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[第21回]クリニックの名前や学会の名称って,先に商標登録したもの勝ちなのでしょうか?
研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A
連載 小林只
2026.07.10
Q.クリニックの名前や学会の名称って,先に商標登録したもの勝ちなのでしょうか?
A.商標権として他者に先に登録されてしまうと,その名称を使えなくなるリスクがあります。「知らなかった」では済まないのが商標の世界であり,早めの自衛が必要です。
これまで20回にわたり,著作権や個人情報,知財制度が抱えるジレンマといった総論を解説してきました。今回からはいよいよ,特許権・商標権・意匠権などの産業財産権の各論に入ります。
第1回や第2回で触れた通り,特許権が技術・機能・構造を守るのに対し,商標権は商品名・ブランド名の保護を通じて,商標に結びついた信用および需要者の利益を守る権利です。Apple社の元CEOであるスティーブ・ジョブズは,次のような言葉を残しています。
情報が完全に過多になり,人々が日々受け取れる情報に圧倒されている世界では,ブランドがさらに重要になる。人々には,日常生活の全ての事柄について選別している時間はない。ブランドは,その選別を助けてくれる。
私たちが無数にある商品やサービスの中から「これなら安心だ」「これが欲しい」と迷わず選べるのは,ブランド(商標)に対する信用があるからです。商標権とは,この「信用」を保護するための強力な盾なのです。
著作権との違いと「知らなかった」の怖さ
名前やロゴを守る際,よく著作権と混同されます。しかし,著作権は創作性を保護するものであり,短いキャッチコピーや単語,シンプルな図形は,原則として著作物とは認められません(一般的な目安として30字以上の文章等の創作性が求められます)。
そこで登場するのが商標権です。短い言葉やシンプルな図形であっても,特許庁に出願し登録されれば,独占的に使用することができます。身近な例がGoogleマップです。地図そのものは著作物として保護されますが,地図上に立つ赤いピンのマークや,ストリートビューの黄色い人型アイコン(ペグマン)などは,Googleが商標権を持っています。利用規約には「当社の商標に関するガイドラインに従っていることを条件とし……」と厳格に定められており,例えばスライドやWebサイトに地図を掲載する際,画面のスクリーンショット(画像)を勝手に貼り付けることは原則禁止され,公式の機能を使った埋め込み利用などが求められます。
また,こうした企業のロゴマークやキャラクターは,デザインの創作性(著作権)とブランドマークとしての信用(商標権)の2つの権利がセットで強力に管理されていることが多く,安易な無断利用は禁物です。著作権侵害は「他人の作品だと知らずに(偶然一致して)自分で作った」場合には侵害になりにくい面がありますが,商標権の場合,登録さえされていれば,「他人の商標だと知らなかった」という言い訳が通用しません。知らなかったでは済まない世界なのです。
商標権の基本ルール:標章と45の区分
法律上,単なる文字や図形,ロゴといった「しるし」そのもののことを「標章(マーク)」と呼びます。この標章を,事業者が自らの商品やサービスを他社のものと区別するために使用したとき,初めて「商標(トレードマーク)」となります。つまり商標権は,標章(文字や図形など)と特定の商品・サービスの組み合わせで成り立つのです。
例えば,本連載を運営する医学書院は,定期刊行物/電子定期刊行物としての『レジデントマニュアル』という文字商標(デザインや書体に依存せず独占できる),会社のロゴマークの図形商標(登録したデザインそのままを独占できる)など,自社のブランド保護のために商標権を取得しています(図)。
また近年では,文字や図形だけでなく,商品の形状そのもの(ヤクルトの容器の形など)を守る立体商標や,テレビCM等でおなじみのメロディを守る音商標,さらには色彩のみの商標など,保護されるバリエーションは多様化しています(詳細は特許庁の資料をご覧ください)。
そして非常に重要なのが「区分」という概念です。商標権は全ての分野で万能なわけではなく,指定した商品やサービスの範囲内でのみ効力を持ちます。これらは国際的に「45の区分」に分類されています。大きく分けて,第1~34類までが「商品(物の範囲)」,第35~45類までが「役務(サービスの範囲)」として厳密に分けられています(表...
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小林 只(こばやし・ただし)氏 株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士
2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。2024年度 知的財産アナリスト 奨励賞,2025年度 知的財産管理技能士会表彰 奨励賞 受賞。
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