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研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A

連載 小林只

2025.05.23

Q. これって著作権侵害に該当しますか?

A. 著作権トラブルが増える中,資料の利用には注意が必要です。著作権は「思想・感情を創作的に表現したもの」を保護しますが,事実やデータのそれ自体(事実やデータをもとに考察した内容および整理した図表は著作物),あるいは保護期間(死後70年)が過ぎたパブリックドメイン等は対象外となります。

著作権には譲渡不可の著作者人格権と,利用許諾や譲渡が可能な財産権があります。資料利用時は,著作物か,保護期間内か,ライセンスや引用要件を満たすか等を確認し判断します。著作権法は国により異なり(属地主義),利用する場所の法律が適用される点も知っておきましょう。

第1回第2回で紹介したように,著作権に関するトラブル(例:学校通信,勉強会,学会発表)は増えています。今回は,著作権を中心に資料の利用方法について概説します。

著作権法で保護される著作物とは

著作権の概要を表1に示します。著作権で保護される著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法 第2条第1項1号)です。つまり「自分で考えて,気持ちを込めて,オリジナルに表現したもの」と言えます。その対象は広く,小説,音楽,絵,写真,プログラム,レポートなどが例示されています(もちろん,これだけに限定されません)。「表現されたもの」という点が特に重要で,事実やデータ,それ自体は著作物ではありません。

一方で,事実やデータをもとに考察した内容および整理した図表は著作物に該当する可能性が高くなります(なお著作物かどうかの認定は,最終的には訴訟等で判断されない限り不明であり,創作性の高さ=オリジナリティの高さに依拠します)。

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表1 著作権と著作者隣接権の概要と知っておくべきポイント


著作物であっても,著作権で保護されない場合もあります。まず,単なる事実やデータ(上述),アイデアそのもの(アイデアを保護できるのは特許権)があります。そして,古い作品〔作ってから70年が過ぎたもの=パブリックドメイン(Public domain:PD)〕です。例えばウォルト・ディズニーがアメリカで所有していた『蒸気船ウィリー』といった1928年に公開された短編作品に登場する初代ミッキーマウス(白黒で,目はシンプルな黒い点,素手で,体型は細身で手足が棒状)の著作権が2023年12月31日に切れました(一方で,著作者人格権の保護は継続しますので注意)。そのため2024年1月1日より,アメリカでは初代ミッキーマウスを題材とした二次創作が自由に可能になっています。

しかしながら,現在のミッキーマウスを含む改変が加えられた2代目以降の著作権はまだ切れていません。また,カラー化し,手袋を着用するなどの変化が加えられた「現代バージョン」に関しては,ディズニー社が引き続き著作権を保持しています。このように,どの作品のどの要素に著作権が残存しているのかを利用時に確認することが重要です。その他にも,公共の情報(例:法律や国の発表,裁判所の判決,歴史上の事実)などが著作権に該当しないものとして存在します。

著作権には,財産的な権利(著作権)と精神的な権利(著作者人格権)があります。著作権は,複製権・上映権・公衆送信権・翻訳権など複数の支分権を含み,それぞれは独立して利用許諾や譲渡が可能です。例えば,出版社と著者の契約(いわゆる出版権の設定)において,電子書籍を販売す......

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