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循環から見た「最適なPEEP」の個別化アプローチ

寄稿 則末泰博

2026.10.20 医学界新聞:第3590号より

 人工呼吸管理において,PEEP(呼気終末陽圧)は虚脱した肺胞領域を開き,機能的肺領域(functional lung volume)を拡大させ,酸素化を改善させるなど多くの呼吸生理学的メリットをもたらします。しかし,近年の国際ガイドライン(ESICM ARDSガイドライン2023)においても,一律に高PEEP strategyを選択することが死亡率改善に直結するという明確なエビデンスはなく,PEEPの設定方法についての推奨はありません1)。

 PEEPの設定方法を全ての患者に対して一律に決めることができない大きな要因の一つが呼吸循環相互作用です。肺にとって最適なPEEP(Best PEEP)が,必ずしも循環動態にとってのBest PEEPと一致するとは限らず,時に深刻な血行動態の破綻を引き起こすことがあります。本稿では,PEEPが循環に及ぼす生理学的メカニズムを整理し,個々の病態に応じた最適なPEEPアプローチについて解説します。

 PEEPが心拍出量(CO)に与える影響は,「①静脈還流(前負荷)」「②右心後負荷」「③左心後負荷」の3つの視点から整理することができます(表)。

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表 PEEPが循環に与える3つのメカニズム

① 静脈還流(前負荷)の低下:PEEPの上昇に伴い胸腔内圧および右房圧が上昇します。右房圧の上昇は全身からの静脈還流圧勾配を減少させるため,静脈還流量の低下を招きます2)。循環動態の前負荷依存性が高い病態(出血性ショックや十分な蘇生輸液がなされていない敗血症性ショックなど)では,高いPEEPにより心拍出量が著明に低下します。

② 肺血管抵抗(PVR)と右心後負荷の変動:肺血管抵抗(PVR)は肺容量とU字型の関係にあります(図1)。肺胞が虚脱した状態でも,逆にPEEPによって肺胞が過伸展した状態でもPVRは上昇します。特に肺胞過伸展時には肺胞毛細血管が引き延ばされて虚脱し,右心後負荷が増加します。これにより右心が拡大し,中隔の左室側偏位を介して左室を圧迫・虚脱させ,心拍出量を激減させます(図2)3)。つまり,循環動態の右心後負荷依存性が高い病態(ARDS,急性肺血栓栓塞症,肺高血圧症,右室梗塞など)では,高いPEEPにより心拍出量が著明に低下します。

③ 左心後負荷の軽減(陽圧のベネフィット):血液を大動脈に駆出するために左心が作り出さなければならない圧(経壁圧:Ptm)は,「Ptm=左心内腔圧 ― 胸腔内圧」で定義されます。PEEPにより胸腔内圧が上昇するとPtmが減少し,左室の後負荷が軽減されます。つまり,左心が高い圧を自分自身で作り上げなくても,収縮をすることができるようになります。図3では,強い吸気努力が心臓の後負荷を増やし,PEEPや血管拡張薬によって後負荷が軽減されていることを示しています。低左心機能や僧帽弁閉鎖不全症(MR)など,循環動態が左心後負荷に依存している患者では,高いPEEPによる前負荷と後負荷の軽減によって心拍出量が増加します。

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図1  肺血管抵抗と肺容量の関係
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図2  肺胞過伸展による心拍出量減少(文献3より転載,一部改変)
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図3  心臓の後負荷の増加・軽減のイメージ
血液を大動脈に拍出するために左心が作り出さなければならない圧(Ptm=左心内腔圧-胸腔内圧)は強い吸気努力によって増加し,PEEPや血管拡張薬により軽減する。

 ARDS患者において高PEEPで循環動態が悪化するか否かを分ける重要な鍵が,リクルータビリティ(虚脱肺胞の再開通可能性:recruitability)です。

Low Recruiter(リクルータビリティが低い肺): 高PEEPをかけても新たに開通する肺胞が少なく,すでに開いている正常な肺胞が過伸展されるだけになります。その結果,PVRの上昇と右心後負荷の増大を招き,一回心拍出量が低下します。

High Recruiter(リクルータビリティが高い肺): 高PEEPにより多くの虚脱肺胞が再開通(リクルート)するため,過伸展される肺胞よりも改善する肺胞の方が多くなります。結果として酸素化が有意に改善し,血圧も低下しにくくなります4)。

 十分な循環血液量(hypovolemiaがない状態)であるにもかかわらず高いPEEPで循環動態が悪化する場合,それは肺に対しても過伸展(害)をもたらしている可能性が高いと言えます。

 陽圧換気中は,胸腔内圧の上昇により左室前負荷の軽減(静脈還流減少)と左室後負荷の軽減(経壁圧減少)が同時に達成された,いわば左心系がサポートされた状態にあります。

 抜管を行って自発陰圧呼吸へ移行すると,胸腔内圧が低下(陰圧化)します。これにより静脈還流が急増して左室前負荷が増大すると同時に,Ptmが上昇して左室後負荷が増大します。潜在的な左心不全やMRが存在する患者では,抜管直後に左室不全や肺静脈圧上昇を来し,肺水腫や循環不全を引き起こします。したがって,SBT(自発呼吸試行)および抜管のプロセスは,呼吸機能の評価だけでなく「循環負荷試験」としての視点を持って臨む必要があります。当院では,左心機能低下患者ではPEEP 5cmH2O,Pressure support 5cmH2Oであっても左室がまだサポートされている状態であると考え,左室機能を過大評価しないために,陽圧を完全になくしたT-pieceによるSBTを行っています。

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 循環動態へのPEEPの影響は一律ではなく,患者の病態(前負荷/後負荷依存性,左右の心機能,肺のリクルータビリティ)によって全く異なった反応を示します。臨床で酸素化低下や血圧低下に直面した際は,肺だけ・循環だけを見るのではなく,呼吸循環相互作用のメカニズムに基づいた個別化アプローチを行うことが重要です。


1)Intensive Care Med. 2023[PMID:37326646]
2)J Am Coll Cardiol. 1994[PMID:8113561]
3)Heart. 2013[PMID:23539555]
4)Am J Respir Crit Care Med. 2020[PMID:31577153]

東京ベイ・浦安市川医療センター 副センター長 / 救急集中治療科(集中治療部門) 部長 / 呼吸器内科 部長

1996年慶大文学部心理学科卒業後,東邦大医学部へ進学。2004年沖縄県立中部病院にて初期研修,06年より米ハワイ大内科レジデント,09年米セントルイス大にて呼吸器内科・集中治療科フェロー。12年に帰国し現職。編著に『人工呼吸管理レジデントマニュアル 第2版』(医学書院)。