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医学界新聞プラス
[第1回]そもそも知的財産って何ですか?
研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A
連載 小林只
2025.04.11
本連載では,医学界新聞に掲載された「知って得する知財の知識――特許編」の記事に関連して,特に知っておきたい「現代のマナー」としての知的財産(著作権,個人情報,肖像権,商標権,特許権,研究インテグリティ,利益相反など)について,医療者・研究者の皆さまが抱かれる素朴な疑問をもとに,Q&A形式でシンプルに紹介をしていきます。第1回目は,本連載の基本となる「知的財産とは何か」という話題を取り扱っていきます。
Q. そもそも知的財産って何ですか?
A. 知財(ちざい)とは,特許権・著作権などの知的財産権に加えて,ブランド・ノウハウなどの知的財産,さらには人的資産・組織力・人脈などの知的資産を広く含む言葉として使われます。知財の活用とは,自身の知財を守ること,他者の知財を大切に扱うこと,自身と他者の知財を組み合わせて発展させることです。
知的財産(Intellectual Property:IP)という語は一般的に「知財(ちざい)」や「IP(アイピー)」と略して用いられます。知財とは「価値のある情報」であり,知財の活用という文脈では「第三者と区別可能な特徴(相対的強み)」とも言え,アイデア,技術,知識,ノウハウ,ネットワーク,人材,組織等がこれに該当します。これら知財の中で法律により特定の権利が付与されたものを「知的財産権」(以下,知財権)と呼びます。知財権とは「創造性を保護し,イノベーションを促進する」ための法制度です。具体的には,特許権(アイデアの保護),意匠権(デザインの保護),商標権(ブランドの保護),著作権(作品の保護)等があります(図1)1)。

知財権には,申請・審査後に登録手続きが必要な権利として,特許庁へ申請する産業財産権(特許権,実用新案権,意匠権,商標権),農林水産省へ申請する育成者権(種苗法)と地理的表示(GI)保護制度,一般財団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)へ申請する回路配置利用権(半導体集積回路の回路配置に関する法律)があります。また,申請手続きが不要な自然発生する権利として,著作権(著作権法),営業秘密・商品等表示(不正競争防止法),商号(商法)があります(表)2)。例えば,1つの医療機器(例:血圧計)でも,特許権,意匠権,商標権,著作権で保護されています(図2)。


知財は無形資産(対義語は有形資産,不動産やモノなど有形の資産)の1つです。医療者の技術,知識,ネットワーク,執筆物,研究データなど,これらは全て知財です。知財を活用することには,自身の知財を守ること,他者の知財を大切に扱うこと,自身と他者の知財を組み合わせて発展させることがあり,これらのバランスが非常に大切です。
知財の活用について,いくつか身近な例を紹介していきましょう。例えば著作権です。執筆者は著者として著作権(著作権には,文章や図表等の著作権と,講演・実演・放送などの著作者隣接権があります:詳細は別回)を保有します。その著作権の利用について出版社と出版契約(著作権の利用・譲渡に関する契約)をすることで,出版社を通じて販売することが可能になります。
特許権の場合はどうでしょうか。新しい医療機器の技術を発明し特許権を保有できた場合,その特許権を利用してベンチャー企業を設立したり,企業に特許権の利用を許可したり(ライセンスと言います)することで産業発展に貢献するとともに,発明者への利益(金銭,自分が発明者という実績,尊厳や自尊心など)を確保できます。
より医療に寄せた話をすると,新規で開業したクリニックの名前が実は第三者によって商標登録されており名称を変更した事例,医療技術や機器の新しいアイデアを思いついたものの,特許申請する前に公開(学会発表,SNS投稿など)したために特許権を取得できない事例,などがあります。前者においては,実際には商標権侵害していない状況であっても,侵害を指摘されたことによる驚きと恐怖感から安易に変更してしまい,不利益を被ったケースも少なくありません。地域の飲食店や小売店でもオンライン販売を始めた途端,都市部の商標権者から店舗名や商品名について商標権侵害(疑い含む)を指摘される事例は多いです。
知的財産の侵害には罰則規定もあります。故意に特許権,意匠権,商標権,育成者権を侵害した場合には10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(刑事罰)に加えて,過失(故意ではない場合)であっても民事の範囲で,差し止め(商品やサービスの利用禁止)や損害賠償(金銭的要求)が請求されます。著作権侵害も刑事罰と民事による損害賠償等が規定され,映画館のCMでもおなじみの「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金,またはその両方が科されます(著作権法第119条第1項)」,および「有償コンテンツの違法ダウンロード:2年以下の懲役または200万円以下の罰金,またはその両方が科されます(著作権法第119条第3項)」と規定されています。透かし(デジタル)が入ったイラストや写真をそのまま使用することも,ほとんどの場合が利用規約違反(民法上の契約違反)に当たります。
*
次回は,「なぜ知的財産を学ぶ必要があるのか?」について,身近な著作権トラブルの事例とともに紹介していきます。
参考文献
1)経産省.知的資産・知的資産経営とは.
2)財務省.知的財産侵害物品の取締り.
小林 只(こばやし・ただし)氏 株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士
2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。
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