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救急救命士によるファーストコンタクト[Web動画付] 第3版
病院前救護の観察トレーニング

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「体の部位」から「病態」に着目する観察へ。「値」から「変化」に着目する判断へ。身近なたとえを用いながら、呼吸と循環を1つの複合体として捉えた立体的観察をわかりやすく解説(ex.マヨネーズで心拍出量、回転寿司で Oxygen Delivery、山手線で循環不全)。病院前救護を担う救急救命士はもちろん、救急初療の現場で日々奮闘する医師、看護師にも必ず役立つ1冊。手技の解説が一目でわかるWeb動画付き。

郡山 一明
発行 2025年06月判型:B5頁:160
ISBN 978-4-260-06031-8
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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第3版 序

 私が『救急救命士によるファーストコンタクト』の初版(2006年)を執筆したのは,救急救命九州研修所で救急救命士養成課程教育に関わって2年目であった.当時,私は研修所において「観察」という座学と「実習」を担当していたが,いずれにも大きな違和感を覚えていた.
 救急救命士が行う「観察」は,患者に対して医師が行う「診察」に相当するものである.医療における診察は,生理学の知識と思考,それを実行できる的確な手技の基に展開される医療者にとって最も重要かつ基盤をなす技能である.しかし,救急救命士養成課程での観察教育は手順を覚え,その形式上の再現性を競うものであったからである.ほどなくその理由がわかった気がした.すべての機能が停止している心肺停止患者であれば,その症状が個人によって異なることはなくすべて同一である.観察に求められる精緻さは「呼吸なし,脈なし」に代表されるように,「あり」「なし」の二者択一でよい.一方,心肺停止に至る前の重症患者ではそうはいかない.個人ごとに異なる病態とその重症度・緊急度を判断するには,「あり」「なし」の間に存在する微妙な所見を把握する観察能力,それらを組み合わせて再び観察にフィードバックする省察力・思考力が必要となる.私は,救急救命士の最も大きな役割は重症患者の迅速な搬送にあり,心肺停止対応はその延長線に過ぎないと考えていた.そこで,執筆したのが本書の初版であった.
 その後,救急救命士の業務は,心肺停止に対する処置に心肺停止前の患者の病院選定が加えられ,今や院内業務まで託されるようになっている.そして救急救命士に対して行われてきた診察手順を標準化する教育は,医学教育にも取り入れられるようになった.医療従事者に共通認識が構築され医療水準も明確になるので,これは非常によいことである.だからこそ,この教育を称えるだけでなく,大事なものを見失っていないかを考えたい.いくら精緻な海図が普及しても,標(しるべ)となる星を間違えれば船は目的地を見失ってさまよう.同様にいくら診察手順を精緻に決めても,その前提である診察所見を間違えばまったく別の結論に至ってしまうのだ.それゆえに,医療従事者にとって診察能力は厳しくトレーニングされ,生涯にわたって改善されるべきものである.しかしながら診察が五感から数値による評価に変わるにつれ,診察の精緻さと病態を把握しようとする「その気」が加速度的に失われているのではないか.
 私は救急救命士教育に18年間携わった後に,60歳を過ぎて再び臨床現場へと戻った.それは「医師として自身のidentityを見つめ直したかった」「自分が考え,行ってきた救急救命士教育,ひいては医療従事者教育が間違っていなかったかを確かめたかった」ことが理由である.救急初療室とICUで一兵卒として働きながら,生命の危険度が高くなればなるほど,状況がよくわからなければわからないほど,基本となる「循環と呼吸」の観察が重要になってくることを再確認した.そしてそれは看護師,研修医すべてに役立つものであった.私は自分が考え,行ってきた救急救命士教育,医療従事者教育が間違っていなかったことを確信したのである.
 観察の重要性を多くの人に伝えたい.臨床に戻った私はまさに浦島太郎状態であったゆえに,すでに知っていると思うことでも新たに一から勉強し直した.それをふまえて執筆したのがこの第3版である.
 書名は『救急救命士によるファーストコンタクト』であるが,私が初版から常に想定していたのは看護師,研修医を含めて「救急初療に携わる者によるファーストコンタクト」である.必要な知識と技術は医療従事者が活動する「場」との関係性によって変わってくるが,その根本となる生理学的知識,そして何よりも五感による診察技術は用語が「観察」であったとしても,職種によって変わることなどないからである.
 最後にお礼を申し上げたい.
 救急患者を搬送してくれている救急隊の皆さん,どうもありがとう.皆さんの真摯な病院前救護活動にはいつもこちらの身が引き締まった.皆さんのおかげで助かった患者が確かにいることを誇りに思ってほしい.バタバタしている救急外来で感情を乱すことなくいつも笑顔で対応してくれている北九州総合病院の救急外来のみんな,どうもありがとう.どれだけ助けられたことか.病棟のスタッフもありがとう.回診の際の声かけ1つひとつがうれしかった.井町吏津子師長をはじめICU/HCUのスタッフとは病院の中で一番長く時間を共有した.毎朝のプレゼンテーションで新人の成長を共に喜び,患者急変時には互いに支援し合った.一緒に仕事をしていて本当に楽しかった.救急科で一緒に働いた坂本喜彦先生,黒田宏昭先生,日高唯先生,奥村美絵先生,衛藤真由美先生,山本克己先生,ありがとう.先生たちの一言一言から改めて学び,医師として成長できた.そして改訂版である第3版を世に出すことができたのは,医学書院の西村僚一さんの励ましと丁寧な推敲のお陰である.
 「我々は常に学ぶ者である」.そのことに改めて気づかせてくれた皆さんに感謝とともに本書を捧げる.

 2025年 緑目映い5月
 郡山 一明

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第1章 立体的観察を知る
 1.Apgar先生に学ぶ
  1 元気に生まれる
  2 Apgar scoreの生理学的意味を考える
 2.観察を変える
  1 項目観察から立体的観察へ
  2 体表区分別観察から生理機能別観察へ
  3 「あり」「なし」観察から関連性の観察へ
  4 静的観察から動的観察へ
 3.観察の構造
  1 観察行為
  2 五感による把握──見えないゴリラ,虫の擬態

第2章 呼吸・循環複合体を知る
 1.「呼吸と循環」から「呼吸・循環複合体」へ
  1 龍吐水から雲龍水へ
  2 循環系の意義と障害
  3 循環系と肺──呼吸・循環複合体
 2.呼吸・循環複合体とショック
  1 ショックとは何か
  2 ショックの症状──5P症状にとらわれるな!
 3.呼吸・循環複合体の立体的観察
  1 生体に置き換える
  2 「何かおかしい」の察知から「何がおかしい」の把握へ

第3章 循環の異常を観察できる
 1.左心・動脈系の観察
  1 左心系──収縮期血圧の発生
  2 動脈系──拡張期血圧と脈圧の発生
  3 脈を触れるトレーニング
 2.静脈・右心系の観察
  1 富士山頂でジュースを飲む
  2 静脈・右心系のトレーニング
 3.微小循環の観察
  1 トカゲの尻尾切り
  2 トレーニング

第4章 呼吸の異常を観察できる
 1.呼吸のメカニズム
  1 ティッシュペーパーで肺胞内圧を見る
  2 へーリングの模型
 2.呼吸の観察トレーニング
  1 呼吸の大原則がわかる
  2 肺の異常がわかる
  3 上気道閉塞がわかる
  4 気胸と緊張性気胸がわかる
 3.聴診器のトレーニング
  1 肺胞呼吸音を聞いてみる
  2 どんな時に肺胞呼吸音が聞こえなくなるのか
  3 気管支呼吸音を聞いてみる
  4 どんな時に気管支呼吸音が聞こえなくなるのか
  5 ラ音(副雑音)を聞く
  6 聴診の実際

第5章 酸素提供 vs 酸排出
 1.酸素提供
  1 oxygen delivery
  2 SpO2を理解する
 2.酸排泄

第6章 心電図の異常がわかる
 1.心電図の概念
  1 心電図は影絵であり,歌声であり,新幹線の標識灯である
  2 心電図の制約
 2.病院前救護に必要な心電図を学ぶ
  1 誘導と影絵の関係を理解する
  2 割り切って考える
 3.知識のトレーニング
  1 P波とQRS群の間隔がバラバラになる──徐脈で心臓が止まるかも
  2 ST部分が変化する──胸が痛い,息が苦しい
  3 T波の形が変わる──胸が痛い,息が苦しい,身体が動かない,頭が痛い
 4.波が出現する──失神
  1 心電図を俯瞰する

第7章 呼吸の処置ができる
 1.努力呼吸のつらさを理解する
 2.吸うのを助ける──バッグバルブマスクを使う
  1 バッグバルブマスクを使うための基礎知識
  2 バッグバルブマスクのトレーニング──吸うタイミングに合わせる
 3.吐くのを助ける──スクイージング
  1 スクイージングの基礎知識
  2 スクイージングのトレーニング

第8章 集めた症状から病態を立体化できる
 1.心不全の病態化とトレーニング
  1 心不全の病態
  2 心不全における呼吸・循環複合体の観察
  3 心不全の病院前救護活動トレーニング
 2.脳卒中の病態化とトレーニング
  1 呼吸・循環複合体を忘れるな!
  2 病院前救護における意識確認の意義
  3 脳局在機能の観察
  4 その他の観察事項
  5 脳梗塞と脳出血の病院前救護活動地図
  6 脳卒中の病院前救護活動トレーニング
 3.出血の病態化とトレーニング
  1 出血の病態
  2 出血における呼吸・循環複合体の観察
  3 出血の病院前救護活動トレーニング

第9章 患者になって「ファーストコンタクト」を検証する
 1.末梢を最初に触ることの重要性
 2.呼吸評価の難しさ
 3.「あり」「なし」観察から関連性の観察へ
 4.SpO2とアシドーシス
 5.感度と特異度
 6.除外診断
 7.立体的観察が目指したもの

索引

コラム
 κという指標
 早期警告スコア
 瀉瀉血で亡くなった? ジョージ・ワシントン
 リベドはなぜ網の目なのか
 トルサード・ド・ポワント
 鉄の肺から陽圧換気へ
 アナログ vs デジタル

Web動画一覧
 3-1 橈骨動脈の触知
 3-2 総頸動脈の触知
 3-3 大腿動脈の触知
 3-4 血圧の左右差,上下差
 3-5 外頸静脈を見る
 3-6 外頸静脈の虚脱
 3-7 外頸静脈の怒張
 4-1 呼吸の大原則がわかる
 4-2 肺の異常がわかる
 4-3 上気道閉塞がわかる
 4-4 聴診器のトレーニング
 4-5 打診で肺肝境界を見つける
 7-1 バッグバルブマスクのトレーニング
 7-2 スクイージングのトレーニング

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