果も報告されています4)。また,心血管疾患(狭心症,心筋梗塞,心不全)や脳血管疾患(脳卒中,一過性脳虚血発作)を2つ以上併発したパーキンソン病は初期から歩行と認知機能に悪影響を与えることが知られ5),別の研究では心血管疾患を1つでも併存すると発症からの生存期間が短くなる(14.0 vs. 29.2歳,p=0.012,HR 2.8)ことも指摘されています6)

 本症例も慢性心不全の既往があり,心血管疾患の関与を意識して身体所見を確認しましょう。また,オステオサルコペニア(osteosarcopenia)という概念も最近提唱されており,サルコペニアを疑った場合は骨粗鬆症も意識することも重要です7)

 前回(第3383号)で紹介したバランスモデルの四則演算でプロブレムを整理しましょう。

【足し算】腰椎圧迫骨折に対してコルセット作成。廃用予防のリハビリ。薬剤とパーキンソン病以外にふらつきの原因検索。パーキンソン病の薬剤コントロールの判断と,フレイル,サルコペニア,骨密度,認知機能障害の評価。心理社会的因子にかかわる家族背景などの確認。血液検査で貧血と電解質異常の確認,頭部MRIで脳血管性パーキンソニズムの確認は必要。

【引き算】原因検索の検査前確率を考える。貧血を疑う身体所見と病歴の確認,起立による血圧低下や頻脈徐脈はないか。心電図変化はないか。新規の心雑音もなく弁膜症を積極的には疑えない。病歴と身体所見で歩行時にすくみ足と姿勢反射障害がありパーキンソン病の投薬調整が必要。慢性腎臓病があるためアルファカルシドールを中止。アレンドロン酸のやめ時も検討。

【掛け算】心理社会的背景の確認。自宅以外の様子や,家族や本人の生活の変化を確認。

【割り算】処方カスケードの整理。複数の診療科をできるだけ統合。アマンタジン→アゾセミド→抗コリン薬の処方カスケードをまとめて中止し,α1遮断薬のウラピジルとベタネコールもまとめて中止できそう。ラメルテオン,抑肝散,セルトラリンも整理。

【足し算の介入】精査でパーキンソン病の薬剤調整が必要と診断。レボドパ増量に加えドロキシドパの追加を行い,コルセットやリハビリの介入を行った。

【引き算の介入】検査の必要性について事前確率を見積もり,必要な検査を絞る。アレンドロン酸,アルファカルシドールを中止し,骨密度・骨代謝マーカーのフォロー。

【掛け算の介入】デイサービスに問い合わせると,最近気分がふさぎがちであった。家族に生活の変化を確認すると,仲の良い同級生の友人が亡くなり,葬式に出てからは自宅で趣味の編み物をしなくなったので,友人の死別がうつ症状の原因と考えた。うつ状態の改善がふらつきに有効と考えセルトラリンを増量。リハビリの一環として編み物を勧めると笑顔も増え,歩行訓練にも積極的に取り組むようになった。

【割り算の介入】処方カスケードとなっていた薬剤を休薬したが,残尿とジスキネジアはみられなかった。ラメルテオン,抑肝散も休薬したが気分は安定しており,神経内科と総合診療科で併診とした。泌尿器科,整形外科,心療内科は総合診療科で一括処方として困った時には処方相談することとなった。

・パーキンソン病は処方カスケードに注意する。
・精神疾患や心血管疾患,オステオサルコペニアの併存がないかを確認する。
・レバレッジポイントを探すために,心理社会的問題をまとめて,環境の変化を確認する。


1)J Parkinsons Dis. 2020[PMID:32741841]
2)J Neurol. 2002[PMID:12522568]
3)J Clin Epidemiol. 2006[PMID:17098570]
4)BMC Neurol. 2017[PMID:28666413]
5)Mov Disord. 2016[PMID:27324570]
6)Parkinsons Dis. 2015[PMID:26576320]
7)J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2020[PMID:32202056]

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