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対話から学ぶ臨床倫理コンサルテーション
医療の現場で答えが出ない「もやもや」に出会ったら

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医療の現場で答えが出ない「もやもや」に出会ったら、あなたはどうしますか? 臨床での難しい決断を少しでも緩和し、できる限り当事者たちにとってベストとなるような意思決定を支援する臨床倫理コンサルテーション。その実際を濃密な対話で表現し、さらに臨床倫理の専門家がその臨床倫理コンサルテーションを分析し解説します。臨床での「もやもや」に悩む医療者を支援する1冊。

編集 山本 圭一郎 / 徳原 真 / 中山 照雄 / 堂囿 俊彦 / 竹下 啓 / 高島 響子
発行 2025年08月判型:A5頁:280
ISBN 978-4-260-05738-7
定価 2,970円 (本体2,700円+税)

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推薦の序

10ケース──どこから読んでもかまいません

 本書のケースの舞台となった国立健康危機管理研究機構(JIHS)国立国際医療センター〔旧:国立国際医療研究センター病院(NCGM)〕は高度総合医療を担うナショナルセンターの1つではありますが,地図で見ると新宿区のほぼ中央に位置し,歌舞伎町からも2キロ程度,つまり地域の病院でもあります。標榜診療科は43科あり,救急車の受け入れ件数は年間1万件を超えます。急性期総合病院としていろいろな病態の患者さんを受け入れますが,それぞれの患者さんにはそれぞれ社会的な背景があり,問題を抱えている人もいます。医療現場はまさに社会の縮図であり,患者さんの数だけ病態があり,同じ数だけ個別の社会的事情があります。
 リスクを承知で自宅に帰して最期を迎えさせてあげてよいのか? 意識回復の見込みがほとんどない高齢者の誤嚥性肺炎治療のために気管内挿管・人工呼吸管理の濃厚治療を施してよいのか? 知的障害があり意思疎通困難な進行がん患者に薬物療法を行うのか? 脳梗塞で意識回復の見込みのない状態でも透析治療を続けるべきか? これらは,われわれの病院で臨床倫理コンサルテーションの対象となった事例の一部ですが,日本中どこの病院でも経験する可能性のある状況設定だと思います。本書はJIHS臨床研究センターの生命倫理学者の山本圭一郎氏と当院のソーシャルワーカーの中山照雄氏,そして当院で20年間外科,緩和ケア,入退院支援センターで活躍した徳原真氏の3名が中心となって,当院と東海大学,静岡大学の臨床倫理の専門家の先生方の協力を得て書きあげました。実際の症例から着想を得た10件の典型的な仮想ケースを提示し,臨床倫理コンサルテーションが現場でどのようになされていったのかを臨場感をもって紹介しています。
 各ケースは臨床倫理コンサルテーションチームのメンバーと,相談者である担当医師・看護師との会話から始まります。病棟カンファレンスのテープ起こしのような臨場感があり,実際に読者はその場にいて議論に参加しているような感覚を覚えます。発言がちょっとチャラい臨床工学技士の三谷さん,変な関西弁の生命倫理学者の五味先生,忙しそうにいつもちょっとだけ遅れてくる八田弁護士,なんとなく和やかな雰囲気で始まり,各ケースの論点,倫理的問題,社会的問題を明らかにしていきます。その中で相談者の本音がポロッと出てきたり,職種間で意見が対立していることもあります。そして重要なことは「この臨床倫理コンサルテーションチームは病院としてオフィシャルな判断を提示するわけではなく,医療・ケアチームからの相談を受け,倫理的問題を同定し分析することと合意形成のお手伝いをするものです」と明言していることです。そもそも1つの正解があるような単純な問題ではなく,合意にいたるまでの論点整理のプロセスが重要であることがわかります。読者はそのプロセスを追体験し,実際の事例を前にしたとき,ここから得た知識を役立てることができるでしょう。
 各ケースの後半では,ポイントとなるテーマや用語について解説が掲載されています。量的無益性と質的無益性,守秘義務,モラル・ディストレス,ACP(Advance Care Planning),SDM(Shared Decision Making),メゾレベルの医療資源配分,積極的安楽死,など多くを学ぶでしょう。そして,最後にケースが最終的にどうなったのか「ケースの顛末」が紹介されています。決してハッピーエンドではない顛末によって各ケースにさらにリアリティがつけくわえられています。
 さあ,10ケースどこから読んでもかまいません。まず1例を体験してみてください。

 2025年7月
 国立健康危機管理研究機構(JIHS)理事長
 國土典宏

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推薦の序

第1章 臨床倫理コンサルテーションについて
 当院における臨床倫理相談サービス(臨床倫理コンサルテーション)
 当院における臨床倫理コンサルテーションの方法
 ケースの構成

第2章 臨床倫理コンサルテーションの実際
 ケース1 退院できる状態ではない患者の強い希望に寄り添えるか
 ケース2 意思を表明できない患者の過去のリビングウィルをどう扱うか
 ケース3 家族には病名を知らせないで,と言われたけれど……救命に関わる事態でどうする!?
 ケース4 DNARを希望する理由がみえにくい時,どうするか──両親による虐待の可能性
 ケース5 抑制をめぐり職種間で意見が分かれてしまったら!?
 ケース6 家族は意思疎通困難な患者への積極的治療を望むが,リスクが大きくて……
 ケース7 患者の状態を悪化させ,医療者にも危険性がある家族とどう向き合うか
 ケース8 感染症などによる医療逼迫の可能性がある中,治療を拒否する患者にどう対応するか
 ケース9 異文化を背景にもつ,安楽死希望の患者にどう向き合うか
 ケース10 身寄りはなく意思表示もできない患者の人工透析の中止の判断はできるのか

あとがき
索引

BOX
・ 自己決定権と本人の(最善)利益の関係
・ パターナリズム
・ 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」(プロセスガイドライン)
・ DNAR
・ 福利と健康関連QOL
・ 推定的同意,黙示の同意
・ 虐待と法的脳死判定
・ 遷延性意識障害と最小意識状態
・ モラル・ディストレス
・ 院内指針の意義
・ 「意思決定支援」のガイドライン
・ キーパーソンをめぐる問題
・ いわゆる「ごみ屋敷」で過ごす人への支援
・ ソーシャルワーカーの考える連携・協働のポイント
・ 医療資源の配分:3つのレベル
・ 安楽死
・ Shared Decision Making(SDM)
・ 日本におけるACPの多様な解釈
・ 日本透析医学会「透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」(2020)について
・ 身寄りのない人への支援──まずは現在を過去から読み解く
・ 終末期

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「対話」がひらく臨床倫理のリアル
書評者:大浦 誠(南砺市民病院総合診療科副部長)

 評者は,富山県の中小規模病院において臨床倫理コンサルテーションを行っている。日本臨床倫理学会の「臨床倫理認定士(上級編)」を取得し,地域の医療・介護現場において多職種とともに臨床倫理の実践を続けている。現場で臨床倫理コンサルテーションを実際に進めているからこそ述べられることがあるのではないかと感じ,拝読した。

 本書は,臨床倫理コンサルテーションの実際を表現し,タイトルの通り「対話」に焦点を当てた構成となっている。各ケースでは,臨床倫理コンサルテーションに参加する多職種が,異なる価値観や立場を踏まえながら,いかにして合意形成に至るか,というプロセスが臨場感豊かに描かれている。発言の一つひとつに個性がにじみ,読者はまるでその場に同席しているかのような感覚を味わうことができる。この臨場感こそが本書の最大の魅力である。

 臨床倫理コンサルテーションの現場では,他施設がどのような議論を行っているのかが見えにくく,「ブラックボックス」となりがちである。本書はその不透明さを打ち破り,実際のやり取りの過程を明らかにしている点で貴重である。さらに,各ケースには理論的な補足や文献的裏付けが添えられており,単なる対話記録にとどまらず,実践と理論の両面から理解を深められる構成となっている。

 各ケースは独立しており,関心のあるテーマから読み進めることができる。すでに臨床倫理コンサルテーションに取り組んでいる読者にとっては自己点検の機会となり,これから導入を検討する施設にとっては実践的な手引きとなる。具体的な運営体制や司会進行の工夫も紹介されており,すぐに現場で生かせる内容である。評者は司会として臨床倫理コンサルテーションにかかわることが多いため,各ケースのファシリテーションの多様性に強く引かれた。四分割表に沿って秩序立てて進行するケースもあれば,自由な発言を促す柔軟なケースもあり,それぞれに学ぶ点が多い。ファシリテーターとしての姿勢を見直す良い機会となった。

 また,全てのケースに「ケースの顛末」が記されていることも本書の特筆すべき点である。読者は議論の過程だけでなく,その後の展開を知ることができ,深い満足感を得られる。単なる事例集ではなく,臨床倫理の思考と実践の軌跡を記した「学びの書」として完成している。

 本書は,すでに臨床倫理コンサルテーションを実施している医療者のみならず,「倫理を学びたいが難しそう」と感じている読者にも最良の入門書となるであろう。多職種による対話のプロセスを追体験することで,臨床倫理の基本から応用までを自然に学ぶことができる。各施設に一冊備え,チームで読み合うことで,倫理的対話の質を確実に高めることができる名著である。

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