安定狭心症はどれだけ「安定」しているか?(香坂俊)
連載
2012.02.06
循環器で必要なことはすべて心電図で学んだ
【第22回】
安定狭心症はどれだけ「安定」しているか?
香坂 俊(慶應義塾大学医学部循環器内科)
(前回からつづく)
循環器疾患に切っても切れないのが心電図。でも,実際の波形は教科書とは違うものばかりで,何がなんだかわからない。
そこで本連載では,知っておきたい心電図の"ナマの知識"をお届けいたします。あなたも心電図を入り口に循環器疾患の世界に飛び込んでみませんか?
「安定」vs.「不安定」狭心症
安定狭心症。循環器内科でよく見かける疾患ですね。これに対して不安定狭心症という疾患も存在します。いずれも今日のような冬の寒い日に胸に重苦しさを感じて,「うーん苦しい」と患者さんが訴えるところが特徴的な疾患です(本稿は2012年元旦に執筆しております)。そもそも狭心症とは,(1)労作で増悪し,(2)安静で軽快する,(3)心窩部の圧迫感,という3条件を満たす症候群なのですが,では,このうち何が狭心症の安定しているところで何が不安定なところなのでしょうか?
現在教科書などでよくなされる説明は,安定狭心症では動脈硬化が進んで血管が年輪のように狭くなっていくのに対し,不安定狭心症ではプラークが一気に破裂する,というものです。ここで言うプラークとは,動脈硬化層内に脂質と遊走してきたマクロファージがたくさん詰め込まれているものであり,マクロファージがコレステロールを貪食して怒り狂うとこのプラークが不安定になり(=炎症を起こして),いつ破裂してもおかしくない状態となります。しかし,こんな見てきたようなことを言ったとしても,実際に生きている患者さんの冠動脈の中身が見えるわけではありません。そこで,救急外来などの臨床現場では,症状からアタリをつけます。
安定狭心症=胸部症状はあるものの,1か月以上「安定」している
不安定狭心症=発症1か月以内であり,症状は悪化していく
というのが便宜的な分け方です。つまり,これは狭心症だ! という前述の3条件を満たす典型的な胸部症状があったとしても,それが1か月以上にわたって決まった労作(例:朝に地下鉄の階段を上る)で同程度の症状(例:胸が苦しくなるが数分で治まる)がずっと続いているようならば,その狭心症は「安定」しているととらえます。
心電図の安定性
また,ここでは心電図が「安定」しているという側面もあります。典型的な安定狭心症では安静時の心電図は正常ですが,運動(例:トレッドミルやエルゴメーター)や薬物負荷(例:ジピリダモールやドブタミン)をかけると,再現性をもってSTの低下が見られます。つまり,一定の負荷量で常にSTが変化するということです。例えばトレッドミルのStage 3の7分を過ぎた10.4 Metsという運動量の辺りでほぼ必ず胸部症状やST低下が見られるといったあんばいです(なお,トレッドミルの解釈については連載第1回,2878号を参照)。
一方,不安定狭心症では安静時や軽い労作でSTが上下したり,T波がひっくり返り,その変化の度合いが患者さんの予後にもかかわってきます。米国での急性冠症候群全体のデータを見ると,STが下がる症例の予後はST上昇型心筋梗塞(STEMI)と遜色ありません(図1)。
図1 心電図変化のある急性冠症候群の患者約1万人のデータに基づく,イベント発生後の死亡率(文献1より改変して引用) |
つまり,このSTが上下する場合は要注意なのですが,T波がひっくり返るだけのような例は,心電図変化は派手なものの実はそれほど予後が悪いわけではないのです。これまでも繰り返し述べてきたように,心電図のわずかなSTの上下が国賓のように丁重に扱われるのに対し,T波の声高な主張(=変化)があっさりと無視されるの......
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