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入職1年目から現場で活かせる!
こころが動く医療コミュニケーション読本

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「週刊医学界新聞」の人気連載に大幅加筆、書き下ろしを加えて書籍化。新進気鋭の研究者である著者ならではの視点で、最新の研究内容やホットトピックを豊富に盛り込み、21のテーマを通じて「こころが動く」方法論をプラクティカルに体得できる実践書。入職1年目からベテランまで、全ての対人援助職が現場で活かせる内容となっている。これからの医療コミュニケーションは“経験則”ではなく、“エビデンス”で身に付ける!

中島 俊
発行 2023年08月判型:A5頁:152
ISBN 978-4-260-05282-5
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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書籍刊行を記念にして開催された週刊医学界新聞の座談会も併せてご覧ください。
患者中心のマインドと対話で紡ぐ医療コミュニケーション」(中島俊,川上ちひろ,田宗麻姫子)

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  • 序文
  • 目次
  • 書評

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はじめに

 臨床心理士をめざした学生時代,“患者さんの立場に立つ”ための具体的なかかわりがわかりませんでした。医療機関で働くようになってからは,忙しい医療者が1人の患者さんと向き合える時間はきわめて短いこと,医療は不確実な状況の連続で患者さんとのかかわりは文脈に大きく依存することを学びました。臨床心理士養成校の教員として教育に携わるなかでは,医療現場から学生に,同僚とのコミュニケーションや記録の取り方といった社会人としての基本的なスキルが求められていることを知りました。医療コミュニケーションに関する研修講師の機会をいただくなかでは,多くの医療者が患者さんに“何を伝えるのか”だけではなく,“どのように伝えるのか”で悩まれていることを痛感しました。
 本書は,上記の筆者の経験をもとに執筆した「週刊医学界新聞」での連載“こころが動く医療コミュニケーション”(2020年11月から全17回)を大幅に加筆・修正したものです。本書では,患者さんと医療者の双方にとって負担とならない質問や情報提供の仕方といった基本的スキルから,患者さんの治療意欲を引き出す動機づけ面接(MI)や意思決定を支援する共同意思決定(SDM)といった状況に応じたかかわり方について,具体的なセリフとともに紹介しています。また,臨床心理学領域の知見,例えば医療者の自己開示や医療者と患者さんの関係性のアセスメント,医療者自身のメンタルを保つためのコツについても紹介していることも本書の特徴の1つです。
 本書では,患者さんとの具体的なかかわりを学ぶことができるよう,エビデンスやエキスパートの経験からつくられた“型(マニュアル)”を多く紹介していますが,盲目的に本書に記載されたデータや具体的なセリフに基づくかかわりだけを取り入れてしまうと,患者さんと接するうえでの本当に大切なものが見失われてしまうとも感じています。このような筆者の思いから,本書では,第1章として医療コミュニケーションの根幹をなす医療者の態度や倫理観,マニュアルの是非などについて取り上げ,医療者としての自分のかかわりを見つめ直す機会を設けています。
 連載と執筆にあたり,さまざまな職種の医療者にヒアリングを行い,現場で働く医療者が患者さんとの関係だけでなく,同僚との関係や職場環境で悩まれていること,医療が医療者個人の自己研鑽によって支えられていることを再認識しました。そのため本書は医療コミュニケーションと銘打ってはいますが,患者さんだけでなく,同僚とのかかわり方や管理職の方に向けた環境調整や業務適正化についても触れています。
 本書はコミュニケーションに関する最新のエビデンスを多く反映したものとなるように執筆しました。本書の執筆にあたっては,主任研究者を務めるコミュニケーション研究に協力くださった共同研究者の方々,国立精神・神経医療研究センターの元同僚の大井瞳さん,井上真里さん,野間紘久さん,宮崎友里さん,大塚公美子さん,小村久子さん,菅原由美子さん,新川瑶子さん,高階光梨さん,浅沼比奈子さん,香本円香さん,柳田綾香さんにこの場を借りて御礼申し上げます。また,私に医療コミュニケーションに関して学ぶきっかけを与えてくださった原井宏明先生,岡嶋美代先生,医療コミュニケーションに関する研究や研修のノウハウを惜しみなく教えてくださった堀越勝先生に厚く御礼申し上げます。連載と出版にあたっては医学書院編集者の古川貴文さんに大変お世話になりました。そして何より,研究や本書の執筆に関して,ご協力・ご意見をいただいた患者さん・当事者の方に感謝申し上げます。
 本書によって,患者さんへの支援がよりよいものになるだけでなく,医療者の負担が減り,医療者にとってもやさしい医療になることを願っています。

 2023年7月吉日
 中島 俊

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はじめに

第1章 医療者がもつべき倫理観・態度
 1 医療者が陥りがちな,患者さんとの関係を悪化させる6つの罠
 2 医療コミュニケーションの土台となる医療者の倫理観
 3 マニュアルに基づくかかわりの大切さと柔軟さ
 4 患者さんに対する自己開示はどこまでするべき?
 5 医学的に益が低い状況にどう対応するか
 6 患者さんとのかかわりを記録に残す

第2章 コミュニケーションの基本的なスキル
 1 面接やかかわり方の構成を考える──患者さんのやる気を引き出す4つのかかわり
 2 コツを押さえた質問を心がけよう
 3 聞き返しを用いて患者さんへの共感力を高めよう
 4 文脈に合わせた情報の伝え方
 5 非言語コミュニケーションを面接に生かす
 6 会話を上手に進めるコミュニケーション

第3章 状況に即したコミュニケーション法の選択
 1 患者さんの意思決定をSDMで支援する
 2 動機づけ面接(MI)で患者さんの意欲を引き出す
 3 行動の確立を支援する
 4 自分の素直な気持ちや考えを適切な方法で同僚に伝えよう
 5 コロナ禍における医療コミュニケーション
 6 ミスを防ぐために情報共有のコミュニケーションを促す

第4章 共感力を高めるために医療者ができること
 1 患者さんと医療者の感情に目を向ける
 2 共感力低下を防ぐために医療者に必要なこと
 3 コミュニケーションの質を可視化して測定する

column
 医療者の身だしなみは何に気を付けるべき?
 患者様? 患者さん?
 ヒトは擬人化エージェントに何を望み,ヒトに何を望むのか
 知っておきたい電話応対とその練習法
 やさしくわかりやすい資料デザイン
 しっかり眠ろう

索引

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コミュニケーションの“型”を身につけ柔軟に運用する
書評者:石川 ひろの(帝京大学大学院公衆衛生学研究科/医療共通教育研究センター・教授)

 この20年ほどの間に,日本の医療者教育においても,コミュニケーションは医療者が身につけるべきコンピテンシー(能力)の一つとして広く認識されるようになってきた。客観的臨床能力試験(OSCE)の導入などと相まって,コミュニケーションは教育可能,評価可能な能力としてとらえられるようになるとともに,そこでは特にスキルの教育に焦点が当てられてきた。時に「マクドナルド化」と揶揄されながらも,学生だけでなく教育に携わる医療者の意識を大きく変え,全体としての医療者のコミュニケーション能力を底上げしてきたことは間違いないだろう。一方で,卒後のコミュニケーション教育は,それほど系統立って行われてはおらず,それぞれの現場に依存しているのが現状である。本書は,学部教育の先のコミュニケーションについて,何をどう学んだらよいかの手がかりになる一冊である。

 本書は,臨床心理士でもある著者による「週刊医学界新聞」の連載「こころが動く医療コミュニケーション」に大幅な加筆,書き下ろしを加えてまとめられたものである。「入職1年目から現場で活かせる」ような場面やトピックを取り上げ,基本的かつ実践的なコミュニケーションのスキルがバランスよく紹介されている。患者さんとのコミュニケーションだけでなく,医療者同士のコミュニケーションも含め,コミュニケーション研究のエビデンスに基づくスキルや対処方法が具体例とともにわかりやすくまとめられているという点で,まさに明日から使える実践書と言える。

 それでいて,「こうすれば必ずうまくいく」という押しつけがましさがないのは,エビデンスに基づいた“型”を身につけることの重要性を知りつつ,その柔軟な運用こそが本質であるという著者自身の思いが根底にあるからだと思われる。結局のところ,コミュニケーションの学習や評価の難しさは,知識やスキルとそれを使うべき実際の状況が必ずしも一対一で決まっているわけではないことにある。コミュニケーションスキルは,目標を達成するために使われてこそ意味があり,一般的原則を理解した上で,特定の状況に適切に当てはめていくことが必要とされる。目の前の状況で自分の知っているどの“型”を使用するか,使用することで目的を達成できたのかを適切に判断し,自分のコミュニケーションを調節できるというところにコミュニケーション能力の本質がある。

 よいコミュニケーションは,患者さんを支援するだけでなく,医療者自身のストレス軽減,働きやすさにもつながる。そのための大きな力となる一冊である。連載を読まれていた方にもぜひ改めて手に取っていただきたい。


基本から応用,今後の成長までを扱う“一石三鳥”の本
書評者:堀越 勝(国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター特命部長)

 誰もが経験済みのことだと思うが,ゴミ出しをしようとしているところに「ゴミを出せ」と言われて,すっかりスネ夫になってしまった。逆にやるかやるまいかと迷っていると誰かの一言でにわかにやる気満々になったなど,言葉がけのタイミングや投げられた言葉によって思いも寄らない方向にこころが動かされることがある。言葉掛け1つでこのようにこころが動くのならば,医療における言葉掛けがどれだけ患者や医療スタッフのこころに影響を及ぼすかは自明のことである。もしかすると,患者の治療動機や治療継続性を高めるための特効薬は,医療スタッフ側のコミュニケーションスキルそのものなのかもしれない。

 米国の医療現場で発生した訴訟問題の分析結果を見ると,訴訟問題の約7割は患者と医療スタッフ間の人間関係問題であり,内容的には「配慮がない」,「話を聞いてくれない」,「情報を適切に渡してもらわなかった」など,大半はコミュニケーションの問題だとされている。米国は訴訟社会と言われる通り,医療現場で起こる問題が訴訟という形で表面化しやすいのだろう。一方日本は「和を以って貴しとなす」の国であり,コミュニケーション問題は表に出づらいのかもしれない。しかし,見えないすなわち問題なしではなく,患者や医療スタッフが傷ついているのにもかかわらず,「我慢すべきだと思う」,「周りとの不和を避けたい」などの理由から表面化しないのだとしたら,ケアの観点から,その背後には巨大で深刻な問題が横たわっていることになる。

 今回,『こころが動く医療コミュニケーション読本』が医学書院から出版された。まさに前述の問題に真っ向から取り組んでいる本であり,週刊医学界新聞に連載されて好評を博した内容をまとめたものでもある。著者の中島俊先生は評者が過去に職場の同僚として働いた人物で,学術的な面だけでなく,臨床的にも信頼できる。本を手に取ってみると,サイズ的には厚過ぎず薄過ぎずで,ちょうど良い分量である。文体も読みやすく平易なですます調で,実際の対話例などが漫画チックに載せられており,構えて専門書に取りかかるといった堅苦しさは感じない。この領域のテーマの海外の翻訳本は得てして分厚くて,文字ばかりで扱いづらい。「コミュニケーションの本がわかりづらい」ということになれば,それこそお話にならない。しかし,本書にはイラストや図解などが豊富に用いられ,読者が理解しやすいようにと施された仕掛けがそこここに見つけられる。例えば,随所にQRコードが載せられており,そこからさまざまな資料を入手することができる。つまり,本の厚さ以上の情報が紙面に盛り込まれていることになり,それを手軽に持って歩くことができる工夫は素晴らしい。また気楽に読めるコラムが散見され,コラムを拾い読みするだけでも面白い。

 中をのぞいてみると,第1章では職業人として押さえておくべき「医療者がもつべき倫理観・態度」に触れて土台固めをした上で,第2章で「コミュニケーションの基本的なスキル」を紹介する。医療者の誰もがもっていなければならない基本スキルについて解説した後に,第3章では「状況に即したコミュニケーション法の選択」を扱っている。ここでは,特に最近注目されている共同意思決定(SDM)や動機づけ面接(MI),今回のコロナ禍でのコミュニケーションの問題点,オンライン診療での注意点など,最新のホットトピックスを網羅的に,そして具体的に取り上げている。締めくくりの第4章は「共感力を高めるために医療者ができること」,つまり個人が自身の共感力を鍛えるためにできることを紹介している。基本的なスキルは当然のこととして,ますます腕を磨くための自己鍛錬の方法ともいうべき部分である。

 本書は医療コミュニケーションの全体像をつかむためのテキストとして,必ず読んでおきたい一冊である。同時に近年注目されている重要スキルについて触れている点もありがたい。つまり,一冊で基本から応用,そしてこれからの成長について知ることができる“一石三鳥”の本である。さらに初学者だけではなく,より詳しく学びたい読者のために充実した引用文献がリストされている点は特筆すべき点である。日本の医療コミュニケーションの学術的な発展を考えたときに,大いに貢献してくれる部分だと思う。日本の医療教育は世界的にも優れていることは間違いないが,人とかかわる基本手法であるコミュニケーションスキルの訓練についてはどうなのだろうか。人とかかわる達人をめざすのであれば,今からでも決して遅くない。そしてそういう医療スタッフを育てたいのであれば,その第一歩を本書からスタートする。そうすれば,こころが動くこと請け合いである。


コミュニケーションに迷うならば手に取ってほしい1冊
書評者:竹林 崇(大阪公立大学教授・リハビリテーション学科作業療法学専攻)

 医療において,コミュニケーションは基盤となる知識および技術である。どれだけ確実性の高い医療技術があったとしても,それを施術してその後のサポートを行う医療従事者に対する納得と信頼を得られなければ,対象者はそれらの技術は選ばないかもしれない。また仮に選んだとしても,医療従事者に対する不信は,対象者の心身の予後を悪化させる可能性もある。これらの観点から,医療者がコミュニケーションを学ぶことは,エビデンスや知識・技術を学ぶことと同様,非常に重要なものであると考えている。

 しかしながら,医療者におけるコミュニケーションについては,養成校などでも特化した授業が少なく,また経験的に実施してきた先人も多いため,エビデンスを基盤としたコミュニケーション技術に対する教育はいまだに確立されていない。一方,情報化の時代がさらに加速する昨今,医療事故やミスに関する報道が一気に加熱することで医療に対する対象者の不信感が過去に比べて膨らんだという社会的背景もあり,コミュニケーションや接遇に対する必要性がより一層重視されている。

 そういった背景の中,医療者に対して「コミュニケーションは何なのか」,「今自分が取っているコミュニケーションの問題点はどこにあるのか」,「そしてそれらを改善するためには何をすべきなのか」を過去の豊富な研究を基盤にわかりやすく丁寧に解説しているのが,『入職1年目から現場で活かせる! こころが動く医療コミュニケーション読本』である。

 本書の素晴らしいところは,先行研究で調査されたエビデンスを基盤に読者の現在のコミュニケーションを振り返らせて,それらを認めてさらに改善するための方法が論理的に示されている点である。さらに学術用語だけでは理解が困難なニュアンスについては,いくつものシチュエーションと会話というCaseを通して,具体的にどういった発言がどのような問題を孕み,改善の余地があるかなどをわかりやすく解説している点も,理解を促す役割を果たしている。

 卒前・卒後のコミュニケーションを見直す際に,これほど系統立てて,論理的にコミュニケーションについて論述された書籍は少ないと思われる。学生・新人からベテランまで,自身のコミュニケーションに迷いがある方は手に取ってほしい1冊である。

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