- HOME
- 医学界新聞プラス
- 医学界新聞プラス記事一覧
- 2026年
- 医学界新聞プラス [第3回]ペニシリン系抗菌薬
医学界新聞プラス
[第3回]ペニシリン系抗菌薬
これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ
連載 中西雅樹
2026.01.29
これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ
「微生物×抗菌薬×感染臓器」の関係を、「感染症トライアングル」と「抗菌薬マップ」で“見える化”! 『これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ』は,どんな微生物が存在し、それに対応する抗菌薬は何かという感染症の基本からスタートし、臓器ごとに感染症を起こしやすい微生物が違うのはなぜ? その臓器に到達しやすい抗菌薬は何? といった実臨床に直結する思考までをわかりやすく解説します。「医学界新聞プラス」では、初学者にとって手強く感じる感染症の全体像を直観的に理解できる本書の一部を、4週にわたりお届けします。
ペニシリン系抗菌薬
まずはペニシリン系抗菌薬です.ここでは主に5つの抗菌薬について抗菌スペクトラムと主な特徴を説明します.
② ABPC(アンピシリン)
③ SBT/ABPC(スルバクタム/アンピシリン)
④ PIPC(ピペラシリン)
⑤ TAZ/PIPC(タゾバクタム/ピペラシリン)
1928年に英国のフレミングによって発見されたペニシリンですが,実用化された1940年代は,主に第二次世界大戦中に負傷し,黄色ブドウ球菌による皮膚軟部組織感染症をきたした兵士に使用されていました.一方,グラム陰性菌に関しては添付文書では適応菌種として淋菌,髄膜炎菌などの記載がありますが,ここでは思い切って削除し,抗菌薬マップは下記のように覚えておきましょう.
臨床的には,肺炎球菌やレンサ球菌感染症の標的治療として用いられることが多いです.
次に,もし皆さんが研究者で,さらに抗菌薬を開発していく場合,どのような部分に着目するでしょうか.もちろん嫌気性菌カバーを拡げるというのも1つですが,やはり臨床的に疾患頻度の高いのが下気道感染や尿路感染症であることを考慮すると,多くの人はグラム陰性菌に対する効果を期待するのではないでしょうか.
PCGの化学構造に少し工夫を加えることで,グラム陰性菌に対する効果が加わりました.すべてのグラム陰性菌というわけではありませんが,インフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae),大腸菌(Escherichia coli),プロテウス・ミラビリス(Proteus mirabilis)へのスペクトラムが拡がりました.そこで抗菌薬マップにはそれぞれの英語表記の頭文字を取って,「HEP」と書き加えましょう.ただし,「HEP」であってもすべての菌株に対して効果があるわけではなく,耐性株も存在しますのでその点にはご注意ください.
ちなみに,ABPCはリステリア感染症の第1 選択薬であることや,梅毒の治療の際にも使用されますが,少し専門性が高い疾患であることから本項ではあえて記載は控えておきます.
臨床的には,副鼻腔炎や中耳炎の経験的治療として使用する場合もありますが,一般的には,広域抗菌薬で治療を開始した市中肺炎や副鼻腔炎,尿路感染症などの症例で,ABPC感性であれば標的治療として用いることが多いです.
経口薬に関しては,ABPCの側鎖に水酸基(-OH)を付加することで「バイオアベイラビリティ」(コラム参照)を約80%まで改善したAMPC(アモキシシリン)が多く使用されています.AMPCはABPCとほぼ同様の抗菌スペクトラムを有しています.
さて,人類がようやくグラム陽性菌・陰性菌に一定の効果のある抗菌薬を手にしたものの,微生物もおとなしくはしていません.その後,ペニシリン系抗菌薬を失活させる酵素(ペニシリナーゼ:βラクタマーゼの一種)が問題となってきました.
・黄色ブドウ球菌
・嫌気性菌(Bacteroides fragilis)
・グラム陰性菌の一部(HaMPEK)など
黄色ブドウ球菌に対しては,冒頭ではPCGやABPCで効果があると説明しました.しかし,徐々にペニシリナーゼの影響を受けるようになり,臨床検体から検出される黄色ブドウ球菌の約半数が耐性を示すようになりました.また,横隔膜より下の偏性嫌気性菌B. fragilisやK. pneumoniae, M. catarrhalisも染色体上にペニシリナーゼを産生する遺伝子を保有していることから,PCGやABPCの抗菌薬マップでは「×」となっています.さらに前述のHEPについても一部の株はペニシリナーゼを産生することから,徐々にABPC だけでは治療が困難となってきました.
そこで,対抗策を考えなければならないのですが,もちろん新規抗菌薬を開発するのも1 つです.しかし,問題になっているのが「ペニシリナーゼ」ならば,理屈上はそれを失活させるβラクタマーゼ阻害薬を配合してあげればよいということになります.
そこで登場したのが既存のABPC に,SBT(スルバクタム)というβラクタマーゼ阻害薬を加えたSBT/ABPC です.ABPCにβラクタマーゼ阻害薬を加えたことで,前述のペニシリナーゼ産生菌に対するスペクトラムが拡がりました.それにより,「×」であったものが,オセロにように次々に「○」にひっくり返ったことが理解できます.
SBT/ABPCが開発され,さまざまな疾患に対して単剤で治療を行うことが可能となりました(図2).
例えば,呼吸器内科,呼吸器外科,耳鼻科では,肺炎球菌やインフルエンザ桿菌,モラクセラ属菌などをターゲットに抗菌薬を選択する機会が多いですが,SBT/ABPCはそれらをおおむねカバーしています.市中肺炎,副鼻腔炎,中耳炎に広く使えますね.
また,誤嚥性肺炎や膿胸では口腔内嫌気性菌のカバーも考えたいところですが,本抗菌薬はしっかりと横隔膜上の嫌気性菌もカバーしています.
一方,消化器内科,消化器外科,泌尿器科,産婦人科では,腸内細菌目細菌のなかでも大腸菌,クレブシエラを念頭に,症例によっては腸球菌や横隔膜下のバクテロイデスもカバーしなければならないこともあります.そのような場合でもSBT/ABPC は使用可能です.具体的な疾患としては,胆道感染症,腹腔内感染症,後腹膜感染症,尿路感染症などとなります.
●内服剤はCVA/AMPCも選択肢に
経口剤についてはSBT/ABPCの構造式を変化させた内服剤(スルタミシリン:SBTPC)も販売されていますが,腸管吸収率が低いという欠点があります.現在の臨床ではβラクタマーゼ阻害薬であるSBTをCVA(クラブラン酸)に,そしてABPCをAMPCに置き換えたCVA/AMPC(クラブラン酸/アモキシシリン)を使用する機会が増えています.抗菌スペクトラムはほぼSBT/ABPCと同等で,かつ腸管吸収率も良好であることから,幅広い診療科で使用されています.
●「オグサワ」治療
2024年12月現在販売されているCVA/AMPCには,CVAとAMPCが2:1で配合されているオーグメンチン®と,14:1で配合されている小児用のクラバモックス®の2種類があります.オーグメンチン®を使用する場合には1錠375mgあたりAMPCが250mgしか入っていないことから,疾患によってはAMPC の投与量を補うため,さらにAMPC 単剤を併用することもあります.
CVA/AMPC+AMPC,つまりオーグメンチン®+サワシリン®による治療ということで,ちまたでは「オグサワ」治療と呼ばれています.これは何だかバドミントンのダブルスチームの愛称のようにも聞こえますが,実際には非常に理にかなった併用方法ですので,私自身も使用機会が増えています.
ようやく,われわれは市中感染症に対して戦える武器を手に入れたのですが,一難去ってまた一難.今度は院内感染症の原因としてブドウ糖非発酵菌,特に緑膿菌が問題となってきました.
その後,登場したのがPIPCです.βラクタマーゼ阻害薬が配合されていないため,ペニシリナーゼ産生菌(「主なペニシリナーゼ産生菌」を参照)に対する効果はさまざまですが,PIPCについては「緑膿菌感染症での狭域化に使用する」といった感覚だけでももっておけば,日常臨床では困ることは少ないと思います.
ここまで話を進めてくるともう皆さんの想像どおり,次はPIPCにβラクタマーゼ阻害薬を加えようという発想になります.
S:Serratia spp. P:Pseudomonas aeruginosa A:Acinetobacter spp. C:Citrobacter spp. E:Enterobacter spp.
*1 ペニシリナーゼの影響により黄色ブドウ球菌に対する効果が低下したため
*2 TAZ の効果による
PIPCにSBTを加えるという発想もありそうですが,ここではさらに改良が加えられたβラクタマーゼ阻害薬のTAZ(タゾバクタム)が使用されています.TAZがつくことでペニシリナーゼ産生菌に対するカバーが可能となり,さらにPIPCと組み合わせることで,院内で問題となるグラム陰性菌の代表であるSPACEもカバーできるようになりました.SPACEとは,院内感染症を引き起こすグラム陰性菌のなかでメジャーな細菌の総称ですが,これらをカバーすることが可能となったことで,TAZ/PIPCは院内/市中を問わず,中等症・重症感染症の経験的治療として広く使用されることになりました.
なお,TAZはSBTに比べ,ESBL産生菌による感染症に対して臨床的なエビデンスが増えてきており,例えば,複雑性腎盂腎炎で,患者背景からESBL 産生菌の関与が疑われる場合には,ペニシリン系抗菌薬であればTAZ/PIPCを推奨することも増えてきています.
●TAZ/PIPCとカルバペネム系抗菌薬の相違点
ところで,TAZ/PIPC の抗菌薬マップを見ると,「カルバペネム系抗菌薬(→p.113)とそれほど変わらないのでは」という声が聞こえてきそうですが,まさにそのとおりで,広域抗菌薬の1 つとして重症度や感染臓器,微生物をしっかりと吟味して使用すべき抗菌薬と考えられます.昨今,TAZ/PIPC の使用頻度が急増している医療機関が散見されますが,その理由を聞いてみると,「カルバペネム系抗菌薬を使用すると院内抗菌薬適正使用チームに指摘されるから」あるいは「TAZ/PIPC は届出制をとっていないため書類を書かずに済むから」など,抗菌薬の本来の意義とは関係のない理由でTAZ/PIPC が選択されているケースもあるようです.いま一度,感染症診療の原則に立ち戻って,適切な抗菌薬の選択に努めていただきたいと感じています.
一方,臨床的な効果については完全にTAZ/PIPC=カルバペネム系抗菌薬かというとそうではありません.例えば,AmpC 型βラクタマーゼ産生菌であるエンテロバクターやシトロバクターなどではカルバペネム系抗菌薬のほうが感性率は高く,またESBL 産生菌による重症感染症の場合には,よりエビデンスが豊富なカルバペネム系抗菌薬が優先的に使用されます.
使用機会が増えています.
TAZ/PIPC を使用する頻度が高い疾患は,細菌性肺炎,胆道感染症,尿路感染症,腹腔内感染症あたりでしょうか.
これで身につく!
感染症まるごとスタートダッシュ
「感染症トライアングル」と「抗菌薬マップ」で、学びを加速せよ!
「微生物×抗菌薬×感染臓器」の関係を、「感染症トライアングル」と「抗菌薬マップ」で“見える化”! 初学者にとって手強く感じる感染症の全体像を直観的に理解できる一冊。どんな微生物が存在し、それに対応する抗菌薬は何かという感染症の基本からスタートし、臓器ごとに感染症を起こしやすい微生物が違うのはなぜ? その臓器に到達しやすい抗菌薬は何? といった実臨床に直結する思考までをわかりやすく解説。
目次はこちらから
タグキーワード
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第4回]喉の痛みに効く(感じがしやすい)! 桔梗湯を活用した簡単漢方うがい術
<<ジェネラリストBOOKS>>『診療ハック——知って得する臨床スキル 125』より連載 2025.04.24
-
VExUS:輸液耐性が注目される今だからこそ一歩先のPOCUSを
寄稿 2025.05.13
-
医学界新聞プラス
[第13回]外科の基本術式を押さえよう――腸吻合編
外科研修のトリセツ連載 2025.05.05
-
医学界新聞プラス
[第2回]糸結びの型を覚えよう!
外科研修のトリセツ連載 2024.12.02
-
寄稿 2024.10.08
最新の記事
-
2026.01.13
-
新年号特集 免疫の謎を解き明かす カラー解説
マウスとヒトの知見が交差する免疫学寄稿 2026.01.13
-
新年号特集 免疫の謎を解き明かす
ノーベル生理学・医学賞 受賞記念インタビュー
制御性T細胞が問いかける,自己と非自己の境界線対談・座談会 2026.01.13
-
新年号特集 免疫の謎を解き明かす
ヒト免疫の解明は医療に何をもたらすのか対談・座談会 2026.01.13
-
新年号特集 免疫の謎を解き明かす
臨床免疫学が迎えるパラダイムシフトインタビュー 2026.01.13
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。



