医学界新聞プラス

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研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A

連載 小林只

2026.01.23

Q.スライド撮影やハンズオンセミナーは,著作権と肖像権の問題をクリアしていれば学術集会の会場で自由に行えますか?

A.例えば民法の「所有権」に基づく施設管理権(場所のルール)があります。数百年前に作られた古い仏像は著作権が切れていますが,お寺(所有者)が「撮影禁止」と言えば撮影できないのと同じ理屈で,学術集会の会場では主催者がこの権利を行使すれば撮影を禁止にできます。また,学会会場となるホテル等での医療行為(注射等)は,施設側が汚損等を理由に禁止していることが多く,実施内容によっては都道府県(保健所・医務課など)へ「臨時診療所開設届」の提出が必要になる場合もあります。撮影・利用の際は「作品(著作権),演者・実演者(著作隣接権)」「人(肖像権)」「場所(施設管理権)」の3つを確認してください。

この連載も今回で14回目を迎えました。おかげさまで多くの反響をいただいており,現場の皆さまの関心の高さを実感しています。

さて,これまでの連載では写真や動画を扱う際のハードルとして,著作権(作品の権利)(第3回),著作隣接権(演者や実演家の権利)(第3回),肖像権(人の権利)(第13回)について解説してきました。しかし,これらをクリアしても,撮影不可のケースやできない行為がまだ存在します。それが,今回解説する施設管理権(場所の権利)です。

 「自分のスマホで誰も写り込まないように撮るのに,なぜダメなのか?」
「会場を借りているのに,なぜ実技セミナーで注射をしてはいけないのか?」

その疑問を解消し,学会や病院,公共空間での適切な振る舞いを理解しましょう。

施設管理権とは何か?

実は,「施設管理権」という名前の法律の条文はありません。これは,民法第206条の「所有権」から導き出される権利です。

(所有権の内容)民法第206条
所有者は,法令の制限内において,自由にその所有物の使用,収益及び処分をする権利を有する。


土地や建物の所有者は,その場所を自由に使用する権利を持っています。裏を返せば,「他人が勝手に使うことを拒否する権利」や,「使うための条件(ルール)を決める権利」を持っていることを意味します。つまり,「誰を入れるか(入場制限)」,土地や建物の中での振る舞いをどうするか(撮影禁止,飲食禁止,医療行為禁止など)について決める権限が,施設の管理者(所有者)にはあるのです。これを実務上「施設管理権」と呼びます。
 

ケーススタディで学ぶ「場所」のルール

具体的な事例で,著作権と施設管理権の違いを見ていきましょう。

ケース1 古いお寺の仏像(基本の考え方)
●状況:平安時代に作られた仏像を撮影しようとしたら,「撮影禁止」の張り紙があった。

●著作権の視点:著作権の保護期間(原則として死後70年)はとうに過ぎており,パブリックドメイン(公有)の状態です。したがって,著作権法上は撮影しても問題ありません。

●施設管理権の視点:お寺(宗教法人)は,その建物と仏像の所有者です。所有者には,敷地内での行為を規制する権限(民法上の所有権)があります。文化財保護,参拝の雰囲気維持,あるいは絵葉書等の収益確保など,撮影が禁止とされた理由はさまざま想像できますが,管理者が「撮影禁止」と定めている以上,それに従う義務があります。

●結論:著作権はなくても,施設管理権によって撮影はNGです。

ケース2 学会・研究会の会場(撮影禁止ルール)
●状況:ホテルで開催された学術集会で,スライドを撮影しようとしたら「撮影禁止」と言われた。

●施設管理権の重層構造:学術集会の場合,権利関係が少し複雑です。「会場を借りているだけの学会側に撮影を禁止するまでの権限はないのでは?」と思うかもしれません。しかし以下の構造により主催者のルールは有効です。

①会場所有者(ホテル等)の権利:建物の所有者として,「飲食禁止」「火気厳禁」などの基本ルールを定めています。

②学術集会主催者の権利:主催者は会場を借りることで,期間中の管理権限の一部を有します。そこで主催者は,ホテル等の会場所有者のルールに加えて,独自に「撮影・録音禁止」という条件を追加することができます。これは,未発表データの保護(特許出願への影響など)や,演者が安心して発表できる環境を守るための正当な権利行使です。

●結論:参加者は,会場...

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株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士

2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。

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