医学界新聞

  • 医学
あせらないためのER呼吸管理トレーニング

連載 熊城伶己

2026.10.20 医学界新聞:第3590号より

・ VCVの波形を解剖しよう
・ VCVの設定項目を確認しよう
・ VCV,いつ使う?

 前回は人工呼吸器設定の入門として,換気パターンと3波形を紹介しました。ERではVCVやPCVなどのA/Cや,CPAP+PSを使用することがほとんどで,波形は圧波形と流量波形が重要,という話でしたね。今回はVCVの波形から,人工呼吸器の基本を学んでいきましょう。

 VCVは,設定された一回換気量になるまで一定の流量で送気するモードです。流量を一定に保つため,結果として発生する気道内圧は患者さんの状態によって決まります。このことは図1の圧波形・流量波形を見るとよくわかります。下段の流量波形では縦軸がL/min,横軸がsecですから,吸気の最初から最後まで同じ流量で送気しています(この送気パターンを矩形波と呼びます)。一方で,上段の圧波形は背びれのような形をしていますね。この圧波形は患者さんの気道内圧を表しているのですが,圧センサーは多くの場合,人工呼吸器の呼気弁あたりで測定しています。

3590_0901.png
図1 VCVの圧波形と流量波形

 図2は気道・肺と人工呼吸器の簡略図です。送気が始まってもいきなり肺胞が膨らむわけではなく,肺胞に到達するまでの細い気道(これは気管・気管支だけでなく,気管チューブも含みます)に圧がかかるため,最初に急峻に圧が上昇します(図1①,図2a)。わずかなタイムラグを経て肺胞まで送気されると直線的に圧が上昇していきますが,この間は,人工呼吸器から肺胞に向かって空気が流れ続けています(図1②,図2b)。VCVでは目標とする一回換気量の送気が終わった後に,ポーズ時間を設定することができます。ポーズは吸ったあとに息を止めている時間です(図1③)。先ほどまでは人工呼吸器から狭い気道を通して空気を送り込んでいたので圧勾配がありましたが,息を止める,すなわち送気を止めると空気の流れ=圧勾配がなくなるので,肺胞にかかっている圧力と等しい圧をセンサーで測定することができます(図2c)。このとき気道を通ることで消費されていた圧がなくなりますので,吸気終わりの最高気道内圧(Ppeak)から少しだけ圧が下がっています(プラトー圧,Pplat)。ポーズが終わると呼気に移行しますが,呼気時には人工呼吸器はPEEPをかける以外に仕事はしないため,吐き終わるのにかかる時間は患者さん次第となります。

3590_0902.png
図2 気道・肺胞と人工呼吸器の簡略図
広告

 ここまでを踏まえた上で,VCVの設定画面の一例を見てみます(図3)。A/Cにおいて自発呼吸がある場合,患者さんの吸気に合わせて人工呼吸器は送気を始めますが,患者さんの吸気を感知するための設定項目をトリガーといいます。トリガーには2種類あり,吸気時の気道内圧の低下で感知する「圧トリガー」と,吸気によって発生するフローの変化で感知する「フロートリガー」があります。現在ではフロートリガーの方が応答性に優れるとされ,好んで使用されています。

3590_0903.jpg
図3  VCVの設定画面のイメージ
VenTrainer(Hamilton Medical社のアプリケーション)をもとに作成

 さて,VCVは一回換気量(図3では500 mL)を決められた時間(吸気時間:1.0秒)で送気します。呼吸回数は1分間に12回で設定してありますので,自発呼吸がなく人工呼吸器に完全に依存している状態では1回あたり5秒の呼吸,つまり吸気1秒:呼気4秒,ということになります。一方で,自発呼吸がしっかりあり,患者さんの呼吸回数が20回(1呼吸が3秒)だとすると,A/C(ここではassist)では全ての自発呼吸に,機械で設定された分の送気がされますので,吸気1秒:呼気2秒となります。吸気時間が一定で,呼気は患者さんの状態によって変わり得る,ということがわかったでしょうか?

 ここで,患者さんの呼気がしっかり吐ききれているかを確認する必要があります。吐ききる=呼気流量が0に到達できている,ということなので,流量波形の呼気部分(図1④)が基線に着地していることを確認します。これはVCVに限らずどんな設定でも重要で,呼気を十分に吐ききれていないままに次の吸気が始まってしまうと,呼気時の肺胞内にPEEPより高い圧が残ってしまい,人工呼吸器との非同調の原因となったり,循環不全を生じたりすることがあります(autoPEEP)。

 他の設定項目として,PEEP/CPAPや酸素濃度がありますが,これは他のモードでも同じですね。

 多くの病院,特にICUではVCVではなくPCVが頻用されていることと思います。どのモードが患者予後を改善する,というエビデンスはなく,使い慣れたものを使用する,で基本的にはOKです1)。しかし,VCVには強力なメリットがあり,前述のように特徴的な圧波形から,呼吸器系のどこに異常があるのかがわかります(図1⑤)。重症喘息など気道抵抗の上昇が主体になる場合,吸気の頂点からプラトー圧までの落差(Ppeak-Pplat)が大きくなることが予想されます(吸気ポーズ中は空気の流れが無くなるため,気道系で消費していた圧が消える)。Ppeak-Pplatは5 cmH2Oくらいが正常で,10 cmH2Oを超えると気道閉塞の病態がありそうだと判断します。また,Pplat-PEEPはベース(呼気)から,現在の状態まで肺胞を膨らませるのにどれだけの圧を要したか(駆動圧:driving pressure)を示します。つまり,Pplat-PEEPが大きければ大きいほど,肺胞が固く膨らみにくいことを意味します。こちらに定まった基準値はありませんが,人工呼吸器による肺障害を避けるための管理方法として駆動圧<15 cmH2Oにすることが指標のひとつとして提案されており2),例えば「360 mLの一回換気量に対して20 cmH2Oも駆動圧が必要になっている,肺障害がかなり強いぞ」と考えます。このPplatの測定ですが,実際にはVCVで吸気ポーズ時間を設定することは近年あまり行われておらず,人工呼吸器で「吸気ホールド」の操作をすることによって吸気が終わった状態を維持することで計測されます。この吸気ホールドは自発呼吸が無い状態が測定しやすいため,ERで筋弛緩をかけて挿管した直後などはまさに打ってつけです。そのため筆者は,ERで挿管したら最初の10分程度をVCVで管理し,眼の前の呼吸不全が気道由来か,肺実質由来かを判断するのに用いています。

・ VCVは流量波形を機械で決める,圧波形は患者さんの状態によって変化する
・ 人工呼吸器で吸気を決める,呼気にかかる時間は患者さん次第
・ ERでの挿管後にVCVで評価してみよう


1)Cochrane Database Syst Rev. 2015[PMID:25586462]
2)N Engl J Med. 2015[PMID:25693014]

3577_0302.png

横浜市立みなと赤十字病院集中治療部/呼吸療法専門医

2015年神戸大卒。救急・麻酔の研鑽を積んだ後,22年より現職。救急科専門医,麻酔科認定医,集中治療科専門医,呼吸療法専門医。急性期の気道・呼吸・循環管理,Point-of-care Ultrasound(POCUS)等を専門としている。