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研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A

連載 小林只

2025.05.02

Q. なぜ知的財産について学ばないといけないのですか?

A. 知財とは,現代のマナーです(第1回参照)。知らないうちに第三者の知財を傷つけないように,あるいはトラブルを回避するために,活用して医療の発展,知財を生み出した人の尊厳を守るためにも,ぜひ学ぶ必要があります。知財に関して具体的なイメージを持つため,身近な存在である著作権から学び始めるのがよいでしょう。

今回は,なぜ知財を学ばなければならないのかという疑問について,読者の皆さんにも身近である著作権を題材にしてお答えをします。

近年のデジタル化によって,違法コピー,盗用・盗作が技術的に容易になりました。そのため著作物の保護に係る著作権者と使用者の綱引きが,多分野で過熱しています。例えば日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室を相手に起こした訴訟は有名です。2022年10月24日に最高裁がJASRACの訴えを退け,生徒の演奏に対しては著作権使用料を支払う必要がない(指導者の演奏に対しては使用料を支払う必要がある)と判決しました。YouTubeで皆さんが視聴されているかもしれない「歌ってみた」「踊ってみた」が可能なのは,YouTubeがJASRAC等の著作権者へ使用料を支払っているからです(利用規約に記載されています)。つまり,JASRACが管理していない楽曲の「歌ってみた」はできません。同様に,YouTube以外の動画サイトで「歌ってみた」が可能かは,各サイトの利用規約の確認が必要です。

コロナ禍の影響もあり,近年オンライン活動が活発化しています。オフライン時代では「バレなかった」ために見過ごされてきた諸問題が,オンライン化により表面化してきました。オンライン授業を含む学校教育における著作物の利用,学会や勉強会における著作物の利用,“無料”で検索したイラストを使ったら“無料ではなかった”ことに由来するトラブル(訴訟,金銭事案含む),“引用”と思っていたら著作権法上では“引用”ではなかったために起こったトラブル,論文投稿・原稿執筆における著作権譲渡契約にまつわるトラブルなど多岐にわたります。それぞれ具体的なトラブル事案を紹介していきましょう。

近年,無料と思って使用したイラストのトラブル(小学校,市役所,大学などでもトラブルは多い)が相次いでいます。検索エンジンで「フリー」「無料」というキーワードで検索したイラストを,利用規約を確認せずに利用してトラブルに至る事例が多い状況です。「フリーサイトから取得したので著作権フリーだと信じていた」という主張を裁判所は認めていません()。例えば小学校のホームページに掲載された便覧やお便りがきっかけで,著作権者から指摘される例が増えています。特に学校では,「授業の過程での利用」を目的とする場合に限り,必要な範囲で他人の著作物を複...

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