医学界新聞

書評

2026.06.09 医学界新聞:第3586号より

《評者》 救急救命東京研修所教授

 2020年処暑,郡山一明先生が救急救命九州研修所を勇退されました。折しも,世界中が新型コロナ感染症の渦中にあり,研修所でも研修の継続に重大な懸念が生じていました。評者はといえば,次々に更新されるスケジュールに右往左往するばかりで,ですから郡山先生が勇退されたことはずいぶん後になってから知ったのでした。多方面からの慰留にもかかわらず,翻意が叶わなかったことは残念でなりません。研修所の損失は甚大です。何と言っても,もはや救急救命士養成課程に郡山先生はいないのです。研修所は魅力半減です。そこへ新型コロナが襲いかかります。ロケンロール! 弱り目にたたり目という表現さえ端近はしぢかに感じるこの喪失感を「郡山ロス」とでも名付けたいほどです。それでも,郡山先生が研修生に注いだ愛情と情熱は「郡山のラブち」として今後も研修所に受け継がれていくに違いないのですが。

 そんな郡山先生のご著書第3版が上梓されました。もともと救急救命士養成課程向けという経緯もあり,絶版になるのではないかと危惧していただけに第3版の刊行を心から歓迎します。俺たち,見捨てられたんじゃなかったんだなあ。

 医療における診察とは,診断・治療を行うために,医療従事者が五感を駆使して患者(傷病者)の身体に関する情報を集めることです。したがって,病態理解の本質は観察にあるといっても過言ではありません。ただし,本書で強調されているように,病態を理解するには生理学的機序に基づいて系統的に・継続的な観察を行う必要があります。本書ではこれを「形がわからない立体を再構築するためにさまざまな角度から動的な観察を行う」とまとめており,正に慧眼といえます。加えて,観察は五感(インプット)だけでなく,観察行為(アウトプット)の2つで成り立っていること,観察行為には観察項目を選択するための観察思考(医学的・生理学的洞察)が必須であると喝破します。

 評者はこれまで意識障害/脳卒中の標準プロトコールであるPCEC/PSLSや,内因性疾患の標準プロトコールであるPEMECに関与してきましたが,こうした標準化は現場活動の水準を一定に保つ効果がある一方で,医学的・生理学的洞察が深まらないという問題に悩まされてきました。実は,観察行為をプロトコールが代行してしまうと「その気」が不足することを本書で初めて学びました。「その気」こそ,病態理解の本質であり,郡山先生が教鞭を執られていたころから常々語ってこられたことの核心であり,そして本書を構成する重要なテーマでもあります。

 第3版では,臨床の最前線へ復帰された経験も加わって,臨床(救急現場)において重要となる身体所見が平易な言葉で解説されています。一通り目を通せば,誰でも呼吸・循環生理の基礎が理解できるでしょう。救急救命士向けですが,全ての医療関係者が「その気」になる本です。


《評者》 聖路加国際大大学院教授・ニューロサイエンス看護学

 評者が大学院修士課程に在籍していた頃,「看護研究とは何ぞや」を学んだのがD. F. ポーリットとB. P. ハングラーによる『Nursing Research:Principles and Methods』(3rd ed)の訳本初版(1994)であった。当時,大学院生の間では「黒本」と呼称し,いつもカバンに入れ持ち歩いていたものである。看護研究の入門書といえども,非常に厳格な文章表現と研究用語の適確な使用,具体的な説明文が掲載されており,浅く広くの入門書とは一線を画し,本書一冊で看護研究の一通りを深く広く学べる唯一無二の書籍であった。この書籍が今回,訳本第3版として出版された。

 第3版は,原書第11版を訳しているが,これまでの訳本初版・第2版と異なる点は,2つの章の追加と各章の大幅改訂である。看護の進化と社会背景を敏感に反映し,時代に即した内容とすべく追章と改訂に至ったと推測する。質改善(Quality Improvement:QI)と改善科学(Improvement Science),研究エビデンスの適用可能性に関する研究手法が新章として追加された。QIは,これまで研究とみなされない状況が続き,各医療施設における限局した質改善の結果としてのみ評価されてきた。しかし改善プロジェクトを開発し評価する方法と枠組みが提示されるようになり,エビデンスに基づく質改善として改善科学の学問と評されるようになった。国内外で看護の博士課程としてDNP(Doctor of Nursing Practice)コースが誕生したのもこれに大きく関係しているといえるだろう。また,Evidenced Based Practice(EBP)は,厳格にコントロールされた研究から得た平均的な結果によるエビデンスであることから,実世界での個別性のある患者が除外され,現場での適用可能性に疑問や懸念が出始めているのも事実である。この疑問を解決するための研究手法を本書がわかりやすく掲載している。QIや改善科学,適用可能性を新章として取り上げている本書は,非常に読みごたえがあり,時代を反映した研究手法として学ぶ価値が大きい。大幅に改訂した各章においても,最新のシステマティックレビューの方法,質的データの分析方法に多くの頁を割いており,刻々と変化する看護の研究手法について,コンピューターによるデータ分析にも触れながらわかりやすく説明がなされている。

 本書を拝読し,上記のように説明してみると,やはり痛感するのは,「看護学の進化と社会背景を反映した唯一無二の看護研究入門書」ということである。看護研究を専門的に学ぼうとしている看護系の大学院生に必見であると同時に,久しく看護研究の基本を学ぶ機会を得ていない看護教員や看護学研究者にも新知見を得ながら看護研究を復習できる書籍といってよいだろう。評者自身も非常に学ぶことが多く,書評の機会に感謝したい。


《評者》 順大静岡病院先任准教授・整形外科

 私と「整形外傷」の真の出会いは,今から25年前(2000年)に宮崎のフェニックス・シーガイアで開催された「救急整形外傷シンポジウム(EOTS)」でした。フェニックスでゴルフがしたくて,主題の開放骨折に合わせて,赴任したばかりの現病院のそれまでの治療成績をまとめて報告しました。当時,開放骨折といえば,救急外来で局所麻酔下に洗浄・デブリして,あとは直達けん引で逃げて,2週後くらいまでを目安に骨接合にいくといった,かなりアバウトな治療が当たり前でした。そんな私でしたが,本会におけるGustilo先生の特別講演で開放骨折に対する即時内固定の実践理論というものを恥ずかしながら初めて知り,そしてそこに集う日本を代表する整形外傷医同士の濃密な議論に衝撃を受けました。これ以降,真剣に学問として「整形外傷」に取り組むようになりました。

 その後,縁あってこのEOTSを11年後(2011年)に代表世話人として開催したころから,関連学会や各種セミナーに積極的に参加する若手ドクターを目にするようになりました。とりわけ「重度四肢外傷」の初期治療に着目して,自主的にセミナーを開催するようになったのが,本書を編集したJ-SWATのメンバーたちでした。彼らも私と同じく「整形外傷」に魅せられ,同じ思いを抱く仲間と一致団結して,それ以降各方面で活躍されてきました。

 そんな彼らに2023年に私が静岡で開催した「第49回日本骨折治療学会学術集会」で若手向けの教育セッションをお願いしました。彼らは“骨折プロレス”という,「重度四肢外傷」の初期治療戦略をテーマにした寸劇タッチのセッションを披露してくれました。プロレスは一般的に筋書きのある真剣勝負と言われています。体を張ったリアルスポーツでありつつ,究極のエンターテイメントです。これは教育においても同じではないでしょうか? 「難しいことを難しく言うことは簡単,難しいことを易しくかつ楽しく伝えることは簡単なようで難しく,けれどとても大事なこと」……この精神が彼らの発表からひしひしと感じられました。そんな彼らの活動の集大成が本書です。

 本書は「総論」としての「第1章:重度四肢外傷の基礎」と「各論」としての「第2章:症例から学ぶ」の2本立て構成となっていますが,その精神が集約されたのが第2章です。読者の皆さまは,まずは平易な文章でつづられた第1章を通読して基礎知識を身につけ,次いで第2章に進んでください。第2章では彼らが実際に体験した症例が,登場人物(医師)の会話形式でユーモラスに語りつがれていきます。楽しみながら読み進めることで,最後には自然と「本当に大切なことは何か」・「いま,何をすべきか」が明確になったことを自覚できるでしょう。

 「外傷」という分野に少しでもかかわり合う立場にいる整形外科や救急診療科の医師にとって,いつ何時遭遇するかもわからないのが「重度四肢外傷」です。そして,その初期治療の最前線に立つのは,多くは若手医師です。そんな彼らに本書は強い味方になってくれることでしょう。しかし,それ以上にそんな若手を指導する立場にある上級医・指導医にこそ,本書は必要な1冊であると言えると思います。


《評者》 埼玉医大国際医療センター教授・心臓内科

 長く心エコー図検査に携わり,1997年から心エコー検査室の責任者として医師や臨床検査技師を指導してきた私が最も強調してきたことは,「正しい断面像」を描出することである。私のいう「正しい断面像」は,画像がくっきりきれいに描出されているだけの像ではない。「正しい断面像」は再現性の高い正確な計測が可能な像である。論文や教科書にはchampion dataといわれる著者が最も良いと考えた画像が掲載されているはずである。しかし,出版されている論文や教科書に掲載された画像は,私の考える「正しい断面像」ではないことが少なくない。計測に適さない画像で得られた研究結果は,結論の信憑性が疑われることになる。

 書籍『病態・類似疾患別心エコー図検査のルーティン』は,小谷敦志先生と,小谷先生が主導するOSAKA心エコー研究会の先生方が記述されたものであるが,拝見してまず感心したのは掲載されている全ての心エコー画像が私の考える「正しい断面像」といえることである。小谷先生が私と同様に計測の正確さを重要視していることを示しており,本書の計測値の信憑性は保証できる。加えて,計測する断面,計測した時相,基準値も記載されていて,初心者が心エコー図検査を学ぶために非常に役に立つものとなっている。

 心エコー図検査は動画による診断が基本となる。本書の企画では,病変グレード別の動画をWeb上で確認することができる。動画を見た上で本書を読むと,心エコー図検査に関する理解がより進むと考える。実際の臨床では,心エコー図検査を行って,診断をつけた後に報告書を作成して,依頼した医師に所見や診断結果を伝える必要がある。本書には,疾患ごとに報告書に記載される頻度が高い「鉄板フレーズ」が列記されており,報告書を作成する際にも役立つ。本書は心エコー図検査から報告書作成までのプロセス全体をカバーする教科書となっている。

 本書の内容を理解することによって,読者が心エコー図検査を学び,診断精度を高め,適切な報告書を作成できるようになると確信している。