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研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A

連載 小林只

2026.04.17

Q.院内セミナーの録画をアーカイブ配信したいです。講師から「スライドと顔出しはOK」と言われていますが,配信に当たって注意すべき点はあるでしょうか?

A.講演会には,スライドの著作権や顔の肖像権以外にも,講演者の語りに対する著作隣接権,会場に対する施設管理権,質疑応答をする参加者に関連した著作権・著作隣接権などが複雑に絡み合っています。また,配信により特許の新規性が失われるリスクもあります。

これらの権利に配慮するには,単なる利用許諾だけでなく,録画・配信の許諾(著作隣接権),編集の可否(人格権),生成AIの使用による第三者の権利侵害や,個人情報流出がないことの保証までを網羅した同意書の作成が求められます。

これまでは,著作権(作品),肖像権(人),施設管理権(場所),個人情報(データ),そして生成AIと,個別のテーマを深掘りしてきました。しかし,学会やセミナーなどの実際の現場では,これらの権利はバラバラに存在するのではなく,一つの空間に同時に,複雑に絡み合って存在しています。

今回は,見落とされがちな著作隣接権や発表内容の秘匿性(特許の新規性,秘密保持契約など)を鍵として,講演会のアーカイブ配信を例に,これまでの連載の総決算として,セミナー開催時にチェックすべき権利の複合問題と同意書の作成ポイントを解説します。

忘れられがちな第3の権利「著作隣接権」とは?

音楽業界で例えるとわかりやすいでしょう。楽曲を配信するには,作詞・作曲家の許可だけでなく,歌っている歌手や演奏家の許可も絶対に必要です。
●作詞・作曲家=楽曲を作った人(著作権を持つ)
●歌手・演奏家=楽曲を演じる人(著作隣接権を持つ)


これを学術講演に置き換えてみます。
●スライド・原稿作成者=著作権者
●講演者(スピーカー)=著作隣接権者


アカデミアでは,「スライドの作成者」と「発表者」が同一人物であることが多いため,この2つの権利が混同されがちです。「スライドのコピー(著作権)はOKをもらったから,動画も配信して大丈夫だろう」と思い込むのは危険です。「話す(実演する)」という行為そのものに,別の権利(録音権・録画権,送信可能化権など)が発生しています。

セミナー会場に渦巻く権利のレイヤー

ただの勉強会に見えても,法的な視点で見ると,そこにはさまざまな権利が渦巻いています。あるハイブリッド開催のセミナーを例に,どのような権利が存在するか分解して考えてみましょう。

講演者にかかわる権利
スライド・配布資料の著作権:図表や文章などの「静的」なコンテンツ。

言語の著作物:台本がない講演でも,創作性のある「語り」は言語の著作物。

著作隣接権:その著作物を「演じる(話す)」行為に対する権利。録画や配信には許諾が必要。

肖像権:演者の顔や姿。

参加者にかかわる権利
著作権・著作隣接権:質疑応答で参加者が発言した内容に創作性があれば著作権が,発言する行為には著作隣接権が発生します。例えば,「スライドの数値はいくつですか?」といった短い事実確認の質問に著作権は発生しません。しかし,質問者が自身の研究データや独自の考察を交えて持論を展開するようなケース(いわゆる「ミニ講演」のような質問)では,その発言内容自体が「言語の著作物」とみなされる可能性が高くなります。つまり,質問者の声を無断で配信することは権利侵害になる可能性があります。

肖像権・プライバシー権:会場風景を撮影する際,参加者の顔が識別できる状態で映り込む場合は許諾が必要。

個人情報:参加者リストや質疑の中で触れられる個人の体験談など。

場所・環境にかかわる権利
施設管理権第14回で解説した通り,会場(ホテルや貸会議室)には管理者のルールが及びます。撮影・録音禁止,商用利用禁止などの規約がないか確認が必要。

BGM等の著作権:休憩時間に音楽を流す場合,JASRAC等への手続きが必...

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株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士

2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。2024年度  知的財産アナリスト 奨励賞2025年度  知的財産管理技能士会表彰 奨励賞 受賞