腎移植ケアガイド

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日本腎不全看護学会による監修のもと、腎移植、腎疾患看護のスペシャリスト、研究者により編集された腎移植ケアのバイブル。年間導入数が伸びてきている腎移植の知識は、今後の腎臓病看護で必須である。本書は、総論で基礎的な医学知識、看護を解説。各論ではクリニカルクエスチョン(CQ)を提示し、レビューを行い、エビデンスにもとづく臨床での実展開について解説する。

監修 一般社団法人 日本腎不全看護学会
編集 CKD委員会腎移植ケアガイドワーキンググループ
発行 2022年04月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-04927-6
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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 このたび日本腎不全看護学会より『腎移植ケアガイド』を発刊する運びとなりました.腎移植は,代行できる腎機能レベルが腎代替療法のなかで最も高く,QOLが良好な治療法です.しかしながら,希望されるすべての方が行える治療ではなく,年齢や身体状況により難しい場合もあります.
 現在,腎移植を希望されている方は,13,831人(2022年2月,日本臓器移植ネットワーク)です.そして,日本移植学会から発表されている最新の情報(ファクトブック2021)から,2020年の年間の腎移植件数は1,711例,そのうち生体腎移植は1,570例(91.8%),献腎移植は141例(8.2%)と報告されています.腎移植を受けられる方は,希望者の約13%にしか過ぎません.また,献腎移植を希望される方の平均待機日数は約15年と,非常に長期間にわたる状況です.これは,脳死そのものの考え方と移植医療に関する情報や知識が,一般の方に周知されていないことが影響していると考えられます.依然として狭き門である腎移植を少しでも多くの希望される方々が受けられるようになることが望ましいと思います.
 わが国の多くの移植施設では,腎移植後のフォローを手術時と同じ病院で行う場合が多いため,勤務する病院が移植施設でない場合は,慢性腎臓病看護に関わる看護師が自院の透析患者の腎移植後のケアについて看ることは少ないと思います.この状況を踏まえ,私たち慢性腎臓病看護に携わる看護師は,腎移植を希望される方,受けられた方に必要な情報や適切なケアを提供できるように関わる必要があります.しかし,腎移植における看護の参考書籍は少なく,臨床で困った場面に遭遇したときや学習の機会が必要になったときに役立つものが求められていました.また,2020年度診療報酬改定により,腎代替療法である血液透析,腹膜透析,腎移植のいずれについても情報提供を行うことを目的とする,腎代替療法指導管理料が新設されました.続いて,2022年12月には,腎代替療法の適切な選択を推進し,透析・腎移植患者のADL,QOL向上を目指すことを目的として,腎代替療法専門指導士制度が発足する予定で,社会的な要請が高まってきています.よいタイミングで本書の発刊となったようです.この機会に,腎移植についての知識を高め,推進するための一助になる1冊として役立つことを期待しています.

 2022年4月
 一般社団法人 日本腎不全看護学会
 理事長 松木理浩


腎移植ケアを学ぶ

 腎不全の唯一の治療法である腎移植は,国内では年間約1,700件行われており,そのほとんどは親やきょうだい,配偶者をドナーとする生体腎移植です.一方,献腎(死体)移植を希望し,日本臓器移植ネットワークに登録している人は約14,000人で,そのうち,献腎移植を受ける人は毎年1~2%です.
 生体腎移植であっても献腎移植であっても,免疫抑制薬の進歩により生着率は向上しています.薬剤管理や感染予防は重大な課題になりますが,腎代替療法に比してレシピエントにとって替えがたい治療であることに変わりはありません.
 腎代替療法の適切な療法選択が進められるなか,在宅での腹膜透析に加え移植医療の推進が掲げられています.看護師は,患者への正確な情報発信と共同意思決定に適切に関われるように,移植医療とその看護についての学びを深めなければなりません.また,献腎移植を希望する患者の登録から移植までの待機期間は約15年といわれています.透析を受けながら腎移植を待つ患者は,レシピエント候補の連絡があった場合に備え,日頃からセルフケアを十分に行っていることが大切です.移植医療を理解し,患者が良好な状態で腎移植を行えるように支えることも看護師の役割です.そして,術後には,提供された腎臓を1日でも長く温存できるように生活管理面や精神面からのケアも必要です.
 昨年,日本腎不全看護学会が監修した『CKD保存期ケアガイド』に続いて発刊されることになりました本書の特徴は,前書と同様に,エビデンスに基づいた看護を念頭において記述されていることにあります.当学会のCKD委員会腎移植ケアガイドワーキンググループが中心になり編集,執筆したもので,移植患者やドナーへの対応など臨床において悩んだときにも役立つ内容であることを確信し,皆さまにお届けしたいと思います.

 2022年4月 一般社団法人 日本腎不全看護学会
 前理事長 中原宣子


本書を発行するにあたり

 わが国の慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)患者は成人国民の約13%にあたり,糖尿病や高血圧と並びまさに国民病といえます.そのなかで,CKDが悪化し,末期腎不全に陥った場合,腎代替療法が必要になる患者がほとんどです.わが国の腎代替療法は,血液透析・腹膜透析・腎移植の3つの選択肢があります.このなかで年間導入数が最も多いのは血液透析であり,約32,000名程度ですが,腎移植もここ数年で年間導入数を伸ばし,コロナ禍前の2019年には献腎移植・生体移植を合わせると2,000件を超えて,増加の一途を辿っています.今後,さらに腎臓病看護を行っていくにあたり,腎移植の知識は必須になると考えられます.
 腎移植について,2011年から,日本移植学会を中心とする移植関連学会や研究会で構成されるレシピエント移植コーディネーター合同認定委員会によるレシピエント移植コーディネーターの認定制度が始まりました.それに次いで翌2012年4月から,移植後患者指導管理料(300点)が診療報酬として新設され,それまで移植患者の術後の指導管理には診療報酬がなかった状況から激変を遂げました.レシピエント移植コーディネーターは全国に存在するものの,全移植施設に配置されているわけではなく,現状ではすべての腎移植看護をレシピエント移植コーディネーターが担っているとはいいがたい状況下において,移植後患者指導管理料は,レシピエント移植コーディネーターでなくとも条件に見合う研修を受けた看護師が移植外来時に医師とともにケアを行うことで算定できるため,移植看護の新たな幕開けのきっかけになったといっても過言ではないでしょう.
 しかしながら,わが国において腎移植看護を初学者が学ぶにあたってバイブルと呼べる書籍は今まで発刊されていませんでした.加えて,腎移植看護の研究者はいまだ数少なく,evidence based practice(EBP)を実践するには弱さがあったのが事実です.腎移植看護は,周術期のみならず,移植腎が機能し続ける限り一生続いていきます.上述したように,右肩上がりに増加する移植件数に伴って腎移植看護の重要性が高まってきているといえます.加えて,2018年には腎代替療法指導管理料が新設され,腎代替療法意思決定支援時に血液透析・腹膜透析・腎移植の3つの選択肢を適切に説明することが求められるようになりました.そうすると,今まで腎移植に関わってこなかった,CKD保存期を中心にケアを行っていた看護師,透析看護を主体としていた看護師にも腎移植を含めた療法選択支援の場が拡がり,患者への情報提供の必要性が高まってきました.
 このような現状に鑑み,今回,日本腎不全看護学会CKD委員会では『腎移植ケアガイド』を発刊することに致しました.本書の企画にあたっては,腎移植ケアガイドワーキンググループのメンバーのみならず,日本移植学会をはじめとする各学会から腎移植外科医・腎移植内科医・腎臓内科医・レシピエント移植コーディネーターを推挙していただきアドバイザリーボードを発足させ,ワーキンググループの草案のブラッシュアップや,腎移植の医学的知識の解説の執筆なども担っていただきました.それに加えて,『CKD保存期ケアガイド』同様に,腎移植看護における重要な臨床疑問をクリニカルクエスチョン(clinical question:CQ)という形で表し,それらについてEBPが実践できるように,腎臓病看護研究者らに国内外の文献レビューを依頼し,エビデンスの集積に努めました.各CQにはそのレビュー結果のみならず,推奨文,臨床への示唆も記述されており,腎移植看護の初学者はまずはそこを概観することにより,日々の腎移植看護に自信をもって臨めることになると期待しております.また,初学者のみならずベテランの腎臓病看護師,腎臓病療養指導士,透析看護認定看護師,腎不全看護認定看護師,慢性疾患看護専門看護師(サブスペシャリティ:腎臓病)にも手に取っていただき,臨床知を根拠に基づくものに転換し,日々の看護をより深めていただければ幸いです.さらには,研究途上のCQについてはぜひ各施設での研究成果を公表し,レベル向上を目指していただきたいと思っております.
 冒頭から記載している通り,腎移植看護が担う役割への期待は年々高まっています.このたび本書を発刊し,より多くの腎臓病看護師,腎移植看護師の日々の臨床に役立てていただきたいと思っております.今後も新たなエビデンスは創出されることと思いますので,未来志向で検討を重ねて参りたいと思っております.手に取ってくださった皆さまから,新たなCQなどもお寄せいただけると幸いです.加えて,医師をはじめとする多職種の皆さまにも腎移植看護の現況を知っていただき,本書を通してさらに質の高い腎代替療法意思決定支援,腎移植医療が推進されることを祈念いたします.

 2022年4月
 日本腎不全看護学会 CKD委員会腎移植ケアガイドワーキンググループリーダー
 東邦大学看護学部看護学科 小坂志保


本書の活用の仕方

 本書は,2021年に発刊された『CKD保存期ケアガイド』に続く,腎移植看護のケアガイドで,3章構成で作成されています.まず第1章では,腎移植看護を行うにあたっての総論として,「腎移植の基本事項」「移植コーディネーターとは」「腎移植患者の看護総論」「腎移植患者のアセスメント項目・看護介入」を据えています.その後,第2章では各論として腎移植患者の食事・栄養,運動・フレイル,セルフマネジメント,生活習慣,QOL,メンタルサポート/認知機能低下への支援についてクリニカルクエスチョン(clinical question:CQ)を設け,それぞれのCQについて国内外の論文をレビューし,臨床で根拠に基づく実践(evidencebased practice:EBP)を行えるように推奨文,臨床への示唆,レビュー結果(文章/表)を提示して構成されています.最後の第3章では,腎移植看護を実践する際に出会うような事例についてまとめ,解説しています.

 本書の主な内容となる各論(第2章)の構成,狙いについて解説します.
 まず,CQについて説明します.クリニカルクエスチョン=CQは臨床疑問と訳され,日々の実臨床において疑問を呈される疾患の検査や治療,看護における重要なトピックです.今回のCQについては,実臨床において日常的に行われているさまざまな腎移植看護が本当にエビデンスに基づいているのか? という視点から今一度吟味し,皆さんが自信をもってEBPを行えるようにしていきたいと考え,腎移植看護・腎疾患看護のスペシャリスト,研究者で検討し,その後,アドバイザリーボード(腎移植外科医,腎移植内科医,腎臓内科医,レシピエント移植コーディネーター)の承認を経て作成しています.
 推奨文では,CQに基づいて国内外の論文(主に介入研究)をレビューし,そのCQのエビデンスの有無,臨床への推奨度合いを示しています.残念ながら,介入研究が少なくいまだエビデンスが少ないものもあるため,それについては今後の研究が必要である旨が記載されている場合もあります.
 臨床への示唆では,CQに対するレビュー結果をより実臨床に活かせるように解説し,具体的にEBPを展開するにあたり気をつける内容,知っておくべき知識,実践の具体的方策などが示されています.各CQに対して,実臨床で実践すべき内容が記載されているので,こちらを参考にしながら日々の腎移植看護にあたっていただければと思います.
 レビュー結果では,腎疾患看護研究者がCQに基づいて国内外の多くの文献をレビューした結果が示されています.推奨文・臨床への示唆がどのように導き出されたのか,どのようなアウトカムに対して,どのような介入がなされたのかを明記しています.また,レビュー表をご覧いただけば,レビューに用いた論文の著者,出版年,参加者,アウトカム,介入,結果が一覧になっているため,原文に容易に戻って確認していただくことも可能です.ぜひ,こちらも併せてご覧になっていただきご自身の知識として活用していただければと思います.
 第3章の事例については,ドナーへのアプローチ,献腎登録患者へのアプローチ,移植施設と多職種との連携におけるRTCの役割について,具体的な症例を提示しながら,事例の問題点を抽出し,それに対する看護アプローチと結果,看護のポイントを示しています.皆さんが臨床でお困りになったときに,すぐに活用していただけるエッセンスが詰まっているため,参考にしてください.
 以上,皆さんが腎移植看護に携わるにあたって,根拠と自信をもって展開していただける一助になりますことを,執筆者一同祈念しております.

 2022年4月
 日本腎不全看護学会 CKD委員会腎移植ケアガイドワーキンググループリーダー
 東邦大学看護学部看護学科 小坂志保

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第1章 総論
 ○腎移植の基本事項
  腎代替療法における腎移植の位置づけ
  腎移植件数
  生着率・生存率
  適応基準
  医療費・社会資源
  拒絶反応と免疫抑制薬
  先行的腎移植
  血液型不適合移植
  腎移植後の合併症(短期・長期)
  移植後の生活
  生体ドナーの適応条件
  生体ドナー管理
  腎移植術
  ドナー腎採取術
  献腎移植
  移植腎の廃絶
  再療法選択
  医療経済
 ○移植コーディネーターとは
  移植コーディネーターとコーディネーション
  日本のRTCの現状
  RTCの患者支援
  欧米との比較
  移植プロセスとコーディネーション
  移植腎廃絶時の再療法選択
 ○腎移植患者の看護総論
  腎移植看護
  拒絶反応における看護
  腎移植後の合併症
  自己管理
  服薬
  感染症
  食事
  運動
  移植後の生活
  精神面
  定期受診・がん検診
  妊娠・出産
  社会復帰
  地域連携
 ○腎移植患者のアセスメント項目・看護介入
  血圧
  体重
  検査データ
  服薬
  感染予防
  食事
  運動

第2章 各論
 ○食事・栄養
  解説
  CQ① 減塩指導は移植後の腎機能に影響を及ぼすか
  CQ② 体重管理(肥満予防・メタボリックシンドローム予防)は移植後の腎機能に影響を及ぼすか
 ○運動・フレイル
  解説
  CQ① フレイル予防は移植後の腎機能に影響を及ぼすか
  CQ② 運動指導は移植後糖尿病(PTDM)予防に効果的か
 ○セルフマネジメント
  解説
  CQ① 内服指導(服薬アドヒアランスの向上)は,移植後の腎機能に影響を及ぼすか
  CQ② 血圧管理指導は移植後の腎機能に影響を及ぼすか
  CQ③ セルフマネジメント(禁煙,運動,栄養)は心血管イベントの抑制に影響を及ぼすか
 ○生活習慣
  解説
  CQ① 水分管理(脱水予防,飲水励行)は移植後の腎機能に影響を及ぼすか
  CQ② 感染予防行動(手洗い,マスク,ソーシャルディスタンス)は移植後の腎機能に影響を及ぼすか
  CQ③ 腎移植後のインフルエンザワクチン推奨は移植後の腎機能に影響を及ぼすか
  CQ④ がん予防指導(スクリーニング含む)は移植後の悪性腫瘍予防に効果があるか
 ○QOL
  解説
  CQ① 腎代替療法における意思決定支援は術後のQOL/自己管理行動に影響を及ぼすか
  CQ② 多職種チームが関わることで移植後のQOLや腎機能に影響を及ぼすか
  CQ③ 生体ドナーと腎移植レシピエント間の関係性への支援がドナー・レシピエントのQOLに影響を及ぼすか
 ○メンタルサポート/認知機能低下への支援
  解説
  CQ① メンタルサポート(うつ,ストレス,不眠などへの介入)はアドヒアランス/QOLに影響を及ぼすか
  CQ② 軽度から高度までの認知機能低下(高齢者を含む)に対する支援(在宅を含む)は移植後の腎機能に影響を及ぼすか

第3章 実践事例
 ○ドナーへのアプローチ
 ○献腎登録患者へのアプローチ
 ○移植施設と多職種との連携におけるRTCの役割

索引

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