医学界新聞

書評

2026.05.12 医学界新聞:第3585号より

《評者》 東海大 教授

 『見る×読むで納得! 消化器外科レジデントが知っておきたい108 topics』は,消化器外科を志す若手医師に向けて,「今すぐ臨床で役に立つ知識」を凝縮した実践的なガイドブックである。研修医や専攻医,さらには消化器外科に関心を持つ医学部学生まで幅広い読者を想定しながらも,決して机上の理論にとどまらない“ベッドサイドで開いてこそ価値がある一冊”として位置づけられている点が,本書の最大の特徴といえる。

 取り上げられている108のトピックはいずれも外科レジデントが臨床で直面しやすく,かつ理解の浅さが致命的となり得るテーマばかりである。これらを「見開き2ページ」でまとめ,最初に要点を簡潔に整理した上で,本文は基本的に3つのポイントに絞って解説する構成は秀逸だ。臨床現場では限られた時間の中で“本当に知るべきこと”に素早くアクセスする必要があるが,本書はそのニーズに正面から応えている。特に,結論から先に示し,続く本文で理解を深めるという流れは,忙しい現場で読者の思考を整理し,必要な判断へと直結させる力を持っている。

 さらに,図表を大胆に活用したレイアウトは,視覚的理解を徹底して追求したものだ。文章を読む負荷を軽減しつつ,重要なポイントを一目で把握できるよう丁寧に工夫されている。複雑な病態や手術手技,周術期管理のプロセスも,図示されることで読者の理解を確実にサポートする。単に「読む」のではなく,「見るだけで理解できる」構造が随所にちりばめられている点は,従来の教科書にはない大きな魅力だ。

 また,本書が108という数字を採用した背景には,編集者の遊び心と外科医への深い理解が込められている。108は人間の煩悩の数であると同時に,“外科医が日々四苦八苦する項目の数(4×9+8×9=108)”であるという解釈には,臨床の厳しさを知る者なら思わずニヤリとしてしまう。こうしたユニークな発想が,本書全体の柔らかさと親しみやすさにつながっている。

 巻末の文献一覧が極めて厳選されている点も見逃せない。大量の文献を羅列するのではなく,「本当に読んでほしいもの」だけを提示する編集方針は,読者の学習効率を最大限に考えたものだ。本書を通じて興味を深めた読者が,次にどの文献へ進めばよいかが一目でわかる構成は,教育的観点からも高く評価できる。

 本書は消化器外科の“基礎と臨床の橋渡し”をも考えた教科書であり,知識を詰め込むのではなく,「必要なときに必要な知識へ到達できる」ことを徹底的に意識して設計されている。108という数に象徴されるように,外科医が直面する悩みや疑問を,見開き2ページの中に的確にまとめ上げた本書は,まさにベッドサイドで最も頼りになる相棒となるだろう。

 大阪大学消化器外科の皆さんが総力を結集して作成した渾身こんしんの本書を,消化器外科医をめざす若い医師や学生に確信を持って薦める。臨床の現場で折に触れて何度も手に取り,その都度理解を深めていく――そんな使い方ができる,実践力を養うための最良の一冊だ。


《評者》 南砺市民病院総合診療科 副部長

 評者は,富山県の中小規模病院において臨床倫理コンサルテーションを行っている。日本臨床倫理学会の「臨床倫理認定士(上級編)」を取得し,地域の医療・介護現場において多職種とともに臨床倫理の実践を続けている。現場で臨床倫理コンサルテーションを実際に進めているからこそ述べられることがあるのではないかと感じ,拝読した。

 本書は,臨床倫理コンサルテーションの実際を表現し,タイトルの通り「対話」に焦点を当てた構成となっている。各ケースでは,臨床倫理コンサルテーションに参加する多職種が,異なる価値観や立場を踏まえながら,いかにして合意形成に至るか,というプロセスが臨場感豊かに描かれている。発言の一つひとつに個性がにじみ,読者はまるでその場に同席しているかのような感覚を味わうことができる。この臨場感こそが本書の最大の魅力である。

 臨床倫理コンサルテーションの現場では,他施設がどのような議論を行っているのかが見えにくく,「ブラックボックス」となりがちである。本書はその不透明さを打ち破り,実際のやり取りの過程を明らかにしている点で貴重である。さらに,各ケースには理論的な補足や文献的裏付けが添えられており,単なる対話記録にとどまらず,実践と理論の両面から理解を深められる構成となっている。

 各ケースは独立しており,関心のあるテーマから読み進めることができる。すでに臨床倫理コンサルテーションに取り組んでいる読者にとっては自己点検の機会となり,これから導入を検討する施設にとっては実践的な手引きとなる。具体的な運営体制や司会進行の工夫も紹介されており,すぐに現場で生かせる内容である。評者は司会として臨床倫理コンサルテーションにかかわることが多いため,各ケースのファシリテーションの多様性に強く引かれた。四分割表に沿って秩序立てて進行するケースもあれば,自由な発言を促す柔軟なケースもあり,それぞれに学ぶ点が多い。ファシリテーターとしての姿勢を見直す良い機会となった。

 また,全てのケースに「ケースの顛末」が記されていることも本書の特筆すべき点である。読者は議論の過程だけでなく,その後の展開を知ることができ,深い満足感を得られる。単なる事例集ではなく,臨床倫理の思考と実践の軌跡を記した「学びの書」として完成している。

 本書は,すでに臨床倫理コンサルテーションを実施している医療者のみならず,「倫理を学びたいが難しそう」と感じている読者にも最良の入門書となるであろう。多職種による対話のプロセスを追体験することで,臨床倫理の基本から応用までを自然に学ぶことができる。各施設に一冊備え,チームで読み合うことで,倫理的対話の質を確実に高めることができる名著である。


《評者》 大阪中央病院消化器内科 顧問

 『胃と腸アトラスⅡ 下部消化管 第3版』が2025年12月に発刊された。第2版の発刊は2014年だったので約10年が経過している。この間,下部消化管疾患において疾患概念の変遷,症例の新たな知見や画像の蓄積などが少なからずあり,これを受けて第3版では第2版に比して疾患カテゴリーの構成はより病態に即したものとなり,より多くの疾患が新たに項目に加えられ,非常にupdateな内容となっている。第2版では項目になく第3版で新たに項目に取り上げられた疾患として,小腸では特にARB関連腸症,家族性地中海熱遺伝子関連腸炎,MEITL,Burkittリンパ腫などが挙げられる。大腸ではさらに多くの疾患が新たに加えられ,第2版の約2倍の疾患数が項目として取り上げられている。例えば“炎症の部”では,第2版では1項目の中に一括して組み込まれていたいくつかの感染性疾患が,第3版ではそれぞれ別個の項目として取り上げられている。また,特に新たな疾患として抗腫瘍薬起因性小腸・大腸炎(ICI以外),免疫チェックポイント阻害薬関連大腸炎,下腸間膜静脈閉塞症,IBD-U,IgG4関連疾患,家族性地中海熱遺伝子関連腸炎,特発性後腹膜線維症,“腫瘍・腫瘍様病変の部”ではSuSA,Crohn病関連大腸腫瘍,腸結核に合併した癌,神経節細胞腫,神経周膜腫,PEComa,IMT,慢性活動性EBウイルス病,慢性骨髄単球性白血病の大腸病変,pseudolipomatosis,Lynch症候群,鋸歯状腺腫症などが取り上げられている。

 周知のごとく,消化管疾患において画像形態診断は特に重要である。この診断をおろそかにしては正しい治療に結び付かない。病変が典型的な所見を呈する場合には診断困難性はないが,時として非典型的な像を呈する診断困難例に遭遇することもある。われわれは,臨床画像所見↔標本の肉眼所見↔病理組織所見のキャッチボールを繰り返しながら画像形態診断学に論理性を求めてきた。しかしながら,病変の画像所見から疾患を導く際,必ずしも論理的思考過程の下に行っているわけではない。画像の印象から疾患を想起して診断を下していることも往々にしてある。その場合,有力な武器となるのは症例の臨床画像・標本肉眼所見・病理組織所見を総合的にできるだけ多く見て診断の引き出しをいかに増やすかということである。この点において画像診断アトラスは恰好の教師である。したがって,教師となる画像には特に質の高いものが求められる。本書は簡潔で要点を押さえた症例解説とともに,えりすぐられた非常に高品質の画像を提供し,読者を的確な診断に導いてくれる“下部消化管画像診断のバイブル”といっても過言ではない。本書に取って代わるAIの出現には多くの越えるべき高いハードルがあり,はるか先のことであろう。ぜひ,本書を座右の書として日常臨床に活用されることをお薦めする。


《評者》 滋賀医大 教授・総合内科学

 版元である医学書院のWebサイトには,本書について次のような紹介文が掲げられている。

 「看護学生を主とした医療系学生対象に,先端科学技術だけではなく考え方や倫理の重要性を説き,患者中心のチーム医療をめざしてほしいという理念で編集されてきたロングセラー……(後略)」

 しかし,本書を精読した私の偽らざる感想はこうだ。

 「紹介文にある対象を,『全ての医療系学生そして医学・医療に従事する全ての医療者』に変更すべきである」。

 私は2020年刊行の前版(第4版)も愛読してきたが,今回の第5版における進化には目を見張るものがある。特に,大幅な改訂がなされた第1章「医療は誰のものか」には深い感銘を受けた。私は職責上,患者中心の医療実践,勤務医の働き方改革,そしてリウマチ専門医として疼痛管理など多岐にわたる課題に関心を寄せているが,今回の改訂には医師が今こそ知っておくべき内容が網羅されていることに驚かされた。また,私が愛読するコラムの内容が刷新されている点や,今回の版から新たにAIに関する項目が追加されている点にも,時代の要請に応える執筆陣の気概を感じ,深く感銘を受けた次第である。

 日進月歩の医学・医療は,いわば「事実学」の世界である。その激流の中で,私は「不変・普遍なる本質的なものはないか」と問い続けてきた。かつて哲学者であり医学者でもあった澤瀉久敬先生が提唱された「医学概論」こそが,医療の本質学を提示する学問であると信じているからだ。昨今,医学の概論において「善い教科書」が少ない現状に心を痛め,私自身もWeb媒体で連載を始めるなど自ら筆を執る準備をしていたが,本書を拝読してその懸念は杞憂に終わったと感じている。

 これほど画期的な教科書を執筆・編集された先生方に,心からの敬意と御礼を申し上げたい。そして,次なる改訂も,今から心待ちにしている。