救急外来,ここだけの話
第一線の医師はどのように考えて診療しているのか?
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救急外来(ER)の分野で議論のあるトピックを取り上げ、「第一線の医師はどのように考えて診療しているのか(=ぶっちゃけ、どうしているのか)」を解説。関連するエビデンスを豊富に紹介しながら丁寧に論を進めていくスタイルで、救急医療が専門ではない若手医師も本書を読めば“Controversial”な状況に強くなる! 大好評の『集中治療、ここだけの話』に続く、シリーズ第2作。
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序文
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序
「グーみたいな奴がいて,チョキみたいな奴もいて,パーみたいな奴もいる.誰が一番強いか答えを知っている奴 いるか?」
(#39 グーとチョキとパー,『宇宙兄弟』5巻,講談社刊,主人公の一人の南波六太のセリフ)
この原稿を書いている2021年5月現在,オリンピックを初めて延期に追い込んだCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)は今もなお猛威を振るい,緊急事態宣言,まん延防止等重点措置が繰り返し出され,人流に規制がかけられています.どのような患者に対してCOVID-19を疑うべきなのか,誰に検査をするべきなのか,どのような検査の手順が望ましいのか,患者背景や症状,流行地域か否か,病院の資源の問題などから,施設ごとにupdateしながら診療体制を確立していることと思います.
私が救急医となったのは今から約10年前の2010年のことです.都内の大学病院で救急・集中治療医として主に救急車で来院する患者の対応を担っていました.その後僻地の病院などで勤務し,現在は1,000床規模の地域の中核病院の救急外来で初期研修医とともに診療に当たっています.診療の場によって実施可能な検査や頼れる専門科は限られ,入院の閾値も異なります.ある場所では当たり前のように実施できることが,できないこともあります.専門科であれば必要のない検査でも非専門科や研修医など初療を担う医師にとっては必要な検査もあるでしょう.現在置かれている状況で最善の策をそのつど考えて対応する必要があるのです.
同じ症候や疾患であってもアプローチが同一かというとそうではありません.高齢者救急とあえて言わずとも,わが国の救急外来患者の多くは高齢者です.複数の疾患を抱え,多数の薬を内服しています.認知症や後遺症などでコミュニケーションが容易ではない患者も珍しくなく,検査を優先させたり,時間を味方につけて対応しなければ判断が難しいことも少なくありません.また,重症度が低いからといって帰宅が可能かというとそうとは限りません.複数の視点から考え,対応しなければならないのが今の救急医療です.
救急患者をある程度診ていると,誰もがそれなりの対応はできるようになるでしょう.気管挿管などの手技にも自信がつき,カテコラミンなどの薬剤の使用にも慣れ,複数の患者を同時に診ることも可能となります.しかし,その対応は本当に正しいのか,自分よがりの意見ではないか,もっとよい対応はできないものか常に自問自答することも大切です.疑問を見出し1つひとつ解決していく過程を踏まなければ一歩先へは進めないでしょう.
本書は救急の現場でみなさんが日ごろ頭を悩ませている事柄をcontroversyとして取り上げ,臨床現場で奮闘している先生方に最新の知識だけでなくさまざまな状況を踏まえ記載していただきました.本書を読み,疑問を解決するだけでなく,新たな疑問点を見つけ,好奇心を持って明日からの救急診療に活かしていただけると嬉しいです.
冒頭の六太の言葉の通り,答えが1つに決まることはなかなかないものです.あるときはグー,あるときはチョキ,そしてあるときはパーを選択するのです.相手(患者や家族など)や状況(診療の場など)に応じて適切な対応ができるように,常に考えながら歩んでいきましょう!
2021年5月
編者を代表して
坂本 壮
目次
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1章 総論
1.トリアージ――その方法,行う人,断る/受ける判断,他院へ転送するべきタイミングは?
2.救急外来は各科相乗り型かER型か?
3.効率的で安全な救急外来のスタッフ配置は?
2章 循環
4.ACSの診断と除外方法――適切な観察時間,入院観察の判断基準は?
ACSの診療――はじめに
1 STEMI
2 NSTE‒ACS
5.心房細動――rhythm controlはいつ,誰に,どのようにするのか?
6.失神の診断方法と対応の仕方
7.心停止がやってくる! ガイドライン通りに……!?
8.急性非代償性心不全とどのように戦うか?――可及的速やかな介入と病態に合わせた最適化
9.急性大動脈解離の基礎知識と迅速に診断するポイント
10.肺塞栓をどのように適切に診断し,治療するか?
11.ショック――鑑別の方法,輸液量,昇圧薬の選択とタイミング
3章 呼吸
12.肺炎の診断と治療における種々の課題
13.喘息増悪時の最適治療は?
14.気胸――観察 vs. ドレーン vs. アスピレーション,occult pneumothoraxの対応
15.ERにおけるHFNC,NPPVの適応と注意事項,病棟(ICU)への移行
16.確かな気道管理のために何を意識するべきか?
4章 腎
17.造影剤腎症の定義・診断・予防
18.急性腎障害の診断と治療
19.尿管結石――鎮痛に何を使い,画像検査はどれを選ぶか?
20.急性尿閉にカテーテル留置は必要か? どのような所見が危険度を示唆するか?
5章 感染症
21.常に結核を疑うべきか,どのような患者で疑うのか?――疑ったときの対処(隔離)と診断方法
22.敗血症の早期診断と見逃しを防ぐ方法を考える
23.尿路感染症は救急外来でどんなときに疑い,どうマネジメントするのか?
24.HIV感染症――ERで疑う症状・徴候とは? 対応は?
6章 内分泌
25.甲状腺クリーゼ――妙に意識が悪い心房細動と思ったら……
26.副腎不全はどのような患者に疑い,どう対応するのか?
27.DKAとHHSの鑑別は? 原因は? 初期治療に違いはあるのか?
28.ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
7章 神経
29.めまいに頭部CTは必要か? 高齢者のBPPVに耳石置換法を行うか?
30.頭痛と可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)――ERでどのように対応するべきか?
31.脳梗塞に対する再灌流療法(rt‒PA/MT)の適応は?――時間,年齢,病院の選定
1 Wake up strokeの対応は?
2 高齢者の血栓溶解療法╱血栓回収療法の適応は?
3 血管内治療ができない施設での対応は?
32.一過性脳虚血発作(TIA)――リスク評価は? ABCD2スコアで十分か?
33.救急外来での痙攣重積の対応法と,高齢者のNCSEを疑うタイミングと対応法は?
34.くも膜下出血をいつ疑うか? CTではっきりしないときの診断方法や初期治療は?
8章 消化器
35.救急外来の消化性潰瘍患者には,どのようなマネジメントが必要か?
36.下部消化管出血――ERでオーダーするのは造影CT? それとも大腸内視鏡?
37.女性の腹痛へのアプローチ――妊娠検査・妊娠中の画像検査の適応
38.胆管炎・胆囊炎――抗菌薬の選択,治療方法,タイミングは?
39.急性膵炎――重症度分類,初期治療,内科 vs. 外科,ICU vs. 病棟
40.腸閉塞――絞扼性腸閉塞の診断,初期治療,手術の適応
41.急性虫垂炎を疑った場合,抗菌薬投与か,手術か? いつ外科医に連絡すべきか?
9章 血液
42.救急外来で輸血が必要となるのはどんなときか?
43.救急外来でいつ発熱性好中球減少症を疑い,どのようにマネジメントするか?
10章 精神
44.うつ病――ERで疑う症状/徴候,自殺企図,初期対応
45.不穏――診察が難しい患者への対応,考慮すべき原因
11章 終末期
46.高齢者への気管挿管――アドバンス・ケア・プランニング
12章 外傷
47.頭部外傷患者はいつ,どんなときにルーチンで頭部CTを撮影すべきか?
48.大腿骨近位部骨折は単に診断するだけでよいのか?――救急外来で出合う頻度の高い骨折のマネジメント
49.肩関節脱臼整復の最適な方法は?
50.ERの創傷処置において「知っているようで知らないこと」
13章 マイナー
51.救急外来において,眼科診療はどのようにすればよいのか?
52.主訴:鼻出血――脱「そうだ,耳鼻科行こう」
53.ERで出合う重症薬疹
14章 その他
54.ERでの血液ガスの活用
55.エコーの利点と限界.必要なトレーニングとは?
56.アナフィラキシー――実践的な経過観察時間は?
57.CO中毒と有機リン中毒への対応
1 CO中毒
2 有機リン中毒
58.航空機内での救急――起こりうる事態と機内でできること
索引
書評
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「ここだけの話」は専門医が持っている「得意分野のピカイチネタ」
書評者:杉田 学(順大練馬病院教授・救急・集中治療科)
2021年8月。われわれ東京で働く救急医にとって,普段の救急医療に加えて新型コロナウイルス感染症の対応,2020東京オリンピック・パラリンピックの医療救護体制への参加が加わり,昨年から一貫してとても忙しい毎日である。医療従事者のワクチン接種がおおむね完了したが,いまだ自由に外出できる状況ではなく,日々ストレスを感じている。私は救急医であり,また感染対策室長も務めているため,毎日新たな感染症関連のエビデンスを収集し発信している。そんな中,坂本壮先生から,田中竜馬先生と編集にかかわったという本書を紹介され手に取った。
『救急外来,ここだけの話』。その題名に釣られてエッセイを読むようにページをめくってみたら,なんと中身は超硬派であった。そうか「ここだけの話」とは,スキャンダルでもオモシロ経験談でもなく,専門医が持っている「得意分野のピカイチネタ」なのかと納得した。特筆すべきはその読みやすさで,エビデンスが確立していることだけでなくcontroversialな話題にも触れ「救急外来での最初の数時間をどう過ごすか」に焦点を当てている。忙しい,忙しいという毎日ではあるが,勤務時間には終わりが来る。飲みにも行けず家で過ごす間に読破できてしまった。面白かったし,パクって研修医に話してやろうってネタも増えた。
考えてみると,救急外来での初療ってこれだけの知識を身につけなければならないってことなのだ。本書は成書にある病気の急性病態をだけをまとめて,症候学とともにギューっと凝縮して,最新のトピックと専門家のテクニックを詰め込んであるのだ。救急外来で初療に当たるときには専門性より,いかに多くの疾患を思い浮かべることができるかの勝負になる。そういった意味では,本書のターゲットは経験の浅い医師だけじゃない。むしろ,それなりに経験を重ねて,いつのまにか指導する立場になった医師にこそ必要かもしれない。
2004年に改定された新臨床研修医制度では2年間のローテートが必修とされ,これ以降に研修を修了した医師は(坂本先生もしかり),専門科にかかわらず初療に強い医師が多いと感じる。この世代が医療の最前線を支えているのだなとつくづく実感する。若い世代が本書のような武器を持つとすればさらに心強い。
ビデオ会議で偉そうに喋る私の背後に本書が映っていても突っ込まないでほしい。われわれ世代もこの本で勉強させてもらおう。知識のアップデートにはこのような良書が必要だ。あらためて本書は初期研修医から指導医まであらゆる世代で必要な良書であると確信する。
膨大な文献考察と一流医師の英知が詰まった本書から答えを見出す
書評者:増井 伸高(札幌東徳洲会病院救急センター部長)
Controversyは159個
救急外来はギモンでごった返している。
・「敗血症性AKIを併発している患者への造影CTは?」
・「ビタミンB1はどの程度投与すればいいのか?」
・「急性虫垂炎と診断したら,抗菌薬投与で一晩経過をみてもよいか?」
これは本書のギモンのごく一部。答えがないため「Controversy(議論の及ぶところ)」と表現されるやつだ。書籍ではこうしたERのギモン,Controversyを159個もピックアップ。ここまで多いと潜在意識のギモンまで言語化していることになる。
参考文献数はなんと1100本
この書では159個すべてのギモンに対し文献考察をしている。その徹底ぶりには驚かされた。Controversyとお茶を濁さず実直にギモンへ向き合っているのだ。その姿勢は参考文献数1100本という数字が証明している。分担執筆とはいえ,よくもまあ調べてある。
この文献数は日本語の救急医学の書籍としては最高峰だ。もし若手医師が勉強会で文献を調べるときに最初にひも解く本としてはベストチョイス。あるいは上級医が文献をひけらかす虎の巻にもなるだろう。本書からの引用だとバレなければ,読者は文献マエストロと思われるに違いない。
そして情報量がこれほど多いのに定価5,720円(本体5,200円)という値段。最高にコスパの良い医学書だ。情報量が多いのでB5サイズ480ページ,1035gとボリューム満点でさすがに白衣に入らない。そこで救急外来に1冊,自分の机に1冊,カンファレンスルームに1冊ずつ買っておくのがオススメだ。あるいは電子書籍版を医書.jp(https://store.isho.jp)で契約・携帯するのもスマートだろう。
∞(無限)の中から答えを見出す
文献のじゅうたん爆撃でもわからないことはある。それでもベッドサイドで方針は決めないといけない。その点は各スペシャリストが「(不明点はあるが)わたしはこうしている」と真摯に述べている。徹底的に文献考察しているので,たとえ経験論でもコメントに含蓄がある。この本書のギモン解決法を読者はきっと実践したくなるだろう。あるいは解決法が自分と同じ方法なら,「このままでいいんだよ」とやさしく背中を押してくれるだろう。
Controversyなギモンに対する答えは医療施設ごと,患者ごとに違う。本来その数は∞(無限)で,答えに詰まることもあるだろう。しかし膨大な文献考察と一流医師の英知が詰まった本書であれば全てのギモンに答えを見出すことも可能だ。『救急外来,ここだけの話』は近い将来に全国の救急外来に広がり,ここだけで終わらない話になるだろう。
カリスマ指導医から指導を受けたかのような体験を
書評者:福田 龍将(虎の門病院救急科部長)
救急外来診療をしていると,いつになっても臨床的疑問が尽きることはありません。その度に最新の知見を調べる余裕があればよいですが,現実には多忙を極める救急外来で一つひとつの疑問に向き合う時間を十分には取れないことがほとんどです。本書はそのような状況で,われわれの強い味方になる一冊です。「ここだけの話」というタイトルからは,救急診療におけるマニアックな部分を追求したものを想像されるかもしれませんが,実際には基本的な部分からcontroversialな部分まで幅広い臨床的疑問が扱われています。ばらばらの疑問ではなく,系統立てて構成が行われているため,教科書のように使いながら各病態や疾患についての最新の知識を深めることも可能な一冊となっています。
本書の編集を担当された坂本壮先生・田中竜馬先生は,これまでにも救急・集中治療領域でベストセラーとなるような名著を数多く輩出されてきましたが,本書も間違いなくお二人の代表作の一つになることと思います。私は以前,シリーズ第1作目となる田中竜馬先生の編集による『集中治療,ここだけの話』で,私自身が専門とする蘇生に関する項目の執筆を担当させていただきましたが,その編集過程において妥協を許さず読者にとってよりよいものを提供するための努力を惜しまない編集者の姿勢を垣間見る機会がありました。今回の『救急外来,ここだけの話』でもお二人の編集のもと,執筆陣には各領域のエキスパートがそろっており,最新のエビデンスについて学べるだけでなく,controversialな部分についてはエキスパートがどのように考えてどう対応するかを知ることができ,本書を通して全国のカリスマ指導医から指導を受けたかのような体験をすることができます。
救急外来で働く研修医や専攻医,あるいは救急を専門としない医師にとっても,現場にあるとかゆいところに手が届く一冊として非常に役に立つことは間違いなく,また救急指導医にとっても指導の助けとなることは間違いありません。救急外来診療のバイブルとして個人でも所有したいし,救急外来にも備えておきたい一冊です。